法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

カメラコントロールやAI対応で進化した「iPhone 16」シリーズは、買う? 待ち? 旧モデルならどれ?

 9月から販売が開始されたiPhoneの2024年モデル「iPhone 16」シリーズ。「あまり変わらないだろう」という予想を覆し、新たな操作系としてカメラコントロールを搭載する一方、アップルの生成AI「Apple Intelligence」への対応が表明されるなど、相変わらず、注目度は高い。

 本誌ではすでに速報記事や白根雅彦氏の連載「iPhone駆け込み寺」などで詳細な情報やレビューが掲載されているが、今回は「iPhone 16」シリーズ各機種と従来機種との違いなどを踏まえながら、「買い」と言えるのか、「待ち」が正解なのか、価格が下げられた「旧モデル」を狙うのか、今後の展開をどう捉えるのかなど、筆者から見たインプレッションをお届けしよう。

iPhoneの変わらない強さと弱み

 国内で半数近いシェアを持つアップルのiPhone。ライバル各社の攻勢もあり、一時期ほどの勢いはないとされるが、毎年9月の新機種発表は、本誌をはじめ、各方面で常に高い注目を集めている。iPhoneの強みは改めて説明するまでもないが、自らがプラットフォームとハードウェアを手がけているため、統一した世界観とユーザーインターフェイスで構成することで、優れたユーザビリティを実現していることが挙げられる。

 ライバル各社はフォルダブルスマートフォンを開発したり、デジタルカメラに迫るスペックを持つカメラを搭載したり、数十分でフル充電ができるようにしたり、最近ではAIへの対応を強化するなど、ハードウェアでもユーザビリティの面でもさまざまな拡充を図っている。しかし、それでも国内市場においては、iPhoneの人気は根強いとされる。

 とは言うものの、これまでも多くの記事で触れてきたように、iPhoneの『売れ筋』はここ数年で急速に変化してきた。たとえば、例年9月に発表される新機種を毎年のように買い換え、しかも上位モデルを選ぶといった傾向は、完全になりを潜め、「iPhone SE(第三世代)」などの普及価格帯のモデルや旧機種を選ぶユーザーが増えている。実際に販売されたモデルの構成比は、各携帯電話会社やアップルでしか把握できないが、おそらく最新機種よりも旧機種や普及価格帯のモデルが占める割合が増えていることは想像に難くない。

 街中を見ていてもその反響ぶりが垣間見える。例年9月中旬の発売日から数週間、大手家電量販店では店頭に在庫状況を掲示し、足を止める人も多く見かけたが、今や在庫状況の掲示をする店舗が減り、足を止める人も少ない。だからと言って、すべてのモデルの在庫が潤沢に揃っているのかというと、そうでもなく、家電量販店にせよ、各携帯電話会社の系列店(キャリアショップ)にせよ、売れ筋のモデルを中心に拡充しているため、在庫切れのモデルもいくつか見受けられる。もちろん、アップルの出荷も明らかにはされていないが、これまでと違うとされる。

 こうした状況の背景には、iPhoneに新鮮味が薄れていること、新しいトレンドへの対応が遅れていることなどが関係している。昨年の「iPhone 15」シリーズのレビューでも触れたが、コロナ禍で必須とされたマスク装着にFace IDの対応が大幅に遅れたり、一般的なスレート状のスマートフォンでありながら、複雑なヒンジ機構を備える折りたたみスマートフォンと同程度の重量にしてしまったり、多くのユーザーが求める暗所でのカメラ性能もライバル製品に遅れを取ったりと、全般的に進化がなく、コンサバティブで高価なスマートフォンという印象を強めてしまった。

 iPhoneが世界中で高い人気を持つスマートフォンであるがゆえに、新しいチャレンジをしにくいという事情もあるが、数々のイノベーションを起こしてきたアップルを知る人々にとっては、物足りなさを感じてしまう。新モデルが登場しても大きく変わらないという継続性の良さと受け取ることもできるが、変わらないがゆえの「つまらなさ」も顕著になってきたように見受けられる。

今年も4機種構成を継承

 iPhoneは2007年発売の初代モデル(米国版)から、2012年発売のiPhone 5までは、ストレージ容量の違いを別にすれば、基本的に毎年、ひとつのモデルが発売されてきた。2013年にはメインの「iPhone 5s」と別に、カラーバリエーションを揃えた「iPhone 5c」を発売したものの、この路線は1年でやめてしまい、2014年の「iPhone 6」シリーズからは画面サイズの違う複数のモデルをラインアップしてきた。

 当初は2モデルのみだったが、2019年の「iPhone 11」シリーズではスペックの高いProモデルをはじめて投入し、3モデル展開をスタート。翌2020年の「iPhone 12」シリーズからはProモデルとスタンダードモデルを2機種ずつに展開。5.4インチディスプレイを搭載したコンパクトな「iPhone 12 mini」をラインアップに加え、国内での販売増が期待されたものの、予想外の不振により、わずか2年で終了してしまい、2022年からは標準サイズと大画面サイズで、Proモデルとスタンダードモデルを構成する「(無印)」「Plus」「Pro」「Pro Max」という4機種を投入する方向に変更した。2023年に引き続き、2024年も4機種構成が踏襲され、今年は「iPhone 16」「iPhone 16 Plus」「iPhone 16 Pro」「iPhone 16 Pro Max」の4機種構成が発売されている。

