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大阪府池田市に「ハッピー・ローソンタウン」店舗が来夏開業、KDDIはStarlinkやドローン活用へ

 ローソン、KDDI、エイチ・ツー・オー リテイリング(H2O)の3社は、大阪府池田市伏尾台に地域の交流拠点および災害時の支援拠点となる「ハッピー・ローソンタウン」構想に基づく新店舗を2026年夏にオープンする。日常の買い物やコミュニティ機能に加え、テクノロジーを活用した災害対策を備えるのが特徴だ。

 単なるコンビニエンスストアの出店にとどまらず、高齢化や人口減少が進む「オールドニュータウン」の課題を、リアルな拠点と最先端テクノロジーの融合(Real×Tech)で解決を目指す。

左からKDDI代表取締役社長 CEOの松田浩路氏、池田市の瀧澤智子市長、ローソンの代表取締役社長の竹増貞信氏

「オールドニュータウン」をReal×Techで解決へ

 計画地となる大阪府池田市伏尾台は、1970年代に開発されたニュータウンだ。池田市自体は10万人規模の人口を維持しているが、伏尾台は約5000人とピーク時の約7割まで減少しており、高齢化率は42%に達する。小学校の閉校や商業施設の撤退といった課題を抱えており、まさに日本の多くのニュータウンが直面する「縮図」といえる地域だ。

 新店舗は、阪急バス伏尾台営業所の跡地を活用して建設される。ローソンの店舗運営、KDDIの通信・デジタル技術、H2Oの地域密着のノウハウを掛け合わせ、人口減少や高齢化が進むニュータウンの課題解決を目指す。

「阪急デリカ」直送の生鮮・惣菜と「万博レガシー」も

 平時の店舗機能における最大の特徴が、H2Oグループとの連携による品揃えの強さ。通常のコンビニエンスストアとしての機能に加え、H2Oグループの阪急デリカの工場から直送されるベーカリーや惣菜、野菜を中心とした生鮮品が取り扱われる。

 店内には小上がりのある広いカフェスペースを設置するほか、屋外広場も併設し、地域のイベントやワークショップの開催など交流の場として機能させる。なお、カフェコーナーの什器や内装の一部には、2025年開催の「大阪・関西万博」で使用されたものをリユースで活用する予定だ。

Starlinkやドローンによる防災拠点機能

 災害などの有事においては、地域の支援拠点としての役割を担う。店舗には太陽光パネルや蓄電池を設置し、衛星ブロードバンド「Starlink」を活用することで、通信遮断時でも連絡手段や情報の確保を可能にする。

 また、AIドローンを搭載したドローンポートの設置も今後に向けて検討される。実現すれば、災害時にリアルタイムで被災状況を把握する体制を整えられることになる。一例として、KDDI代表取締役社長CEOの松田浩路氏は、北摂地域にドローンポートをハニカム状(正六角形)に配置することで、災害発生時に現場へ「10分以内」にドローンが駆け付ける体制になると解説する。

 食料供給の面では、店内の厨房を活用し、水と米があれば調理可能な災害時専用メニューのおにぎりを提供する取り組みも検討されている。電気や物流が不安定な状況でも「水と米」さえあれば調理可能な専用メニューになる。

AI活用やオンデマンド交通で地域課題を解決へ

 通信やITを積極的に活用していくことも示されている。

 たとえば、デジタル技術を活用した住民サービスとして、オンライン相談サービス「Ponta よろず相談所」が設置される。KDDIの通信とAIを活用した次世代リモート接客プラットフォームにより、事前予約なしで暮らしやインフラ、金融サービスなどの困りごとを専門スタッフに相談できる。

 店舗を拠点とした「ドローンによる商品配送」や、タウン内を循環する「自動運転バス」も進められる。人流データを活用したまちづくりや、オンデマンド交通「mobi」を活用した地域交通の利便性向上にも取り組む。

