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「端末ゼロ円禁止に効果はあったのか」、日本の携帯電話業界を語るシンポジウムで
2018年7月24日 16:52
「日本の携帯電話料金の下げ幅は小さい。政策が効果をあげているとは言いがたい」「端末ゼロ円禁止に効果はあったのか」――そんな声が挙がったのは、24日、米国の政策提言機関「Progressive Policy Institute(PPI)」が主催する通信政策に関するシンポジウムでのこと。主に総務省が進める携帯電話業界への政策について、あらためて、疑問が提示された。
「端末割引規制、効果はなかった」
主催者であるPPIのチーフ・エコノミック・ストラテジストのマイケル・マンデル氏は「端末補助金への規制が期待通りの効果をもたらしていない」と指摘する。
マンデル氏は、米国や韓国と比べ、相対的に日本の携帯電話料金は高止まりしていること、過去2年の動きだけでも米国は25%、通信料が下がった一方で、日本の下げ幅は10%に留まったことを紹介する。
かつて、キャッシュバックが横行し、頻繁に買い換えるユーザーだけが恩恵を受けているのではないか、と公平性が疑問されていた端末購入補助。2015年頃から議論の対象となり、その後、規制が取り入れられた。しかしマンデル氏は「特定の産業で、最低価格を設定すれば(割引の限界を定めれば)、事業者に対して競争ではなく協力することが望ましいというメッセージを送ることになる」と述べる。
A.T.カーニー パートナーの吉川尚宏氏もまた「ゼロ円端末の禁止が本当によかったのか。その結果、4年縛りが登場した」と指摘。当時、総務大臣にもかけあったというエピソードを交えつつ、キャッシュバックを受けた端末割引への規制が、ユーザーにとっては、4年縛りという新たな期間拘束契約を生みだしており、効果を改めて分析すべきと主張する。
楽天に大きな期待感
大阪大学大学院経済学研究科の安田洋祐准教授は、マーケットでの競争を後押しするために、できる手段は数少ないとして、そのうち1つが「プレイヤーを増やすこと」だと語る。
折しも、日本の携帯電話業界では、楽天が第4の携帯電話会社としての参入が認められたばかり。シンポジウムでは楽天の参入効果に期待する意見が多く見られた。
たとえばマンデル氏は「楽天の新規参入は活性化に繋がる可能性がある」とコメント。ただし、端末購入補助が規制されたままの場合と、大手3社による長期の期間拘束契約があると楽天にとっては新規参入の顧客獲得が難しくなる、とも予測する。
安田准教授は、「サブブランドを通じてユーザーを囲い込もうとしているが客単価が下がっている。大手キャリアは、実はかなり厳しい環境に追い込まれている可能性がある。そこに楽天が入れば競争がさらに激しくなる」と述べ、MNOになる楽天が、大手3社と肩を並べずとも、ワイモバイルやUQモバイルと競争する形になるだけで、大手3社の料金にまで波及する可能性があると分析する。
またこれまで競争促進に向けて大きな期待を浴びていたMVNOに関しては、吉川氏が「卸と相互接続があり、卸であれば相対で契約できるはずだが、主流は相互接続。しかし、大口のMVNOであれば卸契約でダイナミックな料金を提供できるはず。相互接続の時代は終わったのではないか」と述べ、今後の展開に期待感を示す。
イー・モバイルの買収「当局の大失態」
日本の携帯電話会社が4社体制になるのは、何も今回が初めてではない。過去には地域ごとに携帯電話会社が存在したこともあったが、比較的、最近では、今のワイモバイルに繋がる存在として、イー・モバイル(イー・アクセス)が単独で存在していたこともあった。
最終的にイー・モバイルはソフトバンクに買収されることになったが、吉川氏は「当局の大失態」と厳しい言葉で振り返る。
「当時の総務省は企業買収を想定していなかった。買収後、イー・モバイルが保有していた周波数を返還せよと言い出せなかった。当時は、そこで公正取引委員会に出てきて欲しいところだったが、もったいない形になった」と吉川氏は残念がる。
ちなみに2018年春に楽天へ電波が割り当てられた際には、そうした自体を防ぐべく、電波を返還する制度が含まれた形になっている。
楽天がソフトバンクの株式を買ったら……
ソフトバンクによるイー・モバイル買収を当局の失態と断じた吉川氏。シンポジウム後、筆者が「ソフトバンクの株式上場にともなう懸念はあるか?」と質問したところ、「楽天による買収という可能性があり得る」とコメント。
先述したように、免許が割り当てられた楽天が買収されれば、電波を返還することになるが、割合は定かではないものの、もし楽天がソフトバンクの株式を購入することになれば現在の制度では留める術がないのだという。
公取委の中の人が語る、携帯業界の問題点
今回のシンポジウムでは、公正取引委員会から、経済取引局調整課長の塚田益徳氏も参加。この7月に同職へ就いたばかりという塚田氏だが、最近公取委から発表した携帯電話業界に関する報告書をあらためて解説する。
塚田氏によれば、そもそも公取委の報告は独禁法に違反したかどうか認定することが目的ではなく、法に触れそうな事例を示すことで、自主的な改善を求めたのだという。現在は、キャリア各社がどう対応するか注視しており、改善されなければ厳正に対処することもあり得る、と含みを持たせる。
では何が問題なのか。たとえば端末と回線のセット販売そのものは問題ではない。また端末代を割り引く、端末購入補助も価格競争の一環であり、問題でない。
ただ、それらが組み合わさった状態、つまり回線と端末がセットで提供され、割引も関係してくると、割賦契約の期間や、回線契約の期間が複雑になり、いざ他社へ乗り換えたくても乗り換えづらい環境になってしまう。「他社の活動を困難にさせると問題になる」と塚田氏。
たとえば4年縛りと呼ばれる仕組みについては、4年間の契約自体は問題がない、としたものの、一度加入すると離脱するときの負担が大きいことや、加入前のうたい文句が「端末を半額で購入できる」かのように案内して誤認を誘い、そうしたプログラムのメリット・デメリットを、ユーザーが正確に理解しづらいことが問題視される可能性がある、とする。
ここ数年、格安スマホ/格安SIMなどとしてMVNOの活動が活発になってきたが、「消費者には現状を維持しようとする、現状維持バイアスがある」と指摘し、短期的な視点ではなく、長期的に見て、より通信関連の支払いが安いほうを選べるようにするなど、環境を整備することが重要とする。
定価って何だ?
端末価格については、いわゆる二重価格が独禁法で禁止されている。販売実績のない価格と割引後の価格を示すことで、割安感があるように誤解させることが問題、といった場合だ。これに関連して、安田准教授は「アップルストアで販売されているSIMロックフリーのiPhoneより、キャリアが販売するiPhoneのほうが高い。定価とは一体何か。定価が議論の俎上にあがっていないのは問題」と指摘。
これに公取委の塚田氏は、リテラシーの高い人がアップルストアで購入しがちな現状を踏まえつつ、景品表示法でも、販売実績がない価格の案内は問題と応じた。