石川温の「スマホ業界 Watch」

携帯4社が「通信衛星とスマホの直接接続」競争、ドコモとソフトバンクが利用する衛星サービスはどこだ

 KDDIが始めたスマートフォンと衛星との直接通信サービス「au Starlink Direct」。「空が見えれば、どこでもつながる」というキャッチコピーがわかりやすいのか、ユーザーの反響は上々のようだ。

 実際、auショップやオンラインストアなどでは対応機種に対して「au Starlink Direct対応」とあえてバナーをつけるなど、このタイミングで機種の乗り換えを促進しているという。

 6月に開始される新料金プラン「auバリューリンクプラン」でも、「au Starlink Directが無料で使えるという点」がひとつの「ウリ」になっている。

 新料金プランの発表会で、松田浩路社長は「サービス開始当初は1日数千程度の利用であったが、ゴールデンウィーク中は1日の利用が4万人近くまで伸びた」と語る。

 普段の生活では、なかなか圏外にお目にかかることはないが、休日などは山間部や離島などに出向く人も多く、衛星との直接通信というメリットを享受する人が一気に増えるようだ。

楽天は2026年第4四半期、ドコモとソフトバンクも相次いで表明

 ここで気になるのが他社の動向だ。

 楽天モバイルは4月23日にASTの低軌道衛星とスマートフォンの直接によってビデオ通話が成功した発表した。さらに「Rakuten 最強衛星サービス Powerd by AST SpaceMobile」を2026年第4四半期に提供すると明らかにした。

 「KDDIの次は楽天モバイルか」と思ったのもつかの間、連休明けに様相が一気に変わってきた。

 これまで上空20kmを飛行するHAPSの開発を続け、さらに衛星通信サービスであるOneWebに投資を続けてきたソフトバンク。HAPSは緯度の高い場所でのサービス提供がいまのところ難しく、OneWebは専用アンテナ向けのサービスでスマホとの直接通信には対応していない。

 「ソフトバンクは、KDDIと楽天モバイルに大きく出遅れるのか」と思いきや、5月8日の決算会見で宮川潤一社長が「衛星との直接通信は、来年、私どもも自社サービスとして提供する予定」と初めて明らかにしたのだった。

 ちなみにどの衛星を使うかについては「具体的な衛星会社の社名は控えるが、準備は終わっている」と言うに留めている。

 一方、NTTドコモはどうか。

 NTTグループとしてHAPSをエアバスと手がける一方、アマゾンが準備を進める衛星通信サービス「プロジェクト・カイパー」と提携関係にある。ただ、プロジェクト・カイパーも専用アンテナ向けのサービスとなっており、スマホとの直接通信サービスについては具体的な発表はされていない。

 5月9日に行われた決算会見で前田義晃社長は「来年夏にはサービスを開始する目処が立っており、ソフトバンクと同じ状況だ」と語り、具体的な衛星会社については明言を避けた。

 つまり、全く同じタイミングで、ソフトバンクとNTTドコモが「2026年に衛星とスマホの直接通信サービスを始める」と明らかにしたのだ。

 では、ソフトバンクとNTTドコモはどの衛星会社と組んでサービスを提供するというのか。

 現在、スマホと衛星の直接通信サービスを提供、あるいは準備を進めているのは、スターリンク(Starlink)を手がけるスペースX、楽天モバイルとパートナーを組むAST、さらにソラコムが協業しているSkyloがある。

 ソフトバンクとNTTドコモは、このいずれかと手を組んでいる可能性が高いことになる。なかでも「本命」といえるのが、スターリンクのスペースXだ。

 現在の法令では衛星とスマホと直接通信が可能な組み合わせはスターリンクとLTE 2GHz帯のBand1のみとなっている。

 実際、KDDIもBand 1を使って、au Starlink Directを提供している。かつて、ソフトバンクのHAPS関係者に「どのバンドを使うのか」と聞いたことがあったのだが、その際、「3Gを停波した際に空くBand 1を使えるのがベスト」と語っていた。ソフトバンクは昨年7月31日で3Gサービスを終了している。宮川社長が「準備は終わっている」と語っていることから、すでに技術的な実験などに着手、目処が整いつつあるということがわかる。

 ちなみにNTTドコモの3Gサービスは2026年3月31日に終了する。これまで3Gとして使っていた2GHz帯の一部を衛星との通信に回すということが可能なのだろう。前田社長が「来年夏」と言っていることからも「春の停波を待ってから」という事なのかもしれない。

 KDDIが組んでいるスペースXや、楽天モバイルのASTではなく、NTTドコモとソフトバンクが「Skylo」をパートナーとして選んでいるという可能性もあり得るが、それであれば、前田社長も宮川社長も使用する衛星会社の名前をハッキリと明言できるはずだ。

 両氏とも、明らかに口止めされている表情で「いまは控える」としており、パートナーと何らかの条件があるように思える。

 かつてKDDIが専用アンテナを必要とするスターリンクの衛星通信サービスを扱い始めてから、しばらくしてソフトバンクやNTTコミュニケーションズが提供を開始するということがあった。

 今回のスマートフォンと衛星との直接通信も、しばらくの間はKDDIが独占的に扱うものの、来年のどこかのタイミングでNTTドコモとソフトバンクにも開放されるのかもしれない。両社が現在、口止めされているのも、スペースXがKDDIに配慮しているとも見える。

 このままだと、先日、派手な発表会を開いた楽天モバイルは「最遅衛星サービス」になりそうだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。