インタビュー

子供たちがコンサドーレでJリーグの世界を体験、「応援ショップ」も登場――ドコモの「ファンダム戦略」現場取材レポ【前編】

 NTTドコモが2025年6月に開始した「ドコモ MAX」は、データ通信の使い放題に加えて、スポーツ配信サービス「DAZN」が見放題になるという料金プランだ。

 単なる通信サービスに留まらず、スポーツ配信を組み込んだ背景には、ドコモがファンコミュニティを重視する「ファンダム戦略」を推進していることがある。

 今回は、社会貢献と大きな枠としてのファンダム向けといった取り組みである「ドコモ未来フィールド」と、ドコモが仕掛ける「応援ショップ」などについて、NTTドコモ北海道支社を取材した。

10月26日に札幌のプレミストドームで開催された「ドコモ未来フィールド」

ファンコミュニティを軸に据える「ファンダム戦略」

 ファンダムとは、特定のアーティスト、作品、あるいはスポーツチームなどを熱心に支持するファンのコミュニティや文化を指す。

 SNSの普及によりユーザー間の情報交換が手軽かつ活発になり、ファンダムは消費行動にも大きな影響を与えている。

 ドコモは「ドコモ MAX」でのDAZN連携を皮切りに、スポーツ観戦を好む層へのアプローチを強化。その取り組みは料金プランだけでなく、スポーツチームと共同で進める様々な施策にも繋がっている。

Jリーグチームの裏側を体験した「ドコモ未来フィールド」

 ファンダム戦略の具体的な取り組みとして、ドコモは子供たちに様々なプロの現場を紹介するイベント「ドコモ未来フィールド」を開催している。

 本誌でも今年2月、阪神甲子園球場で開催されたプロ野球の世界を体験するイベントをレポートしたほか、これまでにもLAPONE(ラポネ)エンターテイメントとの協力によるアーティストの世界、あるいは国立科学博物館での人類学の世界を体験するイベントなどが実施されてきた。

 そして今回、10月26日に札幌市の「プレミストドーム」と隣接する練習場で、北海道コンサドーレ札幌の練習場やクラブハウスを訪れるイベントが実施された。

コンサドーレOBの石川直樹氏もコーチ陣として参加した

 朝8時半に集合した30人の子供たちは、まず練習場において、コンサドーレのアカデミーコーチらによるサッカー教室に参加。低学年・高学年とおおまかな年齢でのグループに分かれ、オフェンスやディフェンスの動きなど、プロの指導による技術レベルアップを体験した。

 ボールを奪い合う際には、冷静なプレイを見せる子もいれば、闘志を前面に押し出して果敢に動く子もいるなど、日頃からサッカーに親しんでいることをうかがわせつつ、コーチの巧みなリードでテクニックを磨き、芝生の上での運動を楽しんでいた。

 約1時間の教室の後、一行はプレミストドーム内にあるコンサドーレの施設見学へ。

 プレミストドームは床を入れ替えられるようになっており、アーティストのライブ、あるいはさまざまなイベントが開催できる場所。サッカーの試合が開催される際には、可動式のフィールドが屋外からドーム内へと移動する。

 プレミストドームの大きな特徴であるホヴァリングサッカーステージも見学。屋外で天然芝を育て、試合のときにドーム内で用いるための仕組みであり、担当者からは、北海道で天然芝を維持するための工夫や、芝刈りの結果でフィールドに模様がつくことなどが紹介された。

 フィールド見学のあとは、選手たちが実際に利用するロッカールームへ。

撮影はここまで

 この日は午後から北海道コンサドーレ札幌と水戸ホーリーホックの試合が予定されており、試合直前のロッカールームには、選手たちに向けて用意された飲料やユニフォームなどがセッティングされた状態。通常のスタジアムツアーではあり得ない光景を目の当たりにした。

 さらに、監督が試合後に記者会見をする部屋や、試合開始時に選手たちが入場するルートを通って再びフィールドへ。監督や選手が座るベンチに実際に座ってみたり、試合直前の選手たちの練習風景を見学したりと、試合観戦だけでは決して見ることのできない角度からJリーグの環境を体験する、貴重な機会となった。