 また、iPhoneに限らず、スマートフォンが一般的な用途において、成熟してきたこともあり、アップルはここ数年、一部の旧機種を一定期間、併売している。今年は「iPhone 16」シリーズの発表後、旧機種のProモデルの販売が終了になり、「iPhone 15」「iPhone 15 Plus」「iPhone 14」「iPhone 14 Plus」がそれぞれ値下げされて、併売されている。

 アップルがこうした併売を継続しているのは、やはり、全体的に価格が高騰してきたことが挙げられる。今年の「iPhone 16」シリーズは、昨年の「iPhone 15」シリーズから価格据え置きとなっているが、すでに数年前から値上げが続いていたため、相変わらず、「高価格路線」である印象は否めない。米国ではスタンダードモデルが799ドルから、Proモデルが999ドルからという価格設定が維持されているものの、為替レートや輸送コスト増などの影響もあって、国内ではすべてのモデルが12万円以上で、最上位モデルの最大容量モデルは25万円をわずかに切る価格が設定されている。

 サムスンの「Galaxy S24 Ultra」や「Galaxy Z Fold6」、Googleの「Pixel 9 Pro XL」や「Pixel 9 Pro」など、ライバルメーカーでも20万円を超えるモデルが続々と増えているが、フォルダブルなどの新しいフォームファクターでもなく、1インチイメージセンサーなどのハイスペックカメラが搭載されているわけでもないのに、半数以上が20万円超という「iPhone 16」シリーズの価格構成には不満を持つユーザーも少なくないようだ。

デザインを踏襲しながら、新しい操作デバイスを搭載

 外観について、チェックしてみよう。ここ数年、iPhoneは基本的なデザインを継承しているが、昨年の「iPhone 15」シリーズでは外部接続端子をLightning端子からUSB Type-Cに変更し、Proモデルではアルミフレームにチタン合金のバンドを巻く構造にして軽量化を図る一方、左側面の着信/消音スイッチをアクションボタンに変更するなど、比較的、大きな変更が加えられた。

 今回の「iPhone 16」シリーズも「iPhone 15」シリーズのデザインを継承しながら、本体側面に「カメラコントロール」と呼ばれる新しい操作系デバイスを加え、スタンダードモデルでは背面カメラのレイアウトを変更し、昨年のProモデルでも搭載されたアクションボタンを搭載するなどの改良が加えられた。

アップル「iPhone 16」、約147.6mm(高さ)×71.6mm(幅)×7.80mm(厚さ)、約170g(重量)、ウルトラマリン(写真)、ティール、ピンク、ホワイト、ブラックをラインアップ
「iPhone 16」の背面。カメラのレイアウトが縦並びに変更された。カラフルなカラーバリエーションも楽しい
アップル「iPhone 16 Plus」、約160.9mm(高さ)×77.8mm(幅)×7.80mm(厚さ)、約199g(重量)、ホワイト(写真)、ウルトラマリン,ティール、ピンク、ブラックをラインアップ
「iPhone 16 Plus」の背面。「iPhone 16」同様、すりガラスのようなマットな仕上がり。ボディが大きい分、「iPhone 16」よりもカメラが強調されない
アップル「iPhone 16 Pro」、約149.6mm(高さ)×71.5mm(幅)×8.25mm(厚さ)、約199g(重量)、ナチュラルチタニウム(写真)、デザートチタニウム、ホワイトチタニウム、ブラックチタニウムをラインアップ
「iPhone 16 Pro」の背面は、つや消しのガラス仕上げ。側面のバンドは光沢感が抑えられた仕上げだが、指紋や手の跡が残りやすい
アップル「iPhone 16 Pro Max」、約163mm(高さ)×77.6mm(幅)×8.25mm(厚さ)、約227g(重量)、ブラックチタニウム(写真)、ナチュラルチタニウム、デザートチタニウム、ホワイトチタニウムをラインアップ
「iPhone 16 Pro Max」の背面。つや消しのガラス仕上げなので、指紋や手の跡は目立たないが、側面のバンドはチタニウム合金らしい汚れが気になる

 まず、ボディサイズについてはスタンダードモデルもProモデルも数mm程度の違いしかなく、実際に手にしたときの印象は従来モデルと比べ、ほとんど変わらない。重量は昨年のProモデルが前述のように、「アルミフレーム+チタン合金バンド」という構成に変更したことで、「iPhone 15 Pro」で18g、「iPhone 15 Pro Max」で20gの軽量化を実現したが、今年は「iPhone 16 Pro」で12g増、「iPhone 16 Pro Max」で6g増と、「リバウンド」してしまった。ちなみに、スタンダードモデルの「iPhone 16」と「iPhone 16 Plus」は、逆に前年モデル比で1~2gの軽量化を実現している。

