■ 高速化、かつ安定したパケット通信が可能となったPHS
「W-OAM」は、WILLCOM Optimized Adaptive Modulationの略で、その名の通り、PHSの通信事業者であるウィルコムが採用したPHSの高度化通信規格です。対応基地局が導入されたエリアで対応端末を使った場合、従来のエリア・端末の組み合わせでの通信と比較して、「データ通信速度の高速化」「電波の弱いエリアでの通信の安定化」という2つの特徴があります。
データ通信速度は従来の最大1.6倍となっており、8xパケット方式では最大408kbpsでのパケット通信が可能となります。
ウィルコムでは、現在、データ通信利用の多い地域からW-OAMに対応した基地局の導入を進めています。また、端末に関しては、音声端末「9(nine)」や、データ通信カード「AX520N」、W-SIM通信モジュール「RX420AL」などの「W-OAM」対応製品の販売が開始、または予定されています。
W-ZERO3[es]など、これまで提供されてきたW-SIM対応PHSでは、従来品のW-SIMモジュールを、新W-SIMモジュール「RX420AL」と差し替えると、W-OAM対応エリア内では高速通信が可能となります。
■ 変調方式を電波の状況で切り替える
W-OAMの通信高速化・安定化という特徴は、利用している電波の変調方式を工夫することによって実現されています。
変調とは、情報を電波や光といった波に載せるための操作のことで、たとえば、ラジオでは音を電波に乗せて放送をしていますが、そのためにAM(Amplitude Modulation・振幅変調)、FM(Frequency Modulation・周波数変調)といった変調方式を利用しています。
携帯電話やデジタル放送などデジタルデータのための変調としては、ASK、BPSK、QPSK、8PSKなどの変調方式が存在します。
「BPSK」は、バイナリ位相偏移変調を意味する「Binary Phase Shift Keying」のことで、1回の変調で「0」「1」の2パターンの情報を伝送する方式、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)は、「00」「01」「10」「11」と4パターンの情報を伝送できるようにした変調方式、8PSK(8 Phase Shift Keying)は、さらに1回の変調で「000」「001」「010」「011」「100」「101」「110」「111」と8パターンの情報を伝送できる方式です。
つまり、同じ時間でQPSKはBPSKの倍の情報量、8PSKはさらにその倍の情報量を送ることができる変調方式なのです。
ただし、一度に送る情報量が増えれば増えるほど、1つ1つの情報を表わす波のパターンが紛らわしくなってきます。ノイズを受けた場合などに、1つ1つの見分けがつきにくくなるため、電波の届き方が弱くなった場合は不利になります。電波の強さは、発信源からの距離に反比例して弱くなっていきますので、変調で通信速度を上げれば上げるほど、距離に対して非常に弱い通信となってしまいます。
そこで、W-OAMでは、電波の受信状況によって、利用する変調方式を切り替えることで、この問題を解決しつつ、通信速度を平均的に向上させることに成功しています。具体的には、W-OAMでは電波状態が良いときには8PSKを、ある程度劣化する環境では従来のPHSでも使われているQPSKを、そして従来のPHSでは通信が不可能なほど電波状況が悪い場所ではBPSKに切り替えています。
こうすることで、平均以上に電波状態がよい場所では従来以上に高速なパケット通信を実現しています。また、同時に、電波状態の弱いところでも低速ながら確実に通信を行なうことで、従来よりも高速なパケット通信を実現しているのです。
■ URL
「W-OAM」導入のプレスリリース
http://www.willcom-inc.com/ja/corporate/press/2006/01/27/
(大和 哲)
2006/12/12 12:17
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