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まるで24時間耐久の温泉地ハッカソン「SPAJAM 2019」本選レポート
「ホーム」というテーマで、どんなアプリが誕生した?
2019年7月16日 16:04
限られた時間でアイデアを生み出し、実際に形にする「ハッカソン」。
今では、さまざまな企業や団体が取り組んでおり、物珍しさも薄れてきてはいるが、モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)が中心となって開催されている「SPAJAM(スパジャム)」は、やや珍しい部類に入るかもしれない。
アイデアを生み出し、実際にアプリへと昇華させて、他のチームと競い合う。ここまでは一般的なハッカソンと同じだが、全国各地から出場チームを募り、温泉地に集合。限られた時間で、ときに温泉へ浸かって心身を癒やしながら、より良いものを作りだそうとするという「温泉ハッカソン」は他にない取り組み。
さらに一般的なハッカソンは、数時間~数日と、所要時間はさまざま。1人で参加し、その場でチームを作るハッカソンもそれなりにある中で、「SPAJAM」は全国での予選を経て参加する形態。つまりチーム内はある程度、結束が取れており、いわゆるチームビルドを終えた状態でチャレンジする形だ。
7月13日~14日にかけて、箱根にあるCOLONY箱根で開催された「SPAJAM 2019」は、7月13日11時~翌14日12時まで、25時間で行われた。今回、初めて現地を訪れた筆者が、本選の模様をレポートする。
テーマは「ホーム」
13日11時、COLONY箱根には、東京や仙台、東海、大阪など各地の予選を突破した9組の開発チームが集まった。
まず挨拶したのは、審査員長である村上臣氏。日本のモバイルインターネット黎明期から業界の先端を走り、その後ヤフーに参画、つい最近までヤフーのモバイル事業をリードし、今ではLinkedInの日本代表を務める人物だ。
村上氏から、参加者へ激励と開発に期待するメッセージが発せられた後、司会者から発表されたのが今回の開発テーマである「ホーム」という言葉だ。
「ホーム」から思いつく言葉
まず参加者は、「ホーム」から思いつくことを全て付箋に書き出し始める。いわゆるアイデアソンの火ぶたが切って落とされた場面だ。
参加者が書き殴った付箋を見ると「家」というシンプルな見方から、「親」「電気」「いやし」「あたたかみ」「リラックス」「引っ越し」など、幅広い言葉が見受けられる。
アイデアの発散 → 収束へ
付箋に書き出した言葉をより具体的なアイデアにすべく、次は「自分の日常の体験から生まれる心の動きを具体的なシーンで描く」というお題が出される。
たとえば「出張先に家があると楽」と書く人もいれば「家族を大切にできる」ことや「ギリギリに起きても間に合う」ことを“こうなったら楽しい・嬉しい”ものとして書き出した人もいる。
審査員ながら、ここまでのフローに参加していた千代田まどか(ちょまど)氏は、楽しい・嬉しいという項目に「家族みんなで仲良く食事したい」、こうなったら腹立たしいという内容に「怪しげな訪問員におばあちゃんが突撃される」と記す。
そうして書き出されたシーンから、もっとも解消したいものを選び出す。
そして時刻は12時半。わずか1時間半ながら、付箋からのアイデア出しをきっかけに、感情分析や、参加者同士で語りあい、ブレインストーミングを行ったことで、「ホーム」に対して、「体験」と「機能」をまず考える、というアイデアソンを終えたことになる。
ラズパイも活用できる
ランチを終えた一同は、いよいよ開発フェーズに移行。
COLONY箱根の一角には、Raspberry Pi 3やセンサーモジュールが用意されており、開発したいアプリにあわせてデバイスも組み立てられる環境も用意。
アプリ開発をサポートするため、Unityや、アプリ開発環境の「monaca」、そしてレッドブル、モンテールの生菓子、スナック類が用意される。
宿泊するとはいえ、本選開始時にテーマが発表され、24時間での一発勝負とあって、睡眠時間を削って開発に充てたチームは少なくなかったよう。
13日12時時点でアイデアソンを終えたからといって、その時点で何を開発するか決まったわけではなく、あらためて優勝に向けた検討がスタートしたことになる。
各チームは予選を勝ち抜いてきた面々とあって、アプリ開発の技量は一定の水準以上にあると見られ、いかに新たな視点でのアイデアを生み出すかが肝になった面もあるようだ。
どんなアプリが開発された? 9チームのアプリを一挙紹介
チーム「俺の屍を超えていけ」(歴代優勝者混成)
“安心できる場所がホーム、そうした場所を広げられる”と語るチーム「俺の屍を越えていけ」は、過去のSPAJAMで優勝した経験を持つ人たちで結成された。エキシビションチームという位置づけで、優勝経験者の力量で、大会全体のレベルアップを図る形。
そんなチームが開発した「エンクルム」は、場所に紐付く形で、その日の思い出を「タイムカプセル」として記録しておけば、後日、同じ場所でそのデータを楽しめるという仕掛けを披露した。
チームNemuinGO(福岡予選代表)
ホームというテーマから、メンバー間で「家の片付けが苦手」という共通点があることに気づいたチーム「NemuinGO(ねむいんご)」は、部屋の汚れは心の汚れであり、心理的なストレスが上がるという説に行き着く。そこで部屋の片付けを題材にするアプリを開発。
部屋が散らかっていると、専用カメラで散らかり具合を判定。ユーザーのスマートフォンへプッシュ通知し、アプリを起動すると、きれい度が28点などと表現する。そこで片付ければポイントが上がるという流れ。プレゼンテーションで点数が実際に表示されると、会場内からは驚きの声も挙がった。
今後の課題としては、自分がどれだけきれいな状態で部屋を維持しているか、あるいは掃除したとき、どれだけ片付けられたかわかるようにしたいのだという。専用カメラは、家の中に眠っている古いスマートフォンを活用する形だが、IoTキットで作成することも考えられるという。
ダイオウグソクムシ研究所(東海予選代表)
「身近な人の繋がり」をホームと定義したのは「ダイオウグソクムシ研究所」というチーム。
開発した「シェアター」というアプリは、YouTubeのURLとRoom IDを指定すると、離れた場所にいるユーザー同士が、同じタイミングで動画を再生するというもの。つまり離れていても一緒に映画を楽しむといった使い方ができる。
起動中は、インカメラでユーザーの表情を捉えており、感情の起伏を記録。どの場面で笑ったかわかるといった形で利用できる。
RAISE UP(東京B予選優秀賞 敗者復活枠)
スマートフォンへのメールはすぐ確認するのに、郵便受けへ届くものへのチェックは遅くなる」と指摘したのは、東京B予選で敗者復活から勝ち上がった「RAISE UP」。
自宅にあるのにブラックボックスのようだ、と郵便受けの課題を解決するというアプリ「Posted」は、郵便物を画像認識で判定し、メールで通知してくれるというもの。
投函すると、カメラで郵便物を捉える。ポスト内は二層構造になっており、判定が終われば、郵便物が載った上の層が回転して、郵便物を底へ落とすという仕掛けまである。
現実では、郵便配達の際には複数の郵便物を一度に投函する可能性があったり、ポスト内での仕掛けに一定の空間が必要とみられたりするなど、それなりに課題の解決やチューニングは必要とみられるが、短時間の開発でデバイスまで駆動させる出来映えに、審査員からは驚きの声が挙がった。
チーム「おやすみ」(東京A予選代表)
「撮リセツ」は、家電の取扱説明書を、画像認識を活用して、すぐにスマートフォンで呼び出せるようにするアプリ。手持ちの家電の型番を撮影すれば取扱説明書を検索してダウンロードする。
ユニークな点は、取扱説明書に加えて、画像認識を用いつつ、メモを残せる機能。料理家電や洗濯機を使う際に、家族へ使い方に関するメモを残せる、といった使い方が想定されており、審査員からは家電を軸にした家族内コミュニケーションを評価する声もあった。
