石川温の「スマホ業界 Watch」

4.9GHz帯がソフトバンクに割り当て 宮川社長が語る今後の展望とは

 総務省は12月13日、5G用の周波数として、4.9GHz帯をソフトバンクに割り当てた。

 認定交付式後の囲みで宮川潤一社長は「Sub-6帯においては3キャリアでうちだけ100MHzだったので、是非欲しいと何年も前から希望していた」と語る。

 楽天モバイルの存在がなかったことになっているのはご愛敬だが、いずれにしてもソフトバンクにとっては喉から手が出るほど欲しかった周波数ということになる。

阿達雅志総務副大臣から認定書を受け取るソフトバンク宮川潤一社長

 ソフトバンクでは4.9GHz帯に対して、移行費用を含めて5500億円を16年かけて実施していくという。

 今回の割り当て希望に対して宮川社長は「(他社からの希望がなくて)めちゃくちゃ驚いた。電波利用オークション料もあり、いくらで1位通過できるか社内で喧々諤々議論をした。スゴイ戦いになると思ったが、蓋を開けたら誰もいなかった。ちょっと積みましてしまったかと反省している」と振り返る。

宮川氏

 ただ、今回、ソフトバンクが4.9GHzを獲得できたからといって、すぐにNTTドコモやKDDIをキャッチアップできるわけではない。

 ソフトバンクの申請では2030年から使い始めるとしているのだ。

 なぜなら4.9GHz帯には、既存の事業者が数多く存在しており、その事業者にどいてもらわないことにはソフトバンクは利用できない。

 宮川社長は「免許局でいくと1万3000局あり、登録されている免許人で660人いる。免許人がきちっと見えているので、900MHz帯の時ほど大変ではないが、使い方が複雑なので、丁寧に事業者と話し合っていきたい」と言う。

 なぜか、ソフトバンクが周波数を割り当ててもらうときは、既存事業者が居座っている、厄介な帯域が回ってくることが多いようだ。ソフトバンクにとって悲願だったプラチナバンドもMCA無線機などの移行が余儀なくされた。

 宮川社長は「今回も(900MHz同様に)移行を伴う周波数だからもらえたのかも知れない。移行を伴う周波数はいただけるが、それ以外はなかなかいただけない。それでもやりくりする覚悟を持って有効利用していきたい」と意気込む。

 ソフトバンクとしては「すぐに使える条件のいい周波数は他社に割り当てられるが、移行作業が必要な厄介な周波数しか回ってこない」と恨み節でも言いたいのだろう。

 実際のところ、移行作業には時間とコストがかかるのは間違いない。今回、4.9GHz帯の獲得にはソフトバンクしか手を上げておらず、NTTドコモやKDDIは名乗り出ることすらしなかった。

 他社が見送った理由について宮川社長は「移行が大変なのと、各キャリアが持っている周波数帯をすべて使い切っているわけではないからではないか」と推測した。

 ソフトバンクとしては、新たに割り当てられた4.9GHz帯をすぐには使うことはできないが、来たる本格的な「AI時代」に向けて準備を進めていくようだ。

 ソフトバンクではNVIDIAのGPUで基地局を動かす「AI-RAN」構想を掲げているが、4.9GHz帯と組み合わせることが重要になってくるようだ。

 宮川社長は「AI関連のトラフィックがどんどん増えている。マルチタスクのAIが動き出すと、通信トラフィックがもっと増えることが予想される。それまでの対策として今から準備を進め、203年に使えるのが我々にとってベストになる。AI-RANが実装してくる時期と重なってくるのでアグレッシブに周波数を使っていきたい」と意欲を見せた。

 昨年まで、調査会社のOpenSignal社によるユーザー体感品質レポートでは、ソフトバンクが成績でトップということが多かった。しかし、今年、KDDIが逆転してしまった。
 宮川社長によれば、2024年1月1日に能登半島で地震があったため、当初、予定していた3G停波の計画に大きな遅延が発生してしまった。結果として、4Gや5Gの強化にも影響を及ぼしたことで、他社に負ける結果となったようだ。

 一方のKDDIによれば「衛星による5Gへの干渉がなくなったことで、基地局の向きを変え、出力をアップできた」というが、衛星の干渉はどのキャリアにも共通した問題であった。

 そんななか、KDDIがもう一つアピールしていたのが「Sub-6を2スロット持っている」ということだった。100MHz幅を2つ、持っていることで、ネットワーク品質を高められたというのだ。

 今回、ソフトバンクもKDDIとNTTドコモに並んで、Sub-6で2スロット目を所有することになるが、残念ながら2030年まで本格的に運用することは難しい。

 2030年までSub-6が1スロットしかないなか、どうやってKDDIに戦っていくのか。

 宮川社長は「少ないものはどうしようもないので、基地局の高度化や密度を上げるなどの工夫をしていきたい」というものの、結果には絶対的な自信があるようで「来年とはいわず、この年末には逆転できる。我が社のデータでは順調だと思っている」と胸を張った。

 2030年まで競合2社と同条件にならないなか、ソフトバンクとしては早期にユーザー体感品質で他社を逆転しつつ、さらに5年後にはAI-RANネットワークを構築して、4.9GHz帯と共にマネタイズに注力していくようだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。