 ローソン側では、団地のリノベーションやローソンファーム(農場)の併設など、地域の衣食住を包括的に支えるサービスの導入が検討されている。

 ローソンは本構想を全国に広げ、2030年には100か所での展開を目標としている。

「ボランティアではない」持続可能なビジネスモデルへの挑戦

 記者会見でローソンの竹増貞信社長は、本プロジェクトが単なる企業の社会貢献活動(CSR)ではなく、フランチャイズビジネスとして収益を生み出し、持続可能(サステナブル)なモデルであることを強調した。

 人口減少エリアでの出店は採算性が課題となるが、竹増氏は「オーナーがしっかりと生活でき、事業として継続できる仕組みを作ることが重要」とコメント。店舗での売り上げ確保に加え、地域課題を解決するサービス(移動販売やデリバリーなど)自体を収益化する可能性や、デジタル技術による運営効率化で損益分岐点を下げるアプローチなどが示唆された。

竹増氏

KDDIのドローン構想「全国1000カ所、10分で駆けつけ」

 KDDIの松田浩路社長は、店舗に設置されるドローンポートについて、同社が描く「全国1000カ所配備構想」に触れる。

 これは、災害発生時などに日本全国どこへでも10分以内にドローンが駆けつけ、現場の状況を空撮・伝送できる体制を目指すものだ。伏尾台の店舗は、この広域ネットワークの拠点の一つとして機能する可能性も見据える。

 平時にはこのドローン網を物流やインフラ点検に活用することで、設備の稼働率を高める狙いもある。

 さらに松田氏は、KDDIが持つ人流データを活用し、既存の路線バスとオンデマンド交通「mobi」の最適な組み合わせやダイヤ編成を自治体に提案していく考えも示した。

「高輪ゲートウェイ」の先端技術を地方課題へ応用

 新店舗に導入されるテクノロジーの一部は、JR東日本の「高輪ゲートウェイ駅」周辺で行われている実証実験の知見がベースとなっている。

 KDDI松田氏は、都心で培ったアバター接客やAIロボットなどの先端技術を、特定の場所専用(カスタマイズ)ではなく、汎用的な「型」としてパッケージ化し、地方の課題解決に展開する方針を語った。

  これにより、伏尾台のような郊外のニュータウンでも、都心と同水準の高度なリモートサービスを低コストで導入・運用することが可能になるとしている。

コンビニの役割は「待つ店」から「生活に入り込む拠点」へ

 ローソンの竹増氏は、コロナ禍を経てコンビニエンスストアの役割が変化したと指摘。かつては「客が動いた時にニーズを満たす場所」だったが、現在は朝の洗顔から夜の食事まで、生活のあらゆるシーンにローソンの商品やサービスが入り込んでいると分析する。

 今回の「ハッピー・ローソンタウン」は、店舗を拠点にドローンやデジタル技術を使って、店側から住民の生活圏へ積極的にアプローチする「Real×Tech Convenience」の具現化であり、減少する人口や高齢化する住民の生活を全方位で支えるインフラを目指すものであると位置づけた。

 人口減少が進む地域での出店だが、採算性は確保できるのか? という問いにローソン竹増社長は、コンビニは2000人の利用者がいれば1店舗が継続できるという目安を示す。その上で、新店舗もフランチャイズ店舗であり、オーナーが生活できる「ビジネス」として成立させることが持続可能性の鍵と解説する。

 ビジネスとして成り立たせる要素のひとつは、先述したようにコンビニが単なる「立ち寄り場所」から、朝の洗顔~夜の食事までを支える「生活インフラ」へと役割が拡大していることになるという。テクノロジーによる効率化、はたまた、今回の敷地は広く平坦であり、「ローソンファーム(農業)」「ローソン・ユナイテッドシネマ(ミニシアター)」「保育園」「介護施設」などを併設し、人が集まる「マチ」そのものを作ることで収益源を多様化できる可能性もある。

 大阪府池田市(伏尾台)が選ばれたのか背景としては、竹増社長・松田社長どちらも、日本の社会課題である高齢化・人口減少などの「縮図」と言えるためだと語る。松田社長は人口約5000人という規模感は、コンパクトシティの実証実験として最適だ。KDDIが掲げる「事業を通じた社会課題の解決」を具現化するフィールドとして非常に適しているとも語っていた。