インタビュー

日本が目指すべきモバイル市場の世界観とは――有識者会合の仕掛け人・小林史明政務官に聞く

会合の舞台裏、楽天参入の影響、5Gに向けた展望

 2018年前半、総務省で、日本の携帯電話市場に関して議論が進められた。その結果、MNPのしやすさや、中古端末の流通促進やSIMロック解除の確保などが取り入れられることになった。

小林政務官

 実は、この議論のきっかけを生みだしたのは小林史明総務大臣政務官だ。NTTドコモで勤務した経験を持つ、現在35歳の衆議院議員でもある小林政務官に、検討会を立ち上げた経緯、そしてこれからの携帯電話市場について、政治家という視点を踏まえて、どこを目指し、どんな変化をもたらしたいと考えているのか聞いた。

政務官は“修行の場”

――過去の政務官の方々の任期を拝見すると、ざっと1年程度なのですね。小林政務官は2017年8月からで、もうすぐ1年になります。

小林氏
 はい、政務官の任期は慣例で1年程度なのです。

――そのあたりはあまり知られていないかもしれませんね。

小林氏
 そうですね。会社でたとえてみると、いわば“霞ヶ関ホールディングス”のトップが総理大臣です。今は安倍さんですね。グループ会社が省庁で、そのトップが大臣、政務官は常務執行役員とでも言えるポジションと言えばわかりやすいでしょうか。

――となると「なりたいです」と手を挙げて就任できるわけではありませんよね。

小林氏
 はい、そういうものではないですね。ただ政務官というポジションは、政治側から行政側へ初めて入る場、修行する場という面もあります。今の野田聖子総務大臣は、37歳のときに旧郵政大臣を勤め、(通信分野に)思い入れもあり「専門分野は任せる」というスタンスでしたので、私自身はとても恵まれていましたね。

検討会を立ち上げた経緯

――2017年暮れ~2018年春にかけて、「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」が開催されました。そうした有識者会合は、誰が発案し、どういった経緯で開催されていくものなのでしょうか。

小林氏
 課題意識を持って「この政策をやりたい」を考えたとしても、内輪だけで議論しても公平な内容かどうか担保できません。外部からの知恵をいただいたほうがいいということで、民間から有識者をお招きして会議を設立するわけです。議論を経て、結論を導き出し、そこから政策に結びつけていきます。

2017年12月~2018年4月にかけて開催された「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」は小林政務官が提起した(4月20日撮影)

 誰が問題意識を持って提案するのか。大臣や政務官といった立場から出てくることもあれば、政党の政策提言から立ち上がることもあります。はたまた規制改革会議といった官邸にある場から提言が出てくることもあります。

 今回は、私が政務官へ就いたときに、MVNOとMNOを含め、ちょっと問題が貯まっているので一度整理をしたほうがいいのでは、と提起したのです。

――では、「一度整理したほうがいい」と考えたのはなぜでしょう。

小林氏
 そのあたりは私自身のドコモ時代の経験を踏まえて考えてきたところがあります。その当時、キャリア同士の新規契約の争奪戦に相当なコストが割かれていました。その一方で、顧客獲得コストが既存ユーザーの利用料に上乗せされている、とも思っていたのです。いつまで経っても“0円端末”がなくならないと。

 その後、政治家として情報通信政策に携わる中で、MVNOからすると、ちょっとした“いけず”なことがある、といった話を伺うわけです。たとえばMVNOのメールがMNO(大手キャリア)の迷惑メールフィルターにひっかかる、といった例です。またサブブランドの通信速度は異様に速いといった指摘も、当時ありました。

(※その後の議論でサブブランドは優遇されておらずMVNOと同じコストで回線を利用していることが判明。ただしMNOからサブブランド/子会社へ資金援助されていないか、今後の検証課題となった)

 一方、MNO同士という点では、端末値引きの競争を辞めたいが、みんな一斉じゃないと辞められない……と会うたびに話が出てきて、これはどこか一斉に議論しなければ終わらないと思っていたわけです。

――総務省での有識者会合は、過去、何度も開催され、何らかの申し送りがあったのかなと想像したこともあったのですが、そういうわけではないのですね。

小林氏
 今回、そういったものはなかったですね。もちろん場合によっては以前からの課題を引き継ぐこともありますが、今回は完全にこちらからの提起です。モバイル業界をずっと見ていて、構造的な問題がずっと放置されていると思っていましたから。

――政務官という立場から「議論したい」と言い出すことで実際に進み出したと。

小林氏
 提案内容が筋違いですと、一般的な企業と同じように、さすがに省内でもちょっと待ってということになろうと思います。

――では実際に議論がスタートして、予想していなかった論点はありましたか?

小林氏
 意外だったのは、ソフトバンクから検討会の場で「僕たち、端末購入補助辞めたいんです」と言い始めたことですね。とはいえ、それはプラスに働きました。公の場でそろそろ……と持ち出されたことで、検討会自体もざわつきましたよね、「あ、ソフトバンクが言うんだ」と。

――出席者がどういった話をするか、事前に概要が伝えられるわけではないのですか。

小林氏
 全くないです。そのあたりはフラットに。

――台本があるわけではないのですね。そういったものがあるのかと思っていました。

小林氏
 それが世間のイメージかもしれませんね(笑)。今回は本当にフラットに言ってくださいとお願いしていました。するとMVNOの方々が「サブブランドが異様に速い」と指摘されたのです。このあたりで「今回の検討会はサブブランド叩きか」と見えてしまい、台本があるようなイメージになったのかもしれませんね。でもアンケートを取って意見を出していただいたらそうなっただけという。

検討会の手応え

――4月には「ネットワーク提供条件の同等性確保」「中古端末の国内流通促進」「利用者の自由なサービス・端末選択の促進」という3つの柱で提言が出ることになりました。一番手応えがあったのはどの点になりますか?

小林氏
 絆創膏を貼って1つ1つの問題を処理していくよりも、構造的な問題に取り組むことが重要です。そういう意味で、1つは「中古端末」だと思います。

 端末と回線が全部セットで提供されて、いかに端末代金を値引きするか、いかに顧客を獲得するかという状況が続いていましたよね。中古端末の流通をきちんとやると(提言に)入れたことは、これまでの構造にものすごく大きくメスを入れることになるのだと思います。

 またユーザー目線からすると、スイッチングコスト(携帯電話会社の乗り換えにかかる手間)をいかに下げるかも重要です。良い内容の契約が提供されていても、MNPの手続きが面倒であれば問題です。Webで受け付けず、予約番号を取得しようとコールセンターに電話するとものすごく引き止められる。こういう点に切り込めたのは大きかったのだと思います。

「端末や料金の安さよりサービスレイヤーで勝負してほしい」

――なるほど。ただ、そうした取り組みは、「細かな部分」と言われることが多い。そう評価されるのは、なぜだと思われますか。

小林氏
 おそらく、これまでのモバイル分野の行政で「どういう状態を目指しているか、世界観を提示せず、とにかく今起きている問題に手を付けている」、そんな風に見え続けてきたことが問題なんだと思います。それは政治・行政からのメッセージ発信が足りなかったのでしょう。

 「なぜ今回、中古端末を(議論や政策の)対象にするのですか」と問われたときにその世界観が知られていなければ小手先に見えてしまう。でも構造を捉えると「スイッチングが難しい」「端末で縛られている」という点がある。そこに手を入れることがとても重要です。その世界観を伝えてこなかった、我々に問題があったと思います。

――乗り換えしやすくすることで、競争を促進し、利便性の向上や料金の低廉化へ繋がっていくことは理解できます。とはいえもう少し俯瞰した視点での話を議論してほしいとも感じます。小林さんの立場から打ち出せるモバイル分野での目指すべき世界観は?

