ケータイ用語の基礎知識

第955回:LTPOとは

有機EL・液晶ディスプレイバックプレーン技術の一つ

 LTPOとは、ディスプレイバックプレーン(ディスプレイの液晶や有機ELを制御する駆動素子を形成した基板)の技術のひとつです。

 その名称は、「低温多結晶酸化物」を意味する英語“Low Temperature Polycrystalline Oxide”の略称から来ています。

 IGZOディスプレイがCGシリコンと酸化物を組み合わせたように、LTPOは低温多結晶シリコン(LTPS)と酸化物の利点を組み合わせた薄膜トランジスタ(TFT)です。ディスプレイ上の各ピクセルには、LTPSとオキサイドを同時配置する形で設計されます

 LTPOの特徴は、電荷移動度の安定性が高いLTPSを利用していること、そしてTFTの均一性が良く、リーク電流が少ない酸化の利点を一つに結合した技術であることにあります。これは、電力消費のなかでも「ディスプレイの書き換え」にかかる消費電力を少なく抑えることができることを意味します。それは、何よりもモバイル機器の消費電力を大幅に削減できる新技術として評価できるでしょう。

 LTPOをバックプレーンに使った有機ELディスプレイは、その消費電力の少なさ、そして見やすさから、ひょっとするとその多くの特許をアップルが持っているということからか、Apple Watch Series 4と、Apple Watch Series 5で採用されています。

 また、近々、スマートフォンでもディスプレイに採用する機種が出てくるのではないかとされています。

リフレッシュレートを下げ、常時点灯も可能に

 LTPO技術は有機EL、つまりOLEDとの親和性の高さもメリットの1つです。

 LTPO有機ELディスプレイがスマートフォン用のディスプレイとして採用されれば、消費電力が減ったLTPOディスプレイは、同じ画面サイズのスマートフォンで同じバッテリー容量でもより長く使用することが可能になりますし、同じ消費電力でより大きな画面を実装することもできるでしょう。

 既存のディスプレイと比較して、LTPO技術を適用すると、全体的に消費電力を5~15%ほど減らすことができるものと考えられています。

 また、通常のLTPSでは内容を保持しておくためには60分の1秒程度でリフレッシュをかけないといけないのに対し、LTPOでは、リフレッシュレートがそこまで早くなくてもよいという特徴もあります。

 最長で1秒程度までリフレッシュ間隔を開けることができ、Apple Watch Series 5ではこれを利用して画面の常時表示と長時間駆動を両立させることが可能となりました。スマートフォンでも、たとえば常時画面点灯可能な端末、などというのも実現できるようになるかもしれません。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)