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生成AIがGoogle検索にもたらすものとは? 村上臣氏が語ったこと
2023年8月30日 09:00
「Google検索」の新機能として、「生成AIによる検索体験(SGE - Search Generative Experience)」の日本語版の試験運用が始まった。新機能体験プログラム「Search Labs(サーチラボ)」から登録し、Googleアプリなどで機能を試せる。
SGEは、米国ですでに試験運用が始まっており、米国以外では日本が初めての導入となる。
生成AIによってもたらされる“新たな検索体験”とは、そしてグーグルはどのようにして新機能を開発しているのか――同社Google検索担当ゼネラルマネージャーの村上臣氏が紹介した。
2000年に日本で「Google検索」の提供が始まって以来、実に20年以上が経過した。グーグルではより良い検索体験を提供すべく機能のアップデートを続けてきたが、「(Google検索によって)求めている情報にたどりつくまで、長い時間がかかることもあった」と村上氏。
今回の生成AI導入は、検索作業をさらに効率化し、その可能性を引き上げるためのもの。同社における“高いハードル”をクリアし、米国に次ぐ試験運用というかたちで導入されることとなった。
膨大な量の学習データに基づく情報を提供する生成AIには利便性もある一方、誤った情報を正しいものであるかのように表示する“ハルシネーション”など、課題も存在する。
そのため、検索から得られる情報の品質を追求するグーグルとしては、生成AIの導入に慎重になる必要があった。今回の新機能について、村上氏は「これまで培ったすべての専門性を投入し、慎重に議論を重ねた」と語る。
SGEが提示した回答に対してさらに情報を要求できる「会話モード」なども用意されるが、「回答が自然であれば、ハルシネーションであっても人々は信頼してしまうおそれがある」と村上氏。
ゆえにSGEでは正確性に重点が置かれており、「かたい表現があるかもしれないが、フィードバックをもらいつつ改善を繰り返していく」(村上氏)。
続いて村上氏は、SGEのデモを披露した。
かつてはNTTドコモの「iモード」に代表される、いわゆるフィーチャーフォン向けのコンテンツに数多く取り組んできた同氏。その後はヤフーのCMO(チーフモバイルオフィサー)やLinkedIn(リンクトイン)日本代表などを務め、現職に至る。
「こういった(発表の)機会は、グーグルに来て初めて」とコメントした村上氏は、「人前でうまく話すコツ」をSGEに聞いてみた、と紹介。SGEでは、「何を伝えたいかを意識して話す」「笑顔ではっきりと、明るい声で話す」といったポイントが、情報源のWebサイトとともに表示される。
また、たとえば「ロボット掃除機の選び方」のような質問は、部屋の広さや家族構成などによって回答が異なってくる。そこで、「間取り」や「生活様式」、「床の素材」など、購入にあたって検討すべき要素が表示される。
そして、SGEの回答に対して追加で知りたいことが出てきた場合に使えるのが先述の「会話モード」だ。
「残暑見舞いはいつごろ送る?」といった質問に対し、SGEが適切な時期を回答。回答の下部にある「追加で聞く」をタップすると、残暑見舞いのマナーなどもあわせて聞ける……というように、まさに会話をしているような検索体験が実現する。前の質問の文脈は引き継がれ、自然な流れで会話できるという。
なお、SGEでも従来と同様に、「スポンサー」というラベルが付与された広告が専用の広告枠に表示される。「広告の透明性の確保」に取り組むグーグルでは、検索結果と広告を区別するコミットメントは変更しない。
村上氏は、「広告は関連サービスや製品を見つけるのに非常に役立つ」とコメント。ユーザーと広告主の双方に価値がある体験を作り上げたと語り、自信を見せた。
すべての検索に対してSGEの回答が表示されるわけではなく、回答の信頼度が低いような場合、非表示となる。
グーグルは「AI原則」として、サービスの品質や安全性を保つ取り組みを続ける。同社は、開発チームとは別に、システムに対して敵対的なテストを実施するチームを編成。こうしたテストの結果や、ユーザーからのフィードバックをもとに、絶え間なく改善を続けていく。
質疑応答
日本語版の提供で難しかったこと
――日本での展開は米国に次いで世界で2番目ということだが、日本語への対応での課題は。
村上氏
2つありまして、まずはアルファベットに比べてキャラクター(文字)数が多いこと。カタカナ、ひらがな、漢字があるので、かつてのマルチバイトということで、技術的に考慮すべきところがありました。米国のチームとかなりコラボレーションしています。
付け加えると、日本語特有の言い回しというか、カルチャーに基づくニュアンスもある。代表的な例が敬語の表現だと思いますが、自然言語により近づいてくるときに、こういった部分をどう扱うかというのは考慮しました。
日本は非常に重要なマーケットなので、最適化も含めてチームで対応しています。
――たとえばハリウッドスターに関する情報は、英語か日本語のページのどちらを情報源とするのか。国や言語をまたいだときの対応は。
村上氏
日本語版のGoogle検索も同じだと思いますが、SGEも、我々の長年のコアランキングシステムに関する知見に基づいています。ソースは日本語に重きを置いて表示します。
日本語での情報が極めて少ないようなトピックに関して、SGEで英語が書いてあるようなケースがゼロとは言えないと思いますが、基本的には日本語で質の高い表示が利用できます。
――日本語版の導入にあたって、どのような課題が解決され、試験運用の開始に至ったのか。
村上氏
やはり、新しいテクノロジーの導入にあたっては、非常に慎重な検討が求められます。特にGoogle検索に導入する場合には、かなり幅広いユーザーの方がいますので、我々が定める品質のバー(基準)というのは非常に高く設定してあります。
そもそも、すべてのサービスを世の中に出していくわけではありません。我々の実験的なプロダクトの中には、バーを満たさず世の中に出ないものもたくさんある。今回のSGEに関しては、試験運用レベルのバーをクリアしたという判断です。
「Bard」とはどう違う?
――SGEで使用しているモデルは。
村上氏
モデルに関する詳細は公開していません。SGEに限らず、これまでのグーグルの歴史のなかで、いろいろな機械学習は常に導入しています。今回は生成AIで新たなものを活用するというかたちです。
――SGEは「Bard」と違うテクノロジーとのことだが、Bardを使わない理由は。
村上氏
生成AIを使うにあたって、さまざまな情報のニーズがあると思っています。そして、それを解決する手段は1つではないと思います。
Bardはどちらかといえば直接LLM(大規模言語モデル)と対話をしながら使うツールで、ブレインストーミングのパートナーのように、クリエイティブなタスクに重きを置いています。
SGEは、従来の検索の“正常進化”。今までお客さまが検索に期待してきたものの延長線上で、さらに良くするために何かができるかという思想で作っています。
この2つはユーザーのニーズが異なると思っており、両方とも試験運用ではありますが、別のプロダクトとして作っています。
実際の利用にあたって
――すべての検索結果においてSGEの回答が出るわけではないとのことだが、基準は。
村上氏
今も「強調スニペット」という機能がありますが、今回SGEを表示するのは、それ(強調スニペット)よりもユーザーにとって情報が多い、役に立つだろうと判断したものです。
――検索で入力した内容をSGEに使わないという選択もできるのか。
村上氏
「Search Labs」に登録する際に、規約へのオプトインが発生します。
グーグル広報
基本的には、規約に同意いただいたうえでSGEを利用していただく流れになります。デスクトップのChromeのほうがGoogleアプリよりも提供が早い可能性があり、Googleアプリでは2~3日待っていただく場合もあります。デスクトップも順次ロールアウトとなります。
――SGEのオン・オフは選択できるのか。
村上氏
「Search Labs」に登録していただくと、(SGEのように)実験的な機能のオン・オフを選べます。
――広告の表示の方法は。アルゴリズムは変わるのか。
村上氏
広告については今までと同じものを表示します。アルゴリズムの詳細はお答えできません。
――ハルシネーションへの対策は。
村上氏
米国でのローンチ時にも紹介しましたが、モデルのファインチューニングを実施しています。特にSGEについては、Webサイトの裏付けがある情報をもとにモデルをトレーニングすることで、ハルシネーションを抑止しています。
――Google検索である程度結果がわかるので、情報源にアクセスしない人もいると思う。米国で、トラフィックの変化などはあるのか。
村上氏
具体的な回答は控えます。
グーグル広報
SGEにおける回答内でも、情報源のWebサイトが見られるようになっており、従来のトラフィックを送れるようなしくみに注力して作っています。
今後の展望
――SGEは今後、正式なサービスになるのか。
村上氏
詳細なロードマップはまだ公開していません。まさに今から実験を始めるということで、米国も試験運用中ですので、将来どのようなかたちになるのかというのは現時点ではありません。
――SGEが導入されるのはテキスト検索だけだと思うが、ニュース検索や画像検索への展開は。
村上氏
現時点では今日お見せしたバージョンで試験運用をしていきます。今後については順次お知らせしたいと思っています。