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「Nothing Phone (1)」に込められた思いとは? CEOのカール・ペイ氏らが語る

 英国のNothing Technologyが発表した、「Nothing」ブランドとしては第1号のスマートフォンとなる「Nothing Phone (1)」。

 発表に先立って報道陣向けの「Nothing Phone (1) プレブリーフィング」が実施され、同社CEOのカール・ペイ(Carl Pei)氏らが登壇。「Nothing Phone (1)」に込めた思いなどを語った。

 本稿では、そのプレブリーフィングのようすを中心にお届けする。

「Nothing Phone (1)」

Nothing Technologyが設立されたきっかけは?

 プレブリーフィングの冒頭では、Nothing Technologyの共同創業者(Co-founder)であり、マーケティング統括(Head of Marketing)のアキス・イワンジェリディス(Akis Evangelidis)氏が登壇。ソニー(欧州)でキャリアをスタートさせたという同氏は、「日本には非常に大きな敬意を持っている」とコメントした。

アキス・イワンジェリディス氏

 英国・ロンドンに拠点を置くNothing Technologyが設立されたのは2020年10月のことであり、設立から2年が経とうとしている。

 イワンジェリディス氏は、同社設立の経緯について、「(コンシューマー向けのデジタルデバイス市場で)さまざまな製品が同じようなものに見えた。子どものころに初めてiPadやiPhoneを触ったときのようなワクワク感が、すっかり失われてしまったように感じられた」とコメント。そこで、iPodの発案者であるトニー・ファデル(Tony Fadell)氏らと話すなかで、同じような感情を持っている人が多いことに気づき、Nothing Technologyの設立につながったという。

 ファデル氏らから700万ドルの支援を得て、船出を果たしたNothing Technology。2021年8月には第1弾のプロダクトとしてワイヤレスイヤホン「Nothing ear (1)」を発表し、出荷台数の実績は50万台以上となっている。

 同社は現在、世界6カ所にオフィスを構え、およそ300人の従業員を抱える。

「Nothing Phone (1)」について

 今回発表された「Nothing Phone (1)」については、端末デザインがSNSなどで少しずつ明らかになっていく……という手法がとられたが、この理由について、イワンジェリディス氏は「デザインに関してはリークなどを防ぐことがなかなか難しい」と語った。

 また、今回の発表に先立ち、Nothing Technologyは「Nothing Phone (1)」の最初の100台を「StockX」でオークションに出品。最初の1台は3000ドル(約40万円)以上の値段になった。

 背面に400以上の部品が使われている「Nothing Phone (1)」について、「白色の部分も微妙に色が違う」と、こだわりを熱く語ったイワンジェリディス氏。内部の配線などは、故マッシモ・ヴィネリ(Massimo Vignelli)氏によるニューヨークの地下鉄路線図にもインスピレーションを受けているという。

 また、イワンジェリディス氏は、「ユーザーによる“発見”も重要視している」と語る。そのひとつが、「Nothing Phone (1)」の背面をじっくり見ると気づく、“ゾウのような”パーツだ。

端末下部に、“ゾウのような”パーツが位置する

 こうしたデザイン要素は、先述のワイヤレスイヤホン「Nothing ear (1)」から継承されてきたもの。同氏は「Nothing ear (1)」のケースに設けられた“くぼみ”について、「実は、指をかけるとハンドスピナーのように回せる」と紹介した。

「Nothing ear (1)」

 ぱっと見ただけでも、そのデザインのユニークさが際立つ「Nothing Phone (1)」の背面には、さらに驚くようなしかけが組み込まれている。

 その名も「Glyph Interface(グリフインターフェイス)」。974個の光るミニLEDライトで構成され、ユーザーにメールの受信や通話の着信などを伝える。消費電力は通常時20~100mAで、寿命は10万時間となっており、バッテリー寿命にはほとんど影響しないという。

 「Glyph Interface」を撮影時に利用すれば、被写体を照らすことができる。また、充電時に光って「Nothing Phone (1)」の電池残量を知らせるギミックもある。

充電時に光るギミックもある

 「Nothing Phone (1)」のデザインへのこだわりは、整然と並ぶ2眼構成のアウトカメラや、ベゼルの四方が均一な厚みになっている6.55インチのAMOLEDディスプレイなどからもうかがい知ることができる。

 しかし、そのこだわりはハードウェアだけにとどまらない。Android 12ベースの「Nothing OS」を搭載する「Nothing Phone (1)」について、イワンジェリディス氏は「ユーザーにとって不要なソフトウェア、いわゆる“ブロートウェア”はゼロにした」と胸を張る。同氏は、「プリインストールアプリを増やせば収益は増えるかもしれないが、シンプルさを優先した」と続けた。

 また、サステナビリティに対する取り組みとして、フレームには再生アルミニウムが100%使用されている。プラスチックの部品には50%以上の再生素材が用いられていることに加え、パッケージにプラスチックは使われていない。

 日本では、まず、Nothing公式サイトからのプレオーダーというかたちで発売される「Nothing Phone (1)」。FeliCaには非対応となっている。

 これに関してイワンジェリディス氏は、「エコシステムを拡充していくうえで、(FeliCaも)検討の範囲に入っている」とした。

 また、「Nothing Phone (1)」の防水防塵性能(IP53相当)については、「生産台数が増えれば増えるほど、(防水防塵の認証にかかる)コストを下げられる」とコメント。「コストの兼ね合いもあってIP53としたが、品質的には30分浸水しても問題はない。もちろん水中で長く使うことは推奨していないが、より長く使ってもらえるような取り組みは続けていく」と語った。

カール・ペイ氏がインスピレーションを受けた日本の2社とは?

 続いて、Nothing TechnologyのCEOであるカール・ペイ(Carl Pei)氏がオンラインで登壇した。

カール・ペイ氏

 同氏は、イワンジェリディス氏と同様に、Nothing Technologyを設立したきっかけを紹介。「昔、テクノロジーは心を動かす(インスピレーショナルな)もので、さまざまな会社が新製品の開発にいそしんでいた。それによって市場はダイナミックなものとなっていたが、今では状況がまったく違う。消費者の人たちはすっかり関心を失ってしまい、私たち自身も無関心になってしまった」と語った。

 そうした状況に一石を投じるべく立ち上げられたNothing Technologyには、カール・ペイ氏いわく「テクノロジーの業界で長年の経験を積んだ人が集まってきた」。そのうえで、今までとは違ったアプローチにより、業界全体を楽しく面白いものにすることを目指している。

 同氏は、日本市場を「コンシューマーエレクトロニクスにおいて、非常に豊富な経験を持ったマーケット」と形容し、「日々さまざまなことを学んでいる」と語った。

 なかでも「伝説的な会社」としてソニーの名を挙げたカール・ペイ氏。

 同氏は、ソニーについて「製品を見ればすぐにソニーのもの(プロダクト)だとわかる」とコメント。続けて、「今の会社がプロダクトをつくる姿勢とはまったく違う。今はファッション性や見た目を重視してつくっているが、ビジョンのようなものが見られない」と、やや辛口な言葉を並べた。

 Nothing Technologyが目指すのは、デザイン性に優れていることはもちろん、ソニーのように「Nothingのロゴを見なくても(Nothingのものだと)わかる」プロダクト。カール・ペイ氏は今後の目標として、「友人や家族と共有できるようなプロダクトを、10年後には壁一面に飾れるくらいリリースしたい」と語った。

 続いてカール・ペイ氏が挙げた日本の企業の名は、任天堂。

 「スペックや3D性能などで競っているゲームのハードウェアはあるが、任天堂は“楽しさ”や“経験”、“人間同士のやり取り”を追求している」と続けた同氏は、「我々も、優れたスペックを持っているだけでなく、楽しさや面白さ、人の温かみを感じられるプロダクトを提供したい」と語る。

 そうした姿勢は、イワンジェリディス氏が紹介した“ゾウのように見える”パーツだけでなく、「Nothing Phone (1)」のポスターに描かれたオウムにも表れている。

オウムが目を引く、「Nothing Phone (1)」のポスター

イヤホンのヒットで変わった日本市場の立ち位置と、今後の展望

 予想以上に(?)日本への関心が高いように見えるカール・ペイ氏だが、Nothing Technologyの設立当初は、日本市場はそれほど重要な位置づけになかったという。

 しかし、先述のワイヤレスイヤホン「Nothing ear (1)」のヒットによって同氏の考えは大きく変わり、今回の「Nothing Phone (1)」の発売につながった。

 カール・ペイ氏は、「Nothingの公式サイトへのトラフィックについて言えば、日本は第5位になっている」というデータを披露。Nothing TechnologyがローカルのチャンネルとしてTwitterアカウントを持っているのは日本のみである、という事実からも、同社にとっての日本市場の重要性がうかがえる。

 カール・ペイ氏によれば、Nothing Technologyが設立された2020年10月の時点で、「Nothing Phone (1)」の着想自体はすでにあったという。その後、2021年6月に開発がスタートし、今回の発表に至った。

 iPhoneについて、「私が世界で2番目に気に入っているスマートフォン」と、ユーモアたっぷりに明かした同氏。「Nothing Phone (1)」が完成する前は、1年以上にわたってiPhoneを使っていたようだ。続けて「2022年の段階で、悪いスマートフォンはないと思っている。ただし、消費者のなかには、今までとはまったく違うスマートフォンを試してみたいと考えている人もいるはず。そうした人たちが私たちのスマートフォンを選んでくれると思う」と語り、スマートフォンに対する強い思いをのぞかせた。

 Nothing Technologyは今後の日本市場における存在感を高めるべく、すでにキャリア(携帯各社)との話し合いもスタートしているという。カール・ペイ氏は、「日本は通信キャリアが非常に強いマーケットであるという印象。消費者の要求も厳しいが、もしプロダクトが受け入れられれば、それ以外の市場でも受け入れられるのではと考えている」とコメントし、今後への意欲を見せた。