本日の一品

3Dプリンタが変えたアヒルの定義:シュールな「ゴリラダック」に魅せられて

 およそ1年前、筆者は「プリンセスダック」と「フランケンダック」という2羽のアヒルを手に入れた。自分でもその頃なぜそこまで惹かれたのか、その理由は今も判然としない。しかし、記憶の糸を辿ってみれば、筆者が結婚し、娘がまだ幼稚園児だった頃、大阪市内のマンションでアヒルを飼っていた時期があった。もちろんそれは本物の鳥であったが、その後の筆者の生活圏において、アヒルという存在は関心の外へと追いやられていたはずだった。

 ところが昨年、ECサイトの「Temu」でレジン製のデフォルメされたダックを見つけた瞬間、筆者の大脳が理性的判断を下す前に、指先が注文ボタンを押していた。いわば脊髄反射による衝動買いである。1週間ほどで届いた2羽は、製造工程上の多少の粗さは見受けられたものの、どこか愛嬌のある、それでいて一癖ある面構えをしていた。それが妙に気に入り、筆者のデスクの片隅に居座ることとなったのである。

 それから1年ほど、ダックのことはすっかり忘れていた。しかし今年に入り、筆者の「アヒル愛」に再び火をつける存在が現れた。3Dプリンタによって造形された超々軽量の「ゴリラダック」である。

 この「ゴリラ×アヒル」というハイブリッドなフィギュアは、驚くほどセンスが良い。3Dプリント特有の積層痕が、かえってこのシュールな造形にメカニカルな質感を与えており、掌に乗せると驚くほど軽い。この現代的な製造手法が生む独特の風合いが、筆者の収集欲を激しく揺さぶった。さらに、これに呼応するかのように「キャベツダック」なる、これまた奇妙なレジン製フィギュアも入手してしまった。

 素材や製造プロセスこそ違えど、ゴリラダックとキャベツダックが並ぶ姿は、見る者の言葉を失わせるほどのインパクト、そしてある種の「正解」を感じさせる。

 なぜ、今これほどまでにアヒル(ラバーダック)が改造(モディファイ)され、世界中で愛されているのか。そこには大人をも惹きつける、いくつかの「深読みしたくなる背景」が存在する。

 第一に、IT業界における「守り神」としての側面だ。エンジニアの間では「ラバーダック・デバッグ」という手法が知られている。プログラムのバグが解けない時、机のアヒルに向かってコードを一行ずつ説明していく。言葉に出すことで自らの論理ミスに気づくというこの手法により、IT系のデスクにはアヒルが鎮座していることが多いのだ。

 第二に、昔、米国のUCLAに留学していた友人から聞いた興味深い文化がある。「Duck Duck Jeep(ダック・ダック・ジープ)」だ。これは、街中で素敵なジープを見つけた際、そのドアノブにメッセージ付きのアヒルを置いていくというオーナー同士の遊びである。仲間意識の証として、個性的なアヒルを車内にストックするユーザーが世界中に広がっているという。

 そして第三に、「究極の普通」が生み出すギャップ萌えだ。アヒルは本来、平和やお風呂、子供の象徴であり、究極に無害な存在である。その記号的なアイコンに、ゴリラやホラー、ヒーローといった異質な要素を掛け合わせることで、強烈なユーモアとシュールさが生まれる。かつてお風呂で遊んだ記憶を持つ大人が、その「無害さ」が裏切られる瞬間にワクワクしてしまうのは、ある意味で必然と言えるだろう。

 こうした3Dプリント製のフィギュアは、今や世界中のクリエイターがデータを公開しており、日々新しい「ハイブリッド・ダック」が誕生し続けている。多くがTemu等でリーズナブルな価格で購入可能だ。

 筆者は、この2年で集まった4羽の異分子たちを、より「自己満足」の極みとして飾りたくなった。そこで、ベースとして背景で遊ばせる200羽もの極小の黄色いダックを追加購入してしまった。もはや後戻りは出来ない。

 この圧倒的な数の黄色い海の中に、プリンセス、フランケン、キャベツ、そしてゴリラを配置する。すると、個性の強すぎる彼らが一つの「ファミリー」として調和し、より一層の愛おしさを放ち始めたのである。

 多様なバリエーションを持つ現代のダックは、単なるリビングやキッチンのインテリア的ガジェットだけでは収まらない。毎日が単調になりがちなSNSの投稿において、これほど視線を奪うアクセントアイテムもないだろう。

 現代のテクノロジーを活用すれば、AIにこのダックたちを主人公にした童話を書かせ、読み上げることも演技させることも容易だ。お子さんやお孫さんとのコミュニケーションツールとしても、これ以上の「ネタ」はないはずだ。

 かつてお風呂の片隅にあった黄色い玩具は、いつの間にか大人の知的好奇心とユーモアを満たすフィギュアへと進化を遂げた。たかがダック、されどダック。この小さな黄色い存在が、我々の生活に小さな、しかし確かな彩りを与えてくれるのである。

製品名発売元実売価格
ゴリラダック(3Dプリンタ製)-490円
キャベツダック(レジン製)-650円