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KDDIが2022年度上期の業績を発表、au通信障害の影響は? プレゼンや質疑応答で語られたこと

 KDDIは2日、2022年度上期(2023年3月期上期)の業績を発表した。連結売上高は、前期比で4.4%増の2兆7408億円を記録。一方、連結営業利益は、通信障害への対応や燃料高騰の影響により、前期比2.5%減の5585億円となった。

 本稿では、KDDIの高橋誠代表取締役社長らが出席した決算発表会と、発表後の質疑応答のようすをお届けする。

KDDI高橋誠社長

通信障害の再発防止に向けて

 高橋氏はまず、通信基盤の強靭化に向けた取り組みを紹介した。7月に発生した大規模な通信障害を受け、KDDIは再発防止に向けた取り組みを最優先で進める。

 社内的には、組織横断的な体制を構築し、カスタマーサービスや営業部門なども含めた各部署が連携。また、総務省に対しては「電気通信事故検証会議」での議論を踏まえ、再発を防ぐための報告書を提出した。

 さらに、仮想化技術を中心に、中期500億円規模の追加投資を実施する。投資の目的は、仮想化基盤への早期移行や、スマート監視やAI(人工知能)を活用した対応の迅速化など。これにより、通信品質の向上を図る。

連結業績

 KDDIの連結業績で、連結営業利益の進捗率は50.8%となった。上期については、通信障害への対応や燃料高騰の影響もあり、減益を記録した。

 高橋氏は「上期は減益となったが、注力領域のNEXTコア事業や金融事業ではKPIが順調に推移しており、業績も好調。増益と注力領域の拡大を目指す」と語り、今後への意欲を見せた。

 連結営業利益の増減要因として、先述の通信障害への対応や燃料高騰の影響により、148億円の減益となった。

 マルチブランドのARPU通信収入は、「ID増があったものの、ブランドミックスの影響もあり、返金影響を除いて前年比539億円減」(高橋氏)。付加価値ARPU収入は、電気や決済、コンテンツなどが成長し、前年比で608億円増となった。

 マルチブランドIDは、9月末で3093万となり、前年比で成長。7月の通信障害の影響で新規契約が落ち込んだものの、UQ mobileを中心に8月以降は回復傾向にある。

中期経営戦略について

 KDDIは、中期経営戦略の軸として「サステナビリティ経営」を掲げている。高橋氏は「事業を通じて社会にポジティブなインパクトを生み出し、その新たな社会価値が次の我々の事業戦略につながる好循環を目指す」とコメントした。

 KDDIが注力領域のひとつとして位置づける金融事業は、9月にカードローン(じぶんローン)の融資残高が2000億円を突破した。

 また、「Ponta」は1億超の会員基盤となっており、ほかの金融サービスとの連携も含め、サービスの拡充を図っていく。

 高橋氏は、メタバースや衛星通信「Starlink」の活用などについても触れ、「強靭なネットワーク基盤の構築に加え、社会をより良くするための新たな価値の創造を目指していく」と語った。

質疑応答

――あらためて通信障害に関する考えを聞きたい。500億円の追加投資も含め、どのような姿を目指していくのか。

高橋氏
 今回の障害は、我々にとっても非常に大きな教訓になったと思います。7月に起こってから早4カ月になりますが、我々の通信の基盤をあらためて見直すきっかけになりました。

 10年前と比べて、スマートフォンやIoTに使われている通信は、社会基盤にそのまま溶け込んでいて、そういったものは替えがききません。10年前は固定電話もありましたし、公衆電話も多かった。(スマートフォンなどは)重要な基盤であるとあらためて感じました。

 我々の事業戦略として「5G通信」を中心に据えていますが、私自身の反省点として、5Gの拡大ばかりを社内で一生懸命言ってきたということがあります。やはりもともとの信頼性を確保しなければいけないと感じましたので、このあたりをしっかりやっていきたいと思います。

――投資額が500億円だが、これはどういった内容なのか。

高橋氏
 5Gのコア設備は、実はすでに仮想化が終わっています。しかし、4G LTEの交換局の仮想化が終わっていません。これは少し先のこととして見ていたのですが、この前倒しを中心として、オペレーションのほうも高度化すべく、コストを投下していきたいと考えています。

――昨日の障害について教えてほしい。

高橋氏
 パケット交換設備の一部に障害がありました。瞬時に切り替わったなかで支障が出て、数分間の影響が出たということだと思います。

 実は私も、障害以降、スマートウォッチを2台つけて、24時間365日、寝る間もずっとアラームが来るようにしています。昨日の障害の報告もありましたが、運用のオペレーションや広報などについても、流れはしっかりできていたと思います。

 設備故障はどうしてもある程度起きるので、そのときにいかに速くカバーできるかというのはポイントになると思います。

――通信障害の影響と燃料高合わせて148億円の減益となっている。内訳を知りたい。また、これらの影響がなかった場合、増益になっていたのか。

高橋氏
 まず、通信障害に伴う返金額は75億円です。燃料の高騰影響も50億円強あります。また、通信障害後の代理店さまへの支援や設備保守強化もあわせて148億円になります。

 今回は減益が145億円なので、こうした影響がなければ、3億円の増益というかたちになっています。

――新規契約の落ち込みについて、もう少し詳しく知りたい。通信障害はどれほど影響したのか。

高橋氏
 通信障害の影響を受けて、7月は店頭のほうも混乱していました。お客さんからの信頼も失って、3ブランド全体で新規契約が伸び悩んだのが実態だと思います。

 ただ、我々の営業サイドがお客さんとのコンタクトを一生懸命やって、8月以降は落ち着きを見せました。従来の新規(契約)の数あたりまでは戻ってきています。

 第1四半期の決算のときには、ID数が前期比で減っていましたが、第2四半期は前期比と同じ393万IDとなっています。そういう意味では、7月に少しへこんだ分を8月・9月で取り戻して、第1四半期と同様の数字で着地した感じです。

 10月も順調に数字は拡大しているので、3ブランドでのID数はプラスの方向で推移しています。

――楽天モバイルの料金プランが変わってからユーザーが動いている感じがするが、楽天モバイルのユーザーの動きはどうなっているのか。

高橋氏
 第1四半期とだいたい同じではありますが、料金プランの変更があってから、MNPで入ってくるお客さんはやっぱり増えています。

 7月は障害の影響で少し減少しましたが、8月以降はまた戻ってきています。今のところは楽天モバイルさんからの流入が続いていると見ていただいて結構だと思います。

――楽天モバイルが強気な姿勢でプラチナバンドの再割り当てを求めている。これについて、“取られる側”としての考えは。

高橋氏
 取られると決まったわけでは……(笑)。

 有効利用中の周波数をほかの事業者に再割り当てする場合は、慎重な議論が必要だと申し上げてきた通りです。楽天さんは強気に「フィルターはいらない」とか「前倒しの費用は負担しない」と言っているが、ちょっと言い過ぎなところもあるのではと思います。

 楽天さんが主張されている「1年以内の(プラチナバンドの)利用開始」は、さすがに不可能だと思いますね。我々だけでなく、NTTドコモやソフトバンクも(プラチナバンドを)使っています。

 実際にプラチナバンドを取得すると、投資額もかかります。経営基盤なども考慮しながら、最終的に総務省さんが判断されると思います。

 我々からすると、ローミングで(ネットワークを)お貸ししていますので、エリア拡大はどちらかというと非競争領域です。うまく我々のほうをお使いになると非常にいいのかなと思います。

 (楽天がKDDIのネットワークを使えば良いという話は)あまり冗談ではなく、これからはキャリア全社が一緒にネットワークを作っていく時代です。上の競争レイヤーではしっかり競争し、競争レイヤーにならないところは協力して設備を作っていくのもひとつの解だと思います。(楽天モバイルに対し)もう少し柔軟に構えられればいいのにと思うことはあります。

――その点でいうと、ローミング料を値引きする考えはあるのか。

高橋氏
 そうですよね。今のところ予定で行くと、2025年まででローミングは終わる予定です。(楽天モバイルが)いつまでお使いになられるかによっていろいろ議論の余地はあるのではと思いますが、あまり軽はずみな発言はしないようにします。

――緊急時のローミングの導入について、現時点でのスタンスをあらためて教えてほしい。

高橋氏
 代替性の確保は、今回の通信障害で本当に実感しているので、今回のローミングの議論についても積極的に参加して、実現を目指すスタンスです。

 呼び返しについては、警察・消防ともに「必須」として指摘されているので、必須になるのかなと思います。

 そうすると、コア(ネットワーク)側をいろいろやっていかなければならないので、一定の時間はかかるのだろうと思っています。

 一般呼についても、(今回の通信障害では、)110番や119番以外にも「どうしてもかけなければいけない」という話がありました。一般呼を含めて対応していかなければいけないと思っています。

 ただ、我々のコアネットワークに障害が起きて、すべてのトラフィックが、救済していただく事業者さんに行くと、そちらのトラフィックが耐えられなくなってしまう。ですから、運用上のしくみや代替性を持たせるしくみなどについても検討していくべきかなと思います。

 IoTについては、我々以外のIDを入れることで代替性があるようなしくみは作れます。コンシューマーのお客さまに対しても、同じようにデュアルSIMの応対ができないかというのは、事業者間で意見交換をしています。合意さえできれば、早期に実現できると思っています。

――事業者、というのはどこに声をかけているのか。

高橋氏
 どこに声をかけているというのはお答えしづらく、皆さんにお声をかけているという状況です。

 実は私が持っているスマートフォンも、7月以降は完全にデュアルSIMです。単純にauともう一社、今はドコモさんのものを入れています。

 こういうかたちにすることで、一方に障害が起きた場合でも、もう一方で対応できる。我々は、幹部以上は全員こういうかたちに切り替えました。

――3G停波や通信障害で、ビジネスセグメントではどのような影響があったのか。

高橋氏
 法人さんへの影響として、解約が7月には一時的に増えました。ただ、8月以降は通常に戻っているという状況です。

 そういう意味では、通信障害によって継続的に解約が増えているという状況ではないかと思います。

――オンライン専用ブランド「povo」はどのような状況になっているのか。

高橋氏
 3つのブランド(au、UQ mobile、povo)の構造は良くなってきたかなと思っています。

 (全体のうち)auのIDが8割弱くらい。UQ mobileが好調で、(このID数が)600万を超えてきました。「povo」は「1.0」と「2.0」がありますが、(このID数は)150万くらいという状況です。

 楽天モバイルのユーザーさんが「povo」に来られるケースが多いですね。

――物価高の影響について聞きたい。下期の見通しはどのようになっているのか。通信料の値上げの可能性は。

高橋氏
 物価高の影響で、最も大きいのが燃料費高騰の影響です。

 端末価格についても、円安の影響に加えて2万円の割引規制があり、5G端末をお届けするにはひとくふう必要かな、という状況です。

 原価が上がっているなかで、それをどうやって経営努力で吸収していくのかを考えています。軽はずみに値上げには触れたくないなと思っています。