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新型コロナ「ワクチン接種」はどう記録されるのか――小林大臣補佐官に聞く

 新型コロナウイルス感染症への対策として大きな期待を集めるワクチン。その接種は2回に分けて実施され、まずは医療関係者を対象にスタートしたところだが、まもなく高齢者を対象にしたワクチン接種が始まる。

 厚労省のサイトによれば、ファイザー社のワクチンは、1回目の接種から3週間後に2回目の接種を受ける必要がある。

ワクチン接種に関するデータの流れ

 5月からはその規模を拡大、さらにその後はより多くの人への接種が予定されているこのプロジェクト。日本に住む1億人にワクチンを、ごく短期間で接種してもらうという事業は、前代未聞の規模だ。そのなかで、地味ながら肝と言えるのが「ワクチンを接種した」という記録であり、その管理を担うシステムだ。

小林補佐官

 本誌では今回、VRSという略称でも呼ばれる“ワクチン接種記録システム”へ、「この人が接種しました」というデータ入力を司る部分を取材。入力支援システムのデモンストレーションやその周辺の仕組みについては、ワクチン接種を担当する河野太郎大臣をサポートする小林史明大臣補佐官から説明が行われた。

入力はタブレットで数字コードを読み取り

 政府は2月26日、NTTドコモおよびNTTコミュニケーションズと、「ワクチン接種記録システムのデータ入力支援業務」の随意契約を交わした。

 この契約では、約4万1000台のタブレットを調達し、全国各地の接種会場へ配ることになっている。タブレットには、シンプルな操作にまとめられた“読取アプリ”がインストールされている。

高さを確保するトレイなどを使ってタブレットと用紙をセット

 アプリは、タブレットのカメラを使い、接種券に記されたOCRラインという16桁の番号を読み取る。番号の読みとりは、タブレットと予診票の間を数cmほど離す必要はあるが、数秒(平均で2~3秒とのこと)でOCRラインを読み取る。

ピンクの部分にOCRラインを合わせる
すぐ読み取る
読み取った直後の情報表示画面

 読み取ると、画面には、接種した人の名前などが表示され、その場で簡単な確認をして登録ボタンを押すと記録が終わる。

 ITに詳しくない人でも、数タップで、ワクチンを接種した人の情報を取り込める仕組みに仕上げられている。

 ちなみにタブレットは1会場につき1台の配備が想定されている。これは数秒で記録が済むためで、10のラインでワクチン接種を進めたとしても十分さばけるのだという。

瞬時に、簡単に、データベースへ

 ワクチン接種を担当する河野太郎大臣をサポートする小林史明大臣補佐官によれば、接種記録システムを整備するにあたり、課題のひとつはデータ格納までのスピード感だった。

小林補佐官がデモを披露

 接種する人には、あらかじめ健康状態を記す予診票と、ワクチン接種に必要な「接種券」が自治体から送られることになる。接種券に記されたOCRラインがあれば、接種を記録していくことはできるが、手入力では接種から記録完了まで2~3カ月かかる。だが、もしデータ入力前に天災などが起きて、予診票が失われてしまうと、「接種した」ことがわからなくなってしまう。そのため、接種したその場で記録できることが求められた。

 そこでタブレットが今回、活用されることになったが、その操作も複雑なものになると障害になってしまいかねない。日本医師会とコミュニケーションを進めるなかでも、簡単な操作を求められたと小林補佐官は語る。

シンプルなホーム画面

 ちなみに読取アプリには、新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G-MIS)という厚労省のシステムで発行されるIDでログインする。すでに数万の医療機関がIDを保有している状態で、未使用の医療機関にはIDが割当てられる。

 自治体には、これまでに定められた命名ルールに則れば、IDを発行する権限が付与されており、自治体運営の接種会場のタブレットはそれらのIDでログインする。

 ちなみに携帯3社が開発したメッセージングアプリ「+メッセージ」で、初期パスワードを設定するためのURLが配信される。

「自治体ごと」を「標準的な仕組み」で

 今回取材した内容は、一見すると、紙に記された番号を読み取るだけ、というシンプルなものだ。

今回のデモはこの部分

 だが、その背後には、政府の取り組みと新型コロナウイルスがもたらしたインパクトのせめぎあいが透けて見える。

 その例のひとつが予診票だ。名前や住所、既往歴などを記すもので、健康診断前に書くものや、病院を訪れたときに書く問診票と大きな違いはないように見える。ところが自治体によってバーコードの有無、という違いがある。もっとも今回は、OCRラインという番号だけは共通した仕様として組み込まれているので、タブレットの読取アプリに活用されているが、国が提示した要件は最小限とも言える仕組みであることがわかる。

 また今回のワクチン接種記録システムと直接的な関わりはないが、予約システムも自治体によって異なる。

 予診票あるいは予約システムが自治体ごとに違うという状況の根底には、通常のワクチン接種が基本的に「自治体のお仕事」として運営されてきたことがある。全てを標準化・共通化せずともよかった、という格好だ。

サンプルの予診票と接種券。接種券は実際のサイズより大きい。ちなみに接種券はかなり大事なもので、紛失するとそのままではワクチンを接種できなくなるため、自治体へ再発行を申し込む必要がある

 2020年末までは、新型コロナのワクチン接種でもその既存の仕組みを活用する流れだった。

 しかし新型コロナウイルス感染症対策としてのワクチンは、1億人以上に2回、接種してもらうことになった。

 その結果、よりスピーディで簡単なデータベースへの登録方法や管理するシステムが必要にになった。タブレットの活用は、その課題を解決する手段だ。

 接種記録は、自治体コードや接種券番号、接種回数、接種日、ワクチンのメーカーなどが含まれる。自治体は、別途、マイナンバーや自治体コード、接種券番号、氏名などの属性情報をLGWAN(総合行政ネットワーク、行政専用の閉域ネットワーク)経由でデータベースに提供する。タブレットの情報と自治体が登録した情報を連携させると、ひとりひとりの接種状況を管理できるようになる。

 こうして接種状況のデータベースが整備されていけば、将来的に「接種証明」のような仕組みへの活用も期待できる。接種証明については、まだ日本国内での議論は進んではいないが、この3カ月で整備されたワクチン接種管理システム(VRS)が土台になることは間違いない。まだ時間はかかるが、かつてのような海外との活発な往来への活用など、これからさらに期待したい。

ちなみにタブレットはdtab d-41A(シャープ)が半数、残りはレノボ製になるという

【お詫びと訂正 2021/04/06 20:54】
 記事初出時、「OCRラインが記されているのは予診票」と記述しておりましたが、正しくは接種券にOCRラインが記されております。お詫びして訂正いたします。