インタビュー

d払いを軸に金融サービスを統合 ドコモFG廣井社長が明かすドコモ回線と金融の連携構想

 7月1日、NTTドコモ・フィナンシャルグループ(ドコモFG)が設立された。NTTドコモ傘下の金融系事業会社をまとめあげる持株会社だ。

 一見すると通信とは関わりが薄そうな金融サービスだが、通信事業の成熟にあわせ、携帯各社は金融方面へ積極的に進出してきた。おサイフケータイの導入や、ポイント経済圏の構築、クレジットカードの発行など、2026年の今、携帯電話会社にとって欠かせないサービスとなった。たとえばKDDIが「じぶん銀行」(現auじぶん銀行)を設立して、サービスを開始したのは2008年と18年も前だ。

 そんな中、NTTドコモが住信SBIネット銀行(8月からドコモSMTBネット銀行)へ出資し、子会社化したのは2025年12月。他社から大きく遅れを取る格好となったが、ドコモにとって、金融サービスは”銀行以外は取り揃えてきた”とも言える状況だった。マネックス証券やドコモ・ファイナンスとともに、いよいよ本格的な金融経済圏の構築に向けた体制が整った格好だ。

 満を持して始動するドコモFGは、今後どのような金融・決済体験を目指していくのか。トップに就任した廣井孝史利久社長に、「d払い」を軸としたサービス統合や今秋導入を目指す「金融AI」、通信回線との連携構想まで、そのビジョンと手応えを聞いた。

金融事業への取り組み背景

――今回、NTTドコモ・フィナンシャルグループをリードすることになったわけですが、NTTドコモの副社長、NTT(持株)の副社長を経ての就任です。とはいえ、これまでのキャリアは金融関連と言いますか、企業における資本・財務関連に携わられてきたとか。

廣井氏
 そうですね、経理・財務から、2000年のインターネットバブルの時に、NTT(持株)の経理で新規ビジネスを担当していました。いわゆるネット銀行が登場してきた時代です。

 当時、電話料金と銀行口座は、同じような形でIDを認証して、近しい仕組みなのではないか、とさまざまな検討を進めました。

――それは個人的な思いではなく、社内にチームがあって、と。

廣井氏
 当時、すでに固定電話の縮小が予見されていました。もちろん、モバイルはすごく伸びていましたけれども、NTTグループとしては固定電話に代わるサービスとして、非通信分野はフロンティアであり、手掛けなければいけないマーケット。ですので(金融関連の)そういう検討は結構進めていました。

 実際には、なかなか動き出さなかったのですが、それでも東京海上さんとは、その後、イーデザイン損保(現在の東京海上ダイレクト)を少しお手伝いさせてもらった経緯はあります。NTTグループとしては、ネット保険、自動車保険は少し手掛けたことがある、という。

――なるほど。

廣井氏
 生命保険(生保)も検討したことがあります。しかし、通信事業はキャピタル・インテンシブ、ものすごく資本(初期投資、設備投資)が必要です。

 銀行や生保は、ものすごく大きなアセット(資産)が求められます。(通信事業に加えてとなると)「ちょっとこれはしんどい」と当時は考えました。

――それから年月が経ち、今回、銀行も含めたフィナンシャルグループの設立に至ったわけですね。

廣井氏
 非常に隔世の感がありますね。

「やさしい金融」のコンセプトと課題認識

――あらためて、前提となる「デジタル金融」とは、いったいどういうものになりますか。

廣井氏
 たとえば銀行では、かつては振込をするにも支店やATMを訪れて操作しなければいけませんでした。でも、今やスマホひとつで大丈夫ですよね。

 証券も、昔は電話でという形でしたが、スマホで全てこなせます。その資金も証券口座にプールし、銀行に送金するといった場面もあった。

 それらを一括で管理したり連携したりできるようになっています。全てスマホの中で完結できるっていうところなんでしょう。

目指す「やさしい金融」とは

――先日の説明会では、「やさしい金融を、みんなの手に。」というメッセージを打ち出しました。裏返すと、現状の金融サービスにはボトルネックがあるということかと思います。

廣井氏
 はい、お客さまと一口に言っても、いろんなタイプがいらっしゃいます。

 たとえば、ネットでのサービス、デジタル金融というものに抵抗のある方はいらっしゃるでしょう。でも、便利なサービスですので、使わないことで不利益を被ってしまう可能性がありますよね。

 金融機関のなかには、いわゆる富裕層の方に向けた事業を展開されているところもありますが、我々は一般の方々がターゲット。まだデジタル金融サービスを使い切れていない方々って潜在的に多いと思っています。まず、そういう方々を、ドコモショップなどを介してご利用いただく。簡単なサービスから使っていただく。

 おサイフケータイまでは抵抗なく使えてきたという方は多いと思います。そこで、今度は、定期預金や証券はどうか。お金をがっつり預けなきゃいけないので、抵抗感のある人もいらっしゃる。

 デジタルによってどんどん便利になっています。たとえば、昨今、株価は全体的に見ると値上がりを続けています。運用していれば豊かになるわけです。

 そういった機会を逃さないように、デジタル金融をご利用になる世界へ入ってきていただく。

 私たちもわかりやすいAIを開発中です。これまでにも家計簿アプリや、資産運用アプリもある。でも、その分野ごとの価値観でのアドバイスです。

 ちょっと極端な例かもしれませんが、「電気代に無駄がある」といった指摘があるとして、お客さまによっては「ここは必要なことがあるからいいんだ」という場合もあります。となると、AI側もお客さまの価値観を理解して、それにあわせて提案していく。

 資金の運用も、リスクをとって大きな値上がりは必要なくて堅実に安全な形で運用したいと考える方もいらっしゃるでしょう。個々人の価値観にマッチするAIを開発していきたい。

 これまではファイナンシャルプランナーのような方々へ相談することがあったと思いますが、それでも全ての要望にはさすがに応えきれません。

 あるいは、「dカード」は、ゴールドやプラチナといったカードをお使いの方も多くいらっしゃいます。デジタルの金融サービス、ネット銀行に慣れている方も多いでしょう。そこで、もう少し高度なサービスが欲しいという人に、金融特有の運用商品などもご紹介できるのではないか、と考えています。

dポイントとUI改善の重要性

――すると、利用し始めるきっかけはどういうものかが気になります。ドコモショップもまたタッチポイントとして活用していくとのことですが、やはりdポイントでしょうか。

廣井氏
 dポイントは、お客さまにとって、とてもメリットになると思っています。

 おかげさまで、dカードやd払いを多くの方にご利用いただけるようになりましたが、その背景のひとつは通信回線とのバンドルで、dポイントを還元してきた効果が大きかったことが挙げられるでしょう。

 その結果、発行量が増え、dポイントのメリットを実感いただけるようになった。「管理するのが面倒、もらっても嬉しくない」なんてポイントではなく、ですよね。

 dポイントの、いわば経済的価値、使いやすさが大きな価値になっています。

 それから、アプリなどのユーザーインターフェイス(UI)も重要です。各サービスのうち、「d払い」が、お客さまのフロント、前面にあるアプリとなります。「d払い」から銀行や証券へアクセスできます。

 今も、外部の調査でお客さまから高い評価をいただいているところもあるのですが、それでもUIを改善する余地はあります。利便性、網羅性といったところです。

 たとえばdポイントをもらったとしても、何がきっかけでもらえたのかを実感していただけるようになっているのか。こうした改善点は、まだまだあると思っていて、すごく重要だと考えています。「やさしい金融」を標榜するわけですから、わかりやすさを追求したい。

――改善のスケジュール感は?

廣井氏
 公式に言えるのは、たとえば“金融AI”を導入し、お客さまへのアドバイスやサポートを実現していきます。まずは今秋の導入を目指しています。

 UIの改善に限ると、これは永遠に続けていくものです。具体的な改善スパンはお示しできませんが、開発計画を常に持って、改善とお客さまの満足度を把握していきたい。

AIサービスの統合について

――AIサービスで言うと、住信SBIネット銀行(8月3日にドコモSMTBネット銀行へ改称予定。愛称は『ドコモの銀行』)がAIサービスを開発中です。それとは別に「金融AI」が導入されるということですよね。ドコモも「SyncMe(シンクミー)」というパーソナルエージェントなAIサービスを開発しています。ユーザーと相対するのは、バラバラでも良いのか、まとめたほうがいいのでしょうか。

廣井氏
 「SyncMe」は、また分野が違いますので、ちょっと置いておくとして、金融方面はひとつにすべきだとは思いますね。タイミングはまだお話できませんが、やっぱり収斂していくべきです。たくさんあると、お客さまに混乱を招いてしまいますから。

 現時点では、銀行が私たちのグループに入って、まだ間もない。彼らが開発してきたものを否定するわけではなく、私たちが作っているものもあるので、だんだんと統合していけるだろうと思っています。

 それは「d払い」を軸としたサービスの連携と同じような取り組みです。サービスを実体的に統合していくことになります。時間はある程度かかりますが、進めるべきことだと考えています。

 開発陣に対して、たとえば私の立場から止めて、と言うことはありません。やはりやる気のあるメンバーが積極的に取り組んでもらえるほうが、絶対に良いものができます。現時点で、たとえばドコモが出資したから云々といったことで開発計画を変えることはナンセンスです。良いものはどんどん取り入れていきたい。

モバイルプランとの連携

――ドコモの料金プランとの兼ね合いといった点も教えてください。これまでに「ポイ活」プランは導入済みですが、銀行がグループに入り、今回、ドコモ・フィナンシャルグループが設立されると、何か新しい取り組みが導入されるのではないかと考えてしまいます。

廣井氏
 具体的なものはまだお答えできませんが、個人的にやるべきだと思っていることはあります。

 ドコモ・フィナンシャルグループが設立され、ドコモ全体として金融ビジネスの価値を高めることが重要だと思っています。

 となると、ドコモ回線のお客さまに「このサービスを使ってみたい」「使う価値がある」と思っていただけるようになれば、料金プランなどへの連携の強化が進むだろうと。

――dポイントは、使える場所が増えて、その価値が高まりました。金融サービスの価値を高めるというと、たとえば金利の優遇といったものですか?

廣井氏
 そうです、そういったイメージです。「金融サービスの価値を高める」と言っても、複雑なものや大がかりな取り組みというわけではありません。

 ドコモ回線をお使いであれば、たとえば住宅ローンの金利が割安になるですとか。住宅ローンと、モバイル回線の料金プランが何かしらの形でバンドルされていれば、新たな価値になるのではないでしょうか。

ファンダム戦略とB2B2C/BaaS

――ドコモは昨年来、「ファンダム戦略」を打ち出しました。発表時は、料金プランに、スポーツ映像配信の「DAZN」の見放題が含まれ、スポーツファンにアピールするというものでした。住信SBIネット銀行では、銀行機能を提供するBaaSを手掛け、たとえば北海道日本ハムファイターズの「F NEOBANK」もすでにあります。こうした取り組みは重要ですか。

廣井氏
 すごく重要だと思っています。

 我々のビジネスの基本は、やっぱりドコモ回線をお使いの方だったり、dアカウントのお客さまだったりします。そうした方々に金融サービスをご提案していくことが中心です。

 これから、ご利用いただく数を成長させたいと考えていますが、いつかは成熟します。

 そこで、ほかの企業が手掛ける経済圏に向けて、ホワイトレーベルと言いますか、卸タイプで金融サービスをご提供する。すると、私たちを利用される方が間接的に増えます。ここを志向していくべきです。

 当社グループのホワイトレーベルを活用する企業のお客さまに向けて、フレキシブルに金融サービスの機能・インターフェイスを提供できるよう、APIも切り出しやすい形にしておく。クレジットカードも、たとえば券面のデザインを変えていくということもやっていきます。

――なるほど。

廣井氏
 実は、NTTグループにとっても、馴染みのある方法なんです。

 かつて、光ファイバー(フレッツサービス)を広げてきたとき、自社グループだけでは伸び悩む状況になりました。家電量販店などで、販売奨励金を増やして新規契約を獲得していきましたが、それも限界と感じる状況でした。

 そこで、光回線で卸モデルを取り入れた。その結果、ドコモ、ソフトバンクさんなど、皆さんに推進していただけた。

 こういう座組でなければ、成長しないタイミングが必ず来る。その手法はやっぱり経験値としてありますから、個人のお客さまに向けた金融サービスの提供と同時に、いわゆるB2B2Cを進めたいです。幸いにして、NTTグループとして、多くの法人のお客さまとの接点がありますので、取り組みやすいと思います。

――なるほど。確かにクレジットカードにしろBaaSにしろ、さまざまな企業やブランドで発行されることは一般的ですね。

廣井氏
 もちろん、できることに制限がある部分はあると思います。でも、先般発表された「JALモバイル powered by ahamo」もそういう形です。

――金融と通信はそういう意味でも結構親和性があると。

廣井氏
 そう思います。

 たとえば、飲食店やサービスで、複数の決済手段・サービスへ対応することがあります。でも、店舗やサービス提供事業者にとって、その流れで「決済」という行為は、自社事業の価値に取り込みきれない。

 お客さまに便利に使っていただくことになって、決済手数料は、ゲートウェイサービス事業者にわたります。そこへ当社グループのホワイトレーベル(BaaS、クレカの発行)をご利用いただければ、決済手数料がちょっと違いますよ、とアプローチしていきたい。

ステーブルコインへの取り組み

――先日の会見でステーブルコインにまで触れたことは、少し驚きました。将来を見たときに必然なのかもしれませんが、まだ身近ではないこともあって、唐突に感じるところもあります。あえてこのタイミングで触れた理由はあるのでしょうか?

廣井氏
 先日、国会でステーブルコインを含む暗号資産の法的な位置づけが変わりました。これまで資金決済法だったのが、金融商品取引法(金商法)になったのです。つまり、決済手段ではなく金融商品として認められました。

 制度面での整備が進んだことになりますが、マーケットがどう形成されるかわからないものの、少なくとも法的な制度・整備が始まった。となると、マーケットが形成される可能性が極めて高いと見て、そこへ参加するという経営側としての意思を内外に示したかった。

 もちろん急激に普及するわけではないでしょう。ステーブルコインは、ブロックチェーンを用いて決済するもので、効率的であり、手数料が大きく下がります。

 ドコモ・フィナンシャルグループとしては今後、個人のお客さまの取引量が増え、B2B2Cの裏側にも取り組んでいきます。すると、その決済の仕組みで、ステーブルコインを活用できるなら、これは圧倒的に(手数料などコストが)安くなり、競争力の源泉になり得ます。ですので、検討は進めなければいけません。

 ハッキリとしたビジネスモデルがあるわけではないのですが、社会が動き始めている今、きちんとキャッチアップしたい。

 基本的には、まずは円建てなんでしょう。アプローチの仕方はいっぱいあります。仮想通貨でやや投資の対象みたいなものを発行体として取り扱う、あるいは交換所をやるですとか。

 ただ、急いでそういうところに手を伸ばすのではなく、ステーブルコインぐらいからステップアップしたいとは思います。

――進展を楽しみにしています。ありがとうございました。