ケータイ用語の基礎知識

第950回:スモールセルとは

そもそも「セル」って?

 セルとは、英語で「細胞」を意味する「cell」から来ています。携帯電話のことを英語で"Cellular Phone"ということがありますが、この「セル」という概念と携帯電話とは切っても切り離せない関係です。

 簡単に言うと、携帯電話では、1つの基地局の電波がつながるエリアを「セル」と呼んでいます。携帯電話の基地局が電波を発し、また携帯電話からの電波を受信してひとつのセルが完成するわけです。

 スモールセル(Small Cell)とは、このセルの中でも、出力が低くカバー範囲が狭く小さいもののことを言います。「ナノセル」、「ピコセル」、「フェムトセル」などもこのスモールセルの仲間になります。なお、逆に大きな圏内エリアを形成する大出力のセルをマクロセル(Macro Cell)といいます。

 スモールセルという用語は、特に新しい用語ではなく、4Gや3G、もっと前の2G、つまりPDCやCDMA2000といった時代から使われてきました。

 一般的には、携帯電話の基地局といえば、たとえば鉄塔上に設置されるような大きなものを思い浮かべると思います。これで作られるエリアは一般的にはマクロセルです。が、スモールセルは、このような建造物ではなく、一般のビルやアーケード、地下街、人口密集地などの街灯や電柱、屋根裏、建物の外壁、といった場所などに小さな機器が設置されています。

 以前は、スモールセルは、地形や建築物の影響でマクロセルの電波が届きにくい場所をカバーしたり、外からの電波が届きにくい建物の内部にも電波を届かせる、といった目的のために設置されてきました。

高速通信との相性の良さ

 それ以外にもさまざまなメリットがスモールセルにはあります。まず、マクロセルに比べて設備を短時間で導入できるということがあります。ふつう、マクロセルを作るときに考えなくてならない物理的な制約がスモールセルでは少なく、さまざまな場所に設置が可能です。

 さらに、電波を効率的に使えるようにするということが挙げられます。先ほど、スモールセルの置き場に「人口密集地」を挙げました。というのも、セルひとつひとつは収容できる端末数に限界があるため、ひとつの大きなセルを導入するより、エリアを小さく区切り小さなセルを作った方が、多くの人が携帯電話を使うことができるわけです。その際にはもちろん、セルの電波が干渉しあわないような工夫は必要になります。

 あるいは、4Gでは、広域をカバーするマクロセルの中に、狭い範囲をカバーするスモールセルを局所的に追加する「ヘテロジニアスネットワーク」のために構築されることもあります。対応端末がそのエリアに入ると、マクロセルとスモールセルの両方の電波を束ねる「キャリアアグリゲーション」により、安定した高速通信を維持することができるようになるのです。

5G時代に入り、ますます存在感を増すスモールセル

 そして5Gの時代が始まり、スモールセルはますます存在感を増しています。5Gでは、基地局の増設といえば、スモールセルでのスポット増設がさらに重要になってくるでしょう。

 デジタル携帯電話の登場からLTE-Advancedの現在まで、さまざまな技術の進歩で、通信速度は非常に速くなってきましたが、その一方で規格上最大の通信速度と実用上の速度のかい離はだんだんと大きくなってきています。これにはいくつかの原因があります。モバイル端末からセル基地局までの距離や見通し線の遮断、屋内利用による壁や窓の遮断、伝送信号の干渉などがそうです。

 そこで、より高速なワイヤレス速度を達成するひとつの方法としては、モバイル端末を基地局・セルに近づけてこれらの障害を排除するという方法が考えられました。無線通信をできる限り基地局との距離の短くして通信しようというわけです。こうすると、スモールセルが必要となるのがわかるでしょう。そこで5Gでは、「スモールセル」はひとつの大きなキーワードとなったのです。

 また、5G NRで使われる、これまでより非常に高い周波帯の電波の特性は、カバー範囲が数十メートルと狭く、地域内に密集して設置できるというスモールセルの特性とも非常にマッチします。そのため、これからのネットワークである「5G」にとっては、スモールセルは、もはや、必須とも言ってよい重要な要素となっているのです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)