石野純也の「スマホとお金」

「Pixel 7a」いよいよ発表、上位モデルに迫るスペックから見えたコスパの良さ

 グーグルは、10日(現地時間)に米カリフォルニア州マウンテンビューで開催された開発者向けイベント「Google I/O」で、Pixelシリーズの新モデルを3機種発表しました。シリーズ初のフォルダブルスマホとなる「Pixel Fold」や、家庭内で使うことを重視した「Pixel Tablet」に加え、コスパの高い廉価モデルとして日本でも絶大な人気を誇るaシリーズの最新モデル「Pixel 7a」もラインナップに加わります。

 Pixel 7aのグーグル直販価格は6万2700円。価格は異なりますが、これまでaシリーズのPixelを取り扱ってきたKDDIやソフトバンクに加え、NTTドコモも久々に同モデルを販売します。では、Pixel 7aのコストパフォーマンスはどの程度いいのでしょうか。ここでは、実機を試用しつつ、上位モデルにあたるPixel 7と比較し、そのお得さに迫っていきたいと思います。

Pixel 7aの実機を試用し、そのコスパをチェックした

廉価なのにミッドレンジじゃないaシリーズ、処理能力は上位モデル並み

 廉価モデルとはいえ、Pixel 7aは厳密な意味でのミッドレンジモデルではありません。チップセットが、上位モデルのPixel 7と同じ「Tensor G2」だからです。

 スマホのパフォーマンスは、CPUやGPUだけでなく、メモリやストレージ、さらにはディスプレイやタッチパネルなど、さまざまな要因に左右されるものの、アプリなどの処理能力については上位モデルと同じというわけです。実際、ベンチマークを取っても、その数値はほぼほぼPixel 7と変わりません。

発売前で「Geekbench 6」がインストールできなかったため、「AnTuTu Benchmark」で性能をチェック。左がPixel 7a、右がPixel 7

 操作感などの体感も、Pixel 7との大きな違いはありませんでした。リフレッシュレートもPixel 7と7aでは差がなく、スクロールなどは非常にスムーズです。

 もちろん、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアがしっかりチューニングされているのも、快適さの源泉。Androidの開発元であるだけに、レスポンスの気持ちよさは頭1つ抜けている印象があります。ミッドレンジの価格ながら、操作感などはハイエンド寄りと言えるでしょう。

aシリーズとして初めてリフレッシュレートが90Hzになり、ぬるぬる感がアップした

 また、Tensor G2を搭載しているため、Pixelシリーズでおなじみの文字起こし可能なボイスレコーダーや、翻訳機能などはそのまま利用することができます。キーボードの音声入力も、デバイス上で処理しているため、プライバシー的に安心感があります。aシリーズと言っても、そこから得られる体験はほとんど同じと言ってもいいでしょう。にも関わらず価格が安いので、コストパフォーマンスが高いと評されるのは当然です。

AIを駆使した機能も、上位モデルと同様に利用できる

 ハイエンドっぽさが感じられるのは、そのデザインによるところも大きいと思います。

 見比べてみれば分かるとおり、背面上部にカメラバーを配したデザインは、Pixel 7にそっくり。カメラバーの厚みなど、ディテールは異なりますが、遠目だと単純な色違いにも思えてきます。

 グーグルは、Pixel 6aから、aシリーズのデザインをより上位モデルに近づけていますが、Pixel 7でもそれは健在というわけです。鈍い光を放つフレーム部分も、Pixel 7のデザインランゲージを踏襲した部分です。

左がPixel 7、右が7a。背面のデザインはかなり近づけられている

ハードウェア差をAIでカバーしたカメラ機能、ワイヤレス充電も便利尾

 先に挙げたように、カメラバーの出っ張りが小さくなっているため、センサーなどのモジュールは変更されたことがうかがえます。

 画素数はaシリーズ初の64メガピクセル。ピクセルビニングにも対応しており、画素を束ねることで取り込める光の量が増え、暗所での撮影がしやすくなります。スペック的には、Pixel 7が50メガピクセル。一見すると、高画素になっているため、スペックアップしているようにも思えます。

カメラバーの出っ張りは、Pixel 7より少なくなっている

 ただし、カメラの性能はセンサーサイズや搭載されているメモリなどによるところが大きく、単純に画素数だけの比較では優劣が決められません。画素数は、どの程度のサイズのデータが作れるかを示す数値にすぎません。

 そこで実際の性能を比べるため、真っ暗な部屋で夜景モードをオフにしてフィギュアを撮影してみました。結果は以下のとおり。やはりPixel 7の方がPixel 7aよりノイズが少なくなっています。

左がPixel 7a、右がPixel 7。極限の環境だと、ピクセルピッチの差による違いが出る

 一方で、実利用時には、ほとんど見分けがつかないほど、キレイな写真が撮れます。コンピュテーショナルフォトグラフィーによって、画質を大きく底上げしているからです。

 夜景モードで撮った写真はご覧のとおり。100万ドルの夜景をキレイに映し出せており、ノイズ感も少なく仕上がっています。料理のディテールも精細感があり、ホワイトバランスも正確。こちらの写真はポートレートモードで撮ったものですが、背景が上手にボケています。

夜景モードで撮った写真。ノイズが少なく、黒潰れや白飛びも防がれている
ポートレートモードで撮影。前景のハンバーガーと背景がしっかり分離されている

 Pixel 7と同様、Pixel 7aも超広角と標準のデュアルカメラで、望遠カメラは搭載されていませんが、超解像ズームによる補正効果が高く、ズームも実用的でした。最大倍率は8倍。さすがにここまで寄ってしまうと、拡大時に画質が劣化していることは分かりますが、Pixel 7aのディスプレイ内で見るぶんには十分なクオリティ。望遠レンズを搭載した「Pixel 7 Pro」並みとはいきませんが、Pixel 7には匹敵しています。

望遠カメラは搭載していないが、超解像ズームで8倍まで寄ることが可能。さすがに劣化はしているが、デジタルズームとは思えないクオリティだ

 また、カメラ以外では、ワイヤレス充電に対応しているのも見逃せないポイント。Pixel 6aまではコストカットの一環として省かれてしまっていた機能ですが、Pixel 7aにはしっかり搭載されています。

 充電台に置くだけで充電できる気軽が、この機能の魅力。筆者もスマホはAndroid、iPhone問わずにワイヤレス充電を使っていますが、一度慣れると便利さゆえに手放しづらくなります。ハイエンド並みの使い勝手を実現するという意味では、やはり対応していた方がいい機能と言えるでしょう。

ワイヤレス充電にも対応している

一部トレードオフもあるがコスパは高い、Pixel 7との価格差は?

 では、単純にPixel 7を値下げしただけのモデルかというと、そう単純な話ではありません。安いには安いなりの理由もあります。

 たとえばボディはその1つ。先に挙げたように、デザインテイストはPixel 7に似せていますが、フレーム部分の厚みは目立ちます。逆に、こちらの方が持ちやすいと言えば持ちやすいので、必ずしも劣っているわけではないものの、見栄えやポケットへの収納という観点では薄い方がベターです。

 また、ディスプレイ周りのベゼルがやや太いのも、Pixel 7とのデザイン上の違いと言えます。

 狭額縁を攻めていくと、やはりコストは高くつくため、こうした違いは価格にも跳ね返ってきます。

 一方で、厚みと同様、この程度の差分であれば気にならない人はまったく気にならないレベル。カメラのように、ソフトウェアやAIでカバーしている面もあります。こうした 細かな部分でコストを削りつつ、売りとなる機能面を上位モデルに可能な限り近づけたのがPixel 7aです

ディスプレイの周りのベゼルはPixel 7比でやや太い

 金額差は、 Pixel 7が8万2500円なのに対し、Pixel 7aが6万2700円で1万9800円 。約2万円もの違いがあるとは思えないほどで、今回もコストパフォーマンスは高いと言えるでしょう。

 スペック面では、これまでPixelが対応してこなかったドコモのn79(4.5GHz帯)をサポートしている点も見逃せません。これは、おそらくドコモがPixel 7aの取り扱いを決めたためですが、Pixel 7はもちろん、Pixel 7 Proもn79には非対応だったため、廉価モデルながら通信面ではアップグレードにもなっています。

 一方で、Pixel 7の8万2500円というのは、あくまで直販価格。いわば“定価”に近い価格です。

 店頭を見ると、Pixel 7は特にキャリアや販売店が手厚く購入補助を乗せ、割安になっているケースが多々あります。実際、筆者も2月に某家電量販店で2万3309円引きのau版Pixel 7を購入しています。Pixel 7は、キャリアの方がやや高かったものの、割引適用でその価格は6万4001円まで下がっていました。販路の違いこそあれど、Pixel 7aとの違いは、たったの1301円です(笑)。

上位モデルが安く販売されていることもあり、価格差が縮まっている

 Pixel 7aがいい端末なのは確かですが、1300円程度の違いであれば、ハードウェアスペックの高いPixel 7を買ってしまう人も多いでしょう。逆に、Pixel 7aに同レベルの割引がつけば、価格は4万円を下回ります。ハイエンドモデルに準ずるスペックを持った端末がここまで安ければ、まさにお買い得。黎明期のフラッグシップモデルに近い価格で、買いやすいことは間違いありません。提供キャリアが3キャリアに広がり、価格競争も激化しそうなため、割引情報にも注目しておきたいところです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya