石野純也の「スマホとお金」

備えあれば憂いなし、いざというときに役立つバックアップ回線の勧め

 3日間に渡るKDDIの通信障害が、ようやく復旧しました。コアルーターのメンテナンス工事に起因する不具合がVoLTEの交換機に波及し、加入者データベースへも影響を及ぼしたことで障害が長期化してしまった格好です。KDDIには早期に原因の究明と対策を打ち出してほしいと感じていますが、一方で、モバイルネットワークのシステムは世代を経るにしたがって複雑化しており、思わぬところで予期していなかった障害が発生しがちです。

KDDIの通信障害は、7月2日の未明に発生。7月4日の「ほぼ復旧」まで、通信が使いづらい状況が続いた

 さかのぼること約9カ月前の21年10月には、ドコモのネットワークがダウン。18年には、ソフトバンクも全国規模での障害を起こしています。いずれも原因が異なることから、まだ露見していないようなことがあっても不思議ではありません。総務省の定義する重大事故に該当しない場合でも、ネットワークの寸断は十分ありえます。機械やシステムは壊れるものという前提に立ち、通信が毎日の生活に必須というユーザーは何らかの方法で“自衛策”を考えておいた方がいいでしょう。

昨年は、ドコモも通信障害を起こしている。モバイルネットワークが複雑化するなか、通信障害はある程度避けられないものと考え、備えをしておく方がいいだろう

 一般的に、こうしたネットワーク機器は「冗長化」と呼ばれる対策が施されています。システムを二重にしたり、設備の容量に大きく余裕を持たせたりすることを意味します。

  ユーザー側も、この冗長化という発想を取り入れておけば、いざというときに慌てず対処できます 。日本は大規模な災害が起こりやすい国なだけに、こうした対策は、キャリア由来の大規模障害時以外にも役立ちます。

普段使いのキャリアと別のキャリアを用意、低料金で維持できる回線は?

 もっとも簡単な方法は、契約するキャリアを2社以上にするというものです。少なくともここ最近は、災害時を除けば同時に2キャリアのネットワークがダウンしたことはなく、片方をバックアップ回線として使うだけで信頼度が大幅に増します。災害時でも、復旧のスピードはキャリアによって異なるため、回線を二重化しておく意味はあります。

 日々の生活においては、圏外対策として利用することも可能です。筆者の場合、旅行で泊まった旅館で、メインにしているドコモ回線がギリギリしか入らないというケースがありました。つながらないわけではないものの、かなり速度が遅く、Twitterすらしづらい状況でした。その際に、バックアップ回線として利用していたワイモバイルの回線に切り替えることで、事なきをえました。

 とは言え、ユーザーの立場からすると、バックアップ用の予備回線ぶんだけ料金が上がってしまうのが難点。普段はあまり使わないとなると、なるべく維持費は安く抑えたいと考える人は多いでしょう。ただ、安いだけだと、データ容量が少なく、いざというときにあまり使い勝手がよくない可能性もあります。そこでお勧めなのが、povo2.0やソフトバンクの「データ通信専用3GBプラン」です。

povo2.0は維持費が0円。必要なときだけトッピングを買って高速データ通信を利用できる

 povo2.0はKDDI回線のため、今回の大規模通信障害ではバックアップとして使えるどころか、もろに影響を受けてしまいましたが、普段、ドコモやソフトバンク、楽天モバイルの回線を使っているユーザーが今後の備えとして持っておくぶんにはいいでしょう。基本料0円で、使いたい時だけトッピングを買い足す仕組みというのは、バックアップに最適だからです。eSIMに対応しているため、対応端末であれば入れっぱなしにしておき、使うときだけ有効にすればいいというのも手軽です。

 ソフトバンクのデータ通信専用3GBプランは、前々回、本連載で紹介したので、詳細は割愛します。こちらのプランも、1時間から24時間だけ、データ通信を使い放題にできる「時間制ギガ無制限オプション」があり、ピンチのときだけ一時的に大容量のデータ通信を利用できます。povo2.0とは異なり、月額料金は990円(62カ月目以降は1408円)かかりますが、連載で紹介したとおり、ソフトバンクプレミアムの特典を使いまくれば実質0円以下で維持できます。

ソフトバンクのデータ通信専用3GBプランも、990円で維持費は安価。サービス利用で元も取れる

 まったくの余談なので、このパラグラフは読み飛ばしていただいても結構ですが、筆者もこのSIMカードを契約。7月はPayPayクーポンとPayPayモールの買い物で、1300円ぶんの還元を受けることが確定しました。Yahoo!プレミアムの月額料金と合わせると、1808円ぶんになり、契約しているだけでお得になっています。

 ただし、バックアップとして考えると、ソフトバンクのユーザーがデータ通信専用3GBプランを契約しても、あまり意味がありません。特典もメイン回線の方で受けているのであれば、重複してしまうだけ。その意味で、この料金プランに関しては、ドコモやKDDI、楽天モバイルのユーザー向けと言えます。また、その名の通り、電話はできないため、音声通話がマストという場合は、IP電話アプリを利用するなど工夫が必要です。

0円が終わっても依然として安い楽天モバイル、エコシステムの活用で節約可能

 1GB以下0円を廃止してしまいましたが、楽天モバイルもバックアップ回線として悪くない選択肢です。ドコモ、KDDI、ソフトバンクのユーザーがバックアップに利用でき、相対的に契約者数が少ないため、対象にできるユーザーは多いでしょう。毎月3GB以下にデータ使用量を抑えれば、1078円の出費で済みます。

