ニュース

4年縛りの実態は“半永久縛り”、公取が独禁法で問題になるおそれがあるキャリアの施策を公表

「不当な囲い込みには独禁法を厳正に執行」

 公正取引委員会は、「携帯電話市場における競争政策上の課題について(平成30年度調査)」という報告書を公表した。

 この報告書は、2018年4月~5月に開催した「携帯電話分野に関する意見交換会」の内容をふまえたもので、現在のモバイル市場に散在する課題について、独占禁止法の観点から問題点を指摘する内容。報告書それ自体は、ただちに事件として取り上げたり、それに必要な審査の開始を示したりするものではないが、主にMNOの取り組みを強く牽制、施策の見直しを求める内容になっている。

 本誌では、今回の報告書の元になった意見交換会について、資料が公開された(内容は非公開)第1回の概要のほか、公開された第2回第3回を、それぞれニュース記事で掲載している。

2018年の携帯電話市場と独占禁止法上の問題点

 今回の報告書「携帯電話市場における競争政策上の課題について(平成30年度調査)」では、2016年の報告書の内容を一部含みながら、意見交換会でまとめた状況について、独禁法上問題になるおそれがある施策や、景品表示法上問題になるおそれがある施策について、まとめられている。

 なお独禁法は基本的に、ほかの事業者の活動を困難にさせる場合、という条件が付き、値引きや期間拘束といった施策の大小それ自体が問題になることは少ない。例えば大幅な値引き自体が独禁法上問題になるのではなく、それにより他の事業者の活動を困難にさせる場合に、独禁法上問題になるといった具合。

 また、個々は小さな問題でも、組み合わさることで他者を排除する効果が高まり、独禁法上問題になるおそれが一層高まるとも指摘しており、翻って、解決への道もまた簡単ではないことが示されている。

4年縛りは“半永久縛り”

 KDDIとソフトバンクが実施・提供している、48回払いの端末購入方法、いわゆる“4年縛り”については、一度契約すると移動しにくくなる(スイッチングコストが高くなる)もので、「ユーザーの選択権を事実上奪う」と指摘。さらに、端末を半額で購入できるかのような印象を与える広告や店頭などでの不十分な説明により、景品表示法上の問題になる恐れもあるとしている。

 この“4年縛り”の問題点は、これまでの2年(24回払い)が4年(48回払い)になっただけという単純なものではなく、メリットを享受するためには2年ごとに同じ契約を更新し続ける必要があるという点。公取では“半永久縛り”として問題視している。

 いわゆる“2年縛り”と自動更新については、実質的に「ユーザーを拘束すること以外に合理的な目的はない」と指摘、他事業者の活動を困難にさせる場合、独禁法上問題になるとした。

 また、期間拘束のないプランがすでに各社が提供されたことについても、内容から実際上はあまり選ばれないプランで意味がなく、公取はアリバイ作りのためのプランと認識している。

SIMロック、存在を否定

 SIMロックについては、MNOが公取に対し、「店舗などでの盗難防止」と説明したことなどをうけ、「MNOの都合により設定されたもので、解除に手数料を徴収することに合理的な説明がつくとは考えにくい」と断じている。解除手続き、解除手数料、中古端末の解除を受け付けない体制は、「通信会社を乗り換える妨げになる」と指摘、他事業者の活動を困難にさせる場合、私的独占や取引妨害などで独禁法上の問題になるとした。

 報告書では触れられていないが、MNOが端末開発に独自のコストをかけ、それを理由にSIMロックをかけている場合については、独自コストを販売価格に含めるべきで、SIMロック(囲い込み)に転嫁すべきではないという考え。

 報告書ではほかにも、通信と端末のセット販売で大幅に割り引く販売手法や、根拠のない価格からの大幅な値引きの強調、買い取った中古端末の国内流通の制限などについて、他事業者の活動を困難にさせる場合に独禁法上問題になるとしている。

不当に囲い込む行為、独占禁止法を厳正に執行

 公正取引委員会はこれまでも、広告などでの通信速度や価格の表記といった点について、景品表示法の観点から、さまざまな警告や注意を行ってきた。一方で、携帯電話市場のビジネスそのものを大きく取り上げることはしてこなかったが、スマートフォンの拡大が一段落した頃合いでもある2016年に報告書を公表し、大手キャリアの販売手法に対し、独禁法上問題となる慣行の是正を要請した。

 公正取引委員会が、2016年に続いて、そのアップデート版と位置づける報告書を公表した背景には、2016年の報告書の後も、問題の根本的な部分は解決されず、状況が変わっていないという認識と不満がある。

 また、端末・サービスを含む携帯電話市場とその発展が日本経済の中でも重要になっていることや、大手3キャリアの寡占で競争政策に課題が多く残っていること、MVNOと新規に参入するキャリア(楽天)が大手キャリアと公平に競争できる環境を整えることの重要性がさらに高まっていることも、公正取引委員会が動向を注視する理由だ。

 ただ、キャリアに対し大きな影響力を持つ大手メーカーへの指摘は、少なくとも今回の報告書の上では抜け落ちており、公正取引委員会の取り組みとして今後の課題になりそうだ。

 今回の報告書では、意見交換会でも各回でテーマとして挙げられていたように、前回の報告書にはなかった消費者の視点からの問題点(意見交換会の第3回)と、MVNOの競争環境確保のための制度面での問題点(第2回)も加えられている。この2つの側面は、独禁法上の問題点の指摘ではなく、「望ましい対応」を提示しており、その方向性について、総務省や消費者団体などと連携していく方針も示している。

 報告書では結びで、「スイッチングコストを高めることにより利用者を不当に囲い込む行為に対しては独占禁止法を厳正に執行していくことにより、MVNOの競争環境の整備、更にはMNO間の競争促進をも図っていく」としている。