ケータイ用語の基礎知識

第949回:ベイパーチャンバーとは

スマホにもやってきた「高性能放熱板」

 ベイパーチャンバーは、板状の熱拡散装置です。また、この装置で使われている二相流冷却技術を指して言うこともあります。英語で「蒸気房」を意味する“vapor chamber”がそのまま日本語化したもので、「ベーパーチャンバー」と書かれることもあります。

 スマートフォンでは2020年3月に発表された、富士通コネクテッドテクノロジーズ製のAndroidスマートフォン「ARROWS 5G」が冷却装置として、従来からのグラファイトシートに加え、この「ベイパーチャンバー」を採用しています。

 また、同じく富士通コネクテッドテクノロジーズがクアルコム社との協業で開発した、「Qualcomm Snapdragon 865 5G Modular Platform」を搭載した、5Gスマートフォンのリファレンスデザインでも、この「ベイパーチャンバー」が採用されています。このほか、ASUS製の「ROG Phone II」やファーウェイ製の「HUAWEI Mate 20 X」、サムスン電子の「Galaxy」の一部機種でもベイパーチャンバーが用いられています。

 なぜ、スマートフォンの中に「熱拡散装置」が必要かというと、スマートフォンの中には小さいながらも非常に高熱を発し、その熱によってパフォーマンスの低下や故障が発生する部品があるからです。

 たとえばCPUを含むSoCです。最近のSoCは、一昔前のPCを優にしのぐような高いパフォーマンスを叩き出しますが、その性能を出し続けると相当の熱を持ちます。その熱によってSoCのパフォーマンスが低下したり、最悪の場合では破壊されてしまったりということもあり得るのです。

 そこで、「熱拡散装置」を採用することによってスマートフォンの一カ所のみに熱が集中してしまうのを防ぎ、パフォーマンスの低下や故障が発生するのを防ぐようにしているのです。

 このベイパーチャンバーという用語、PCでは、主にCPUやGPUの放熱装置の方式としては、ヒートパイプと並んでよく聞かれる言葉なのですが、スマートフォンでも、このベイパーチャンバーという用語が必要になったということは、スマートフォンにもこれが必要なくらいCPUの高性能化が進んだのか、またベイパーチャンバーの小型化高性能化が進んだということなのでしょう。

 ちなみにヒートパイプは、従来からスマートフォンにも利用されており、超薄型ヒートパイプが筐体の中に入っています。ヒートパイプの厚みは扁平後で1mm以下と非常に薄く、曲げ加工も可能で、1~10W程度の放熱冷却用として利用されています。

「気化」と「液化」で熱を平準化

 さて、このベイパーチャンバーですが、仕組み自体はそれほど複雑ではありません。

 ベイパーチャンバーは、見かけ上は、ヒートシンクの金属です。スマートフォン用の場合は、それが上下に延びたような同じような形をしています。しかし、中は中空構造となっていて作動液(ある程度の温度になると蒸発する液体)が封入されています。作動液は純水などの液体が利用されることが多いようです。

 動作原理ですが、この液体が熱源によって熱せられると気化して蒸気となります。蒸気は、ベイパーチャンバー内を対流し、熱源から離れた場所、つまり温度が高くない場所に流れていきます。

 パイプ内で冷却された蒸気は、液化しふたたび作動液の状態に戻り、毛細管現象により房内を伝って再び加熱点への移動を繰り返します。房内で作動液が気化と液化を繰り返すことで熱を拡散させていくわけです。

 性能的には、ベイパーチャンバーは、アルミや銅といった単一の金属、あるいはグラファイトさえもしのぐ熱移動性能を持ちます。また、ポンプなどの可動部品を使用しないので故障やメンテナンスなども必要ありません。構造重量も、金属フィンなどに比べると軽量、かさばらない、という優れた冷却技術です。

 ただし、ベイパーチャンバーを、薄く丈夫に作るのは技術が必要で、コストもかかります。

 ベイパーチャンバーが、2000年にメーカーによって初めて作られてから20年。2020年4月現在で各社が開発・発表したベイパーチャンバーは最も薄い物で0.25mm、来年には0.20mmを出荷すると発表したメーカーもあるようです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)