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エリクソン、5Gの次のステップを語る 継続的なトラフィック増加とアップリンク強化への対応
2025年9月8日 18:11
エリクソン・ジャパンは8日、「エリクソン・フォーラム 2025」を開催した。講演では、5Gの現状と未来、そしてAIを活用したネットワークの進化について詳しく語られた。
ワイヤレス接続と5G普及の加速
エリクソン・ジャパンのジャワッド・マンスール社長は、ワイヤレス接続がGDP成長に大きく貢献していることを紹介。ITUの調査によると、ブロードバンド普及率が10%上昇するとGDPは2.29%成長し、その影響は時間の経過とともに拡大しているという。
5Gの普及スピードは過去世代を大きく上回っており、7年目には28.7億契約に達すると見込まれる。スマートフォンの浸透やアプリ経済の発展に加え、5Gがもたらす価値が明確になったことが、この急速な拡大を後押ししていると説明した。
特に5G SA(Stand-Alone)の重要性を強調。5G SAは新たな収益機会や効率的な運用を可能にし、ネットワークスライシングや自動化による利点も大きい。中国の通信事業者やインドのJio、米国のT-Mobileなどが積極的に展開しており、多くの5G利用者がすでにSAネットワークを利用している。
収益化の事例として、警察や消防によるボディカメラのリアルタイム映像共有、保証付きの固定無線アクセス(FWA)、ドイツテレコムのモバイルゲーミングサービス、イベント会場での高信頼・高セキュリティ決済端末などを紹介。さらにインドの大規模宗教イベントでは、45日間で6億6000万人が参加し、エリクソンのシステムが95%以上の信頼性を確保、1日で日本の大手通信事業者1社のトラフィックを超える46PBのデータを処理した実績を示した。
将来に向けては、AIによるネットワーク最適化が進んでいる。トラフィック負荷を予測して最適化する「5G NSAトラフィック最適化 rApp」、スループットを維持しつつ消費電力を抑える「自動省エネ機能」、そして20年以上改良されてきたアルゴリズムにさらなる改善をもたらす「AIネイティブリンクアダプテーション」などが開発されている。
エリクソンは、顧客への価値創出を「サービスに応じたネットワーク最適化」という新しいビジネスパラダイムと、「自律型ネットワークやインテントベースエンジニアリング」といった新しい運用パラダイムの両面から推進している。
顧客体感を重視した日本での取り組み
続いて、エリクソン・ジャパンの野崎哲社長が登壇。昨年のフォーラムで強調した「顧客体感」重視の取り組みが、この1年で着実に前進していると報告した。
山手線駅構内や駅間でのスループット改善が具体的成果であり、各事業者も積極的に取り組んでいる。KDDIによるSAエリア拡大や「au 5G Fast Lane」といった差別化サービスの開始は、その象徴だとした。
今後の課題としては、継続的なトラフィック増加とアップリンク・低遅延の重要性を指摘。2030年までにトラフィックは2023年比で3.1倍に増加すると予測される。ビデオ会議には安定した上り4Mbpsが不可欠で、AIアプリケーションでは従来のモバイルブロードバンドの2.6倍のアップリンクが必要となる。
XRには10ms程度の低遅延が欠かせず、端末の負荷軽減や省電力化のためにエッジ処理が重要となる。現行のモバイルブロードバンドの遅延(15~35ms)を考えると、10msの達成は大きな挑戦だとした。
これに対応するため、エリクソンは日本市場向けのMassive MIMO無線機を強化。軽量な4.5/4.9GHz帯モデルに加え、3.5~4GHz帯をカバーする広帯域モデルを2025~26年に投入し、2027年には2.6GHz帯モデルも導入する計画。エリクソンシリコンを搭載し、無線機内で直接処理することで低遅延かつ高いアップリンク性能を実現する。
さらに収益化に向けたAPIエコシステムの整備も進行中。エリクソンが設立した「アドゥナ(Aduna)」にはKDDIが出資パートナー、ソフトバンク・ドコモがコマーシャルパートナーとして参画。開発者が複数事業者のAPIにワンストップでアクセスできる環境を整え、サービス展開規模を最大2.5倍に拡大できる可能性がある。
このほか、日本での研究拠点設立、電気通信大学や横浜国立大学との連携、日・EUデジタルパートナーシップによる6G研究、ユニセフとのデジタルラボ活動など、社会貢献にも力を入れている。
産業DXと6Gに向けた展望
エリクソンジャパンの鹿島毅CTOは、ネットワークが多様な形で利用され、特に産業DXの加速においてモバイルが重要な要素となっていると説明。AI、クラウド、モバイルの活用は互いに連携して進化しており、ネットワークはそれぞれの利用形態に合わせて最適な形で構築されるべきであると話す。
ネットワークの進化は4Gから5G、そして6Gへと続く。4Gはモバイルブロードバンドとしての強みで産業を支え、5G SAは産業特有の要件(RedCap、高信頼、低遅延など)に応えつつある。6Gは物理世界とサイバー空間を密接につなぎ、AIやセンシング、グローバルブロードバンドで新たな価値を生むとし、2030年頃に技術が登場し、2035~40年に実用化が進むと展望した。
その実現に不可欠なのが周波数確保であり、6Gには約2GHzの追加帯域が必要とされる。WRC-23ではアッパー6GHz帯や7~8GHz帯がIMT向けに議論されており、日本でも早急な検討が必要だと述べた。
ソニーによる5G活用と新たな可能性
ソニーの木山陽介氏とのトークセッションでは、長年にわたるエリクソンとの協業を振り返り、クリエーション分野での5G活用事例を紹介。Xperiaベースの5Gミリ波SA対応機器「PDT-FP1」を用い、北米のスポーツイベントで観客が密集する環境下でも2日間で40GBの写真送信に成功したと述べた。
また、低遅延エンコーダーと組み合わせ、英国イベントでミリ波ネットワークとスライシングを活用した4K映像のマルチカメラ伝送を実施。有線カメラと同等の低遅延で配信が可能になった。木山氏は、今後の本格的なミリ波普及とスライシングの活用に期待を示した。
鹿島CTOは、無線リソースパーティショニングや優先度スケジューリング、コアネットワーク差別化など、多様な技術を組み合わせることで顧客要件に応じたスライシングを提供できると解説。
さらに、ネットワークAPIの活用により、通信がソニーのサービスに溶け込むフェーズが訪れると木山氏は語る。たとえば、特定の場所や時間、帯域幅を指定してAPIでネットワークを予約したり、映像制作の際にソニーのスイッチングサービスと組み合わせてQoSを動的に切り替え、限られた帯域でも高品質なマルチカメラライブ配信を可能にしたりするなどの活用を期待する。
鹿島CTOは、こうしたメディア制作での映像伝送技術が、公共安全や鉄道運行監視など他分野にも応用可能と指摘。木山氏も、高速移動中の映像配信やソニーのエンタメ事業全体での低遅延体験など、今後の展望を語った。

































