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「Rakuten最強衛星サービス」の特徴は“LTE周波数”と“巨大衛星”、「衛星通信を感じさせない」ユーザー体験に
2025年4月23日 21:56
楽天モバイルと米AST SpaceMobileは23日、日本国内でASTの低軌道衛星と市販のスマートフォン同士の直接通信によるビデオ通話に成功したと発表した。実験は4月に実施され、23日の発表会場でも実際に直接通信によるビデオ通話が披露された。
あわせて、スマートフォンとの直接通信できるサービスの名称を「Rakuten最強衛星サービス Powered by AST SpaceMobile」と発表。2026年第4四半期に国内向けにサービスを提供するとアナウンスされた。
プラチナバンドや国際線の機内ローミングサービスなどつながる場所が拡大
楽天モバイル代表取締役会長の三木谷浩史氏は、プラチナバンドの活用をスタートさせて現在でも人口カバー率99.9%となっており「他社と遜色ないところまで近づいてきた」とアピール。また、4月4日からは、国際線の飛行機内における機内ローミングサービスを提供している。追加申し込みや追加料金なく、ルフトハンザドイツ航空やキャセイパシフィック航空、エミレーツ航空など18の航空会社の対象機材でデータ通信が利用できる。
一方、日本の国土全体のカバー率、いわゆる面積カバー率をみると、楽天モバイルを含めた4キャリアの平均で約70%となっており、残りの30%の地域や海上の多くはカバーされていないと三木谷氏は指摘。低軌道衛星による通信サービスでは、これまでカバーされてこなかった地域にブロードバンドを提供することで、面積カバー率も100%にすることと語る。
三木谷氏は、低軌道衛星による通信サービスについて「将来やると(これまで)話してきたが、いよいよ本格的にスタートする」とコメント。2020年3月に楽天モバイルとASTが戦略的パートナーシップを締結し、日本における独占的な使用権を得たところから始まり、AT&Tやベライゾンといった米国キャリアや欧州のボーダフォン、グーグルなど世界40社とのパートナーシップを締結してきた。その中核、リーダーシップとして楽天モバイルが担ってきたとアピール。
技術面では、2023年に米国で世界初の低軌道衛星と市販のスマートフォンの直接通信に成功し、現在はこれより巨大になった低軌道衛星「BlueBird」が低軌道城に合計5基が周回している。三木谷氏は、「いよいよ具体的な商用スケジュールに入ってきた」とし、順調なペースで技術開発が進んできていると強調する。
“他社サービス”と異なる点
三木谷氏は「他社と異なる点」として、「(今回の実験では)プラチナバンドを利用した通信であること。衛星専用の周波数ではなく、通常地上で使用している周波数帯で通信できることが大きなポイント」と紹介する。
同じ周波数を利用するメリットとして、市販のスマートフォンが原則そのまま利用できる。特別な周波数帯への対応が不要であり、多くのユーザーが手持ちのLTE対応スマートフォンで利用できると三木谷氏は話す。
また、次期バージョンのBlueBird衛星では、223平方メートルにも及ぶ巨大な衛星となる。従来のスマートフォンは、地上の基地局と通信することを前提に開発されているため、低軌道衛星との通信をするにあたり、電波の出力が弱くなってしまうという。三木谷氏は、スマートフォンからの弱い電波を受信するためには、大きな衛星が必要になると説明する。次期バージョンのBlueBird衛星は、低軌道に約50基配置し、日本の領海まで含めた地球全体をカバーしていく。
そして、このBlueBird衛星では、バッテリーなど約50%のパーツを日本製でまかなっているという。
どのように活用されるのか
三木谷氏は、この最強衛星サービスの商用化により、どれだけカバレッジが拡大できるかを、北海道を例にして説明する。面積の広い北海道では、人口が集中しているエリアを除きサービスエリアがなかなか拡大されていない。最強衛星サービスでは、これらの山間部や草原地帯でもブロードバンドが利用できるようになるという。