狙いは「ドコモ=コンサドーレ応援」の認知拡大

 ドコモ北海道支社でコンシューマーサービスの営業戦略をリードする中村洋司氏によれば、こうした取り組みの狙いは「まずNTTドコモがコンサドーレを応援していることを知ってもらうこと」にあるという。その一環として、たとえば今年6月以降、コンサドーレのホームゲームでは毎試合ドコモのブースを出店している。

中村氏

 中村氏は、今回の「ドコモ未来フィールド」について、スポーツ層やファン層の拡大を通じた「地域への貢献」という意味合いもあると語る。今後もこうした活動を継続し、ドコモがコンサドーレを応援していることを、より多くのファンへアピールしていく構えだ。

「応援ショップ」やdポイントでも連携

 ドコモとコンサドーレの連携は、イベントだけではない。

 北海道内のドコモショップのうち、手を挙げた19店舗が「北海道コンサドーレ札幌 応援ショップ」となり、試合がある日には店内で試合を放送。さらに、スタッフはユニフォームを着用し、店内には応援の装飾が施されるという。

シーナシーナ福住店

 プレミストドーム最寄りの地下鉄福住駅に直結する商業施設にある「ドコモショップ シーナシーナ福住店」も、その一つだ。

[画像:ドコモショップ シーナシーナ福住店の様子]

 同店店長の東康平氏は、「うちがやらなければどこがやるんだ」という熱意を持って応援ショップに立候補したと語る。取材当日も、スタッフはコンサドーレのユニフォームを着用して接客にあたり、店内にはチームのキャラクター人形や、チーム応援を紹介する掲示などが用意されていた。

 中村氏は、「取り組みはまだまだ道半ば」という認識もあると語る。今後さらにコンサドーレとの協力を進めたいとしており、店長の東氏も店頭イベントや掲示物を拡充するなど、「コンサドーレファンなら一度は訪れたい場所に仕立てていきたい」と意気込む。

dポイントでチームを応援

 イベント、そして店舗とリアルの場でコンサドーレを応援する姿勢を打ち出すNTTドコモ北海道支社。

 その一方で、ドコモ全体としてJリーグと手を携え、ファンがチームを応援できる新たな仕組みも用意されている。

 たとえば、dポイントアプリのデザインをコンサドーレのデザインに変更すると、貯まったdポイントの5%がクラブに還元される。さらに、「ドコモ MAX」や「ドコモ ポイ活MAX」の契約者であれば、クラブへの還元率が10%にアップする。ドコモ回線とdポイントを利用することが、コンサドーレの支援に繋がる仕掛けだ。

ファンとの長期的な関係構築へ

 ドコモは今年4月、Jリーグと共同で新たなプロジェクトを発足させることを発表しており、「推しJクラブ応援キャンペーン」も一部のJリーグチームで実施されている。

 「ドコモのファンダム戦略とは何か」と問われた時、新料金プランでのDAZN見放題だけ、と思われるかもしれない。

 しかし、今回の取材では、店舗やスタジアムといった場所において、チームと共同で子供向けの体験イベントを実施し、顧客との接点であるドコモショップが「ファンに向けた場所」という新たな役割を担おうとする姿が示された。

 さらに、dポイントを通じてドコモの経済圏が応援するチームの力になるという仕掛けも取り入れられている。

 これらは短期的には成果が上がりづらい施策かもしれない。だが、時間をかけてファンの中での認知が進めば、「ドコモの存在が気になる」「dポイントやd払いを使ってみよう」と思う人が増える可能性を秘めた取り組みと言える。

 その可能性をすでに現実と化している事例が、2023年から進められてきた、NTTドコモと北海道日本ハムファイターズの取り組みだ。次回は、ファイターズの本拠地であるエスコンフィールドHOKKAIDOを訪れ、どのような体験が提供されてきたか、お伝えしたい。