ケータイ用語の基礎知識

【第1017回】電波はあるのにスマホの通信が遅い理由 5Gを切ったら快適になるって本当?

 スマートフォンを使っていると、何が原因かよく分からないけれど、データ通信がやけに遅い、もしくは通信できない、なんてことはないでしょうか? 特に人混みの中はより一層感じられることも。

 でも実はそれ、気のせいじゃなくて技術的に説明できる理由があるのです。

スマホの通信が遅い。原因は自分か設備側か?

 たとえば、マンガアプリを見ていると次のページが描画されなかったり、ゲームであれば動きが止まってしまったり、SNSであれば掲示が表示されなかったり、投稿できなかったり……。きっと誰でも、一度は経験があるはず。

 何かわからないけど通信が遅い。スマホの画面を見ると。
 アンテナピクトがない状態ならともかく、「4本」立っていたり、通信表示も「5G」だったりすることさえある。どうなっているのだろう……と思いませんか?

一箇所に人が集中すると、ケータイは遅くなる

 スマートフォン・携帯電話のシステムのシステムは、セルラーフォン(Cellular Phone)とも呼ばれています。これは通信をカバーするエリアを「セル(細胞)」のように分割して基地局を配置するところから来ています……なんてお話は「第321回:フェムトセルとは」などでも解説した通りです。

 さて、人が多く来そうなところは、通信事業者もセルを小さくして基地局を増やし対策をしているわけですが、それとても限度というものがあります。なにしろどれだけ電波の飛ぶ範囲・距離を絞ったとて、ある程度は飛んでしまいますし、それ以前の話として携帯電話事業者の資金だって無限ではありません(というか、最近は端末も自由に売れなくなっていろいろ苦労されているのではないかという気もゴニョゴニョ……)ので、基地局・アンテナを無数に設置するという訳にはいかないのです。

 さて、そこである面積のセルに、スマホを持った人が大量に集まってしまうとどうなるでしょう? 基地局あたりの収容端末台数や通信速度は決まっていますから、どうしたって、1台あたりの単位時間あたりの通信量は少なくなってしまいます。これが「電波は飛んでいるように見えるのに、通信が遅い」現象の正体です。要は「スマホが多すぎ」て「セルが混雑している」ことが原因として大きいのです。

5Gが届きそうで届かない「セルエッジ」問題

 それから、通信方式表示が「5G」のときにも起こるのですが、「4G/LTE」のときにも起こる現象で……「人は少ないのに、ある場所で通信が遅くなることがある」……という話も聞きます。

 そう、セルが基地局からの電波の届く範囲として設定されている以上、その端は電波が届きにくくなります。

 2025年現在、5Gとしてよく使われている「5G NSA」方式では、通信時に「まず4G/LTE通信を行って、可能なら5G通信を行う」という制御の仕組みを持っています。これはこれで、5Gエリアが隙間なく広がるまでは通信がスムーズにいくはずなので、悪い方法ではないのですが、5Gの電波強度が弱かった場合、近くの4Gにつながろうとする、4Gと5Gの切り替えが頻発するのがユーザーが体感的に分かってしまうケースがあるなど、一長一短ではあると言えるかもしれません。

5Gを切ったら快適になるはうそ? 本当?

 では、4Gと5Gの切り替えが頻発するのが体感的にわかって鬱陶しい場合は、端末の5G通信を切って通信を4G/LTEのみにした場合快適になるのでしょうか?

 これはある意味で本当で、4G・5Gの通信ができる(が勝手に両モードを移動してしまうのが鬱陶しい)のですから、4Gの通信のみしかしないということは、通信が切り替わらないのですから鬱陶しくはなくなるでしょう。ただし、通信速度は4G/LTEのそれに落ちてしまいますが(とはいえ、こういうときの5Gはアンカーバンドである4Gより速い通信ができるとは限らないので、トータルでの通信速度が落ちているかどうかはわかりませんが)。

 ただ、これは、必ずしも5G技術そのものの欠陥ではなく、現行の5Gサービスが抱える特定の課題(特に「整備途上のエリアの不安定さ」と「5G接続時の端末の電力消費」)に起因している問題だということを忘れないでいてください。実際のところ、現在の5Gサービスは、まだインフラの整備が完了しておらず、エリアの境目や屋内でつながりにくい場所が多く存在します。

 とはいえ、5Gの通信ができる可能性のある場所・機材があるのに5G通信をしないのは非常にもったいないです。たとえば、一度機内モードをONにしモバイル通信自体を遮断してから、5G通信が入る可能性が高くなりそうな角度、位置、場所に移ってもう一度OFFに切り替えてみるなどして、5G通信が安定して使えないか再度試してみるのもいいかもしれません。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)