石川温の「スマホ業界 Watch」

KDDI通信障害で気づく、当たり前のような「つながる」が安定運用の上にあること

 7月2日未明から始まったKDDIの大規模通信障害は4日の午後には、ほぼ復旧状態となった。

 メディアやSNSからは「通信という社会的なインフラを担っているという責任を感じているのか」「日頃の対策が甘い」といった批判の声が出ている。

 実際のところ、通信ができずに困った人はとても多い。特に緊急通報も使えなかったため、救急や消防、警察などにも連絡ができず、命に関わる問題も続出した。筆者も仕事で名刺に刷っている電話番号はau回線であるため、仕事の連絡にとても苦労した週末だった。

 昨年はNTTドコモも同様の通信障害を起こした。今回、KDDIはNTTドコモの教訓を生かせなかった。KDDIは原因を追及し、再発防止に努めてもらいたい。

 ただ、通信業界を取材する身としては、KDDIとNTTドコモは、通信を守るというということに対して、相当なプライドを持って仕事をしてきている企業というイメージが強い。

 両社とも毎年のようにネットワークオペレーションセンターをメディアに公開。通信障害が起きた場合、どのように対処するのか。地震や津波など、自然災害が起きた場合にどのような体制で復旧作業に当たるのか、という日々の活動やアップデートをメディアに報告しているのだ。

 KDDIは、東京・多摩に新しいネットワークオペレーションセンターを昨年、オープンさせた。従来は東京・新宿にあるKDDIビル内にオペレーションセンターがあったが、多摩に移転してきた。その際、KDDIでは、ネットワークの管理業務を自動化し、障害などが起きた際には、自動で復旧できる仕組みを導入したと話していた。

3日、緊急会見に臨んだKDDIの髙橋誠社長

 しかし、輻輳を収束させる自動化は実装されていなかったようで、今回の大規模通信障害で活躍することはなかったようだ。ただ、ネットワークのあらゆる部分を「見える化」していたこともあり、復旧作業中、ネットワークの状況がどうなっているのか、などの確認にはかなり役だったとしている。

 KDDIが大規模通信障害を起こしたとき、すぐに思い出したのは、KDDIの「Sustainable Action」だ。YouTubeに上がっている動画は、オンライン会見が始まる前などに繰り返し再生されており、なんとなく頭の片隅に残っていた。この動画は確か山手線のドア上にあるディスプレイでも同様の広告が表示されていたように記憶している。

 いま、流行のSDGsなのだが「KDDI Sustainable Action」は「KDDIの使命は『つなぐ』ことだ」と宣言している。ちょっと、そのサイトから文言を引用してみたい。

KDDIの使命は『つなぐ』ことだ

 それは遠く離れた場所を回線でつなぐのではない。私たちはもっと大きなものをつないでいる。

命をつなぐ

たとえば私たちの強靭な通信基盤は、

災害時の生命線となるコミュニケーションを支えてきた。

ICTの活用によって環境負荷を下げることで、

これからの地球を救うことにも貢献できるだろう。

暮らしをつなぐ

たとえば都市や地方にある課題も、途上国の課題も、

私たちは新しい技術やパートナーをつなぐことで

解決してきた。さらに人財の育成によって、

未来を生きる世代に貢献することだってできる。

心をつなぐ

たとえば安心で豊かなデジタル社会をめざす取り組みは、

多様性の時代に孤独をなくし、健康で充実した人生を

送るために必要なものだ。人生100年時代において、

その役割はますます重要度を増すだろう。

「KDDI Sustainable Action」より

 このサイトを見ると、KDDIがいかに「つなぐ」ということに真面目に向き合っているかがよくわかる。通信回線をつなぐという技術的な面だけでなく、命や暮らし、心をつなぐのかKDDIの使命なんだとハッキリ言っている。これは世間に対してアピールしているのだが、一方で、KDDIの社員や関係会社に対してへのメッセージでもあるだろう。KDDIと関連会社の社員は「つなぐ」に対してプライドを持って仕事をしていこう、というわけだ。

 大規模障害を起こしたKDDIに対して「通信インフラを担っているという責任を感じているのか」と頭ごなしに批判するのは簡単だ。

 しかし、これだけ真摯に「つなぐ」ということにこだわり、スローガンに掲げ、技術的にも入念に準備してきた会社が、あんな大規模な通信障害を起こしてしまうとは理不尽でならない。

 ネットワーク運営、保守に携わる人だけでなく、auショップに怒号してくるユーザーに対処しなくてはならない代理店のショップスタッフ、法人顧客に謝らなくてはならない営業担当者など、KDDI社員と関連会社スタッフはやるせない思いがあるだろう。

 今回の大規模通信障害によって、我々ユーザーも「つながっている」ということが、いかに大事でなのかが思い知らされた。日々、当たり前のように「つながっている」という状態は、ネットワークが安定して運用できているからこそ提供されているのだ。

 今回、KDDIは大規模通信障害を起こしたことで、社会的な信用を著しく失ってしまったかも知れない。しかし、もはや通信は生活にとって欠かせないツールであることは間違いない。また、少子高齢化が進む日本で、地方創生などを実現するには、世間のデジタルトランスフォーメーション化は避けて通れない。その際、必ず必要なのは信頼できる通信回線であることは間違いない。

 KDDIはこれから信頼回復に務めるとともに、あらためて「つなぐという使命」を全うしてもらいたい。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。