また、地震や津波、台風などの災害時の活用や、サービスエリア外の地域を横切る配送ドローンなどへの活用など、さまざまな可能性が広がっていくと三木谷氏は話す。なお、領海内へのサービス展開は、現在検討中としている。
日本のほか、アメリカやヨーロッパで開発が進められているなか、これまでは海外での実証実験で成功していたが、今回日本で初めての低軌道衛星によるブロードバンド通信に成功した。三木谷氏は「良い意味でショッキングなこと」と興奮を隠しきれない様子だった。
BlueBird衛星と市販のスマートフォンが直接つながる
今回のテストでは、福島県のゲートウェイ地球局を通じてブロードバンド通信を実施。福島県のテストフィールドにあるスマートフォンと低軌道上のBlueBird衛星がLTEの周波数で接続、そしてBlueBird衛星はゲートウェイ地球局と通信し、地上のネットワークを通じて東京のユーザーとビデオ通話が楽しめた。三木谷氏は、「YouTubeなど動画視聴もできた」と話し、比較的大きな容量のデータ通信もこなせることをアピールした。
説明会の後半では、リアルタイムで福島のテストフィールドと同様の構成によるビデオ通話を実演。福島のスタッフと東京の三木谷氏が、市販のスマートフォンで直接ビデオ通話を披露し、サービス実現性をアピールした。
主な質疑
質疑では、技術面や具体的なサービスの内容に関わる質問が飛んだ。
干渉問題や遅延性はどうか?
まず、世界ではどの順に商用サービスが始まるのか? について三木谷氏は「楽天モバイルが一番最初になれれば良いなと思う」と回答。タイミングのズレはそこまで発生しないとし、技術的に成功すれば、世界中で同様につながっていくとした。
サービスにあたっては、「安否確認が重要となる法人やIoT、政府関係などから非常に興味を頂いている状況」と説明する。
技術面では、地上の周波数と同じ周波数を使うことから干渉の問題が心配される。楽天モバイル代表取締役共同CEO兼CTOのシャラッド・スリオアストーア(Sharad Sriwastawa)氏は、「どのバンドを使用するかは来年決めることになる」とした上で、「ASTはハンドオーバー技術があり、干渉部分を最小化することに貢献できる。楽天シンフォニーのソフトウェアをチューニングすることで、干渉を軽減するさまざまな技術を持っている」とした。
三木谷氏も「自分たちで装置を作っているので、『このエリアをターゲットにする』と自分たちで決められるところ」と、自社の技術力で担っている点をアピールした。
また、利用できる時間についてスリオアストーア氏は「24時間365日途切れず使用できる」とコメントした。遅延については「接続を開始してしばらくすると遅延がほとんどない状態になる」と低遅延をアピールする。
利用者は「衛星を意識せずに使える」形に
実際に、どのように利用できるのだろうか?
楽天最強衛星サービスでは、地上の周波数と同じ帯域でのサービスが予定されている。電波の特性として、距離が長くなるほど電波が減衰して、届きにくくなるが、これは携帯の周波数も同様で、基本的にはアンテナ同士の距離が長くなると、電波が届きづらくなる。
たとえば、地上の基地局の電波が受信できる環境下であれば、端末は“BlueBird衛星からの電波”よりも“地上基地局からの電波”の方が強いので、地上基地局と通信を行う。サービスエリア外になると、今度は“BlueBird衛星からの電波”の方がつかみやすくなるので、衛星経由での通信を行うというかたちになる。
このため、端末に衛星マークが出ることもなく、ユーザーが知らない間に衛星経由での通信をすることになる。
具体的なサービスは未定も「災害時は楽天以外のユーザーにも開放」
商用化に向けて具体的なサービス内容を問われた三木谷氏は「料金についても悩んでいるところ」とコメント。
一方、災害時の運用については「楽天モバイル契約者以外の方もつながるようにできたら良いと思っている」と説明。具体的なサービスについては、「一部のサービスが利用できるなど、たとえばある程度の帯域を保証するようなサービスなどいろいろなサービスを考えている」と、今後の技術革新も踏まえてサービス内容を刷新していきたい旨を語った。
なお、海外での利用について三木谷氏は「地上の周波数は、各国でライセンスされるものなので、現地のキャリアと交渉することになる。できるだけ使えるようにしていきたい」と話す。