「iPhone 16」(左)と「iPhone 15」(右)の背面。カメラのレイアウトが変更されたが、レンズ部分の径が大きくなり、存在感を増した印象。「iPhone 16」の重量が1g、減っている
「iPhone 16 Plus」(左)と「iPhone 15 Plus」(右)の背面。レイアウトが変更されたカメラは、レンズ部分の径が1mmほど、大きい。「iPhone 16 Plus」の重量は1g軽量化された
「iPhone 16 Pro」(左)と「iPhone 15 Pro」(右)の背面。基本的なレイアウトは同じだが、「iPhone 16 Pro」は高さ(長さ)が3mmほど、大きい
「iPhone 16 Pro Max」(左)と「iPhone 15 Pro Max」(右)の背面。基本的なレイアウトは同じだが、「iPhone 16 Pro Max」は高さ(長さ)が3mm、幅が1mm大きい

 iPhoneのProモデルは、かねてから重すぎると言われ続け、ようやく昨年の「iPhone 15 Pro」「iPhone 15 Pro Max」で軽量化を実現したのに、また重量増に転じたのは残念な限りだが、これは「iPhone 16 Pro」が「iPhone 16 Pro Max」と同様のテトラプリズム方式による光学5倍カメラが搭載されたためだ。その影響もあって、「iPhone 16 Pro」は上下の重量バランスが変わり、上部側が重いトップヘビーになった印象もある。実用面ではそれほど気にならないが、従来モデルからの買い換えユーザーは慣れるまで気をつけたいところだ。

 「iPhone 15」シリーズでProモデルのみに搭載されていたアクションボタンは、「iPhone 16」シリーズ全機種に搭載された。出荷時設定では「消音モード」が設定され、短押しで着信音の有無の設定確認、長押しで着信音の有無の切り替えができるが、[設定]アプリの[アクションボタン]で、[カメラ]や[ボイスメモ]、[翻訳]などを起動する設定に変更できる。[カメラ]を設定する場合も「セルフィー」「ポートレート」「ビデオ」など、特定の撮影モードを選んで起動する設定も可能だ。[アクションボタン]のメニュー内の[ショートカット]では、アクションボタンの長押しで起動するアプリを設定することもできる。各社のコード決済や会員証アプリなどを設定しておくと便利だろう。

「iPhone 16 Plus」(左)の左側面には、「iPhone 15 Plus」(右)の着信/消音スイッチに代わり、「iPhone 15 Pro」「iPhone 15 Pro Max」から採用されたアクションボタンが備えられた
「iPhone 16」シリーズ4機種の左側面に備えられたアクションボタンは、標準では消音モードに設定されている。[設定]アプリの[アクションボタン]で設定可能
[設定]アプリの[アクションボタン]-[ショートカット]を選ぶと、アクションボタンで起動するアプリを設定可能

 「iPhone 15」シリーズで変更されたUSB Type-C外部接続端子は、昨年の「iPhone 15」シリーズ発売直後こそ、周辺機器や他のアップル製品でも広くLightning端子が採用されていたため、ユーザーはLightningケーブルとUSB Type-Cケーブルの両方を持ち歩く必要があったが、「iPhone 16」シリーズ発売時には充電端子がUSB Type-Cに変更された「Air Pods4」も発売され、周辺機器なども含め、徐々にUSB Type-Cに統一できる環境が整いつつある。

 かつて「iPhone 7」シリーズで3.5mmイヤホンマイク端子がなくなったときは、「Lightning - 3.5mmヘッドフォンジャックアダプタ(変換アダプタ)」が販売されたが、今回もアップル純正で「USB-C - Lightningアダプタ」(4780円)が販売されるほか、サードパーティ品も数多く出回っており、移行ユーザーをサポートしている。

Proモデルでは狭額縁でディスプレイを大型化

 ディスプレイについては従来モデルに引き続き、大きく分けて、2つのサイズが用意されている。標準サイズの「iPhone 16」が6.1インチ、「iPhone 16 Pro」が6.3インチ、大画面サイズの「iPhone 16 Plus」が6.7インチ、「iPhone 16 Pro Max」が6.9インチとなっている。

 従来モデルと比較すると、Proモデルの2機種は0.2インチずつ大型化し、iPhoneとしては最大のディスプレイを搭載したことになる。わずかな差ではあるものの、実際に従来モデルと並べてみると、全体的に周囲の額縁がさらに狭くなり、今まで以上にディスプレイそのものを持ち歩いているような感覚だ。狭額縁化によって、映像コンテンツやゲームなどを楽しむときは、より没入感を得られるわけだが、実用面で考えると、市販の保護ガラスを貼るときは、貼付位置が少しシビアになるかもしれない。

「iPhone 16」(左)と「iPhone 15」(右)の前面。ボディサイズはまったく同じ。
「iPhone 16 Plus」(左)と「iPhone 15 Plus」(右)の前面。ボディサイズはまったく同じで、ディスプレイも対角サイズ、解像度ともに同じ。
「iPhone 16 Pro」(左)と「iPhone 15 Pro」(右)の前面。ディスプレイの対角サイズは0.2インチ大きくなった。下側の額縁が一段と狭額縁に仕上げられている
「iPhone 16 Pro Max」(左)と「iPhone 15 Pro Max」(右)の前面。ディスプレイの対角サイズは0.2インチ大きくなった。下側の額縁の太さに違いが見える

 ディスプレイの仕様としては、スタンダードモデルが従来モデルをほぼ継承しているのに対し、Proモデルは対角サイズが変わったこともあり、解像度も数十ドット程度、大きくなっている。明るさやコントラスト比、最大輝度、ピーク輝度などの仕様は、基本的に従来モデルと変わらない。

 「iPhone 16」シリーズの4機種のディスプレイで、従来モデルと違うのは、最小輝度1nitに対応したことが挙げられる。最小輝度の1nit対応については、実際の利用シーンにおいて、どの程度、役立つのかは、評価が難しい。「nit」という単位の詳細は本誌の「ケータイ用語の基礎知識 第681回/「nit とは」」を参照いただきたいが、1平方メートルの面積をむらなく1cd(カンデラ)で光る輝度を「1nit」としており、1cdはロウソク1本程度の明るさとされる。つまり、少し乱暴に意訳すれば、1平方メートルの面積を1本のロウソクで照らした程度の明るさまで、暗くできるという意味になる。

 iPhoneに限らず、多くのスマートフォンはディスプレイの明るさをセンサーによって、自動的に調整する機能を備えており、暗いところでは周囲の暗さに合わせ、ディスプレイも暗くできる。一部では1nit対応が「暗いところでの利用に有効、省電力に有利」と言われているが、従来の「iPhone 15 Pro」などと同じ環境で試した限り、表示に差はないようにも見える。iPhoneで明るい色の明度を下げるため、[設定]アプリで[アクセシビリティ]-[画面表示とテキストサイズ]-[ホワイトポイントを下げる]をオンにした状態で比較しても大きな差はない。

 となると、「常に画面オン」を有効にしたときのロック画面表示が暗くできることあたりが「1nit」対応の効果になるのだろうか。スペック上の差はあるものの、実用面での差が今ひとつ見えにくい項目であり、この点で従来モデルとの選択を左右するポイントにはならなさそうだ。

 ディスプレイ関連では従来モデルに引き続き、上段に「Dynamic Island」(ダイナミックアイランド)と呼ばれるパンチホールが継承されている。「Dynamic Island」は「iPhone 14 Pro」と「iPhone 14 Pro Max」で初採用され、フロントカメラとFace IDに関連するセンサー類を楕円状のパンチホール内に収め、利用状況に応じて、表示を変化させている。

 かつてのiPhoneでは、フロントカメラとFace IDに関連するセンサー類をノッチ(切り欠き)に収めるデザインが採用されていたが、実用面や表示の変化などを含め、「Dynamic Island」の方がアップルらしいユーザーインターフェイスと言えそうだ。

バッテリー容量は約6~9%増、約10%程度のロングライフ化

 iPhoneはAndroidスマートフォンなどと違い、本体のバッテリー容量を明らかにしていないが、海外の分解サイトなどの情報によれば、「iPhone 16」が3516mAh、「iPhone 16 Plus」が4674mAh、「iPhone 16 Pro」が3582mAh、「iPhone 16 Pro Max」が4685mAhをそれぞれ搭載しているという。従来の「iPhone 15」シリーズ各機種に比べ、約6~9%ほど、大容量化が実現しており、バッテリー駆動時間は用途によって、差があるものの、音楽再生や動画再生などを見る限り、およそ10%程度のロングライフ化が実現している。

 ちなみに、バッテリー容量がもっとも増えたのは「iPhone 16 Pro」で、昨年の「iPhone 15 Pro」よりも9%以上、容量が増えている。「iPhone 15 Pro」や「iPhone 14 Pro」は、カメラなどのスペックでアドバンテージがあるものの、バッテリー駆動時間に不満を持つユーザーが多かったことから、バッテリー容量の増加は歓迎する声も多い。

 充電についてはUSB Type-C外部接続端子からの20W以上の充電器、Qi/Qi2規格対応充電器によるワイヤレス充電、MagSafeによる充電に対応する。他社のような急速充電対応は謳われていないが、標準サイズの「iPhone 16」と「iPhone 16 Pro」では30分で最大50%(20W電源アダプタ利用時)、大画面サイズの「iPhone 16 Plus」と「iPhone 16 Pro Max」では35分で最大50%(20W電源アダプタ利用時)まで、高速充電ができる。使い方にもよるが、一般的な利用であれば、不満なく、使うことができるだろう。

 電源回りに関して、iPhoneそのものというより、外的な要因に関係する注目点は、ワイヤレス充電だ。MagSafeとほぼ同じ機能を持つ「Qi2」が規格化され、2024年から対応製品が出荷されはじめ、対応する充電器やアクセサリーが急速に増えている。Qi2規格に対応したAndroidスマートフォンはまだ発売されていないが、アクセサリーメーカーからはワイヤレス充電対応のAndroidスマートフォンに装着可能なMagSafe/Qi2対応ケースが登場しており、利用が拡大しそうな状況にある。両プラットフォームで利用できる環境が整ってきたことで、今後、MagSafe/Qi2対応製品がさらに増えてくることが期待される。

 通信機能については、基本的に「iPhone 15」シリーズを継承しており、モバイルネットワークの対応なども大きく変わっていない。5Gについては米国向けモデルがミリ波対応を謳うものの、国内向けはミリ波に非対応で、これをマイナス評価とする声もある。ただ、ミリ波対応については各携帯電話会社がミリ波を活かせるサービスなどを提供していないため、仮に対応したとしてもごく一部のスポットでしか利用できず、ミリ波対応によるアンテナ搭載や認証などのコスト増につながるため、対応が見送られているようだ。Androidスマートフォンでも同様だが、ミリ波対応については、やはり、その特性を活かせるサービスが登場するのを待つしかなさそうだ。

 SIMカードについては、nanoSIMカード/eSIMに対応し、eSIMについては従来モデルに引き続き、デュアルeSIMに対応する。昨今のサブ回線を登録しておく流れを考えると、複数のeSIMが登録できるのは非常に有用で、メイン回線はnanoSIMカードで登録しておき、eSIMにpovoやLINEMOなどをサブ回線で登録するといった使い方ができる。逆に、メイン回線をeSIMで登録しておき、海外渡航時などはプリペイドのnanoSIMカードを利用したり、2枚目のeSIMにプリペイドSIMカードを登録する使い方も可能だ。

