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楽天の三木谷氏、「巨大な通信衛星、これがポイント」――2026年内目指す“スマホと衛星の直接通信”発表会
2024年2月16日 18:36
16日、楽天モバイルが発表した、2026年内の「スマホと衛星の直接通信」は、米AST SpaceMobile(エーエスティ スペースモバイル)との密接な関係で実現を目指すものだ。
壇上に立った楽天モバイル代表取締役会長の三木谷浩史氏は、楽天モバイル創業時に新たなサービスのかたちを目指したと振り返り、そんなときにASTに出会ったと語る。
災害時などでシームレスに衛星と地上を切り替える
他社の衛星通信サービスは、小さな衛星を数多く打ち上げるが、ASTは「極端に衛星のサイズが大きい」(三木谷氏)。
小さな衛星では、出力が弱くなる。つまり「スマートフォンとのブロードバンドが難しいだろうと考えている」と三木谷氏は指摘する。
地上から約600kmにASTの衛星は位置し、2023年4月には世界で初めて市販のスマートフォンと衛星の直接通信での音声通話に成功した。
今後予定される実証実験では、福島に地上局(衛星とコアネットワークを結ぶゲートウェイ)が設置され、衛星と北海道を結んで通信する。その際、衛星とスマートフォンは、バンド8(900MHz帯)という周波数を用いる。
三木谷氏は、同社に限らず国内の携帯電話サービスでは、人口カバー率が99.9%になっても、面積では70%程度のカバーとして、衛星通信によって残りの30%をカバーできるとアピールする。
特に他社との大きな違いとして、大型の衛星電話・設備を使わず、手持ちのスマートフォンでいいことが挙げられると三木谷氏。災害などで地上の基地局の電波が途切れた場合、衛星の角度を調整し、被災地に集中的に電波を届けるようにして「シームレスな自動移行を考えている」(三木谷氏)。
地上の通信ネットワークと衛星からの電波を途切れなくスピーディに切り替えるその背景には、楽天モバイル、そしてコアネットワーク技術を手掛ける楽天シンフォニーの通信事業者向けの仕組み「Symworld」のOpen RANが活きているという。
5G衛星通信で14Mbps
ASTのCEOであるアーベル・アヴェラン氏は、現在、ASTでは衛星からの5G通信を実験しており、その通信速度が14Mbps(5MHz幅)を達成したと説明する。
同社にとっての戦略的パートナーは、楽天以外にも、米AT&T、英ボーダフォン、米グーグルなどが名を連ねる。協力関係にある携帯電話会社も、テレフォニカ、TIM、Smartなどが参画する。
米国テキサス州にある同社の施設で、衛星に搭載される25m四方のアンテナなどが製造されており、アヴェラン氏からは写真で、その巨大さが披露される場面もあった。
質疑応答
――楽天シンフォニー側(の完全仮想化コアネットワーク)で干渉を制御するのか?
三木谷氏
モバイル通信では、さまざまな機器、さまざまな周波数帯域があります。そこで最適化、ソフトウェアで干渉を防ぐ手段や技術が必要になります。そのことを(コアネットワーク技術を)自分たちで握っていることで、地上局もあわせたところの最適化はやりやすい。
他の技術では不可能とは言いませんが、よりやりやすい。楽天シンフォニーとしては、O-RAN技術、たとえばアフリカの国などで電源がない場所でも、衛星でカバーできます。
――スターリンクとKDDIは、まずSMSからとしている。楽天とASTのサービスでは、2026年内の開始時では、音声通話、SMS、データ通信など機能別ではなく、まとめて利用できるようにする考えか。
三木谷氏
楽天モバイルのサービスは、あくまでブロードバンド。データでも音声も関係ありません。特定のサービスにこだわらず、すべて利用できるようにする予定です。
――ASTスペースモバイル全体からすると、楽天モバイルは何番目の商用化になるのか。
アヴェラン氏
今年の第2四半期に、5つの衛星を打ち上げる予定です。プライオリティとしては、他社よりも楽天に利用してもらえるようにしていきたい。グローバルでの提供ですから、ASTによる通信サービスは欧州でも日本でも使える。
――今後、どの程度の衛星数になるのか。
アヴェラン氏
衛星90基でグローバルをカバーできます。5000機、4万機といった数が必要なシステムではありません。
これは、衛星が大きい(アンテナで25m四方)こと、そして特許技術のおかげです。打ち上げる数が少なくて済みます。まず今年の第2四半期に5機を打ち上げ、その後、4機、12機といったペースで打ち上げます。
三木谷氏
まず他社はパソコンのディスプレイ程度のサイズですが、ASTは25m×25mの衛星です。次世代はその数倍の規模の衛星を予定しています。人口カバー率は99%になりますが、面積カバー率は60~70%程度になる見込みです。
たとえば、海の上、飛行機の中でも通信できるようになることがひとつの特徴です。地理的カバー率100%はかなり大きな意義があります。携帯電話だけではなく、さまざまなIoTデバイスとの接続で、もしかしたら地理的な変動、気候的な変動を、人の居ない場所でも計測できるようになるかもしれません。
――ASTの衛星が地球を周回するとき、地上に向けてずっと1.7GHz帯を発信するのか、それとも国ごとに切り替えるような仕組みなのか。
アヴェラン氏
衛星は時速で1万7000マイル(約2.7万km)で移動し、1.5時間で地球を1周します。動きながら、通信事業者ごとに周波数を切り替えます。セルごと、国ごとに切り替えていきます。
通信事業者側からは、どの場所でASTの衛星による通信を有効にするか、見えるようになっています。そうしたエリアは、地上に鉄塔の基地局を設置するのが難しい、あるいはコスト面で見合わないといったところです。
急遽始まった囲み取材
質疑応答後、立ち去るかと思われた三木谷氏だが、おもむろに報道陣へ歩み寄り、「どうでした?」と声をかけてきた。筆者が「2026年になるとは思っていませんでした」などと答えていると、予想外の囲み取材に至ったので、そのやり取りもご紹介しよう。
――総務省など規制の見通しはどうですか。
三木谷氏
非常に協力的です。ユーザビリティというか、やはり非常事態に備えて、この動きは我々で独占するんじゃなくて、他社さんにもオープンにできないかな、みたいなことを今ちょっと考えています。
――2026年になった理由は?
三木谷氏
衛星の製造にかかる時間と数ですね。皆さんが考えるよりも、はるかに大きな衛星なので。一度に5機ぐらい打ち上げられると聞いています。衛星を折りたたんで、宇宙で広げるという。
――部屋のなかにいる三木谷さんと、衛星経由で相手と通話するという動画がありましたね。
三木谷氏
あれ、僕は地上の基地局とスマートフォンがつながっていて、相手が衛星と直接通信しているという場面でした。
高層ビルの奥、あるいは地下はさすがに(衛星との直接通信は)無理ですが、木造家屋の2~3階なら、もしかしたらつながるかもしれません。
――2026年のサービスインの際には、上位プランのようなかたちにするのでしょうか。
三木谷氏
それは今考えていて、どっちがいいと思います?
――補完的に使うものになると思うのですが……。
三木谷氏
そうですね、でもまぁ、そんなたくさんチャージというより、衛星使う人はちょっとだけ……いや、まぁまだ考えています。
――楽天がやる意義は?
三木谷氏
ほかにやる人がいないから。いやいや、ほんとで、これ、最初のコンセプト段階で300億円を拠出したんです(筆者注:2020年の発表時、ASTの資本20%の出資とされていた)。
それがなかったら、このプロジェクトは動かなかった。そして、いま、GoogleやAT&Tが乗ってきた。
理論上、できるとはわかっていても、(25m四方という)巨大な衛星を組み立てて、宇宙で展開して、1.5時間で地球を一周する。このチューニングが大変なわけです。
「でかい」ということがポイントなんです。
すいません、次のアポがあるので!(去っていく三木谷氏)