チームERAIZA(東京B予選代表)
ホームというテーマから、母国を持たない人たち、つまり難民に目を向けたのがチームERAIZA(エライザ)。
難民でも、国から逃れる中でスマートフォンを手放さないケースがそれなりにあることを突き止めた同チームは、6500万人いるとされる難民に対して、住居、食事、精神状態をケアできるアプリ「Relief(リリーフ)」を開発した。
アプリでは、近くの避難キャンプ情報がわかるほか、食事の中にユーザー自身にとってのアレルギー物質が含まれていないか、食品の写真を撮ることで判定してくれる。また、難民者の位置情報を得ることで、移動中の人たちや、キャンプにいる人の規模がわかる。食事などの情報も、難民支援団体に提供できる。
さらに通信環境が不安定になる可能性もあり、オフラインで動作するよう設計されている。今回の参加者では、唯一、社会的な課題へ解決にチャレンジするアプリとなった。
ヤバミオブザイヤー(東京A予選優秀賞 敗者復活枠)
誰もが「ホーム」を感じるものは“おふくろの味”、その味をレシピ化してくれるアプリ「mamakara」を開発。
親がする普段の料理作りを動画で撮影し、その後、動画を観ながら一緒に料理するという使い方。動画から文字起こしもすることで、料理中に親がつぶやいたこともきちんとわかる。
プレゼンテーションでは、開発チームメンバーによる寸劇で、アプリのコンセプトや機能を紹介するムービーを上映する場面まであり、アプリに加えて、プレゼンテーション能力の高さが評価された。
ニッポンダイナミックシステムズ(札幌予選代表)
社会人チーム「ニッポンダイナミックシステムズ」は、家事をテーマにした「家事ぁいる(かじゃいる)」というアプリを開発。
家事の分担をすぐToDo化して、家族間でシェアするという形で、家事としてやるべきこと、やり残したこと、そして誰がやったのかが明確にわかる。
たとえば夫がやったことには、妻がレビューするという流れ。ゴミ出しをしたと報告した夫の報告に、足りなかった部分をレビューで指摘できる。
単なるToDo管理ではなく、レビューを加えていることを紹介した場面では、会場内からも驚きの声。そしてレビューをもとに、「夫は○ポイント稼いだ」「妻は○ポイント」と示して、獲得ポイントをもとに家庭で使えるお小遣い額を分け合う割合を決める。
ぅゅ…ぷんぽぷんぽ(関西予選代表)
関西から出場した「ぅゅ…ぷんぽぷんぽ」は、家族間でケンカした場合、和解しやすくするアプリ「Duel(デュエル)」を開発。その名の通り、カードゲームを模して、ケンカする2人が互いのターンを繰り返して話し合いをして、徐々に和解へ導きこうとする。
互いの主張が行き違って時間切れに至れば、「どこのご家庭にもある」(プレゼン担当者の言葉)という警告灯が鳴り出すという仕掛けまで盛り込まれている。
SPAJAM 2019の最優秀賞は「Posted」
「ホーム」という幅広い解釈ができるテーマに対して、チームごとに全く異なる視点や課題の指摘、そしてソリューションとしてのアプリが披露された「SPAJAM 2019」。
その中で、最優秀賞に選ばれたのは、東京B予選の敗者復活から本選へ出場したRAISE UPの「Posted」となった。
村上臣審査委員長は、ユニークさや、実際に動いているかどうか、プレゼンテーションなどの項目を基準に評価しつつ、審査がここまで白熱したのは初めて、と接戦になったことを紹介。
その上で、最優秀賞に選ばれたRAISE UPは、資料がわかりやすいだけではなく、アプリに加えて、ポストを模したデバイスもきちんと稼働させるという技術力の高さと、そのデバイスがプレゼン内容に説得力を持たせたと村上氏は説明。総合的に高く評価されたと紹介。実は本選開始時に、渋滞で到着が遅くなったRAISE UP。そうしたハプニングや東京B予選の敗者復活枠での本選出場ということもあって、メンバーはいずれも笑顔を浮かべていた。