 0円で維持できないため負担感は増してしまいますが、ソフトバンクのデータ通信専用3GBプランと同様、エコシステムで元を取ることは可能です。キャンペーンながら、楽天モバイルの契約者は、楽天市場での買い物でつくポイントが2%アップするからです(1%は1000ポイントまで)。ダイヤモンド会員の場合、さらに1%ポイントがアップします(こちらも1000ポイントまで)。

楽天モバイルのUN-LIMIT VIIは、0GBから3GBまでが1078円。こちらも、楽天市場の利用である程度、実質負担額を抑えられるのがメリット

 この特典を駆使すれば、非ダイヤモンド会員の場合で5万3900円、ダイヤモンド会員の場合で3万5933円の買い物をすれば、1078円の元が取れる計算になります。ソフトバンクのデータ通信専用3GBプランと比べると、ややハードルは高めですが、元を取るまでいかなくても、ある程度出費を抑えることは可能になります。

楽天市場での買い物でつくポイントが計2%、ダイヤモンド会員の場合は3%アップする。これで月額料金をある程度まかなうことが可能だ

 また、楽天モバイルの場合、音声通話もRakuten Linkを通じて行えば、料金は無料になります。他社の通話定額を解約したり、5分、10分などの準定額に変えつつ、なるべくRakuten Linkを利用するようにすれば、トータルで料金が下がることもあります。 Rakuten Linkは音声通話にデータ回線を利用するため、Wi-Fi接続時でも発着信可能(iPhoneの場合、着信はモバイル回線のみ)。これも、バックアップとして優秀な理由の1つ です。

Rakuten Linkからの発信は通話料0円。音声通話の完全定額は他社のメインブランドだと1900円前後かかるため、大きな節約になる

 難点としては、KDDIのローミングエリアがまだ残っているところです。実際、今回起こったKDDIの通信障害でも、一部楽天モバイルに影響が及んでいました。ローミングエリアは徐々に縮小しているものの、しばらくはドコモやソフトバンクのユーザーがバックアップとして使うというのがよさそうです。

マルチキャリア対応MVNOやプリペイドという選択肢も

 マルチキャリア対応しているMVNOの回線を利用するというのも、1つの手と言えるでしょう。実際、主に法人用ですが、複数キャリアの回線をいざという時に切り替えられるサービスが提供されています。この考え方を、コンシューマー向けサービスに援用してみましょう。MVNOによっては、別々のキャリアを利用していても、同じ会社の回線としてデータ容量を分け合えるサービスが提供されています。普段から契約している回線ぶんだけデータ容量を利用でき、通信障害のときだけ回線の提供元が異なるSIMカードを挿せばバックアップになるというわけです。

 たとえば、 IIJmioのギガプランは、ドコモ回線とau回線でデータ容量のシェア が可能です。想定されている用途は家族間でのデータシェアですが、1人で2回線持つこともできます。例えば8GBを利用したい場合、「8ギガプラン」を契約するのではなく、「4ギガプラン」をドコモ回線とau回線でそれぞれ持つことで、データ容量は計8GBに。料金は1500円から990円が2回線分で1980円にアップしてしまいますが、480円でいざというときの安心を買うという考え方をしてもいいでしょう。

IIJmioのギガプランは、データシェアに対応。ドコモ回線とau回線をまたがってのシェアにも対応する

 同様に、ドコモ、au、ソフトバンクの3回線に対応している nuroモバイルも、「パケットギフト」と呼ばれるデータ容量のシェア機能 を用意しています。10GB必要な場合、5GBの「VMプラン」を2回線契約して、普段使わない方のデータ容量はパケットギフトで主回線にプレゼントすれば、10GBの「VLプラン」と同容量に。料金は1485円から1980円に上がります。ほかにも、データ容量をシェアできるMVNOは存在するため、自分に合った回線を探してみることをお勧めします。また、シェアができない場合でも、デュアルSIM対応の端末を持っていれば、常に両方のSIMカードを挿しておき、切り替えながら使ってもいいでしょう。

nuroモバイルのパケットギフトも、データシェアの一種。手動でのプレゼントは必要になるが、こちらも大元のキャリアを分けることが可能だ

 毎月の支払い額が上がってしまうのは許容できないという時には、 必要なときだけプリペイドのSIMカードを購入する手 もあります。ただ、通信障害のようなトラブルはいつ起こるかわかりません。その度に家電量販店などを探すのは大きな手間で、どの店舗でも必ず販売しているとは限りません。現実的なのは、端末上でそのまま契約できるeSIMを活用したサービスです。

 あくまで一例ですが、直近では、ソラコムがコンシューマー向けサービスのSoracom Mobileで、日本向けのサービスの提供を開始しました。こちらのサービスは海外ローミングで日本のキャリアに接続する仕組みですが、日本向けプランはKDDI回線、アジア周遊プランはソフトバンク回線を使用しています。iPhone限定、かつデータ通信専用ですが、ワンショットで利用できるプリペイドSIMは、通信障害などのシーンでも活躍します。料金は日本プランが1GBで6.89ドル、日本を含む「Asia・Pacific16」が10.99ドルと、MVNOの回線と比べると少々割高ではありますが、月額課金ではないため、毎月かかる維持費は抑えられます。

 iPhoneがeSIMに対応したのを皮切りに、Androidでも利用可能な端末は増えています。オープンマーケットで販売される端末には、物理SIMが2枚入るデュアルSIMモデルも少なくありません。こうした端末に普段から複数回線を入れておけば、いざというときにもスムーズに切り替えができます。備えあれば憂なし。災害に備えて自宅に避難グッズを置いておくように、バックアップ用モバイル回線の検討をしてみることをオススメします。

ソラコムは、Soracom Mobileに日本用の料金プランを追加した。本来は訪日外国人観光客向けだが、いざというときにワンショットで利用する回線としても利用できる
石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya