ニュース
楽天がウクライナの防衛スタートアップを支援、政府機関「Brave1」と連携
2025年5月20日 16:29
楽天グループは20日、ウクライナの防衛技術イノベーションを支援する政府機関「Brave1」と、同国のスタートアップを協力して支援していくことを決定した。日本の政府機関や潜在的なパートナーとの連携支援も視野にあるという。
ウクライナへのビジネスと支援を進める楽天
楽天グループ執行役員社長室室長の向井秀明氏は、「まだインターネットで物を買う人はいないといわれた時代にインターネットショッピングを開始し、楽天ペイや楽天銀行などフィンテックの領域も推進してきた。近年はドローンや完全仮想化ネットワーク、モバイルサービス、OpenRAN、低軌道衛星を活用したモバイル通信など新しい技術を使っている」とコメントし、楽天グループは創業時からさまざまな領域でイノベーションを進めてきたと説明。
その上で、「楽天グループは、戦時下にあるウクライナの状況に、非常に心を痛めている」とし、さまざまな面でウクライナ国内での取り組みを進めてきたことに触れる。たとえば、同社のコミュニケーションプラットフォーム「Rakuten Viber」(ウクライナ国内の普及率98%)や首都キーウへのオフィス設置など、インフラ面をサポート。また、2022年以降は人道的支援を実施、楽天グループと同社代表取締役会長兼社長最高執行役員の三木谷浩史氏が合わせて約20億円以上を寄付したほか、発電機500台を寄贈するなど物資面でも支援している。
直近では、ウクライナの国内通信大手「Kyivstar」(キーウスター)の親会社「VEON」(ビオン)とパートナーシップを締結し、ウクライナ国内のデジタルインフラサービスなどの再興に向けて合意した。
これらに加え今回、ウクライナの防衛関連スタートアップを支援する政府機関「Brave1」とパートナーシップを結び、ウクライナの防衛関連企業の日本国内での活動を支援していく。
向井氏は「楽天は約30年前にスタートアップで、起業家である三木谷氏が引き続き牽引している会社。同時に楽天モバイルなどさまざまな事業で国や政府と仕事をしてきた。スタートアップと国向け、両方の仕事がわかる希有な企業の1つ」と指摘。今回のパートナーシップは「ウクライナで発達・発展している民生、スタートアップ技術を日本に持ってくることは、両国の国益に資するものだと自負している」と意義を説明した。
テクノロジー戦争
Brave1CEOのナタリア・クシュネルスカ(Natalia Kushnerska)氏は、「私個人にとっても、ウクライナのエコシステム全体にとっても、非常にエキサイティングな日」と、今回の取り組みに期待感を示し、多くの革新で優れた技術が国を守り平和な世界全体を発展させることに繋がるとした。
昨今のウクライナの戦争では「技術を持ち込むこと、ロボットによる戦いがいかに重要かが明らかになった」とし、ウクライナ国内で急速に技術発展がなされていると説明。この2年間で1500人の開発者と3600以上のソリューションが国内で生まれたほか、国外の企業がウクライナの戦場をテストフィールドとして活用する事例もあるという。
クシュネルスカ氏は「私たちは、ますます多くのテクノロジーを最前線に持ち込み、国を守り、自分自身を守ろうとしている」と説明。さまざまな自律システムや兵器、ドローン輸送船など、国外企業にも門戸を開き、ウクライナへの投資を増やし、国内外の企業との共同開発を進められると、今回の取り組みへの期待感を語った。
日本の貿易関連展示会で紹介
この取り組みの第1弾として、21日から幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催される防衛展示会「DSEI Japan」に関連するスタートアップが紹介される。
楽天グループ向井氏は「ウクライナのある意味で“旬”な、非常に力のあるスタートアップを日本の展示会で、多くの防衛関連企業や防衛関係者に見ていただくことは、『日本は遅れている』と言われている防衛産業におけるスタートアップの利活用に繋がる」と説明。あわせて、ウクライナのスタートアップ企業の成長に繋がるとした。
質疑で向井氏は、日本の防衛産業は「重厚長大で歴史を持つ会社がメインで活躍されている。そこに新たなスタートアップが参入して、スタートアップの革新的かつ速い開発速度をどう浸透させるか、受け入れてもらえるかといったノウハウを学んでいきたい」と説明。その上で、日本の防衛産業の活性化にあたり、コミュニケーションを取っていくことで双方の成長に繋げていきたいとした。
今回取り上げられた6つの企業
では、具体的にどのような企業との取り組みが進められるのか? 第1弾として今回は6つの企業を支援していく。
Griselda
Griselda(グリセルダ)は、戦場の意思決定を円滑にする統合情報プラットフォームで、防衛と民間双方で、データを明確にし、よりスマートに、より早く、より安全な方針を立てられるようになるという。
戦場では、時々刻々と状況が変化し、わずかな判断の遅れが命を落とすことにつながってしまう。従来は、情報を集めて判断していたため、方針を決定する頃にはその情報が古くなってしまっていることが多々あったという。同プラットフォームでは、データやレポートなど断片化された情報を、迅速かつ高精度に1つの明瞭なものにできる。
同社セールスデベロップメントのアナスタシーヤ・フラパイ氏は、戦場での活用だけで無く、インフラストラクチャーの保護や緊急時の救助チーム支援など、民間の活動でも効果的であることがわかり、現在はさまざまな現場で活用されていると話す。
Swarmer
Swarmer(スウォーマー)は、複数のドローンを少ない人数で操縦するためのプラットフォームを構築している企業。
CPOのアレックス・アラポフ氏は、ドローンは無人で駆動するが、操縦するパイロットが必要となる。軍部は、数百万台のドローンを配置したいと考えているが、パイロット数や製造数などに制限がある。一方でドローン企業は、数多くのドローンを販売したいと考えているが、軍はそれをすべて展開できるだけの準備が整っていないと指摘する。
同社のプラットフォームでは、操縦者の能力を最大限に引き出せるとし、ドローンが定められた目標に従って自律的に動けるようマネージメントするという。このプラットフォームは、ドローンの種類やメーカーに関わらず管理できるため、1人の操縦者がさまざまな種類のドローンを複数台同時に操縦できるようになる。
FarsightVision
FarsightVision(ファーサイトビジョン)は、地理空間認識と分析を得意とする企業。
たとえば、GPSや無線、インターネット回線などがなくても、周囲の状況から2D/3Dマップを作成し、人間やロボットが認識できる形にフィードバックを返すシステムを開発している。システムは、さまざまなプラットフォームへ統合されることで、ウクライナのほかNATO(北大西洋条約機構)各国でも利用できるよう標準化されるという。
Dwarf Engineering
Dwarf Engineering(ドワーフエンジニアリング)では、ドローンが通信を奪われた場合でも、自律して動けるシステムを開発している。
Co-Founder兼CEOのヴラディスラフ・ピオトロフスキー氏は「使用されているドローン全体の70%以上が、GPSや無線信号の喪失で失われている」とし、これはウクライナだけでなく世界中で大きな問題になっていると指摘。解決策として、ドローンに自律性を与えることで、無線信号が敵によって変調された場合でも機能するコアソフトを構築している。
セキュリティを十分に確保したもので、実際の兵士たちによるテストで、いわゆる本番環境で開発が続けられている。
LifesaverSIM
LifesaverSIM(ライフセーバーシム)は、人命救助のトレーニングプラットフォーム、シミュレーションゲームのようにすることで、軍関係者が救命スキルを与え、その技能を維持できるようになる。
プラットフォームでは、ゲームベースのシナリオに沿って行われる。応急処置の方法から戦闘での死傷者をケアするものまで、さまざまなケアプロセスを学習し実践できる。ユーザーは、何度もプロセスを通過することで、安全な手順を繰り返し学べ、より低リスクの手段を学べる。
ユーザー個人に合わせて難易度の調整やレビュー、進行状況を確認できる個人プロファイル機能などを用意しており、Co-Founder兼エグゼクティブプロデューサーのユーリイ・ディヤチシン氏は、実際の戦場で重要なスキルの新しい習得方法としても定義されていると説明する。
このプラットフォームは、モバイルデバイス向けに設計している。戦時中は、さまざまな場所でトレーニングできるものが求められているといい、費用対効果も高くできるよう、モバイルデバイスでトレーニングが完結するようにしている。
ディヤチシン氏は「救急救命士や法執行者、民間人など命を救うための必要な知識が、誰もが取得できるようなプラットフォームに成長した」とし、日本における価値観にも適合していると説明。公共の安全や緊急時への備えとしてのツール展開も進めていくとした。
これら5社のほか、ウクライナ最大の無人航空機(UAV)メーカー「Skyfall Industries」(スカイフォールインダストリーズ)も参加する。