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第20回:液晶ディスプレイとは(後編)
大和 哲 大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


構造によってもわけられる液晶ディスプレイ

 液晶ディスプレイは、光の通り方だけでなく、構造の違いによっても分類できます。代表的なものとしてTN液晶、STN液晶、DSTN液晶、TFT液晶などが挙げられます。

 これら液晶タイプの中でも、携帯電話やPDA用としてよく話題に上るのは「STN液晶」と「TFT液晶」でしょう。現在、携帯電話のディスプレイの多くがSTN液晶ディスプレイです。TFT液晶ディスプレイも、携帯電話用として盛んに展示会で出品されており、今後TFT液晶を採用した携帯電話も増えてくるものと思われます。ノートパソコンなどの液晶ディスプレイも、以前はSTN液晶が主流でしたが、現在はほとんどがTFT液晶となっています。


STN液晶の仕組み

 STN液晶ディスプレイのSTNとは(Super Twisted Nematic Liquid Crystal)の略です。直訳すると「超ねじれ状ネマティック液晶」となります。ネマティックとは、前回の説明で出てきた偏光版と偏光版の間にある液晶の並び方のことで、液晶分子がゆるやかな状態ですが、分子の軸がほぼ同じ方向を向いている液晶のことを「ネマティック液晶」と呼んでいます。このような液晶は低い電圧でも、電流を流すと液晶の向きを変えることができるのでディスプレイのような用途には使いやすいのです。このネマティック液晶が、偏光版の間でねじれているので「ねじれ状ネマティック液晶」。「超」はもともと、その前の段階のTN液晶では90度のねじれであった液晶を、逆に240度もねじれさせたものであるので、このような名前がついています。

 さて、液晶ディスプレイでは、その画素が平面状にいくつもならんでいて、この画素が明るくなったり暗くなったりして、画像を形作ります(ちなみに、カラー液晶の場合は各画素に青、赤、緑のカラーフィルターを使って青、赤、緑の光を発することになります。これらを光の3原色を組み合わせて形と色合いのある画像を作っています)。

 この各画素を暗くするためには、暗くなる部分には電圧をかけて液晶の並びを変えて、光が通れなくなるようにしなければなりません。そのために、液晶ディスプレイには酸化亜鉛などの素材を利用して導線を格子状にはりめぐらせてあります。液晶は、この縦に走る電極と横に走る電極の交差部分での電位差に応じて光を通したり通さなかったりするようになっているのです。

 この一般的なSTN液晶で利用されている駆動方式のことは「単純マトリックス方式」と呼ばれています。


TFT液晶の仕組み

 TFT液晶のTFTとはThin Film Transistor liquid crystal(薄膜トランジスタ)の略です。その名の通り、TFT液晶は画素のひとつひとつにごく小さなトランジスタがついています。

 トランジスタには、電流のON、OFFがすばやいスイッチング特性、小さな電流を流すとそれに比例して大きな電流を流す増幅機能があります。最近では、トランジスタの代わりにダイオードを使っている場合もありますが、基本的な役割は同じです。

 TFT液晶の大きな特長は駆動方式に「アクティブマトリックス方式」を利用していることです。STN液晶では能動的な画素が単純に並んでいるだけ(別名パッシブマトリクス方式とも言います)なのに対して、半導体を組み合わせることで能動的なデバイスを作り出しています。

 このタイプの液晶ディスプレイではガラス基盤の上に、LSIなどの半導体と同様にシリコンの薄膜を作ってあり、これが画素自身のON/OFF機能やON/OFF状態の保持機能を受け持っています。ある電荷を加えて液晶に一定時間暗くなるだけの電流を流してから、他の画素からは全く分離することで、電圧変化に敏感でありながら、コントラスト比を得られるような画素を作りだしているのです。



TFTとSTN、使い勝手などの違い

 STN液晶ディスプレイとTFT液晶ディスプレイでは、用途や使い勝手などに違いがあります。表示される画像のコントラスト、それに動画の場合には反応速度などが異なっているからです。

 まず、携帯電話でも最近では表示部分が大きくなって表示できる画素数が多くなったりJavaに対応するなど、早い動きについてこられるディスプレイが必要になってきています。ところが、一般に単純マトリクス方式のSTN液晶ディスプレイでは画素の数が多ければ多いほど、画面の反応速度やコントラストに問題が出てきがちで、あまり速い動きの画像を表示するとディスプレイの表示がぶれたように見えてしまったりします。

 また、STN液晶ではそれぞれの画素が導線の電位差だけで駆動する、単純マトリックス方式が採用されているのですが、この方式だと液晶の特性上、光を電流に高速に反応させようとするとコントラストを得るのがむずかしくなるという問題があります。また、画素数の多いディスプレイでは、クロストーク(画素と画素の干渉)によって、たとえば、細い線を表示させようとするとその延長線が画面に薄く表示されたりしまうなどという現象がおきることもあります。

 TFT液晶ディスプレイではアクティブマトリクスと言って、各画素に、回路的には直列にトランジスタを組み合わせることで、この画素のオンオフの急峻性を持たせています。そのため、TFT液晶は、一般的にSTN液晶と比較すると、画像は鮮明で動く画像にもきびきび反応します。

 が、TFT液晶はSTN液晶に比べてTFT液晶は性能の点では一般的に優秀なのですが、価格の点では比較的高価になりがちである、という弱点もあります。というのも、TFT液晶を作るには、ガラス基盤の上に大量の薄膜のトランジスタを欠陥無く作るという難しい工程を経なければならないからです。

 なお、最近はSTN液晶でも、画像を表示するときにデータと画素の位置を対応させる装置である「アドレシング装置」に工夫をすることで高速化した、HPA(ハイパフォーマンスアドレシング)液晶などというものもあります。本稿ではあくまで基本的な違いについて述べていますが、STN液晶も進歩して応答性が良くなっていますから、必ずしもSTN型の液晶だと動画を見るのは無理、というわけではありません。




URL
  シャープの液晶ライブラリー
  http://www.sharp.co.jp/sc/excite/liquidcrystal/index.html


(大和 哲)
2000/11/14 00:00

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