 同じ通信関連の進化点では、Wi-Fiが「iPhone 16」シリーズのIEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax(Wi-Fi 6/6E)に加え、IEEE 802.11be準拠のWi-Fi 7に対応したことが挙げられる。Wi-Fi 7は昨年12月に総務省が電波法の施行規則を改正したことで、国内でも利用できるようになった規格で、今年に入り、無線LANルーター(無線LANアクセスポイント)などで対応製品が続々と登場しはじめている。スマートフォンもフラッグシップモデルを中心に対応機種が続々と登場しており、「iPhone 16」シリーズもこれに追随した形になる。

デュアルカメラのスタンダードモデル、トリプルカメラのProモデル

 カメラについてはスタンダードモデルの「iPhone 16」と「iPhone 16 Plus」が背面カメラのレイアウトを変更したデュアルカメラを搭載し、「iPhone 16 Pro」と「iPhone 16 Pro Max」の背面からは同じレイアウトを踏襲しながら、超広角カメラのイメージセンサーを高画素化するなどの改良が図られている。

「iPhone 16」の背面にはメインと超広角のデュアルカメラを搭載
「iPhone 16 Plus」のカメラ部。メイン(Fusion)カメラと超広角カメラが縦方向に並ぶ。カメラ部の突起は約3mm程度
「iPhone 16」のポートレートで撮影。モデル:るびぃボンボンファミンプロダクション
「iPhone 16 Pro」のカメラ部。メイン(Fusion)カメラと超広角カメラ、望遠カメラが並ぶ。望遠カメラは光学5倍。カメラ部の突起は約4.5mm程度
「iPhone 16 Pro」のカメラ部。メイン(Fusion)カメラと超広角カメラ、望遠カメラが並ぶ。望遠カメラは光学5倍。カメラ部の突起は約4.5mm程度
「iPhone 16 Pro」のインカメラで自撮り。ポートレートを選ぶと、背景をぼかした撮影が可能
「iPhone 16 Pro Max」の背面カメラを使い、[0.5x]を選んで、超広角撮影
「iPhone 16 Pro Max」の背面カメラを使い、[1x]を選んで、標準的な画角で撮影
「iPhone 16 Pro Max」の背面カメラを使い、[2x]を選んで、標準よりもややズームして撮影
「iPhone 16 Pro Max」の背面カメラを使い、[5x]を選んで、望遠で撮影。光学5倍なので、拡大してもクッキリ撮影されている
「iPhone 16 Pro Max」の背面カメラを使い、[25x]を選んで、望遠で撮影。光学とデジタルズームの組み合わせで、多少の粗さは残るが、スマートフォンの画面で表示する程度なら、十分な仕上がり

 レンズ位置が縦並びに変更されたスタンダードモデル2機種の背面カメラは、端末を横向きに構え、空間写真や空間ビデオの撮影が可能になった。ただ、撮影した空間写真や空間ビデオは、アップルの「Vision Pro」で楽しむことを目的としているため、多くのユーザーにとっては、楽しむことが難しい環境にある。鳴り物入りで登場した「Vision Pro」だが、約60万円以上という非常に高価な価格が設定されているうえ、元々、ゴーグル型デバイスの市場が限定的なため、アップルが描いていたような反響は得られていない。

 アップルとしてはiPhoneで空間写真や空間ビデオを撮影できるようにすることで、現行のVision Proや次期モデルなどに結びつけるロードマップを描いていたのだろうが、現状ではなかなか難しい状況にあると言わざるを得ない。カメラそのものの性能は十分に完成度が高く、ポートレートやシネマティックビデオなどのエフェクティブな撮影に加え、新たにマクロ撮影にも対応したため、従来機種から買い換えてもかなり楽しめる印象だが、空間写真と空間ビデオは手軽に楽しめる再生環境を提供しない限り、あまり活用できなさそうだ。

 一方、Proモデルについては、従来の「iPhone 15 Pro」と「iPhone 15 Pro Max」が望遠カメラの倍率で光学3倍と光学5倍という違いがあったが、今回の「iPhone 16 Pro」と「iPhone 16 Pro Max」の望遠カメラはいずれも光学5倍での撮影ができるため、両モデル間の差分がなくなり、どちらを選んでも基本的には同じように撮影を楽しむいことができる。その代償として、「iPhone 16 Pro」は従来モデルよりも重量増となったわけだが、旅先などでのニーズが高い望遠カメラが同じ倍率になったことで、「iPhone 16 Pro」を選びやすくなったとも言える。

 また、「iPhone 16」シリーズ共通の仕様として、本体側面に新しい操作デバイス「カメラコントロール」が備えられた。カメラコントロールは小型のマルチピクセル静電容量センサー、信号プロセッサー、感圧センサー、タプティックエンジンを組み合わせ、触感フィードバックを実現したもので、スライド操作と押下によって、その名の通り、カメラの各機能をコントロールするデバイスになる。一見、ボタンのように見えるため、「カメラコントロールボタン」と呼んでしまいそうだが、アップル自身は「ボタンではなく、カメラコントロールという操作デバイス」だとしている。

