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狙いは「ワクチン接種スピードの最適化」――国がダッシュボードを都道府県と共有開始、小林史明補佐官に聞く

 16日、政府は、全国の都道府県と新型コロナワクチンの接種記録をまとめるシステムのダッシュボードの共有を開始した。

ダッシュボード

 ここで言うダッシュボードとは、概要をまとめて一覧できる、分析用のツールのこと。データをわかりやすく“見える化”し、現状の理解を促進しやすくするものだ。分析ツールの「Tableau(タブロー)」を活用したもので、VRS(ワクチン接種記録システム)に蓄積されたデータから、ワクチンの接種状況を確認しやすくなる。

 その狙いについて、ワクチン接種を担当する河野太郎大臣のサポート役のひとり、小林史明大臣補佐官は「接種スピードの最適化」と語る。

小林史明大臣補佐官

ワクチン接種の現状と課題

 「接種スピードの最適化」と「ダッシュボードで提供される情報」を紹介する前に、小林補佐官から語られたワクチン接種の現状をご紹介しよう。

 7月15日時点の総接種回数は、6671万4528回。このうち1回目の接種は約4094万回(人口あたり32.21%)、2回目は約2576万回(同20.27%)。65歳以上に絞ると、1回目を終えた人は80.18%、2回目は54.04%となる。

摂取回数1回目2回目
全年代66,714,52840,949,434
32.21%
25,765,094
20.27%
65歳以上47,627,92728,452,361
80.18%
19,175,566
54.04%

2回目分の見込みがなければ予約受付が止まる

 ワクチン接種を進める上で、自治体にとってはワクチンの在庫を把握することは重要な課題だ。

 接種は2回必要、つまり予約を受ける段階で、2回目のワクチンも手元にある、という見込みが立たなければ、1回目自体の予約を受けられなくなる。実際に、つい最近まで、一部の自治体で予約受付を停止するところが出ていた。

 そこで政府では、先週(7月12日週)前半に、8月および9月のワクチン供給量とスケジュールを自治体と共有。その結果、接種の予約が再開され始めた。

接種スピードの最適化

 ワクチン供給の目処が立ったことで、今後の接種もスムーズに行くかというと、課題はもうひとつある。それが「接種スピード」だ。

 5月、菅義偉総理大臣は記者会見で「1日100万回」の接種を目標とした。その後、接種会場が拡充され、現在は1日140万回というペースになってきている。

ワクチン供給見込み
種類4月/5月/6月7月/8月/9月10月/11月/12月
ファイザー約1億回分約7000万回分約2000万回分
武田/モデルナ約5000万回分

 しかし小林補佐官によれば、現在のワクチン入荷量/スケジュールは、ファイザー製のみをもとに考えた場合、1日120万回というペースが最適だという。

 全国各地の市区町村が、そのペースに合わせられればよいが、7月16日時点、実際の接種能力は、1日200万回ペースの自治体もあれば、1日80万回のところもあるなどまちまちだ。そこで、国から発送されるワクチン1万箱(2週間に一度)のうち、2000個分は、都道府県側が「調整枠」としてコントロールできるようにした。県内で接種ペースが早いところと遅いところがあれば、その調整用として使う、というイメージだ。

 そこで必要なデータが「VRS」だ。誰がいつ、ワクチンを接種したか記録されたことがわかり、なおかつワクチンの在庫数がわかる。

 今回、国から各自治体に対して、「全国で1日120万回を目指すとき、その自治体では具体的に1日何回の接種が最適か」分析したデータや、どの自治体の住民がどこで市内外のどこで接種したか示すデータを渡すことになった。そして、今回紹介する「ワクチン接種状況ダッシュボード」の閲覧権限と、データのダウンロード権限も共有されることになった。

ダッシュボードでできること

ワクチン接種円滑化システム

 ワクチン接種を全国各地で進めるため、国、都道府県、市町村(自治体)はそれぞれ役割を分担し、ワクチンの分配や在庫などが記録されている。このシステムは「V-SYS」(ワクチン接種円滑化システム)と名付けられている。

 Y-SYSでは、たとえば国は、ワクチンメーカーと交渉してワクチンを調達。その上で、都道府県単位でワクチン分配量を決めている。

 そして都道府県は、市町村単位でのワクチン分配量を決める。

 市町村では、医療機関単位での分配を決める。また、医療機関以外での会場での予約受付、住民からの問い合わせ対応なども担う。

 国、都道府県、市町村とそれぞれがより細かく、「どこで、どれくらいのワクチンを分配」するか決め、それにあわせて配送される。

 医療機関からは、ワクチン在庫量などがV-SYSに登録される。

VRSでワクチン接種を記録

 一方、VRS(ワクチン接種記録システム)では、「誰」が「いつ」「どこ」で、「どのワクチン」を接種したか記録され、まとめられている。先述したV-SYSは、その名の通り、ワクチン接種をスムーズに進めるためのシステムであり、VRSは個々人の接種状況を記録するシステムだ。

タブレットでVRSへ登録

 ちなみにデータ入力には、タブレットが活用されており、全国の市町村のうち99.9%がタブレットの利用を申請済み。1カ所のみ、規模が小さく隣接する自治体でワクチン接種を進めることからタブレットを活用しないところがあるため、100%にはなっていない。

 VRSには、すべての自治体がログイン済み。また接種対象者のCSVも、全ての自治体がアップロードをしている。

 タブレットを活用する理由は大きくわけて2つある。ひとつは、「接種券」のフォーマットとして、全国共通の要素が唯一、「18桁のOCRラインと呼ばれる数字列」だけだったこと。たとえば接種券にバーコードを付けるかどうかは自治体によって異なる。そしてバーコードを付けたとしても読み取れるデータも自治体ごとに自由に決められるようになっていた。

 今年1月になってから担当になった小林補佐官は「もし接種券の仕組みに最初から携わることができれば、QRコードのような仕組みでさくさく読み取れるといった仕組み、あるいはそもそも接種券を発行しない仕組みもやり方もあったと思う」と語りつつも、全ての自治体に対応できる仕組みとして、「18桁のOCRライン」を活用することになった、と語る。

 もうひとつ、タブレットを使うことになった理由は、「医療機関ごとにITリテラシーの差が大きい」という点だ。

 数字の読み取りさえできればいい、という仕組みを実現する上で、たとえばパソコンがあるところであれば、リーダー端末を接続して2段階認証でVRSにログインして……といったコストを抑える仕組みも想定できる、と小林補佐官。

 しかし、パソコンも使えないといった話があり、ITリテラシーに関わらず、全員がスムーズに使えるという仕組みで「タブレット」と、「3ボタンだけで済む専用アプリ」を用いることになった。実運用を開始してから、おおよそ読み取りにかかる時間は、中央値で5秒程度になったことが判明している。

職域接種も反映

 職域接種で、VRSへの記録が遅れているケースについては、自治体からの接種券の送付が遅れていることが大きな要因。首都圏を中心に接種券の送付が速やかに進められているとのことで、「7月末までに相当数、埋められるだろう」(小林補佐官)と見込まれている。

ダッシュボードでV-SYSとVRSのデータを「見える化」

 内閣官房IT総合戦略室では、5月中旬、Tableauを用いた「ワクチン接種状況ダッシュボード」を構築。厚生労働省のほか、日本医師会と共有して、接種状況の把握に活用してきた。

 日本医師会では、これまでも「新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G-MIS)」や「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)」のデータ入力でも連携していたものの、そのデータを日本医師会側では参照することができなかった。そこで今回のダッシュボードでは参照できるようにして、ワクチン接種をスムーズに進めることを目指したという。

 とはいえ、構築当初は「自治体ごとの競争を過剰に煽ってしまわないか」といった懸念もあり、都道府県との共有には至らなかった。

 しかし今回は、先述した通り「接種スピードの最適化」のために都道府県の裁量範囲が広がった。そこで都道府県が決断するためのデータをより見やすくするダッシュボードが共有されることになった。

 ダッシュボードでは「人口データ」「VRSに記録されたワクチン接種記録」「V-SYSに記録されたワクチン供給実績データ」が活用される。

 つまり、「都道府県ごと/市町村ごと」に、「1回目の接種数」「2回めの接種数」がすぐわかる。高齢者(65歳以上)だけのデータ、男女別、医療従事者だけなどの条件で絞り込むこともできるし、マップ上で接種率をチェックすることもできる。

自治体が気にする「損得」

 ワクチン接種の現場である市区町村にとって、気になる点のひとつは、「住所地外接種による差分のデータ」だ。これは、住民がその街で接種したのか、あるいはほかの場所で接種したのか示すデータのこと。

 これは、自治体にとってはどういう意味を持つのか。たとえばA市の住民がB市で接種すると、A市にとっては手元に残るワクチンが増えるとも言える。逆にB市にとっては、B市住民用のワクチンが減った、とも言える。つまり損得勘定が発生してしまうことになる。

 都道府県向けに実施されたダッシュボードの説明会では、「うちのワクチンは結局損しているのか、得しているのか、ダッシュボードでわかるのか?」という質問が多かったという。

 小林補佐官は「それを広域に調整するのが都道府県にとって一番のミッション。今回のデータを分析すれば損得は判明するし、週に一度、国で分析したものを渡すと説明した」と語る。

リアルタイムでのデータを元にした政策決定

 ダッシュボードが都道府県へ共有されることで、政府と同じ情報がシェアされることになった。都道府県に割り当てられる調整用のワクチンの使いみちも判断しやすくなる。

 1日100万回と5月に目標が示された際、接種会場として見込まれていた医療機関の数は、2万カ所を割る程度だった。これでは数が足りないと判断し、接種の単価を1回2070円だったところ、4000円にアップさせた。その結果、接種対応の医療機関は5万5000カ所を超えることになった。各会場で1日20人打てば1日100万回に十分達する規模だ。そうした費用面での政策もあれば、今回のように、デジタルツールの活用範囲を広げる取り組みも、政府では進めている。

 ワクチンの供給量と在庫量を把握し、接種スピードを適切にコントロールする。ボトルネックになり得る要素をいかに制御していくのか。

 小林補佐官は5月中旬から政府でダッシュボードが活用され、ワクチン接種をスムーズに進めるための方針が定められてきたことについて、「毎日、リアルタイムで、データを見ながら政策が決定されているのは、これまでなかったことで恐らく日本で初めて。まさにエビデンスベース、データをもとにした政策決定が進められている」とその意義を解説、都道府県との共有は、これまでの取り組みをさらに一歩踏み込んだものになると位置づけた。