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ソフトバンク宮川氏が講演で語った「生成AIは”2008年のスマホ”」、その意味とは

SoftBank World 2024

代表取締役社長の宮川潤一氏

 ソフトバンクは、同社最大の法人イベント「SoftBank World 2024」を開催した。代表取締役社長の宮川潤一氏は、イベントの基調講演で、企業を率いる経営者などに向けて、AIを“新たな経営資源”として活用していくよう呼びかけた。

産業革命に乗り遅れたイギリス

 宮川氏はまず1枚の写真を提示。19世紀後半のイギリスで、自動車を人が歩いて先導する風景が描かれている。これは、当時の法律「赤旗法」により、自動車で移動する際は赤い旗を持った誘導員による先導が必要だった。当時は馬車が主な交通手段で、鉄道や蒸気機関により「仕事を奪われるのでは?」との人々の不安から法律が制定されたといわれており、自動車の普及を抑制していた。

 一方で、フランスでは自動車が自由に走行しており、この風景を見たイギリス人は危機感を抱き赤旗法廃止の運動を起こした。特にロールス・ロイス創業者のチャールズ・スチュアート・ロールズ氏が制限速度を超えて走ることで、市民が自動車の可能性に気づき、赤旗法が廃止された。

 蒸気機関発祥の地であるイギリスであり、当時は世界の産業の中心であったが、最終的に廃止に至ったとはいえ、赤旗法のような法律によって、その産業発展は阻害されてしまった。

 宮川氏は一方で、「現代においても当時と同様のことが起こりつつある」と指摘。生成AIの分野ではムーアの法則を超えるスピードで進化を続けており、人間の脳の処理能力に匹敵する「AGI」の実現も「そう遠くない未来に登場する」と語る。

 その根拠として宮川氏はOpenAIの歴史を挙げる。

 2022年1月に登場したGPT-3.5ではテキストの生成をサポートし、その後画像、動画、音声の生成に対応してきた。そして、9月に発表されたOpenAI o1では、人間のような思考ができる高度な推論能力を身につけられるようになった。ここまでの期間はわずか2年弱。音声生成に対応したGPT-4oからOpenAI o1までは4カ月間で、生成AIの進化が加速的に進んでいる。人間の脳をコンピューターの性能指数で示すと「10ヨタ~100ヨタ」(ヨタは10の24乗)と言われており、最新のAIモデルではこれに匹敵する能力を持ち合わせている。

 宮川氏は、加えて知能指数(IQ)を挙げて説明。GPT-4oでは80程度だが、そこから半年もまたずに登場したOpenAI o1は120まで向上している。このペースのまま進化すれば、数カ月後~1年以内には、人類の上位1%に相当するレベルまで進化する可能性がある。8億人に1人と言われるアインシュタイン級の天才や、600億人に1人と言われるレオナルド・ダ・ヴィンチ級の天才も、近い将来、AIによって実現されるかもしれないと宮川氏は語る。

進まない日本のAI活用

 止まる所を知らないAIの進化の一方、日本におけるAI活用率は、他国と比べて圧倒的に遅れている。ビジネスにおける生成AIの活用率は、世界平均で75%あり、半年前と比較して倍近くに上昇しているが、日本ではあまり伸びず、意識調査でも生成AI活用に消極的な姿が見える。インドや中国では、競争力強化の武器として捉えているが、日本ではAIに不安を感じている人が多いと宮川氏はコメント。

 生成AIに消極的な理由を尋ねた調査では、「必要性を感じない」や「使い方や利便性に不安」といった回答が多く、これは2008年に調査された「スマホに消極的な理由」に近いと宮川氏は指摘し、「好む、好まざるにかかわらず、AI時代はやってくる」と断じた。

 経営者層の意識も同様に、日本は他国に比べてAI活用に消極的で、AI活用に慎重な姿勢をとしている経営者も多い。日本では、生成AIの活用を「業務効率化」と捉えている管理職が多いが、世界では「競争力強化」としている割合が多い。別の調査では、AIを活用できていない企業では、「業務効率化」として捉えている一方、活用している企業では、「新たな価値の創出」を成果として捉えている企業が半数以上を占めている。

 宮川氏は、AIを単なる業務効率化のツールと捉えるのではなく、新たな価値を創造するための武器として活用していくことが重要とし、今後の企業の競争力を左右するのは「AIを使いこなす社員をどれだけ育成できるか」にかかっているとコメント。AIを新たな経営資源として積極的に活用していくべきだと呼びかけた。

AIを新たな経営資源とすることで、1人あたりの業務領域が拡大し、個の能力アップにつながる
宮川氏

AIの進化をチャンスととらえる

 日本の企業は、これまでも世界に市場を奪われてきている。たとえば、フィーチャーフォンが全盛の時代に登場したスマートフォンや、オンプレミスが主流だったころに登場したクラウドなど、現在では当たり前になった製品やサービスだが、日本企業はこれらに乗り遅れてしまい、国内市場でも海外勢が優勢になっている。

 労働人口が減少する日本では、このまま労働者1人あたりの生産性が変わらなければ2040年にはGDPが110兆円、現在よりも減少する。AIを業務効率化で活用すれば、2023年水準を維持できるが、新たな価値の創出に活用し、生産性を2倍にできれば、日本のGDPは2040年に1000兆円になる。

 宮川氏は「AIの進化は、もはや避けることのできない未来」だとし、早い段階でAIを積極的に活用し、新たな仕事を生み出す側に回るべきだと語る。

宮川氏

 ソフトバンクグループでも、AIを活用した新たな価値創出を進めている。たとえばコールセンターではAIとデータを接続することで「ユーザーを待たせないコールセンター」の実現に向けて進めているほか、特殊詐欺を自動で検出して被害を防ぐPayPayの取り組みを進めている。

 加えて、AI社会の基盤となる通信インフラの構築にも力を入れており、基地局にMECサーバーを整備して計算機能を持たせたり、光ファイバー網を強化したりすることで、日本における“AIトラフィック”を支える能力を高めている。

 宮川氏は「ほとんどの産業において、AIの進化は避けられない」とし、AIとの共存社会が「人々や企業にとって望ましい社会であると信じている」とコメント。日本の未来のためにAI技術の進化に全力で取り組んでいくと結んだ。