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第66回:BREWとは
大和 哲 大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


携帯電話のハードにより近い部分で動くソフトを作れる、BREW

 BREWは「Binary Runtime Environment for Wireless」の略で、QUALCOMMの開発による、携帯電話でプログラムを開発・利用できる環境です。携帯電話でのプログラムの開発・実行環境というと、iアプリやezplus、J-フォンのJavaアプリがありますが、このBREWでも携帯電話で使用できるプログラムを作って利用できるのです。

 ただ、BREWがJavaと違うのは、Javaが携帯電話の中にある「仮想のコンピューター」で動くのに対して、BREWは仮想ではなくダイレクトに携帯電話内部のマイクロコンピュータで動くソフトを作るためのものである、ということです。BREWで作られたソフトは、Javaというクッションをおかずにそのまま携帯電話内部のマイクロコンピュータで実行されます。

 ですので、作成したソフトは、Javaと比べるとプログラムの実行速度が非常に速く、Javaではセキュリティの関係などで作成が難しかったソフトも作ることができるのです。


BREWの場合はJava環境と違ってソフトを動かすためのワンクッションがない。そのため、ソフトの実行速度が速く、ハードに近い部分をソフトから利用することも可能だ

 例えば、iアプリではセキュリティの問題から、そのJavaプログラムはJava環境の外にある電話帳などにはアクセスできないなどの制約がありました。しかしBREWでは、携帯電話内にあるいろいろなデータや装置にプログラムが触れることができます。つまり、

・電話帳データや発信、着信記録
・メール機能や各種PS機能のコントロール
・電話の発着信
・電話回線を使ったインターネットアクセス


などの利用も可能になります。

 用途としては、Javaアプリなどではできなかった「メールの自動送信」や「電話の発着信」などといったこともBREWで作られたソフトでは可能になるわけです。

 また、iアプリはネットワークを使用しても、Java環境に用意されている「http」でしかデータのやりとりができないので、チャットのようなデータをリアルタイムにやりとりするアプリケーションを作りにくかったのですが、BREWであれば本当にリアルタイムの状態でチャットやメッセージングソフトのようなやりとりを可能にすることも考えられるでしょう。


写真はケイ・ラボラトリーの発表したBREW用のインスタントメッセンジャーソフト。従来はパソコンなどが必要だったこのようなアプリケーションが、携帯電話に登場するのも間もなくだ。ちなみにこのメッセンジャーソフトは、BREWプラットフォームが搭載される携帯電話であれば、世界中のどの端末上でも共通で利用できる予定だ

安全を機械と社会の仕組みで確保するBREW

 また、BREWはSDK(ソフトウエア開発キット)としては、C、C++というコンピューターのプログラム開発環境で最もメジャーなものを利用しています。これらの言語はJava言語と比べてハードウエアに近い部分のプログラミングもしやすいことから、「携帯電話でやりたいことがなんでもできる」という開発者の想像力やモチベーションをかきたてることでしょう。

 しかし、BREWの「携帯電話でできることがなんでもできる」という特徴は便利である反面、ともすればセキュリティ上の問題を招きかねません。例えば、パソコンではその仕組みが基本的に公開されていて、誰でもツールさえ入手できればプログラムを作ることが可能です。インターネットを使ってプログラムが配布できるので、オンラインソフトなども豊富に出回っていますが、反面、コンピューターウイルスが流行するなどの困った事態も起きています。これと同様に、BREWでもどんなことが誰でも無制限にできてしまうと、様々なトラブルが起こりかねません。

 そこで、BREWにも「安全性」を保つための仕組みが用意されています。それが、「電子署名」というものです。BREWバイナリとして作られたプログラムは、「電子署名」というものが必要になっていて、これがないと端末上では動きません。

 この電子署名は、「プログラムを誰が作ったか」「プログラムの特徴」などが記された、ソフトの中にあるデータです。プログラムを作った人が「このプログラムの特徴」を記し、QUALCOMMと「VeriSign」という電子署名の認証機関が「このソフトは出所のはっきりした正当なプログラムです」という意味を記した電子的なサインです。

 BREWで作られたソフトは、この3者による署名が正しく記されているかどうかがチェックされたあと、初めてソフトが動作できるようになっています。つまり、「このプログラムは安全に作られていて、改造などもされていません」という確認ができないと、端末上でプログラムが動かないようにコントロールされているのです。

 なお、この認証のための手続きは当然煩雑なものになりますし、QUALCOMMの認証に関しては有償になります。基本的にBREWは、個人向けにも開放されているiアプリと違って、それなりにお金や手続きを要するものですので、携帯電話に内蔵されるソフトウェアのベンダーや、端末を作るメーカーが利用することを視野に置いた仕組みということになるでしょう。


BREWはいつから使えるのか

 日本では、au(KDDI)がcdmaOne端末でBREWの採用を予定しています。世界各地でも同様に、cdmaOneやcdma 2000の採用キャリアにおいてBREWが採用されるはずですので、いずれはこれらの海外の国でも利用できるようになるでしょう。

 なお、すでに韓国では、実際にBREW対応の電話機が発売されており、サービスが始まっています。


・ BREW(QUALCOMM)
  http://brew.qualcomm.com/

Kラボ、BREW上で動作するインスタントメッセージングソフト


(大和 哲)
2001/10/30 14:27

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