「iPhone 16」(左)の右側面に備えられたカメラコントロール。純正ケースはこの部分を覆うしくみ(操作可能)だが、市販のケースは穴を開けて対応しているものが多い
「iPhone 16 Pro」(左)の右側面のカメラコントロールは、わずかに凹んだ位置に備えられている。一見、指紋認証センサーのように見えるが、指紋認証の機能はない

 具体的な操作については、まず、カメラコントロールを押下すると、カメラが起動する。この状態でカメラコントロールをごく軽く押すと、カメラコントロール付近にノッチのような形で操作バー(メニュー)がオーバーレイ表示される。しばらく操作しないと、操作バーは非表示になってしまうが、カメラコントロールを軽く押せば、再び表示される。

 カメラコントロールでは「露出」「被写界深度」「ズーム」「カメラ」「スタイル」「トーン」を選び、それぞれの項目を設定できる。カメラコントロールを押下すると、項目が選択され、軽く二連打で押下すると、ひとつ前(ひとつ上の階層)のメニューに戻ることができる。表示されている項目はカメラコントロールを指先でスライドさせると、選択を移動することができる。こうやって文章で表現すると、わかりにくいかもしれないが、操作しはじめ、メニューの階層構造を行き来していると、徐々に操作のコツがつかめてくる。

カメラコントロールのバーはファインダー内にオーバーレイ表示される。横向きに構えたときのファインダーでは、バーのメニューは横向きに表示される
カメラコントロールは[設定]アプリの[カメラ]-[カメラコントロール]で設定が可能
カメラの設定は、[カメラ]アプリのファインダー画面からではなく、[設定]アプリの[カメラ]で設定が可能

 カメラコントロールで設定できる各項目については、元々、iPhoneのカメラアプリに搭載されているもので、カメラコントロールを使うことで、これらの機能やエフェクトを使いやすくした(選びやすくした)ものと考えれば、わかりやすい。iPhoneに限った話ではないが、多くのユーザーが初期設定のまま、シャッターを押し、写真やビデオを撮っている状況に対し、少しでもカメラの機能を使って欲しいという開発側の考えを具現化したものがカメラコントロールという操作デバイスだと言えそうだ。実際に使ってみると、カメラもすぐに起動でき、「スタイル」や「トーン」など、これまではあまり使わなかった設定もシームレスに操作でき、リアルタイムにプレビューにも反映されるため、いろいろな設定を試してみたくなる印象だ。

 ただ、カメラコントロールという操作デバイスについては、ネット上の反応を見ていると、デジタルカメラに詳しいユーザーたち中心に、あまりいい評価が得られていない。なかでもデジタルカメラを仕事で使う「プロ」と呼ばれるようなユーザー(カメラマン?)からは、厳しい意見が多い。ただ、カメラにあまり詳しくないユーザーが「被写界深度」や「露出」といった項目を選んで、仕上がりが変わることを体験したり、「スタイル」や「トーン」などで、個性的な写真を撮れるようにする取り組みとしては、注目できるもので、これを浸透させていくことで、「撮る楽しさ」が拡がるという見方もできる。

 こうしたカメラ機能を活かすためのユーザーインターフェイスとしては、ソニーが「Xperia」で、同社のデジタルカメラ「α」シリーズや「RX」シリーズの操作性を活かした「Photography Pro」という独自のカメラアプリを搭載し、注目を集めたが、残念ながら、2024年の「Xperia 1 VI」では廃止になってしまった。プラットフォームもしくみも違うため、同じようなことにはならないかもしれないが、同じ轍を踏まないように、アップルは「iPhone 16」シリーズのカメラコントロールの使い方をしっかりとユーザーに伝え、さらなるユーザビリティの向上にも期待したい。

Apple Intelligence対応だが……

 この1~2年、スマートフォンに限らず、世界中で注目を集めている話題と言えば、やはり、「AI」だろう。他の製品のレビューでも触れてきたように、今後、スマートフォンを利用する環境の進化は、AIによって、大きく変わっていくことが予想される。他製品ではすでに翻訳や通訳、画像生成、要約、文章作成などが次々と実装され、AIを利用した機能が身近な存在になりつつあるのに対し、アップルはAIの開発と活用において、大きく遅れを取っていた。

 そんな中、アップルは今年の開発者会議「WWDC」において、人工知能プラットフォーム「Apple Intelligence」を発表した。対応するOSとしては、「iOS 18」「iPad OS 18」「macOS Sequoia」で、iPhoneでは今回の「iPhone 16」シリーズ、昨年の「iPhone 15 Pro」と「iPhone 15 Pro Max」が対応機種であることが明らかにされた。同じ昨年のモデルでも「iPhone 15 」と「iPhone 15 Plus」、それ以前のiPhoneは搭載するメモリー容量(ストレージではなく)やチップセット(NPU)のバフォーマンスは不足しているためか、対応が見送られている。

 主な機能としては、文章の作成や要約、電話やメモアプリでの録音と文字起こし及び要約、メールのスマートリプライ、オリジナル画像の生成、ジェン文字の作成、手描きのラフスケッチのイラスト化、写真とビデオの検索、音声アシスタントのSiriなどが挙げられる。もちろん、プライバシーに配慮するアップルらしく、プライベートクラウドコンピューティングを謳い、ユーザーのデータを保存せず、ユーザーからのリクエストのみにデータを使うことで、プライバシー規定を遵守するとしている。

iOS 18から搭載された[ライブ留守番電話]は、[設定]アプリの[アプリ]-[電話]-[ライブ留守番電話]をオンにすると、利用できる
かかってきた着信に応答せず、[留守番電話]をタップすれば、メッセージを録音し、文字起こしをしてくれる
背景に写り込んだ人物などを削除できる「クリーンアップ」がすでに利用できる。Apple Intelligenceに非対応の「iPhone 15」などでは「クリーンアップ」が表示されない
やや粗さが残るものの、背景の人物をひと通り、消去することができた

