石野純也の「スマホとお金」
楽天モバイル「0円廃止」徹底分析、それでも使い続けるべきユーザーは?
2022年5月19日 00:00
本連載第1回で、「タダより“安い”ものはない」と評価していた楽天モバイルの料金プランですが、残念ながら6月いっぱいで終了してしまうことになりました。
同社は、7月1日に「UN-LIMIT VII」を導入。大枠は現行の料金プランである「UN-LIMIT VI」と同じですが、0GBから1GB以下の0円がなくなり、1GB超3GB以下に統合されます。そのため、最低利用額は0GBから3GB以下の1078円になります。
3GB超20GB以下や、20GB以上の使い放題に関しては「UN-LIMIT VI」と同じ。 既存のユーザーは、8月までは割引で、9月と10月はポイントバックで実質0円になりますが、それ以降は最低1078円の料金がかかります。
一方で、楽天ポイント連携は強化され、ユーザーは+1%から+2%に、ダイヤモンド会員の場合は+3%になります。こちらに関してはキャンペーンという位置づけで、追加になる+1%は上限が1000円と定められています。
0円でサービスを続けるのは、事業者側にとって厳しいことは理解できるものの、あくまで正式な料金プランだったため、わずか1年半で終了してしまうのは残念でなりません。
1GB以下のユーザーはUN-LIMIT VIIで値上げに、音声通話中心なら利用価値も
UN-LIMIT VIの場合、1GB以下は0円で高速通信が利用できていたため、楽天モバイルにとって管理コストが高くつきすぎたというのはUN-LIMIT VIを廃止する要因の1つと言えそうです。さらに楽天モバイルの場合、ユーザーが利用したエリアによっては、ローミング費用が発生します。約款では1GBあたり約500円が定められており、1GBギリギリまで使われてしまうと、そのぶん赤字幅が大きくなります。
「Rakuten Link」の負担も小さくないでしょう。同アプリを利用した通話には通話料がかかりませんが、他キャリアに電話をした場合、裏では他キャリアから楽天モバイルに対してアクセスチャージが発生しています。その額は、19年度で大体3分7円から10円程度と言われていますが、ユーザーは無料で利用できてしまうため、電話をかけられればかけられるほど、楽天モバイル側の負担は大きくなります。
もともと、同社は楽天経済圏全体が底上げされることを狙い、1GB以下の料金を0円に設定していました。通信料は0円でも、それを補うだけ楽天市場で買い物をしたり、楽天トラベルで旅行をしたり、楽天ペイで決済したりすればいいという考え方です。もっとも、楽天モバイル契約者は、楽天市場などでのポイント還元も1%上がっていたことから、経済圏の拡大にもコストがかかります。皮算用でスタートしてはみたものの、始めてみたら割に合わなかったということなのかもしれません。
ユーザー視点で見ると、1GB以下で収まっていた場合、料金が1078円に上がってしまうことになります。 そのまま維持し続けるかどうかは、音声通話や楽天経済圏の依存度で変わってきます。
例えば、純粋にデータ通信だけを月に1GB程度使っていた人は、料金が一気に1078円に上がる計算になり、少々割高感があります。MVNOであれば、日本通信が1GBプランを290円、IIJmioが2GBプランを850円で提供しているからです。3GB利用できるpovo2.0やLINEMOも990円で、わずかですが楽天モバイルより割安になります。
逆に、時間を気にせず通話をしたいというユーザーにとっては、1078円に料金が上がっても、楽天モバイルは割安な選択肢になります。 Rakuten Linkからの発信に限定されますが、1078円以外に通話料がかからないからです。
上で挙げた日本通信の場合、「通話かけ放題オプション」をつけると1890円、povo2.0で「通話かけ放題」トッピングをつけると1650円。音声通話に特化した使い方をするようであれば、1078円でもまだまだ競争力はあると言えるでしょう。
また、楽天市場で月に5万円の買い物をしていると仮定すると、楽天モバイル回線があればUN-LIMIT VIIぶんの追加ポイントが1000円相当付与され、3GB以下の場合の通信料とほぼ相殺できます。ダイヤモンド会員であれば、さらに追加で500円ぶんのポイントがもらえます。UN-LIMIT VIでは、5万円の買い物をした場合、0円で回線が使えてさらに500ポイントが追加でもらえていたため、これでほぼ同条件。 楽天経済圏への依存度が高い人にとっては、1GB以下が1078円に値上げされても、引き続き利用価値が高いと言えそうです。
2GB超のユーザーはポイントが増えるぶんだけお得に
もともと1GBを超えていたユーザーは、こうした損益分岐点のような考え方をする必要もありません。料金が変わらず、付与されるポイントが上がるだけだからです。
先に挙げた楽天市場で月に5万円使い、かつダイヤモンド会員の場合、UN-LIMIT VIでは500ポイントだったポイントが1500ポイントに上がるため、毎月1GB超3GB以下のデータ利用量だとすると、実質的な料金が1000円下がる計算になります。楽天モバイルの場合、料金の支払いにポイントも充当できるため、無料で使える範囲が拡大すると考えることもできなくはありません。
3GB超20GB以下や20GBを超過した場合も同様です。このときの料金は2178円ですが、楽天市場で5万円買い物をすると、ポイントが1000ポイント多くもらえるようになります。差し引きすると1178円になり、20GBプランとしては破格の安さになると言えるでしょう。この部分の料金はUN-LIMIT VIIになっても変わっていないため、キャンペーンがあるぶん、単純に得をするだけです。
UN-LIMIT VIIで料金を帳消しにするだけのポイントをもらおうとすると、ダイヤモンド会員で楽天市場での買い物額を7万円に上げる必要があります。また、20GBを超過すると使い放題になり、料金は3278円にアップしますが、楽天市場での買い物を10万円すれば、楽天モバイルの契約で計2000ポイント、ダイヤモンド会員で1000ポイントを得られるため、この場合の料金はわずか278円。毎月10万円も楽天市場で使うのか……という話ではありますが、 もともと有料で料金を払っていたユーザーは少なくとも損をすることはありません。
ユーザー視点ではポイント還元率が上がるUN-LIMIT VIIですが、楽天モバイルとしては、経済圏の結びつきを強固にしたと言うことができそうです。
実際、UN-LIMIT VIIの発表会では、Rakuten Linkから楽天エコシステムの利用が1年で28.5倍、キャンペーンを打つことでトラフィックが36.5倍に上がるデータが示されていました。コミュニケーションアプリであるRakuten Linkを起点にしながら、楽天グループが持つ他のサービスへ送客していくのが同社の戦略です。
低利用料のユーザーを切り捨てつつ、グループ連携を強化したプラン
このようにUN-LIMIT VIIを見ていくと、楽天モバイルの狙いが浮き彫りになります。 0円で維持しつつ、楽天グループの他のサービスをほとんど利用しない、または利用頻度の低いユーザーには、解約されてもやむなしという判断をしていることが伺えます。
発表会でも、楽天モバイルの代表取締役社長、矢澤俊介氏が「離脱に関してはもちろんゼロではないが、ほとんどに残っていただけるのではないか。データ利用が少ない方でも、楽天市場でのお買い物にメリットがある」と語っています。
一方で、データ量が多いユーザーで、それなりに楽天市場を利用しているユーザーにとっては、ポイント還元を通じた値下げになっています。 毎月もらえるポイントが増えるため、その還元ぶんを当てにデータ使用量を増やしたり、還元率が上がることでより楽天市場での買い物をしたりといった変化が考えられます。その意味では、トラフィックの底上げを図りつつ、楽天ポイントを通じたグループ連携を強化したと言えるでしょう。
「UN-LIMIT VII」の発表会で、同プランを「間違いなくくる大容量時代に合わせた新しいプラン」(同)と評していたのは、そのためだと思われます。年々伸びているデータトラフィックに合わせ、データ使用量の多いユーザーを優遇しつつ、楽天グループのエコシステムを強化するという狙いがあるというわけです。
1GB以下の料金値上げが取りざたされがちですが、経済圏にどっぷり浸かっている人にとっては、悪くない新料金プランです。
料金プランの自動移行は、あからさまに切り捨てられるようにも見えてしまうため、対象となる人の気分はあまりよくはないはずです。「UN-LIMIT VI」の特性を生かし、タブレットなどのサブ回線として利用していた場合にも、使い勝手が悪くなります。ほとんど使わない月でも、1078円の料金がかかってしまうからです。
同社では電気通信事業法27条の3を挙げ、既存ユーザーの囲い込みにつながる懸念から、料金プランを自動移行にしたと説明していますが、このロジックも、あまり納得できるものではありませんでした。
キャリアが特定の条件下でのみ料金が安くなる旧料金プランを残すことは、過去にもあったからです。同社の想定以上に0円で維持するユーザーが多かったのかもしれませんが、さすがにそれは見通しが甘いと言わざるをえません。料金プランを改定する前に、回線をもっと使ってもらえるような工夫をしてもよかったのではないかと感じています。