小林氏
 これからの時代、スマートフォンは(ありとあらゆるものがネットに繋がる)IoTの世界で行けば、1つのデバイスでしかないと思います。その上で、私はIoT全体のサービスで競い合う世界になって欲しいのです。

 もちろん(ユーザーにとって)入口はスマートフォンや通信回線ということに変わりはないでしょう。でも端末や料金の安さで勝負するよりもサービスレイヤーで勝負してほしい。そこで今回は、端末と回線を切り離すという側面から、中古端末の流通をきちっとやるということになりました。また、同時期に楽天の携帯電話事業への参入が実現し、MNO4社で競争することになりました。結果的に料金も含め、サービス競争ができあがっていくことになっていったわけです。

――端末と通信の切り離しという観点では、たとえばスマートフォンは回線があってこそ活用できる存在です。またリテラシーの低いユーザーからすると通信回線とセットで提供されることで得られる利便性もあります。

小林氏
 そういう意味では「選択できること」が重要なのです。これまではとてもアンフェアな状況でした。選択肢がなかったわけです。選択肢をきちっと作って、選べる人は(端末と回線を別々に)選べばいいですし、安心感が欲しい方は、ある種、料金に上乗せされた状態になりますが選べるようになる。

――総務省の有識者会合が開かれるたび、「ケータイ Watch」の記事に対して、読者から「消費者の手間が増える」「店頭での説明が長くなる」「端末は0円だったのに今は高くなった」という声が挙がります。販売奨励金の課題はありつつも、消費者側としては「総務省が口を出すたびに、手続きが難しくなり、端末は高くなる。何の意味があるのか」と。

小林氏
 はい、確かに説明は長いですよね。私自身もドコモショップの窓口で3カ月、対応していたことがあります。今はさらに大変になっています。

 これは店頭での対応が、全て「そっちのほうが安心だ」という方に向けて整備されてきたからです。でもリテラシーが高い方にとっては不要ですよね。私もその(説明の要不要を選べる)ほうがいいと思います。じゃあ実現するにはどうするか。自分で考えて選択する人を増やす必要があります。そのためには選択肢がないといけません。選択が自由にできれば自分で考える。そのためには自分の契約を理解するようになると。

――グランドデザインといった話がやはり必要ですよね。有識者会合では、「A社ではテザリングができない」といった話が取り上げられて、細かな話に終始したように見えてしまいました。

小林氏
 あの場にいる何人かの間では、自分の中にあるグランドデザインを共有済で、そのためにどこに取り組むべきかという形でした。でも先にグランドデザインを会議体で描き、その後各論という順番のほうがいいのでしょう。今回はいわば暗黙知の下で話が進められた形です。

 グランドデザインという意味では、先述したように、端末や料金の安さよりも、次のレイヤーで勝負してほしいです。1人1台、手にしてネットを使ってフェアに社会参画できるようにしたい。そのためにはモバイルが使えること、選択できることも大事ですし、同時に日本中で繋がることも重要です。

楽天参入、電波行政における政治家の役割

――そういう意味では、楽天の新規参入が今春決まったわけですが、小林政務官はどういった形で関わったのでしょうか。

4月9日に行われた電波割当の認定書交付式での様子。左から楽天の三木谷社長、KDDIの高橋社長、野田総務大臣、NTTドコモの吉澤社長、ソフトバンクの宮内社長、沖縄セルラーの湯淺社長

小林氏
 参入にあたっては、許可するに値するかどうか第三者機関で審議しますので、私たち政治家はノータッチです。

 一方で、個人的には新しい人たちのチャレンジする場を作っていきたい。そのきっかけとして、政務官就任前、行政が持っている電波で、使いやすい部分は民間に開放しようと提言を出していました。そして実際に防衛省が持っていた部分を引っ越してもらって開放することになった。その結果、割当可能な電波が4枠できて、楽天が参入することになりました。そこまでが私たち(政治家)の仕事です。

――楽天の参入にあたっては、資金面での指摘が挙がっています。使える電波を用意することはもちろん重要だと思いますが、その後を「頑張ってください」だけでいいのか。たとえばMNOへの新規参入にあわせて、設備投資の重さが軽減されるような取り組みですとか、MNOがもっと増えるような、政治・行政からの施策というのはあり得ないものでしょうか。