 同じIT業界で言えば、Google及びPixelシリーズの「Gemini」、マイクロソフトの「Copilot」、サムスンの「Galaxy AI」などのAIに、しっかりとキャッチアップしてきた格好だが、すでに伝えられているように、現時点では「iPhone 16」シリーズを購入しても「Apple Intelligence」を日本で(日本語で)使うことはできない。「Apple Intelligence」は今年10月に米国向けに公開され、12月にはオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、南アフリカ、英国で英語のローカライズに対応する。日本語をはじめ、中国語やフランス語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、スペイン語、ベトナム語など、多くの言語は2025年春以降のバージョンアップを待たなければならない。

今年のWWDC(開発者会議)で発表されたApple Intelligenceは、今のところ、英語版のみで利用できる。日本語対応は2025年4月まで待たなければ、ならない

 こうしたコンピュータ関連のソフトウェアやサービスにおいて、言語に関連するものでは、英語圏が優先され、それ以外の言語が後発になることは珍しくなく、「来年春の対応でもしかたがない」という見方もできる。ただ、アップルと日本市場の関わりを考えると、今回の「Apple Intelligence」の日本語環境への対応を含め、アップルが日本市場をどう捉えているのかが気になる。というのも言語的な開発の難しさがあるとは言え、アップルにとって、日本がある程度、大きな市場であるにもかかわらず、対応が後回しにされている感が否めないからだ。

 「iPhone 16」シリーズの話題から少し脱線するが、ここ数年、気になっていることなので、少していねいに説明したい。アップルの地域別売上高は、決算の時期によって、多少の増減があるが、米国が40%以上を占め、次いで欧州が25%前後、中国(本土、香港、台湾)が15%前後、日本が6%前後、その他のアジア太平洋地域が7%前後とされる。これだけを見ると、日本の売上高は4番目か、5番目という位置付けだが、決算の集計では欧州各国がEUとして、ひとつにまとめられ、中国もいろいろな解釈があるとは言え、3つの地域が合算されている。アジア太平洋地域もいくつもの国と地域の合計だ。つまり、ひとつの国と地域で考えると、日本は米国と中国(本土)に次ぐ市場規模があるわけだ。

 こうした状況にあるにも関わらず、日本語への対応が後回し、しかも提供開始から半年以上、遅れてしまうというのは、やはり、残念と言わざるを得ない。くり返しになるが、「Apple Intelligence」が言語を扱うものであり、日本語化や日本語対応が難しいことは否定しないが、ひとつの四半期に日本で9000億円以上を売り上げていることを鑑みると、対応スケジュールを早い段階で明確にするなど、もっと積極的な対応を見せて欲しかったところだ。

 同様の対応ぶりは、ユーザーの利用の可否は別にして、一連のマイナンバーカードの対応を見ても同じことが言える。スマートフォンへのマイナンバーカード機能の搭載は、2020年から検討が開始され、2023年5月にはAndroidスマートフォンへの搭載が実現している。このとき、政府は当時の岸田文雄内閣総理大臣からアップルのティム・クックCEOに対し、「iPhoneでも利用できるように依頼した」とされるが、搭載のゴーサインが出たのは一年後の今年5月であり、実際に利用できるようになるのは2025年春というスケジュールだ。2023年のAndroidスマートフォンへの搭載から、2年遅れという対応ぶりだ。

 「それは日本のマイナンバーカードが特殊だからではないか」という指摘があるかもしれないが、同様のIDカードやパスポート、運転免許証、本人確認書類などをデジタルIDとして、スマートフォンで利用できるようにする取り組みは、世界各国でスタートしており、日本だけが特殊なことを求めているわけではない。スマートフォンというプラットフォームを担う企業であれば、こういった動きにも積極的に検討する姿勢を見せるべきだろう。現に、Googleはいち早くAndroidスマートフォンへのマイナンバーカードの搭載を実現し、パソコンでは2019年に元号が令和に改められたとき、マイクロソフトは政府と連動するなど、WindowsやOfficeなどでいち早く新しい元号を対応するパッチを配布するなど、各社共、行政のDXに積極的に貢献する姿勢を見せている。

 アップルという企業がiPhoneやiPad、macなどの優れた製品を開発し、Apple MusicやApple TVなどの優れたサービスを提供していることは、一人のユーザーとしても非常に楽しみであり、プライバシーへの配慮など、アップルならではの主張も十分に理解できる。ただ、スマートフォンが社会生活に欠かせない存在になり、行政を含めたDX化やユーザーへの対応が求められる状況に対し、現在のアップルが十分な取り組みを見せているのかどうかは、メディアとしてもユーザーとしてもしっかりと見極める必要がありそうだ。

「iPhone 16」シリーズはどれを買う?

