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第39回:ダイバーシティ(Diversity)とは
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大和 哲 1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら。 (イラスト : 高橋哲史) |
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フェージングとダイバーシティ
携帯電話で使われている電波は、直接基地局から届くものもあれば、建物などの障害物に跳ね返ってから届くものもあり、そのルートはさまざまです。
これらの波は、跳ね返った分、タイミング的にずれて届きます。このずれた波が互いに干渉し合って、端末に届く電波は強くなったり、弱くなったりを一定の周期で繰り返してしまいます。これを「フェージング」と言います。
短波ラジオや、遠くの局のAMラジオを聞くと、わーんわーんとうなっているように音が大きくなったり小さくなったりという状態になることがありますが、ちょうどあんな感じで電波が強弱すると思えばいいでしょう。
短波放送ならフェージングがあったところでラジオを聞くときに人間の耳がうまくやってくれますので、ちょっと不快ではあっても声や音楽を理解することができます。が、デジタル携帯電話の場合は、機械にそのような融通が聞くとは限りませんから、信号がうまく処理できなくなり通話できなくなってしまう可能性もあるのです。
そこで、携帯電話をはじめとする多くの無線機では「ダイバーシティ受信」という方法を取って、このフェージング対策をしています。
ダイバーシティとは、受け取る2つ以上の電波を合成したり、あるいは切り換えることで、受信電波のレベルの揺れを少なくする技術のことです。
1台の端末で2つ以上の電波を受け取り、一方の電波の強さが弱くなってしまっても、もう一方の電波の強度が強ければそちらに切り換えるなどすれば、受信電波のレベルが極端に変わってしまうのを防ぐことができ、また、全体に信号が強く感じられますから、結果として電話の感度もよくなる、というわけです。
携帯電話の2つのアンテナ
ダイバーシティ受信をするには2つの電波を捕らえなくてはいけないわけですが、これにはいろいろなやり方があります。たとえば、「空間ダイバーシティ」。これは、空間的(位置的に)に離れた2つのアンテナで電波を受信する方法です。それから「偏波ダイバーシティ」と言ってアンテナの受信方向を2つ以上備えて、別々に受信する方法もあります。また、周波数ダイバーシティ、時間ダイバーシティなどというのもあり、それぞれ、複数の周波数を使って受信する、時間的にずらした同じ信号を複数送ってもらって受信する方法です。
PDC方式のデジタル携帯電話では主に最初の2つ「空間ダイバーシティ」「偏波ダイバーシティ」が使われています。
携帯電話に2つのアンテナ? と思われるかもしれませんが、実際に多くのデジタル携帯電話には2つのアンテナがついています。
たとえば、ある800MHz PDC方式のデジタル携帯電話の場合、1つのアンテナはよく見る外部の伸びるアンテナ。もうひとつは端末の内部にアンテナが内蔵されていて、この2つで受信しているのです。また、あるいはいくつかの1.5GHzデジタル携帯電話では1つは本体内に、もうひとつはアンテナの先頭の突起部分にコイル状に巻かれた小さなアンテナが入っていて合計で2つのアンテナが装備されています。
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PDC方式の携帯電話のほとんどには、なんらかの形で2つのアンテナが内蔵されている。ダイバーシティ受信で、そのうちの状態のよい一方の信号が選ばれることで、フェージング対策をしている
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PHSとダイバーシティ
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空間ダイバーシティアンテナを採用している三洋電機のfeel H"端末「RZ-J90/J91」
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また、PHSでは、feelH"・SANYOのRZ-J90、RZ-J91などが空間ダイバーシティアンテナを採用して高感度を実現しています。この端末では、折りたたみタイプの利点を生かし、ダイバーシティアンテナのメインアンテナとサブアンテナの空間距離を確保することで、異なる2つの電波をキャッチし、より強い電波を選択することで安定した通話品質を得ることができるようになっています。
また、同じくfeelH"では、パナソニックのKX-HF300、KX-HS100がこちらは「偏波ダイバーシティアンテナ」を採用することで、異なる2つの電波をキャッチし、安定した回線の通話品質を保っています。
なお、ダイバーシティは端末(電話機)だけではなく、基地局側でも同様に行なっています。
たとえば、ほとんどのPHSの基地局ではダイバーシティ受信によって、より強い電波が受けられたアンテナから受信します。また、PHSの基地局の場合には、強い電波が受けられるアンテナは、端末への送信もうまくいくはず、という前提でそのアンテナから送信も行なう「ダイバーシティ送信」を行なう基地局もあります。
また、端末側と違い、単純に強い電波を受信しているアンテナを選択するのではなく、より複雑な方法を使っている場合もあります。たとえば、複数のアンテナからよりクリアな電波を多く、そうでないほうの電波を少なく、うまく位相を合わせながら混ぜるというもので(アダプティブアレイアンテナ)、さらに上手に電波を扱うことができるのです。
(大和 哲)
2001/04/10 00:00
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