石野純也の「スマホとお金」

グーグル「Pixel 8」「Pixel 8 Pro」実機の仕上がりを徹底チェック、コスパは健在か!?

グーグルのPixel 8/8 Proを先行チェック。コストパフォーマンスは健在か?

 グーグル自身が手がけたオリジナルスマホの「Pixel 8/8 Pro」が10月12日に発売になります。チップセットにAIの処理能力を大幅に向上させた「Tensor G3」を採用し、「編集マジック」や「ベストテイク」「音声消しゴムマジック」といった編集関連機能を強化しているのが2機種の特徴。Pixel 8 Proには、今後のアップデートで動画撮影を強化する「動画ブースト」も搭載する予定です。

 一方で、先代の「Pixel 7/7 Pro」と比べ、2機種とも価格が大幅に上がってしまっているのも事実です。Pixel 8は128GB版が11万2900円、Pixel 8 Proは128GBが15万9900円で、発売時に8万2500円だったPixel 7や12万4300円だったPixel 7 Proと比較すると、前者が3万400円、後者が3万5600円の“値上げ”になっています。ドル建てでの価格が100ドル上がったうえに、円安が反映されたのがその理由です。では、実際値上がりしたぶんの価値はあるのでしょうか。実機を使いながら、その実力をチェックしていきます。

小型化とフラット化でハードウェアの魅力がアップ、処理能力も向上

 2機種の中で特に大きく変わっているのがPixel 8。高さや横幅がPixel 7より小型化しているため、見た目がコンパクトになっています。このサイズ感の変更は、持ったときの印象の違いに直結します。フレームのツルっとしたアルミと大きさが余って、手からこぼれ落ちそうになってしまうPixel 7に対し、Pixel 8は片手でガシっと握って操作することが可能。サイズの変更によって、より取り回しがしやすいPixelになったと言えます。

片手で握りやすいサイズ感になったPixel 8
前モデル比較すると、横幅や高さが大きく削減されていることが分かる

 一方で、ディスプレイサイズは大きくは変わっていません。Pixel 7は6.3インチ、Pixel 8は6.2インチで0.1インチほど小型化してはいるものの、表示領域が極端に狭くなったようには感じられません。ケータイ Watchのトップページを表示して見比べてみると、差は分かるものの、使い勝手に大きく影響が出るレベルではないでしょう。ボディは小型化しつつも、見やすさは損なわれていないというわけです。

ケータイ Watchを表示したところ。左がPixel 8で右がPixel 7。ディスプレイは小型化しているが、情報量はほぼ同じだ

 対するPixel 8 Proは、前モデル比でサイズ感に大きな変化はありません。ディスプレイサイズも同じ6.7インチで、コンパクトさというよりも、ディスプレイサイズの大きさを優先していることが分かります。左右がカーブしたディスプレイからフラットディスプレイに変更されたのが、Pixel 7 Proとの差分。手に取ったときのフィット感は少々落ちたような印象はありますが、操作時に手のひらが当たりづらくなったほか、正面からの視認性は上がっています。

Pixel 8 Proは、ディスプレイの左右がフラットになっているのが前モデルまでとの大きな違い

 両機種とも、Tensor G3を採用しているため、処理能力は向上しています。発売前の試用機のため、『Geekbench 6』などのベンチマークアプリはインストールできませんでしたが、サイドローディングでインストールできる『AnTuTu Benchmark』でスコアを測定したところ、約97万点を記録。Tensor G2を搭載したPixel 7などは約70万点台だったため、およそ3割程度、性能が向上していることが分かります。

Pixel 8で計測。スコアは100万点に近く快適に操作できるが、23年に発売されたフラッグシップモデルと比べるとやや低い数値と言える

 ただし、「Snapdragon 8 Gen 2」を搭載したような他社のフラッグシップモデルと比べると、やや点数は低め。ベンチマークアプリはあくまでスマホの性能を図る指標の1つでしかありませんが、全体的な処理能力という観点では、1年前のフラッグシップモデル並みと言えるでしょう。そのぶん、Pixelは同じフラッグシップモデルの中でも価格は安めだったこともあり、バランスは悪くありませんでした。

処理能力をAIで可視化、「編集マジック」「音声消しゴムマジック」「ベストテイク」を試す

 こうした数値だけでなく、AIを生かした機能という形で処理能力の高さを分かりやすく示しているのが、Pixelが評価を受けている理由かもしれません。テレビCMなどで大々的にアピールされた「消しゴムマジック」は、そんなPixelの魅力が一発で伝わる代表的な機能と言えるでしょう。処理能力の数値やカメラの写りの細かな違いより、撮った写真の不要な映り込みを消せるインパクトの大きさ。これこそが、Pixelらしさと言えるでしょう。

 Pixel 8/8 Proでも、そんな特徴がしっかり受け継がれています。まず試したのが編集マジック。ご覧のとおり、自分と子どもが並んだ写真から、子どものみを削除してみます。すると、子どもが消えただけでなく、その後ろの本来写っていないシートの模様まで復元されています。生成AIを使い、足りなくなった部分を書き足しているためです。消しゴムマジックでも近いことはできますが、背景の復元が少々適当。仕上がりにはしっかりと差が出ました。

編集マジックで子どもを消したところ、シートの模様が書き足された
同じ編集をPixel 7の消しゴムマジックで試したが、こちらはやや雑な処理に

 また、以下の写真のように、曇り空がちょっと気になるなぁというときには、編集マジックで空をザクっと差し替えることができます。ボタンをタップすると、空が自動認識され、いくつかパターンが生成されます。ご覧のように、青空に差し替えるのも簡単。もはやこの写真を写真と言っていいのかどうかは疑問が残るところではありますが、編集マジックによって、編集機能が大幅にパワーアップしているのがPixel 8/8 Proの特徴です。

空をまとめて置き換えることが可能。天候まで変わってしまったかのようだ

 消しゴムマジックを音声に拡大したのが、「音声消しゴムマジック」。こちらは、動画撮影時に入ってしまった風の音や周囲のザワザワとした騒音を簡単に除去できる機能です。動画編集画面で音声消しゴムマジックをタップすると、動画内の音を分析します。以下の例は、タイでトゥクトゥクに乗りながら撮った動画ですが、当然ながら風の音や街のノイズが入り込んでいます。この中から風とノイズを選び、それぞれをマイナス100にすると、しっかり車内での会話が聞こえるようになりました。

音声消しゴムマジックを使い、会話を際立たせることができた

 前後の写真を元に、集合写真の顔を入れ替えられるベストテイクも、なかなか実用的な機能です。以下のように、処理が非常に自然。候補となる顔は、Googleフォトが自動で探してくれます。ここ掲載したのは肖像権的に問題のない自分と自分の子ども写真ですが、実際には記者会見のフォトセッションや子どもが友だちと集まったときの集合写真でも機能はチェック済み。10人超など、人数が多すぎると顔を認識してくれないケースはありましたが、4、5人であればサクッと顔を入れ替えることができました。

ベストテイクの修正は非常に自然。ただし、人数が多いと全員分の顔を認識しないこともあった

 編集済みの写真も写真と呼んでいいのかどうか微妙なところですが、ベストな1枚を作り出してくれることは確かです。いずれもTensor G3やAIによって、生み出されたPixel 8/8 Proならではの付加価値と言えるでしょう。

“グーグルレート”が30円超の円安に、10万円超えでライバルも増えるか

 新モデルとして着実に進化しているPixel 8/8 Proですが、冒頭で挙げたように、価格の大幅アップは気になるところです。両機種とも、米国で100ドルずつ値上げされていますが、日本での値上げ幅がそれ以上に大きくなったのは円安基調の為替レートを反映したため。本体そのものの価格上昇と円安のダブルパンチによって、他国以上に割高感が出てしまったと言えるでしょう。

 確かに本体は持ちやすくなっていますし、処理能力の向上やAI関連機能には目を見張るものがありますが、同クラスの端末が前モデルより3万円以上高くなっていると聞くと、さすがに躊躇してしまう人も多いような気がしています。Pixel 7/7 Proは、他社のフラッグシップモデルと比べてもリーズナブルな価格設定だっただけに、なおさらPixel 8/8 Proの高さが際立ってしまいます。為替レートを無視するわけにはいきませんが、グーグルにはもうひと頑張りしてほしかったのが本音です。

Pixel 8が一気に10万円を突破し、無印Pixelとして最高値の11万2900円

 しかも昨年のレートで価格設定されたPixel 7/7 Proがまだ市場に残っているのも、グーグルやキャリアにとって頭が痛い問題かもしれません。Google Storeでは、現状、Pixel 7は全色品切れになっていますが、Pixel 7 Proは128GB版の在庫があり、12万4300円で販売されています。オンラインでは在庫切れですが、キャリア版であれば、Pixel 7も店頭に在庫が残っていることがあります。また、Tensor G2でよければ、ややスペックは落ちてしまいますが、6万2700円の「Pixel 7a」を選択する手もあります。

以下で述べているように、元々の価格が安いPixel 7aは、為替レートも1ドル114円ほどのため、Pixel 8/8 Proと比べるとその差がさらに際立つ。現行モデルでこれだけのレート差があるのも、理解に苦しむところだ

 同じオープンマーケット版が入手可能なハイエンドモデルという括りで言えば、オープンマーケット版の「Xperia 5 V」がソニー直販で13万9700円。ASUSの「ZenFone 10」がASUS直販で9万9800円から。シャープの「AQUOS R8」も、楽天市場などで13万円台前半で販売されています。ZenFone以外はPixel 8より価格は高めではある一方で、Pixel 7登場時と比べて、その差が縮まっているのも事実。値上げと円安によって、Pixelの売りだったコストパフォーマンスのよさが損なわれてしまった感があります。

値上げの結果、他社のスタンダードなハイエンドモデルとの差が小さくなってしまった。コストパフォーマンスの高さでPixelを選ぶ時代は終わりを迎えたと言ってもいいだろう

 レートで言うと、Pixel 8が699ドルのため、1ドルあたり約146.8円。Pixel 8 Proは999ドルで、1ドルあたり約145.5円です。本稿執筆時点の10月10日で1ドル149円。数円レベルではがんばっている印象ですが、同じ円安の最中に発売されたPixel 7aは、ドル建ての価格が499ドル。1ドルあたり約114.2円と破格のレートで設定されています。5月から10月にかけ、“グーグルレート”が一気に30円ほど円安に振れてしまった格好です。これでは、割高感が際立ってしまうのも致し方ないと言えるでしょう。

 こうならないためにも、グーグルは段階的に価格を見直しておくべきだったような気がしています。為替レートの変動は海外メーカーにとって不可避なもの。アップルも定期的に価格体系の見直しを行っており、変更時には旧モデルにも波及します。新モデル投入前に、価格を見直しておけば、ここまで割高感を感じることはなかったのではないでしょうか。端末として見たら完成度は高い反面、Pixel 8ですら10万円を超えるとなると、以前よりライバルが多くなりそうな気がしています。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya