石野純也の「スマホとお金」

スマホデビューにおすすめの料金プランを一挙解説――「マイグレ風」とは何だったのか?

 「マイグレ風」と呼ばれる詐欺事件が、7月8日、大手新聞各紙に報じられました。マイグレとは、マイグレーションの略語で、携帯電話業界では世代交代に伴う「巻き取り」を意味しています。業界関係者の間では、一般的な用語で、記者会見などの質疑応答でも普通に使われています。ただし、ここで事件になったのは、あくまでマイグレ“風”。マイグレを装って契約したことが、詐欺にあたると警察に判断されたようです。

 では、なぜ犯人はわざわざマイグレであることを偽装する必要があったのでしょうか。ここでは、その理由とともに、3Gケータイを利用するユーザーに向け、各社が用意している特別な料金プランを紹介していきます。

各社とも、3Gケータイからの乗り換える際に、端末割引や専用料金プランを用意している。写真はドコモが最後に発売したiモード機の「P-01H」

なぜマイグレが悪用されたのか、鍵は端末割引にあり

 マイグレ風が問題視されているのは、一言で言うと、虚偽の情報を元に、お得な価格で端末を購入しようとしたり、安価な料金プランを契約しようとしたりしていたからです。特に前者の端末は、割引が大きくつくことで転売益を上げることが可能だったと見られています。確かに、マイグレの場合、通常の機種変更はもちろんのこと、MNPや新規契約よりもお得になるケースが多々あります。

 以下は、ソフトバンクの事例ですが、3Gケータイからの乗り換えに限り、一部の端末では10万円を超える割引が提供されています。さすがに発売されたばかりの最新モデルというわけではありませんが、「iPhone 12 Pro Max」の512GB版は13万8960円もの値引きが提供されていることが分かります。ソフトバンクでは、同モデルが15万4080円(本稿執筆時の7月12日まで)に設定されており、差し引きすると1万5120円にまで価格が下がります。

ソフトバンクの「3G買い替えキャンペーン」で適用される割引額一覧。高額な機種ほど、割引額が多くなっているのが分かる

 割引は2万2000円までに制限されていたのでは……と思う方もいるかもしれませんが、マイグレに関しては通信方式のスムーズな移行を実現するための「例外」として規定されています。端末価格がネックで、古い世代の通信方式を使い続けられてしまうと、周波数の有効利用もできません。そのため、ここだけは2万2000円を超える割引を設定しても問題なしとされています。

総務省のガイドラインにも、通信方式の変更や周波数移行に伴う割引は規律の例外に挙げられている

 この割引を、不正な方法で得ようとしたのがマイグレ風と呼ばれている詐欺事件です。同じ会社同士のシステム変更だと、顧客情報を見ればすぐに分かってしまうため、チェックがしづらいMNPが利用されていたようです。こうした不正があることは総務省でも問題視されており、MNPの場合でも契約している料金プランを厳格に確認するようになりました。先に挙げたソフトバンクの例でも、MNPの場合の割引適用条件として、電話番号と料金プランの名称が確認できる請求書などの提示と、その確認・撮影が条件に挙げられています。

MNPのように、確認がしづらいところを狙われたとみられる。現状では、請求書などの提示が条件になっている

 もちろん、本当に3Gケータイを使っていて、スマホに乗り換える際にこの割引を利用するのは何の問題もありません。「ケータイ Watch」の読者にそんな人がいるのか、そもそもこの記事自体も4Gや5Gのスマホで読んでいるのでは……という気がしないでもありませんが、2台目として維持していたケータイを機種変更するような場合には利用可能。3Gケータイのままだったシニア世代の家族に利用してもらうのも手です。ここからは、そんな人にお勧めの料金プランを紹介していきます。

1GB~3GBで5分間の音声通話つき、お得なマイグレ専用プラン

 3Gケータイから移行する際のもう1つの特典が、専用の料金プラン。マイグレ風で逮捕された人にはあまり関係がないかもしれませんが、元々の価格が安い端末はいくらでもあるため、本当に3Gケータイから移行する人にとってはこちらの方が重要と言えるでしょう。ドコモの「はじめてスマホプラン」や、auの「スマホスタートプラン(フラット)」、ソフトバンクの「スマホデビュープラン」がそれに当たります。名称は異なりますが、その内容は非常に似通っています。

 ざっくりまとめると、2000円前後で低容量のデータ通信量がつき、5分間の音声通話準定額がコミコミになっているというもの。1年間だけ割引が効き、1000円前後で利用できるのも3社の料金プランの共通点です。ただし、細かく見ていくとわずかながら違いもあります。たとえば金額に関しては、ドコモが1815円と3社の中で最安。12カ月目までは1078円で他社より少しだけ高くなるケースもありますが、13カ月目以降の1628円も最安です。

ドコモのはじめてスマホプランは、1628円で利用可能。1年目は1078円。データ容量は1GBになる

 元々は1815円ですが、14カ月目以降を1628円にするには、「dカードお支払割」で187円の割引を受ける必要があります。dカードお支払い割は、dカードやdカードGOLDで料金を支払っている場合に適用される割引サービスです。データ容量は1GB、音声通話は5分まで無料。データ通信よりも音声通話の利用が多いユーザーに向けた料金プランと言えるでしょう。3Gケータイからスマホに乗り換えたユーザーが、徐々に慣れていくために設定されたプランという見方もできます。

 金額はソフトバンクが2178円、auが2288円で、ドコモより少々割高です。ただし、auは「au PAYカードお支払い割」を適用した場合、ソフトバンクと同額の2178円に料金が下がります。この2社に関しては、ほぼ同水準と考えておけばいいでしょう。1年限定の割引を適用した際の料金も同額の990円で、ドコモよりわずかですが安くなります。

条件には微妙な違いはあるが、auとソフトバンクはほぼ同額。ドコモより若干高いものの、そのぶんデータ容量が多い

 ただ、料金が高めなぶん、auとソフトバンクはデータ容量が多くなっています。2社とも、基本のデータ容量は3GB。ソフトバンクは、3Gケータイからの乗り換えで、契約翌月から12カ月間、2GBが追加されます。ドコモやauでもデータ容量が最大5GBになるキャンペーンを実施していますが、ドコモは15歳以下限定、auは22歳以下限定。乗り換えというより、新規契約が主なターゲットです。いずれにせよ、3GBあればスマホもある程度使えそうで安心感があります。ドコモのデータ容量の増量にも、期待したいところです。

待受け特化ならMVNOもお勧め、500円以下の料金プランも

 大手キャリアのメインブランドでありながら、マイグレ専用の料金プランは割安感があることが分かります。料金水準は、MVNOに近いと言えるでしょう。たとえば、IIJmioでデータ容量の近い「2ギガプラン」を選んだ場合、料金は850円。5分間の音声定額「みおフォンダイアル 通話定額5分+」をつけると、1350円になります。6カ月間は料金が640円に下がりますが、1年間1078円、13カ月目以降1628円のドコモと比べると、その差は300円もありません。

 もっとも、こうした料金プランはスマホに機種変更して、そこそこ利用することが前提になっています。今、3Gケータイを利用しているユーザーの中には、ほぼ通話の待受けだけのために回線を維持している人もいます。1年限定で1000円前後まで料金が下がるとはいえ、2年目以降を考え、より安価な料金プランを選ぶ手はあります。たとえば、オンライン専用料金プランであれば、維持費は990円まで下げられますし、MVNOにもより安価な料金プランが用意されています。

 ドコモのエコノミーMVNOにラインアップされているOCN モバイル ONEは、そんなMVNOの1つ。エコノミーMVNO参画時に加わった550円プランは、まさにマイグレ狙いの料金です。550円プランはデータ容量が500MBと極小ですが、1カ月につき10分までの音声通話が利用できます。たまに通話だけするという使い方にはぴったりの料金プランと言えるでしょう。

OCN モバイル ONEの500MBプランは、550円で月10分までの音声通話が無料になる

 HISモバイルの「自由自在290プラン」も、格安で維持できる料金プランです。こちらは、毎月のデータ通信量が100MB未満の場合、290円まで料金が下がります。音声通話は30秒9円と大手キャリアより安く、通話中心のユーザーにはお勧め。5分間の音声通話定額をつけても、100MB未満のときには790円しかかかりません。

HISの自由自在290プランも安い。電話の待受けが中心という人には、お勧めできそうな料金プランだ

 このように、3Gケータイからの巻き取りを狙った料金プランは、大手キャリアだけでなく、MVNOも続々と投入しています。KDDIはすでに3Gのサービスを終了していますが、ソフトバンクが24年1月下旬、ドコモが26年3月31日に3Gの停波を予定しており、一定の市場規模が見込めるからです。冒頭の話に戻ると、マイグレ風は、そんな過熱した市場の競争環境を悪用した詐欺と見ることもできます。まさに「This is not good for the market」を地でいく事件だったと言えるでしょう。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya