石川温の「スマホ業界 Watch」
ドコモが仕掛ける金融の反転攻勢、脳裏をよぎる“5つの不安”
2026年7月13日 00:00
NTTドコモの金融経済圏が本格始動する。この7月からNTTドコモ・フィナンシャルグループが誕生し、ドコモSMTBネット銀行(8月2日までは住信SBIネット銀行)、マネックス証券、ドコモ・ファイナンス、ドコモ・インシュアランスを束ねることとなった。
NTTドコモは、KDDIやソフトバンク、楽天グループに比べて、クレジットカードこそ強かったものの、それ以外の金融では大きく出遅れていた。2023年にマネックス証券、2024年にオリックス・クレジット、2025年に住信SBIネット銀行と立て続けに業務資本提携を行うことで、金融グループのピースが揃った。まさにNTTドコモにとってフィナンシャルグループの設立は「悲願」といえるだろう。
ようやく船出となったNTTドコモ・フィナンシャルグループであるが、必ずしも順風満帆とは言い難い。同グループは7月9日に設立記者会見を開催したが、ここでは同グループの「不安要素」を5つ、ピックアップしてみたい。
1.グループの統一感は本当に出るのか
NTTドコモが住信SBIネット銀行に対して資本業務提携を行った際、SBIホールディングスが持つ全株式をNTTドコモが買い取った。この際、資本構成が再編され、同行はNTTドコモと三井住友信託銀行との共同経営体制になった。これに伴い、銀行名が「ドコモSMTBネット銀行」、個人向けサービスが「d NEOBANK」に変更になった。
しかし、今回の会見では、個人向けのサービスブランドが「ドコモの銀行」となり、「d NEOBANK」は消滅。ブランドカラーも青から赤に変更になった。
このタイミングで「ドコモの銀行」とわざわざ新たにブランドをつけるのであれば、そもそも銀行名を最初から「ドコモ銀行」にしておけば良かったのではないか。ドコモSMTBネット銀行という名称は三井住友信託銀行に配慮したようで、「ドコモの銀行」というブランドはかなり「苦肉の策」にしか見えない。
証券に関しても、マネックス証券に対して「ドコモのNISA」というブランド名がついている。マネックス証券もこのタイミングで「ドコモ証券」にしたほうが、わかりやすいのではないか。マネックス証券は創業者の思いもあり、社名変更に難色を示していそうだが、ユーザーに対して「やさしい金融」を標榜するのであれば、わかりやすさを優先したほうがいいだろう。
同じ通信会社が手がける金融経済圏はいずれも「PayPay」「au」「楽天」といったように銀行、証券、他のサービスはすべてブランドが統一されている。NTTドコモ・フィナンシャルグループも他グループを見習ったほうがいいのではないか。
2.既存ユーザーは「逃げるか」それとも「ドコモにスイッチ」するのか
ただ、悩ましいのが既存ユーザーの心情だ。
これまで住信SBIネット銀行やマネックス証券を愛用していたKDDIやソフトバンク、楽天ユーザーが、いきなり利用している銀行や証券会社の名前に「ドコモ」がついてしまうと、それだけで嫌気がさして、逃げ出す可能性も考えられる。
一方で、今回、NTTドコモ・フィナンシャルグループでは、dカードと銀行、証券の口座をあわせ持つことで、決済でのポイント付与率が上がる施策も展開している。このタイミングで、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルからNTTドコモにスイッチして得したいというユーザーもいるだろう。NTTドコモ・フィナンシャルグループとすれば、いかに流出を抑える一方で、回線契約をドコモにスイッチしてもらうかが重要となってくる。
ブランド、社名の統一はまさに「諸刃の剣」といえそうだ。
3.dアカウント連携はストレスなく使えるのか
今回、NTTドコモ・フィナンシャルグループがスタートするにあたり、dカードの引き落としをドコモSMTBネット銀行にすると、最大3%、さらにマネックス証券と連携させると最大4.5%の還元が受けられる。ただし、条件としては「dアカウント連携」が当然のことながら必要となる。
このdアカウントだが、ドコモユーザーにはすこぶる評判が悪い。ログインしたくてもうまくいかないことがあり、またd払いではいつの間にかログアウトしていて、決済の時に難儀したなんて話が結構あった。
そもそもdアカウントは1回線に1つというのが前提になっていたり、回線契約をしている場合とオープンに持てる場合とシステム的な管理が違っていたようで、使い勝手がかなり悪い。
最近ではパスキーを導入したことで、改善はされたものの、現在も根本的なシステム改修を準備しているとされている。銀行や証券とdアカウント連携していくなかで、混乱などが起きないか、正直、不安でもあったりするのだ。
4.ドコモショップを運営する販売代理店に負担は発生しないのか
NTTドコモ・フィナンシャルグループの強みとなるのが、全国にあるドコモショップだ。
すでに一部のドコモショップではマネックス証券の証券総合取引口座、NISA口座の開設サポートを行っている。また今年8月にはドコモSMTBネット銀行の口座開設や住宅ローンなどを全国のドコモショップで手がけるという。
今年度は198店舗にとどまるが、2030年度には1500店舗以上での展開を目指すという。いずれもドコモショップで「スマホ教室」を開催することで、開設からアプリの使い方、取引のやり方などを教えられるのが強みとなっている。
ただ、ドコモショップで証券口座の開設などのサポートを提供する場合、販売代理店は財務局長登録の金融サービス仲介業者のライセンスが必要だ。また店舗スタッフも証券外務員資格が必要となる。ショップ店員とすればスマホの機種や料金プランなど本業で覚えることはたくさんあるにもかかわらず、さらに証券に関する知識の勉強をしなくてはいけなくなる。
NTTドコモ・フィナンシャルグループからドコモショップに対して、それなりの報酬がないと、現場は疲弊してしまうことだろう。
一方で、そもそもドコモショップを訪れる客はスマホを買い替えたり、料金プランを見直しにきているわけで、いきなり銀行や証券の口座を勧められても、すんなり受け入れがたいだろう。
過去にもショップで米や水を売ろうとしたキャリアがあったが、うまくいった試しはない。果たして、スマホを目的に来店してきた客にどこまで銀行や証券を売れるのか、お手並み拝見ということになりそうだ。
5.金融特化のAIはどこまで使われるのか
NTTドコモ・フィナンシャルグループではドコモショップだけでなく、「あなたの生き方を応援するAI」を売りにしていくという。
ユーザーを深く理解する、質が高く膨大なデータ量によって、お金の流れを可視化。一人ひとりに寄り添った提案をしていくという。
ただ、NTTドコモ本体では現在、「SyncMe」というパーソナルAIエージェントを開発中だ。また、住信SBIネット銀行でも「NEOBANK ai」があったりする。ドコモユーザーとすれば、いったい、どのAIをメインに使えばいいか、かなり迷ってしまいそうだ。
一方で、それぞれのAIエージェントが連携し、どれか一つのAIにお願いすれば、d払いやdカード、銀行、証券のお金の流れが可視化され、振り込みなどもおまかせできるようになるとかなり便利だろう。
NTTドコモとNTTドコモ・フィナンシャルグループ、ドコモSMTBネット銀行のAI開発部隊がタッグを組んで、シームレスに連携するパーソナルAIエージェントを作っていく必要がありそうだ。
クセの強い金融各社をどうまとめていくのか
KDDI、ソフトバンク、楽天グループはすでにブランドや社名で一体感のある金融経済圏を構築している。その点、NTTドコモ・フィナンシャルグループは大きく出遅れている。
しかし、一方で、NTTドコモ・フィナンシャルグループはマネックス証券や住信SBIネット銀行などクセの強い「異分子」を集めたことで、予想もしない、面白い化学反応が起きる可能性はある。
個性の強い金融各社をまとめ、ドコモユーザー、さらにドコモ以外のユーザーが注目する金融経済圏にしていけるか。廣井孝史社長の手腕が問われそうだ。













