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ソフトバンクが採用する“飛行船タイプ”LTA型の「空飛ぶ基地局」のメリット・デメリットは

 26日、ソフトバンクが「空飛ぶ基地局」構想の実現に向けて、ヘリウムガスで浮かぶ飛行船タイプの採用を発表した。これまで研究してきた飛行機タイプに加えるもの。2026年にテストを中心としたプレ商用サービス、2027年に本格商用化を目指す。

 正式には、HAPS(High Altitude Platform Station、成層圏通信プラットフォーム、あるいは高高度プラットフォームとも)と呼ばれる“空飛ぶ基地局”は、無線設備を空に打ち上げて、携帯電話のサービスエリアを作る。

 これまでソフトバンクでは飛行機タイプでHAPSの開発を進めていたが、今回、飛行機タイプではなく飛行船タイプを用いるSceye(スカイ)に約22億4000万円を出資。日本国内で独占的にサービスを提供する方針を打ち出した。

 26日午前に開催されたソフトバンクの株主総会において、宮川潤一社長は「新たなタイプの機体により、2029年という予定よりも早くサービスを開始できることになった。来月、米国で最終試験をする。将来的には社会を支える基幹インフラの一部になる」と未来像を描いた。

Sceyeの飛行船型HAPSの特長

 ソフトバンクのプロダクト技術本部ユビキタスネットワーク企画統括部長の上村征幸氏によれば、今回採用する飛行船タイプのHAPSは“LTA”(Lighter Than Air)と呼ばれ、翼のある飛行機タイプ(HTA、Heavier Than Air)と比べ、ヘリウムガスで浮力を得られることから、より長い時間、滞空できるという特長がある。積載量も飛行機タイプより大きくできる。

 その一方で、速度は飛行機タイプのほうが上回る。つまりは、災害発生時でHAPSでサービスエリアを構築したい場合、より速く現地へ到着できるのは飛行機タイプと言えそうだ。

 また、具体的なスペックは明らかにされていないが、飛行機タイプのHTAよりも飛行船タイプのLTAのほうが、北への行動範囲は広く、「本州の、どことは言えないが(飛べる)。そのあたりがLTAを選んだ理由のひとつ」と語る。

 どちらも太陽光発電で、たとえば1年間、飛び続けるといった運用が想定されているが、飛行機タイプのHTAはその電力で飛行だけではなく通信機器も動作させることになる。そのためにはバッテリーもより大型なものが求められ、その分、機体も大きくなる可能性がある。その大型の機体を1年、飛ばし続けることには、まだまだ課題が多い。

 その一方で、浮力をヘリウムガスに任せられるLTAであれば、滞空し続けるためのエネルギーをより少なくできる。HTAほどバッテリーの大きさも求められない。そうしたこともあって、長く飛び続けること、あるいは、太陽光発電に不向きな北寄りのエリアでも稼働できることといった面で、LTAにはHTAよりもアドバンテージがある。

 こうしたLTAとHTA、それぞれの特性を踏まえ、ソフトバンクでは、どちらも採用して、特長にあわせた運用にしていきたい考え。

 2026年時点では10日程度で区切りを入れながら機体を検証していく。その際には関係者に限って通信できるか確かめる。2027年には本格商用サービスを目指しており、最終的には1機で200km程度のエリアをカバーし、1年間、成層圏を飛行できることを目指す。

通信エリアはどうなる?

 ソフトバンクでは、HAPSに搭載する無線設備は、中継機(リピーター)よりも基地局そのものが望ましいと考えている。複数のHAPS機が飛ぶようになれば、HAPS同士を繋いでネットワークを構築することもでき、同社の目指すユビキタスネットワークに貢献する。

 その無線設備は、地上にあるスマートフォンと2.1GHz帯(バンド1)で直接つながる。HAPSは高度20km程度を飛ぶ予定で、高度数百kmの衛星通信よりも圧倒的に速く通信でき、より大容量になると期待されている。特にアップロード速度はHAPSのほうが衛星よりもスペックが上回る見通し。

 空から電波を地上に向けて発射することになるが、サービスエリアを安定させるために、ビームフォーミング技術を活用したり、機体の旋回具合にあわせてアンテナが動く“シリンダーアンテナ”が搭載される予定。

もし災害が起きたなら

 上村氏は、まずHAPSを大規模災害でのサービスエリアを復旧させる手段のひとつとして活用したいという。

 停電だけではなく、津波や土砂崩れなどにより、基地局やアンテナ・鉄塔、あるいは基地局間をつなぐ回線(バックホール回線)にダメージがあれば、復旧までには相当な時間が必要だ。

 また、2024年1月の能登半島地震では、そもそも被害を受けた基地局へたどり着くこと自体が難しいという局面もあった。
 そうした状況下で、空からサービスエリアを作り上げられるなら、仮復旧と言える状態まで、これまでよりもかなり早く展開できる可能性は高い。

 その上で「空から」エリアを作るのは、まず移動が速く、広範囲にカバーできる衛星通信が役立つ。ただ、現状では、たとえばスターリンクのサービスではメッセージングのみとなる。

 まずは衛星でテキストメッセージだけでもやり取りできるようにし、次のステップとしてHAPSで、音声通話、余裕があれば写真や動画などもやり取りできるようにする。最終的には、地上にある基地局を復旧させていく――上村氏は、衛星→HAPS→地上基地局という3段階での復旧手段を目指すと語る。

 災害対応としてのHAPSでの通信で、料金がどうなるかは未定。ただ、上村氏は災害時という側面に限ると、無料になるのではないかとも語っていた。

 HAPSの機体を設置する駐機場についても未定ながら、「日本国内で1カ所用意する。既存の空港の利用は難しい。1カ所から複数の機体が飛び立ち、長期にわたって滞空する」(上村氏)といった運用が想定される。2026年時点で、LTA型HAPSは1機、それ以降は全国での災害対応のためには2機程度、必要との見通しも語られた。