石野純也の「スマホとお金」
ドコモの「エコノミーMVNO」を深掘り! 少ないデータ量で十分な人にぴったりなプランの特徴と魅力とは
2022年6月16日 00:00
前回の連載で、ドコモには「ahamo小盛り」に相当する料金プランがないことを説明しましたが、その役割を担っているのが、「エコノミーMVNO」です。エコノミーMVNOは、ドコモと提携したMVNOのこと。回線自体はドコモから借り、MVNO側が運営していますが、ドコモショップで取り扱われているのが通常のMVNOとの大きな違いと言えるでしょう。dポイントの導入も必須条件になっており、ドコモと同様、毎月の料金に対してdポイントが付与されます。ドコモは、このエコノミーMVNOを「小容量をカバーする料金」と位置づけています。
現在、このエコノミーMVNOの枠組みに参画しているのは、NTTコミュニケーションズのOCN モバイル ONEと、フリービット傘下のトーンモバイルの2社。ざっくり言えば、前者が比較的他社のサブブランドやMVNOに近い料金体系なのに対し、トーンモバイルは子どもやシニアに特化したやや特殊な料金やサービスを提供しています。
なお、OCN モバイル ONEは7月にNTTレゾナントに運営が移管される予定。移管後のNTTレゾナントはドコモの100%子会社になるため、MVNOではありますが、ドコモのグループ会社の1社で、資本関係的にも経営方針に影響を与えることが可能です。事実上のサブブランドと言えるかもしれません。ここでは、エコノミーMVNOの料金体系を見ていくとともに、他社のサブブランドに対抗できるサービスなのかを考察していきます。
小容量から中容量の一部をカバーしたOCN モバイル ONE
NTTコミュニケーションズのISPであるOCNのモバイル回線サービスとして誕生したOCN モバイル ONEですが、現在はエコノミーMVNOとして、ドコモの料金プランを補完するような役割が強くなっているように見えます。エコノミーMVNOの開始に近いタイミングの2021年4月に料金プランを改定し、中容量帯を選択できなくなったからです。ahamoで中容量プランを提供するドコモとの住み分けを図った料金体系にシフトした、とも言えるでしょう。
OCN モバイル ONEの現状の料金プランは、500MB、1GB、3GB、6GB、10GBの5段階に分かれており、「500MB/月コース」には、月に最大10分の無料通話がついています。データ容量をご覧になっていただければ分かるように、ahamoより下の容量帯を網羅しているのが分かります。料金は、それぞれ500MBが550円、1GBが770円、3GBが990円、6GBが1320円、10GBが1760円。1GB以上のコースの場合は、OCN光を契約しているとセット割が適用され、それぞれ220円ずつ料金が下がります。
ちなみに、OCN モバイル ONEにはデータ通信専用SIMカードと音声通話ができないSMS対応SIMカードの2つもあります。いずれも3GB以上のコースのみで、SMS対応SIMカードに関しては、上記の音声通話対応SIMカードと料金的な差がなく、単に通話ができないだけなので、契約する意味はありません。データ通信専用SIMカードに関しては、3GBが858円、6GBが1188円、10GBが1628円と、わずかですが、音声通話対応SIMカードよりも料金が割安になります。2回線目が必要で料金を抑えたいようなケースでは、こちらを選ぶといいかもしれません。データ容量は1カ月間繰り越しができ、無駄なく利用できます。
ドコモショップで契約が可能なOCN モバイル ONEですが、料金体系を見ると、他社のサブブランドよりも、やや低めに料金が設定されていることが分かります。たとえば、サブブランドの最小容量プランと直接バッティングする「3GB/月コース」は990円ですが、KDDIのUQ mobileでは1628円、ソフトバンクのワイモバイルでは2178円に設定されています。ワイモバイルとの比較では半額以下、UQ mobileの6割程度の料金というのは、かなり割安感があります。
もっとも、UQ mobileは「auでんき」や固定回線とのセット割を提供した場合、3GBプランの料金はOCN モバイル ONEと同額の990円まで下がります。ワイモバイルに関しては、2回線目以降に「家族割引サービス」が適用されると料金は990円になり、いずれもOCN モバイル ONEと横並びです。こうした条件がなく、単純に回線を契約するだけで3GBが990円になるのがOCN モバイル ONEの強みです。
また、サブブランドにはない、500MBや1GBのコースが用意されている点も、OCN モバイル ONEの魅力です。こうした料金プランは、フィーチャーフォン(ガラケー)を使っていたユーザーの受け皿になります。3Gのユーザーをもっとも多く抱えており、サービス終了までに移行を進めなければいけないドコモグループならではの料金設定です。
一方で、他社のサブブランドには15GBや25GBのプランがあり、中容量プランが充実しています。これに対し、OCN モバイル ONEの料金プランは10GBまで。ドコモとして、それ以上のデータ容量はahamoに寄せていることが分かります。その意味で、OCN モバイル ONEの役割は、他社のサブブランドとはやや異なっています。
通話料に関しても、OCN モバイル ONEは標準の料金が30秒11円と他社の半額。ドコモと比べても半額で、音声通話が多い人にはお得感のある設定です。これは、OCN モバイル ONEが、交換機側で自動的に中継電話サービスのプレフィックスを付加する「オートプレフィックス」に対応しているため。NTTコミュニケーションズの設備を使うことで、料金を抑えています。「10分かけ放題」(935円)や「完全かけ放題」(1430円)だけでなく、通話料の高い上位3つが無料になる「トップ3かけ放題」(935円)といった独自性のある音声サービスがあるのも、OCN モバイル ONEの特徴です。
