本日の一品

3Dプリンタ製の指先玩具を遊び倒した、バネなし一体成形フィジェットトイの面白さ

3Dプリンタ製Fidgetたちを一気に購入、中央のカラフルな4種

 最近では100円ショップから専門店まで、指先で遊ぶ小さな玩具を見かける機会が増えた。こうした製品は一般に「Fidget Toy(フィジェットトイ)」と呼ばれる。一方でガジェット好きの間では「Gadget(ガジェット)」や「Widget(ウィジェット)」といった言葉もよく使われる。Gadgetは便利な小道具や電子機器、Widgetは小さな部品や機能要素を指すことが多い。そしてFidgetは、手持ち無沙汰な時につい触ってしまう玩具である。

 もちろん境界線は曖昧だ。面白い動きをする小物はGadgetでもあり、Fidgetでもある。近年ではこれらが融合し、機能性よりも触感や操作感そのものを楽しむ製品群として一つのジャンルを形成している。

 筆者もこの世界とは浅からぬ縁がある。約8年ほど前、友人達と共にクラウドファンディングで「KACHA(Reboot Anytime)」というFidgetを販売した。想定以上に長寿命な製品となり、現在でもMakuake StoreやAmazon、さらにはマイコン博物館などで細々と販売が継続されている。

8年前に開発したKACHAは今も細々と販売中

 キーボードのキースイッチを利用した単純な製品でありながら、「ただ押すだけ」が意外と奥深い。人間は昔から意味もなくボールペンをノックしたり、机を指で叩いたりしてきた。Fidgetとは、その衝動を商品化した世界なのである。

重量感が魅力のメタル製Fidget

 そんな変態的な小物が大好きな筆者は、現在でも海外ECサイトを巡回しながら怪しい新製品を探している。そして昨年あたりから急激に増え始めたのが3Dプリンタ製のFidget Toyである。

 以前なら金型製作が必要だった製品も、今では設計データさえ作れば即座に商品化できる。思い付いたアイデアをそのまま形にし、小ロットで販売できる環境が整った結果、実に奇妙な製品が次々と登場している。

KACHAから7年。キースイッチ利用製品も多様化している

 もちろん金属加工による高級モデルも存在する。しかしアイデア勝負の世界では、開発速度こそが最大の武器だ。発想が突飛であればあるほど市場投入までの時間短縮が重要になる。そのため現在のFidget市場では3Dプリンタ製が圧倒的に有利なのである。

市販キースイッチのクリッカブル青軸を活用した製品群

 興味深いことに、筆者が購入した製品の多くはKACHAと同じく市販のメカニカルキースイッチを利用していた。1個だけ組み込んだシンプルなものから、多数のキースイッチを立体配置した理解不能なニギニギ玩具まで実に多彩である。

 中でも面白かったのがピアノ鍵盤風のモデルだ。キーボードでありながらキーボードらしくない発想が実に楽しい。

今回購入した新世代3Dプリンタ製Fidgetたち

 現在主流の多くは青軸系スイッチを採用している。クリック時の爽快感とタクタイル感がありながら価格も安い。一方、KACHAのスペシャルモデルでは、より重く深いクリック感を持つ緑軸も採用している。好みは分かれるが、筆者は今でも緑軸派である。この原稿も台湾TEX社の“Shinobiキーボード”で書いている。

信号機カラーで揃えた4モデル

 そして今回紹介する4種類は、それらとも少し違う方向性を持つ新世代のFidgetだ。基本的には押す、回す、弾くといった動作を楽しむ玩具なのだが、内部に金属スプリングを使わず、3Dプリンタだけで弾性構造を作り出している。

3Dプリンタならではの独創的機構

 設計者は本来なら金属部品が必要な場所を、樹脂のしなりや形状で代用している。コスト削減だけではない。組み立て工程も減らせるので、小規模製造との相性が極めて良い。

回転とクリック感を融合したモデル(大きい方は友人から頂いた)

 特に緑色のモデルは動画を見ていただくと分かりやすい。押し込まれる部分も、バネの役割を果たす部分もすべて一体成形で作られている。決して高級感があるわけではないが、設計者が試行錯誤した痕跡が感じられて実に面白い。

3Dプリンタは最終製品製造機へ進化中

 以前も本連載で触れたが、海外では3Dプリンタは試作品製造機という位置付けを既に超えつつある。今回のようなFidget Toyはその象徴だ。多品種少量、あるいは超少量生産の世界では、むしろ最終製品を直接作る機械として活躍している。

 日本でも3Dプリンタで玩具やアクセサリーを製作する人は増えている。しかしそれらが継続的な商品として流通する例はまだ少ない。テクノロジー系イベントやDIYイベントのマーチャンダイズとして、あるいは個人クリエイターの作品として、もっと気軽に販売されるようになれば面白いだろう。

 大量生産品では到底成立しないニッチなアイデアが、ネットを通じて世界中に届けられる時代である。今回のFidget Toyたちは単なる暇つぶし玩具ではない。3Dプリンタが生み出した新しいものづくり文化の、小さいながらも象徴的な存在なのである。