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エリクソン、2030年代の5G拡大と上り通信シフトを予測 最新モビリティレポートを公開
2025年12月9日 16:01
エリクソン・ジャパンは9日、最新の市場動向をまとめた「エリクソンモビリティレポート」の最新版を公開し、記者説明会を開いた。世界の5G普及状況や今後の見通しを示すとともに、ソフトバンクと共同で進めている、5G技術を活用した次世代の企業向けITソリューションの方向性について紹介した。
世界の5G契約は右肩上がりに
レポートでは、世界の5G契約数が安定した成長を続けており、2025年末には29億件に達する見込みだという。この勢いは2031年まで続き、中国を除いた世界の全モバイル契約の約85%が5Gになると予測している。
地域別では北米が早期から高い普及率を示し、2031年には90%以上へ近づく見通し。一方で現在は普及率の低いラテンアメリカや中東でも、今後5〜6年で大きく伸びるとみられる。また、2030年前後に始まるとされる6Gについても、2031年時点で約1億8000万件の契約が生まれるとの見方を示した。
SAへの移行とRedCapの広がり
現在、90社以上の通信事業者が5Gのスタンドアローン(SA)構成による運用を開始しており、2031年にはSA契約が41億件に達すると予測する。NSA構成でも高速通信はできるものの、ネットワークスライシングなど高度な機能の提供にはSA環境が欠かせない。
このSA整備を背景に、IoT向け技術「RedCap」の導入が急速に進みつつある。RedCapはスマートウォッチやARグラス、産業用センサーなどを想定した規格で、SA環境でのみ動作する。新しいデバイスの登場がSA整備をさらに後押しする好循環が生まれているとし、とくに中国では導入が進んでいるという。
広がるFWA市場
家庭や企業の固定通信を無線で代替する「FWA(固定無線アクセス)」も定着が進んでいる。世界のFWA接続数は増加しつつあり、関連トラフィックは2025年~2031年で約2.4倍に膨らむ見通し。牽引しているのは米国とインドで、米国の主要3キャリアで約1460万件、インドでは1200万件が利用されている。
料金モデルも多様化が進み、初期は25%程度だった速度別料金プランが現在では半数以上の事業者で取り入れられている。
高品質ネットワークの新たな価値
収益化の事例として、シンガポールのSingtelが紹介された。同社は「5G+」ブランドを掲げ、より広帯域・低遅延のネットワークを基盤に、速度を2倍・4倍に設定したプランや、クラウドゲーム向けに最適化したスライシングを提供し、通信品質そのものを商品として差別化している。
また、スポーツイベント「SailGP」では、レース艇のセンサーデータを5Gで収集し、観客・審判・放送向けにリアルタイムで配信するなど、エンターテインメント領域でも高度な活用が見られる。
上り通信の重要性が増す時代へ
トラフィックの大半は依然として動画視聴が占めるが、エリクソン・ジャパンの鹿島氏は、今後は上り通信が大きく伸びる可能性を示した。その背景にあるのが生成AIやXRデバイスの普及で、AIグラスや自動運転車、ロボットなどが常時ネットワークに接続し、現実世界のデータをクラウド側へ送り続けるようになるため。
同社の試算では、AI機能を持つグラス型デバイスなどの普及率が40%に達した場合、上りトラフィックは現在の200〜300%に増える可能性があるとしている。
ソフトバンクとエリクソンが語るエンタープライズITの変革
説明会では、ソフトバンク先端技術研究所の朝倉慶介氏と、エリクソン・ジャパンの滝沢耕介氏も登壇し、両社が共同研究を進める「5GによるエンタープライズITの変革」について紹介した。
背景にあるのは、ハイブリッドワークの拡大と、それに伴うセキュリティリスクの増大。朝倉氏は、VPNを前提とした境界防御型セキュリティが限界を迎えており、VPN機器の脆弱性やランサムウェア被害が大きな脅威になっていると説明。これに対し、ゼロトラストの思想に基づき、パソコンそのものを常時安全なネットワークにつなぐ新しいアプローチを提案した。
提案の核となるのは、物理SIMを使わずソフトウェアで契約情報を書き換えるeSIMを搭載した「セルラーパソコン」と、企業専用の閉域網接続技術。パソコンから直接キャリアのモバイル回線を使い、インターネットを経由せず企業内ネットワークに接続することで、公衆Wi-Fi利用時のリスクを避けられるほか、物理SIMの不正利用も防げる。
さらに、スリープ中でもネットワーク側から端末を管理できる「常時マネージブル」が実現し、紛失時のデータ消去などの対応も迅速になるという。
滝沢氏は、この仕組みによりユーザーの利便性と企業のコスト削減が両立できると説明した。社内Wi-Fi設備を撤廃し、通信をセルラーに一本化することで、ITインフラコストを最大50%削減できる可能性があるとしている。
また、外出先でWi-Fiを探したりテザリング設定をしたりする手間がなくなり、業務効率の向上につながったというソフトバンク社内での検証結果も紹介された。































