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第13回:サンプリング音源(ADPCM方式)とは
大和 哲 大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


ADPCM音源LSIのヤマハ『YMU759』を搭載したJ-D03
 最近の携帯電話の着信音の進歩にはめざましいものがあります。たとえばJ-フォンの「スカイメロディスーパーハーモニー」では、16和音着信メロディのほか、サンプリング音源(ADPCM方式)による人や動物の鳴き声、風・波などの自然音を再生する「ボイス着信メロディー」「効果着信音メロディー」などまでできるようになり、この機能に対応した端末「J-D03」が9月22日に発売されました。

 既にいくつかの機種に搭載されている「FM音源」と、この「サンプリング音源」の違いは簡単に言うと、楽器で言えばシンセサイザーとサンプラーの違いにたとえられるでしょう。サンプラーがわからなければ、ある意味、カセットテープやMDなどと同じ役割だと言ってもかまいません。

 FM音源では人間が作った数式からできた人工的な波をかけあわせることで音色を作り出します。つまり、FM音源にとって「音色は作り出すもの」なのです。サンプリング音源にとっては音は作り出すものではありません。「既にあるものをデータとして記録しておき、それを再生するもの」なのです。

 FM音源、サンプリング音源、それぞれの方法には一長一短があります。

 FM音源は掛け合わせる波の「大きさ」や「長さ」や「個数」だけを憶えておけば音を作ることができるのですから、小さな機械でメモリ容量に限りのある携帯電話などには有利です。その反面、複雑な音色を作るには限界があって、たとえば、人の話し声や厚みのあるオーケストラヒット音などは作るのはかなり厳しい作業といえます。

 逆にサンプリング音源(ADPCM)は人の声などをそのまま再生するのは簡単ですが、メモリ容量が必要になりますのであまり長時間の再生はむずかしく、また自然にある音を録るとなると、着信音に使われるような、繰り返し再生して違和感のない音が必ずしもサンプリングできるとは限りません。

 実際にADPCM音源が搭載された携帯電話では、FM音源も同時に搭載されています。ですので、たとえば、FM音源だけを使ったメロディの再生も、ADPCMで人の声だけを着信音として再生することもできますが、もちろん、FM音源とADPCM再生を組み合わせる使い方もでき、実際、そのように使うことで互いの短所を補い合う効果的な使い方をされています。たとえば、J-D03のプリセットの着信メロディではメロディの音声にはFM音源、効果音としてADPCMで人の声が、というように音楽の深みを出すために使われています。


音をデジタルデータに(サンプリング)する、ということ

 さて、サンプリング音源では、どのようにして音をデジタルデータにしているのでしょうか。音というのは空気の震え、波のようなものなのですが、ADPCMとはこの波のような音のアナログ信号←→デジタル信号にするための方法のひとつで、この方法を使って音をコンピュータのメモリにデジタル信号として格納(エンコード)したり、逆にメモリ中のデータを音に変換(デコード)します。

 サンプリング音源では、音の波を一定の周期で測定し、これを数値としてデジタルデータを作ります。この作業のことをサンプリング(標本化)と呼ぶため、この方式を採用している音源を「サンプリング音源」というのです。サンプリング音源は、このように「どのようにしてその音がなっているのか」を時間ごとに区切って調べているので、FM音源などと比べて、音を記録しておくために、大きなメモリ容量が必要になります。

 また、1秒間に測定する回数をサンプリングレート、数値化する際のデータの大きさを量子化ビットといい、これらが大きければ大きいほど音質が良くなるのですが、逆に音質を求めれば求めるほどさらにメモリを必要とします。

 サンプリング音源というのは、メモリ容量を必要としがちな音源なのです。



ADPCMでデータを小さくする

FM音源とADPCM音源を搭載したヤマハの音源LSI『YMU759』
 そこで、携帯電話のサンプリング音源では「ADPCM」という方式が使われています。ADPCMはadaptive differential pulse code modulationの略で、これは簡単にいうと、PCMでのデータのサンプリング中に直前のデータとの差に注目した方法です。というのも、音と言うのは波のように連続的に動いています。ということは、サンプリングした結果よりも、直前のサンプリングの結果からの差を見たほうが小さな数字になりやすい。つまり、うまく工夫すると、デジタルデータを記録するためのメモリが少なくすることができるのです。

 実際の携帯電話では、普通にサンプリングしただけだと16ビット分必要なデータを、4ビット以内のデータで表現することで、その分データの大きさを小さくしています。

 ただし、このADPCMという方法は、単純に音をサンプリングしてデータをメモリに置く、あるいはメモリからデータを再生する、というだけの方法と比べると、録音再生に複雑な計算が必要になっていまいます。つまり、それだけLSI内部の構造が複雑になってしまったり、あるいは再生するためにコンピュータパワーが必要になってしまうわけです。ですので、ADPCMを再生機能を搭載したLSIでは音程の変更ができなかったり、外付けで音程変更LSIをつける必要がある場合が多いようで、実際、まだこれから発売される予定の携帯電話のADPCM再生機能にも音程を変更する機能のあるものはないようです。

 なお、現在携帯電話用の製品として出荷されているADPCM再生機能付きLSIにはヤマハのYMU759などがあります。この音源では4ビットの差分データで16ビット分の音データを扱うことができ、4kHz、8kHz、つまり1秒間に4千回か、あるいは8千回分のデジタルデータにした音を同時に1音、FM音源部の出す音と同時に出すことができるそうです。

 ところで、携帯電話関連で「ADPCM」といえば、PHSでは、音声をこのADPCMを使ってデジタル化して送っています。PHSは1秒間に32kbpsのデジタルデータに変えて送っていて、「32kbps-ADPCM」などと呼ばれることもあります。







URL
  ヤマハ音源LSI「YMU759」ニュースリリース
  http://www.yamaha.co.jp/news/00061401.html


(大和 哲)
2000/09/26 00:00

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