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第145回:ITRON とは
大和 哲 大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


国産の多くの機器に組み込まれている「ITRON」

TRON提唱者である東京大学 坂村 健教授
 ITRONはIndustrial TRON(産業用TRON)の略で、リアルタイムOSと呼ばれるタイプの基本ソフトの規格です。

 このITRONに準拠したOSは、携帯電話をはじめとして、テレビ、ビデオ、デジカメ、炊飯器、カーナビ、留守番電話、自動車、工業用ロボット、エレベータ、自動販売機、人工衛星など非常に広いジャンルの機械に搭載されているコンピュータの制御用として組み込まれています。ITRONは日本国内では、非常によく使われているOSで、一時は国産携帯電話のほぼ100%に組み込まれていると言われていた時期もあります。

 ちなみに、第100回でも紹介していますが、J-フォンやauのJava対応携帯電話やSH505iに搭載されているJava環境、microJBlend(JBlend)はJTRONの規格に沿って作られています。そしてJTRONはITRONにJava環境を統合したもの、という関係になっています。

 また組込用LinuxをITRON上に搭載して、ハイブリッド化を目指した製品が販売されるなど、ITRONは単体ではなく、ほかのOSやソフトウェアと組み合わせた使い方もされ、幅広い形態で利用されているOSでもあります。

 ITRONは、実際には1つのメーカーからITRONというソフトが売られているわけではありません。ITRONは日本のTRON協会の「ITRONプロジェクト」がOS本体やそれに関連する仕様の標準化を行なっています。

 実際に機械に組み込まれているソフトウェア(OS)そのものは、各ソフトメーカーが、ITRON仕様にしたがって作っており、「ITRON仕様に準拠したOS」ということで組み込み用途などに販売されています。工業用や機械への組込用ですので、一般ユーザーの目に触れにくい形態で広告・販売されていますが、組込用機器のマイクロコンピュータを製造しているメーカーの提供ソフトウェア一覧や、組込ソフトメーカーの広告などを見ると「μITRON 3.0 準拠組み込みOS開発キット」というような名前を見ることができます。


軽い、小さい、ライセンスフリー

 ITRONは、TRON協会によって仕様が決められているだけで、実際にはOS自体をまず誰か(コンピュータメーカーやソフトウェアメーカー)が作らなければなりません。実際に、ITRONの実装というのはいろいろなメーカーからいろいろな特徴を持ったものが作られて販売されています。

 はじめからできているものを買ってくれば良いという他の組込系OSに比べれば「作る」という手間があったわけですが、「作る」手間をかけても、ITRONには他のOSにはない特徴があります。


ITRON仕様の特徴
1.OSの小形軽量化が可能な仕様である
 他の組込OSと比べて、現実のハードウエアに合わせて、小型軽量化が可能な仕様になっていました。ワンチップマイコンにも余裕をもって搭載できる、という点が組込用OSとして非常に歓迎されました。

2.仕様が無料で公開されていて、自由に利用できる
 ITRONの仕様は無料で公開されていて、自由に利用することができます。仕様の制約も比較的制約がゆるくできており、マイクロコンピュータメーカーやそれまで組込機器を作っていたメーカーは、ライセンス料を支払うことなく、それまでの製品に合わせてこのOSを作り、利用することができました。

3.多種多様なマイコンで使うことができる
 たとえば、「ARM系マイコン用のリアルタイムOS」というようにターゲットが決まっているOSではなく、ITRONは特定のCPUやチップセットに依存することがないような仕様になっています。各メーカーはITRONを低性能で安価な8ビットのマイコンから、性能に余裕のある32ビットのRISCマイコンにまで、数多くのマシン用に作りました。現在、機械の組込用にどのメーカーのマイクロコンピュータを選択したとしても、ITRON準拠のOSを調達するのは難しくありません。

4.多くのメーカーが採用している
 ITRONは、特に日本国内で普及しており、多くのメーカーが採用しています。ITRONを用意しないとマイクロコンピュータメーカーとしては商売もやりづらい、ということからますますITRONの普及率が日本国内では上がっていったわけです。

 上記に挙げた中から、特に最初の「はじめから組込用途にフォーカスしていて軽い」というのは大きな特徴でしょう。μITRONの仕様は現在、4.0まで標準化されていますが、たとえば、組込機器用として特に多く使われているμITRON 3.0仕様ではメモリ保護などの機能がLinuxなどに比べると非常に簡易的なものになっています。現在、最新のμITRON 4.0ではメモリ保護機能は機能拡張仕様(μITRON4.0/PX仕様)として策定されています。ただし、このバージョンでも、もともと大きなコンピュータ用のOSであったLinuxと違い、保護機能を追加したときのオーバーヘッドを低減するため、物理アドレスだけを扱ったり、静的な情報を活用してメモリ配置を最適化したりするといったマシンパワーの節約できるような工夫がされています。このような工夫、アドバンテージがITRONには随所にあるのです。


 ただし、組込用にフォーカスしている、という点が少しずつ携帯電話では不利になる状況も出てきており、これからも磐石であるかどうかはわかりません。というのも、たとえば、携帯電話上で使われるアプリケーションが、最近ではPDAのような高機能なものが求められつつあります。ITRONではこれを支援するような機能がありません。これまでの組込機器にはそのような高機能なアプリケーションを実行するという需要はなかったため、ITRONにとっても未知の領域ということになってしまうのです。

 そのため最近は、高機能なアプリケーションを携帯電話上で実行させることができるように「Symbian OS」や「Windows CE系OS」というようなPDAなどの高機能な機械向けのOSを携帯電話用に移植して搭載する、というような事例も増えてきているのです。



URL
  TRONプロジェクト
  http://www.tron.org/


(大和 哲)
2003/08/12 12:43

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