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米国、欧州、日本を中心に進むvRAN/Open RAN導入、従来型の物理RAN構成と比較したTCO削減効果は10~30%に
2025年12月6日 06:00
5G商用化以降、モバイルネットワークのアーキテクチャは大きな変革を迎えている。従来は通信機器ベンダーが提供する専用装置に依存する垂直統合型が主流であったが、現在は汎用ハードウェアと仮想化ソフトウェアを組み合わせる水平分離型のアーキテクチャが注目されつつある。
こうした背景から、vRAN(Virtualized Radio Access Network)およびOpen RAN(Open Radio Access Network)は、今後のモバイルネットワークを支える中核技術として、存在感を高めている。
MCA並びにHand Off Solutionsは、国内外におけるvRAN/Open RANの開発・導入実態、主要キャリア・ベンダーの取り組み、アーキテクチャ選定と導入後のコスト削減効果、標準化団体の活動、政策的背景などについて調査し、その結果を調査レポート「通信事業者を取り巻くRANのオープン化と仮想化における導入実態と市場動向2025年度版」に取りまとめた。同レポートからvRAN/Open RANの概況と、導入によるTCO削減効果を見ていく。
米国、欧州、日本を中心に進むvRAN/Open RAN導入、普及に向けた課題も
vRANは、無線アクセスネットワーク(RAN)の中核であるCU(Centralized Unit)およびDU(Distributed Unit)を仮想化ソフトウェアとしてクラウド基盤上に実装する技術であり、Open RANはこれに加え、マルチベンダー環境における装置間の相互接続性をO-RAN仕様に基づいて確保することに主眼を置く。
いずれも、ハードウェアとソフトウェアの分離、導入自由度の向上、運用コストの低減、ネットワーク構成の柔軟性など多くのメリットがある一方で、実装には仮想化プラットフォーム、AI制御、管理ソリューションなど多層的な技術連携と高い統合設計力が求められる。
Open RANの普及にはいくつかの課題も指摘されている。たとえば、リアルタイム性が求められる無線制御において、仮想化による遅延の最小化は極めて重要な設計要素となる。
また、複数ベンダー間のインターフェースの相互運用性を確保するための検証・調整コストは高く、OAM(運用・保守)やセキュリティ統合、AIによる自動化(Zero Touch Automation)の完成度も導入可否を左右する重要な判断軸である。
一方、地政学的リスクの高まりや経済安全保障の観点から、RANの脱ベンダーロックインとオープン化は国際的にも重要な政策課題となっており、米国、欧州、日本を中心に複数の通信事業者や政府機関がPoCや商用展開を進めている。
たとえば、米国AT&TやVerizon、欧州のVodafoneやTelefonicaはOpen RANを段階的に導入しつつあり、日本においては楽天モバイルが世界初のフルvRAN+Open RAN商用ネットワークを展開、NTTドコモは「OREX」を軸にマルチベンダー対応の仮想化ネットワークモデルを推進している状況だ。
従来型の物理RAN構成と比較し、vRAN/Open RAN導入によるTCO削減効果は10~30%に
vRAN/Open RANの導入の大きなメリットであるTCO(Total Cost of Ownership:設備投資[CapEx]および運用費[OpEx])削減は、実際どの程度期待できるものだろうか。今回、削減効果を定量的に検証すべく、シナリオベースのシミュレーションを実施した。
ネットワーク構成を複数パターンに区分し、ハードウェア、ソフトウェア、人件費、電力費用といった主要要素を組み合わせて総コストを算出している。
シナリオは10年間を対象とし、前半6年間で年間1万局ペースの新規導入を進め、累計6万局規模の展開を完了する想定とした。この局数は、2024年3月末時点における国内4キャリア平均の5G NR(ミリ波・Sub6)およびNR化LTE基地局数を基準に設定している。後半4年間は新規展開を伴わず、既存ネットワークの運用・最適化を継続するモデルとした。
また、長期運用の過程でスキルやノウハウの蓄積による運用効率化を考慮し、OpEx削減が年々進むシナリオを組み込んだ。これにより、単年度ごとのコスト評価だけでなく、中長期的にどの程度の最適化効果が得られるかを明確化している。
なお、試算に用いた数値は仮値ではあるが、実運用に近い水準を反映するよう設定。すべてのシナリオにおいて同一の条件を適用することで、比較の一貫性と妥当性を確保した。
導入アーキテクチャ別に4つのシナリオ(シナリオ2~5)を策定し、従来型の物理RAN構成(シナリオ1)と比較したところ、全体で10~30%のコスト削減が見込まれることが明らかとなり、特にシナリオ4が最も優れた削減率となった。
いずれのシナリオも、従来型の物理RAN構成よりTCOは削減しており、結果として、本分析はvRAN/Open RANが長期的なTCO削減に寄与する可能性を定量的に裏付ける材料といえるだろう。




