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第391回:MIL規格 とは
大和 哲 大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


MIL規格とは

 「MIL規格」は、米国務総省の規格文書で、米連邦政府(具体的には国防総省そのもの)や米軍が調達する物資の仕様や標準を定めたものです。

 軍隊は、さまざまな気温の土地や、埃の多い場所、乾燥などの過酷な環境にも展開され、状況によっては、軍の使う物品はたとえば銃撃などで非常に強い力を受けたり、超高加速度の衝撃を受けたりすることがあります。そのため、世界各国では納入される製品などに対して一定の基準を設け、厳しい条件でも耐えるような物品を購入しています。

 「MIL規格」は、そういった規格の1つで、米軍に納入される物資・役務のための評価基準ガイドラインです。実践・論理で裏付けられた基準であることに定評があり、軍には納入されない民生品用環境試験の目安として利用されることもよくあります。


PS535E

PS535E
 一般に販売される民生品でも厳しい環境下で使うことが想定されるヘビーデューティーな製品では、どれだけ耐久性があるかを示すため、「MIL規格標準準拠製品」であることをアピールすることがあるのです。

 米軍の場合、軍に納入される品は個別契約ごとに定められる「MIL仕様(スペック)」と、比較検討できる評価基準である「MIL標準(スタンダード)」に分かれています。そこで、納入品のことをMILスペック品、MILスペックと呼ぶことがあります。

 このようなMIL規格に準拠した製品としては、PDA「GETAC PS535E」などがあります。この製品は、先日幕張メッセで開かれたIT関連展示会「CEATEC JAPAN 2008」で参考出品されていましたが、このPDAは米国MIL規格標準の1つ、MIL-STD-810F準拠ということが特徴の1つとされています。また。米国向けのカシオ製携帯電話「G'zOne TYPE-S」も「MIL-STD-810F」に準拠しています。


実際のMIL規格準拠製品の仕様の見方とは

 実際に具体的に、製品がどのように、標準に準拠しタフネスさを謳っているかを見てみましょう。

 「PS535E」が準拠しているというMIL-STD-810Fは、ENVIRONMENTAL ENGINEERING CONSIDERATIONS AND LABORATORY TESTS(環境工学的配慮事項、および試験室試験に関する試験方法規格)という名前の規格で、その名の通り、米軍に納入できる機械が通るべき環境試験の内容を記載した標準です。

 ちなみに、MIL規格番号は「MIL-○○○-×××△」という形式で付けられています。「○○○」に入るワードとして、SPECは仕様、STDは標準、ハンドブックはHDBKという意味で、「×××」には規格番号が、「△」はリビジョンを示すアルファベットになっています。MIL-STD-810Fは米軍標準810(第6版)の標準文書、という意味になるのです。

 この標準では、高温・低温環境での操作、保管、稼動時に許容すべき湿度、直射日光、水、塩にに対する耐久力を測るためのテスト方法が記載されています。

 ただし製品では、1つのMIL規格文書に示された全ての試験をパスしたという認証が必要なわけではなく、一般的に製品のスペック表などでは、取得した認証の一覧を表示しているのが普通です。

 たとえば、先述のGETAC PS535Eであれば、スペックとしては、温度変化に対する項目として次のようにカタログに記載しています。


●温度
 MIL-STD-810F、方法:501.4、手順:I/II
 MIL-STD-810F、方法:502.4、手順:I/II

  • 稼動時:-20度(華氏4度) ~ 60度(華氏140度)

  • 非稼動時:-30度(華氏-22度) ~ 70度(華氏158度)

(原文は英語)


 MIL規格文書は国防総省標準化プログラム(The Defence Standardization Program)のWebサイトから参照(無償)できます。MIL-STD-810Fを同サイトで見てみると、たとえば高温での操作に関するテスト方法は「方法:501.4、手順IとII」として記載されています。つまり、「PS535E」は、これに準ずる方法でテストし、その基準をパスしたことになります。

 文書を見ると、方法501.4は、高温下でその機械が安全で確実に動き、データを保持していることを目的としたテストであることがわかります。特に日光による輻射と高い気温を想定しており、手順1では保管時、手順2では稼動時に高温があった場合のテスト方法を記載しています。

 また、それぞれ輻射熱としてこの規格ではBasicHot(基本的な暑さ:世界のほとんどの地域を想定)では30~63度、Hot(暑いケース:北アフリカや中東、パキスタン、インドなどを想定)では33~71度での使用が想定されています。

 文書にテストすべき温度が記載されているため、この項目をクリアしたのであれば、具体的な温度を記述するのではなく、「高温操作:MIL-STD 810F、方法:501.4、手順:II、デザインタイプ:Hot」と記載するのが一般的です。「PS535E」の場合は、稼動時テストとして、温度71℃までで試験した、と読み取れるわけです。



URL
  国防総省標準化プログラム(The Defence Standardization Program)
  http://www.dsp.dla.mil/APP_UIL/displayPage.aspx?action=content&contentid=66
  MIL-STD-810F
  http://assist.daps.dla.mil/quicksearch/basic_profile.cfm?ident_number=35978

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(大和 哲)
2008/10/07 12:04

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