小林氏
 まず電波の割当によって舞台が整いました。そして参入後、収益を上げるためには既存事業者からユーザーを獲得しなければなりません。そのためにスイッチングコストを下げる。4年縛りを辞めさせて、2年縛りも24カ月で辞めてくださいねとやって、MNPもWebで手続きできるようにした。そういう取り組みは新規参入の応援にもなっています。

 その次は5Gの割当です。そういうところでもフェアで新規参入にもチャンスがあることが、新規参入を応援していくことに繋がると思います。資金面で行政が支援するのはアンフェアですのでできませんが、たとえばトンネル内で既存事業者が工事をしないと、新規参入事業者が入れない、ということになれば、ちゃんと話し合いをしてくださいねと。

――たとえば設備の共用といった考えは、時代遅れの論点というところでしょうか。

小林氏
 行政が主導することはないかもしれませんね。欧米のようにタワー会社が5Gや、エリアが整備されていないところで、という形は、民間同士の中でビジネス上のメリットがあればあり得るかもしれません。

――モバイル市場では、十数年かけてエリアを構築してきた大手と、ゼロからエリアを整備する新規参入ではまともに競争することも難しいですよね。既にNTTドコモは、楽天のMNO事業が始まれば、ビジネスとして交渉はするということを言いつつ、MNOは自らネットワークを整備するもの、とも語っており、ローミングするとしても一時的なものと思えます。政府としてそのあたりに取り組むという考え方もできそうですが、いかがですか。

小林氏
 そこはまず民間同士で進めていただき、接続に関して調停といった場合になれば総務省の出番となりますが、最初から乗り出すような仕組みではありません。もし楽天がMNOとの何らかの協議をするとして、NTTドコモとの関係が不調であれば、KDDIやソフトバンクとの関係がうまくいくかもしれません。ビジネス上の判断として、ローミングで収益が得られるのであれば、楽天との関係を構築すると。海外でもそうした事例があったかと思います。今まさに民民同士で進めていただいているでしょうから、待ちたいと思いますね。

――なるほど。一方で、大手3社は競争しているとはいえ、各社のシェアごとの順位は変化しない状況が長く続いています。かつてNTT再編がありましたが、NTTグループの再々編のような大きな変化を行政・政治からもたらしていくことは、やはり難しいでしょうか。

小林氏
 どのマーケットのシェア感で見るかというのが重要です。そして、グローバルの観点が大事だと思っています。例に挙げていただいたNTTグループをさらに分割するようなアイデアの場合、その先どうするのか。国内の通信事業だけではなく、グローバル市場で戦いにいかなきゃいけないわけですから。

 たとえば楽天はまさにグローバルで展開されています。決済やクレジットもある。IoTではマネタイズも難しい点の1つでしょうが、グローバルに、決済やECを含めて、IoTでのマネタイズを楽天には頑張って欲しいと思っています。国内の競争だけを見て、「あっちが悪い」「こっちが悪い」というよりも、次のステージでグローバルを見据えてというイメージですね。

 私がこの世界に入った理由は3つあります。そのうち1つがまさにこの部分なんです。NTTドコモに入社して、営業を経験しましたが、当時はFMC(固定と携帯電話の融合サービス)元年と言われていました。ドコモは規制上、NTTグループとともに営業してはいけませんでしたが、KDDI、ソフトバンクは固定と携帯をセットで提供する。この点について、当時の顧客から「本当に面倒くさい」とよく言われたのです。

 でも、これ(NTTグループに対する規制)って、国内マーケットだけ見た規制です。確かに当時はそうしたルールが必要だったでしょう。しかしネットの世界が当たり前になれば、ローカルだけの規制はちょっと違うのではないか。ルールを変えなければいけないし、ルールを変える側に行かなければこの国は変わらない。そう強く思ったので、ルールを変える側に来たのです。