 さて、9月に発売された「iPhone 16」シリーズ4機種の違いや各機能、注目点などをチェックしてみたが、最後に「iPhone 16」シリーズはどの機種を選ぶのか、「買い」なのか、「待ち」なのか、それとも旧機種を選ぶのかというという点について、考えてみたい。

 まず、「iPhone 16」シリーズ4機種から選ぶという点では、ディスプレイサイズとカメラがポイントになる。ディスプレイサイズは改めて説明するまでもなく、ボディサイズに影響するため、手の大きさや視力など、ユーザー側の求める要素から判断することになる。個人的にはディスプレイサイズはある程度、大きい方が視認性もよく、表示するコンテンツも見やすいため、大画面サイズの2機種から選びたいというのが率直な印象だ。もちろん、ディスプレイの視認性よりも持ちやすさやフィット感を重視したいというのであれば、標準サイズの2機種を選ぶことになる。

 カメラについては一般的な用途であれば、スタンダードモデルでも大きな不満はなさそうだが、旅先で遠景を撮ったり、望遠カメラで人物の背景をぼかした印象的な写真や凝った動画などを撮りたいのであれば、Proモデルも検討したい。特に、「iPhone 16 Pro」は前モデルと違い、「iPhone 16 Pro Max」と同じ光学5倍カメラを搭載しているため、ボディサイズにとらわれず、選びやすいと言えるだろう。

 スタンダードモデルとProモデルはチップセットに違いがあるが、これも一般的な用途である限り、実用性にそれほど大きな差はない。ゲームや動画コンテンツなどのエンターテインメントを楽しむ環境にも違いはなく、どちらかと言えば、ディスプレイが標準サイズか、大画面サイズかで選ぶ方が現実的と言えそうだ。本稿で触れた「Apple Intelligence」も来春まで待たなければならないが、「iPhone 16」シリーズなら、どのモデルでも利用できるのは安心だ。

 ただ、「iPhone 16」シリーズのどの機種を選ぶにしても経済的な負担は大きい。昨年のモデルから価格が据え置かれたとは言え、ここ数年、iPhoneは着実に価格を積み上げてきたため、スタンダードモデルで12万円以上、Proモデルは15万円以上の負担を求められる。アップルでは分割手数料0%の「ペイディあと払いプランApple専用」という36回分割払いも受け付けているが、それでも月におよそ3500円以上の支払いが必要になる。

 費用負担を抑えたいのであれば、各携帯電話会社が提供する「端末購入サポートプログラム」を利用するのも手だ。各社によって、いくつか利用条件はあるものの、2年間の利用で、一括払いの価格の半額程度の実質負担額で済む。なかでもソフトバンクが「iPhone 16」の128GB版で提供している「新トクするサポート(プレミアム)」では、月々3円の負担を12回、支払い、1年後に端末を返却すれば、合計36円と早得オプション利用料の1万9800円で利用できる。こうした販売方法については、総務省でも見直しを求める方向で議論されているため、いつまで割安に購入できるのかは不明だが、もし、検討しているのであれば、早めに手続きをした方がいいだろう。

 もうひとつの選択肢として、「iPhone 16」シリーズを諦め、旧モデルを購入する手も考えられる。特に、「iPhone 16」シリーズの発売に伴い、「iPhone 15」「iPhone 15 Plus」「iPhone 14」「iPhone 14 Plus」の4機種はアップルでも値下げされており、買いやすくなっており、各携帯電話会社やMVNO各社でも取り扱うところが多い。今回の「iPhone 16」シリーズの新機能に魅力を感じなかったり、価格的に折り合いがつかないのであれば、これらを選択するのも手だが、ひとつ注意しておきたいのは、前述の「Apple Intelligence」の存在だ。

 アップルが提供する「Apple Intelligence」は、今回の「iPhone 16」シリーズのほかに、昨年のProモデルである「iPhone 15 Pro」「iPhone 15 Pro Max」が対象となっている。つまり、価格が安くなったからと言って、「iPhone 15」や「iPhone 14 Plus」などを選んでしまうと、次の買い換えまで「Apple Intelligence」が利用できないわけだ。

 来春、提供される「Apple Intelligence」の日本語対応で、どの程度、機能が実装されるのかは、まだわからないが、他のプラットフォームのスマートフォンの対応状況を見てもわかるように、これからのスマートフォンの進化において、AIは欠かせない存在であり、おそらく加速度的にAIを利用した機能が実装されていくことが予想される。ライバル各社に出遅れたとは言え、アップルも当然のことながら、全力で「Apple Intelligence」を強化し、iPhoneでの利用できる機能を拡充していくと推察されるため、このタイミングで「Apple Intelligence」非対応の旧機種を購入するのは、AIを活用した機能を当面、利用できないことを意味する。

 もっともアップル製品という切り口で見れば、先般、販売が開始された「iPad mini(A17 Pro)」なども「Apple Intelligence」に対応しているため、そちらを利用するのも手だが、iPhoneに限れば、「iPhone 15」シリーズのスタンダードモデルやそれ以前のiPhoneを選ぶと、機能面におけるユーザー体験に大きな差が生まれるかもしれない。その点を十分に理解したうえで、機種選びを検討することをおすすめしたい。

 「iPhone 16」シリーズはこれまでのiPhoneシリーズ同様、非常に完成度が高く、カメラ体験を強化する「カメラコントロール」の搭載や「Apple Intelligence」への対応など、新しい時代へ向けた進化をスタートさせた製品として、仕上げられている。「iPhone 16」シリーズとしての本領発揮は、来春の「Apple Intelligence」の対応以降という見方もできるが、店頭でデモ機を手にして、「iPhone 16」シリーズの新しいユーザー体験を試していただきたい。