サブブランドとの違いは、MVNOならではの制約
ただし、サブブランドとは異なり、運営元がドコモではないため、MVNOならではの制約は受けます。回線の速度は、その1つ。MVNOは大手キャリアから回線の“帯域”を借り、ユーザーはその帯域をシェアする形になります。全ユーザーが一斉に通信しても十分な帯域が確保できていれば、理論上は大手キャリアと同じ速度が出ますが、それをするとコストが膨大になりすぎてしまいます。これはかなり極端な例ですが、ピーク時のトラフィックに合わせただけでも、現状の料金ではビジネスが成り立たないと言われています。
ドコモの子会社とはいえ、OCN モバイル ONEもMVNOの1つであることに変わりはありません。そのため、時間帯によっては、同じドコモ回線でもドコモ本家が提供する回線より、速度が低下することがあります。以下は、筆者が契約するドコモ回線とOCN モバイル ONE回線でそれぞれ正午過ぎにスピードテストをしてみた結果のスクリーンショットです。ドコモ回線が「Galaxy Z Fold3 5G」、OCN モバイル ONE回線が「iPhone 13 Pro」と端末に違いがあり、通信性能が同一ではないため一概には言えませんが、OCN モバイル ONEの速度の方が遅くなっていることが分かるはずです。
サービス面では、大手キャリアとは異なり、国際ローミング時のデータ通信に非対応。細かな点では、iPhoneを利用する際に構成プロファイルが必要になるのも、MVNOとしての制約と言えるかもしれません。UQ mobileやワイモバイルでは、公式にiPhoneが販売されていることもあって、SIMカードを挿すだけで通信を利用できますが、OCN モバイル ONEでは構成プロファイルをインストールして、APN(Access Point Name)を設定する必要があります。これも、ドコモとは別会社として運営されているがゆえでしょう。
ただし、通信品質に関しては、あくまでドコモと比べたらの話で、MVNOの中では優秀です。先ほどの結果も、ドコモ回線よりは遅いというだけの話で、100Mbpsも出ていれば、スマホでの実利用ではほとんど差を体感できないでしょう。大容量のアプリをダウンロードするなど、データサイズが極端に大きくなければ十分実用的な速度です。正午から午後1時までの間は、いわゆるビジネスパーソンがお昼休みを一斉に取ることが多く、MVNOにとっては“鬼門”と言われる時間帯。MVNOによっては、1Mbpsを下回ってしまうこともありました。
現在では帯域を増強するなどして、もう少し速度が出るようになっていますが、それでもやはり顕著に速度が低下するMVNOは少なくありません。この時間帯に安定して100Mbps前後の速度が出るMVNOは、非常に珍しいと言えるでしょう。品質面に関しては、大手キャリアそのものであるサブブランドよりは劣る部分があるものの、MVNOとしてはトップクラス。両者の中間的な立ち位置にいるのが、エコノミーMVNOとしてのOCNモバイルONEと言えそうです。
1100円で容量制限がないトーンモバイル、独自の料金体系は魅力
MVNOやサブブランドと直接的に競合するOCN モバイル ONEに対し、トーンモバイルはいわば“変化球”とも言えるサービスを展開しています。ターゲット層はシニアと子ども。トーンモバイルが独自に開発した見守りサービスを展開しており、ドコモショップではその契約をすることもできます。トーンモバイルのサービスは、iPhone用とAndroid用に分かれていますが、料金は共通。基本料は、いずれも1100円です。
料金体系も独特で、一般的なキャリアやMVNOとは異なり、データ容量に制限は設けられていません。見守りサービスの「TONEファミリー」(308円)や、フィルタリングサービスの「あんしんインターネットオプション」(110円)といったオプションはありますが、基本料は1100円の1つだけ。このプランで、無制限にデータ通信を利用できます。通信速度に対する制限も、特にかけられていません。
ただし、データ通信量が多くなる動画の視聴や、アプリのダウンロードはブロックされています。こうしたコンテンツを利用したいときには、「動画チケットオプション」を購入する仕組みです。こちらの料金は、Androidの場合、1GBあたり330円。iPhoneは370円。有効期限は31日間に設定されており、期間内に最大で10GBぶん、3300円(もしくは3700円)まで購入が可能になっています。
また、先ほど説明したとおり、MVNOは大手キャリアから借りた帯域をユーザーがシェアする仕組みで成り立っているため、無制限とはあまり相性がよくありません。ユーザーの通信が殺到してしまうと、それだけ通信速度が低下してしまうからです。トーンモバイルも、混雑時には速度が低下することが指摘されています。その時の通信量や総帯域の量にもよるため、状況は日々変わっていくものですが、波があるのは事実。少なくともこの価格で、キャリアと同程度に速度が出る使い放題は期待しない方がいいでしょう。
もっとも、1100円でほかのMVNOを使おうとすると、3GBなり4GBなりの制限がつきます。容量を超過してしまうと、通信速度が大幅に制限されるため、多少速度にムラがあっても、使い放題で1100円であれば、十分お得感があるとも言えます。動画視聴やアプリのダウンロードはWi-Fi接続時のみと決めている節約派にとっては、使い勝手がいいプランかもしれません。
実際、トーンモバイルがエコノミーMVNOとしてサービスの提供を始めてからは、ターゲットにしていた子どもやシニア以外のユーザーが契約する事例が増えているそうです。トーンモバイルを率いるフリービットの代表取締役社長CEO兼CTO、石田宏樹氏は、2月に開催された記者会見で、「エコノミーMVNOに参画したことで、元々対象としていなかった現役世代が、ティーン層と同じぐらい取れてきている」と語っています。見守りサービスを売りにしたトーンモバイルですが、料金体系的にも注目しておきたい1社と言えるでしょう。