 マーケットをどのサイズで見るかが重要です。いつまでも料金と国内市場だけで見るのか。それをグローバルサイズのサービスレイヤーでのマーケットと見ていくのが重要ではないでしょうか。

――確かに通信事業はドメスティックなものと捉えられがちです。

小林氏
 行政が実際そうなっていますからね。一方で、建設機械のコマツさんでは、2000年ごろから通信モジュールを建設機械に搭載し、活用されています。そういう世界ですよね。

より柔軟に電波を有効活用

――そうなると、ライバルたる海外にどう対抗していくか。政治・行政の立場である小林さんの元にはどんな相談事が舞い込むのでしょうか。「こんな規制は変えて欲しい」ですとか。

小林氏
 あまり大企業系からそうした点で要望が寄せられることはないですね。どちらかと言えばスタートアップからが多いです。だからこそ我々は大企業とコミュニケーションを取って、もっとチャレンジしたいことを考えて欲しいと伝えています。有識者会合で「次のステージを」と言うのも、そういう意味があるのです。

 新しいことという意味では、行政ではPS(Public Safety)-LTEという仕組みをやっていきます。消防無線、防災無線、警察無線は別々のシステムでしたが、公共系のシステムを1つにまとめます。動画も送れて、P2Pでやり取りすることもできる。行政自身で新しい電波の使い方をして、もっと柔軟な使い方ができるのでは? と提起することにもなります。

 5Gでは電波の共用も進むでしょう。たとえば「この時間は使っていない」という電波を一時的に使えるようにするですとか。

――小林さんの立場からチャレンジできる部分はまだたくさんありそうですね。短期的・長期的という違いはあるかもしれませんが、チャレンジしたい点として優先度の高いものはどれになりますか?

小林氏
 やはり電波の有効活用です。よく不動産にたとえるのですが、高い価値のあるところを、官が使っていれば民間へ、ということもあるでしょうし、建物の1Fを官が使っているけど、利用するのは平日だけであれば休日は使ってくださいとシェアリングできるようにするとか。

 みなさんが使うスマートフォンやモバイルデバイスは、来たるIoT時代の入口になるはずです。入口にアクセスできることが重要で、そのためには電波が重要。そこをいかに有効活用していくか。短期的にも長期的にも取り組む必要がある点ですが、地味なので、わかりづらいんですよね。楽天の新規参入が話題になったのも、繰り返しになりますが、防衛省がどいたから実現したことなのですよ。

技適未取得の海外端末を使えるように

小林氏
 またちょっと先に実現しようとしていることは、技適(技術適合基準)に関する取り組みです。

 技適を取っていない海外のIoTデバイスを日本で使えないという話がありますよね。個数に上限を設けたり、実験用途に限定したりするなど条件をクリアすれば技適を取っていなくても海外の最先端のIoTデバイスを利用できるようにします。これはちょっと面白くなるのではないかなと。

――特区のような形もあるのですか?

小林氏
 場所を限定するのか、あるいは先述した個数などの条件にするのか、方向性を出します。

――なるほど。では近い将来という点では、東京オリンピック・パラリンピックのある2020年に向けた仕掛けは何かお考えですか?

小林氏
 その時期ですと5Gですよね。海外からお客さんもたくさんお越しになるでしょうから、日本での5Gの利活用の事例をお見せしたい。5Gで通信インフラが進化すればゲームチェンジするぞとワクワク感が出てきますよね。

――5Gでは、高速大容量や低遅延などを活かした想定事例が携帯各社からすでに発表されています。行政・政治サイドでの準備はもう終えた格好でしょうか?

小林氏
 5Gのエリア整備は、都市部だと進みやすいでしょう。一方で過疎地や地方など距離的に制約があるところでも、ネットは活用できますよね。そういう地域での5Gのサービスエリアの整備は、行政として力のいれどころになるでしょう。今後、電波利用料の仕組みを少し変えて、5Gを日本中で拡げるために活用できるようにしていきます。電波利用料のことは気づきにくいでしょうが意外と大きな改革なんです。

大きく変わる電波利用料

――電波利用料の変更はどういった点になるのでしょうか。

小林氏
 いくつかあります。電波利用料は、不動産で言えば、家賃とともに支払う共益費みたいなものです。国民の財産である電波を使うのであれば共益費を収めてよ、という形です。収めてもらった電波利用料を、国としては民間では手を出さない整備や、研究に活用しています。

 また5Gの割当の先に、広義で言うとオークションのように、金額を提示して、(値付けの)高い方に点数が高いという仕組みに変えます。これも大きな計画です。それに加えて、貯まった電波利用料の使い道を増やします。それが5Gの整備、地方のデジタルデバイド整備、サイバーセキュリティといったあたりです。

 さらに電波利用料を集める仕組みという面では、放送用途が割り引きされ、携帯電話用途が高かったのですが、改正では放送と同程度の割引が携帯電話用にも適用されます。結果的に、放送のほうが値上げされる格好になり、かなり放送と通信がフェアになっていきます。そして総額が増えます。

――その中で、小林さんにとって手応えのある部分はどれになりますか?

小林氏
 ちょっとマニアックすぎるかもしれませんが、用途の拡大ですね。サイバーセキュリティを真正面から入れていくとか、5Gの整備に入れていくとか。

省庁間の役割分担、総務省がリードすること

――最近になって、公正取引委員会からも携帯電話市場に関して報告書を出しましたね。総務省にとっては強力な援軍ですか?

小林氏
 問題意識は共有できているというところですね。我々が問題と感じているところに彼らも同じように捉えていた。結果的には援軍だなと。

――携帯電話に関わる分野では、総務省だけではなく、今回の公正取引委員会のほか、経済産業省が関わることもありますよね。ちょっと飛躍してしまいますが、もう少しすっきりして包括的に担当する行政府、といったものは難しいのでしょうか。

小林氏
 結局、全部の分野にICTが入ってきますよね。(フィンテックなど)X-Techとも言われますが、確かに現在の省庁ごとの対応では場当たり的になります。全体を統括してデジタル戦略をどうするか。今は内閣官房のIT本部がそうした部分を担っていますが、もっと強く戦略を作れるようにやっていくことが重要です。そこにコミットする政治家が増えていくことも大事です。

 その上で、たとえば通信の規制部分は総務省という役割分担ですが、携帯電話市場が難しいのは、端末と通信がセットで提供されていること。構造が複雑になっているのです。端末販売だけであれば、B2Cの世界で(担当省庁としては)公取か経産省になるでしょうが、回線・通信は総務省です。ある種、特殊な構造です。

――以前は、総務省へ傍聴に訪れるたび、建物内で使えるWi-Fiがないものか、と思ったりもしたことがありました。

小林氏
 そのあたりの取り組みも、総務省働き方改革チームを立ち上げています。やはり総務省だからこそ、最先端のツールを使って働きやすくしようよと。RPA(Robotic Process Automation、単純業務の自動化)をがんがん回すとか、議事録は音声入力でいいよねとか。フリーアドレスも当たり前にしていくですとか。

――なるほど。五輪に向けてテレワークという話もあるでしょうが、まだ世間一般では、あまり熱を帯びていない印象です。

小林氏
 ロンドンはそれをやったんですよね。総務省でも「テレワーク・デイズ」というキャンペーンを7月23日~27日に実施します。東京オリンピック・パラリンピックと同じ日付で、みんな家に居て、オフィスへ行かずに仕事しようという取り組みです。

――小林さんの政務官という立場も、慣例通りであれば、もう少しで退任される可能性があるわけですよね。その後はどうされますか。

小林氏
 党側からアプローチしていきます。政府側にいるときでは、やりやすいこと、やりにくいことがあります。(立法・行政)それぞれの立場のときに、やるべきことを進めていくことが重要です。そういう意味では、やるべきことはやれました。一方で「こっちに居るとちょっと言えないな」ということもわかりましたので。

――なるほど。今回はありがとうございました。