石川温の「スマホ業界 Watch」

Google台湾拠点を取材、「Pixel 10」開発の裏側と“Android版AirDrop”への本気度

 ここ最近、日本国内でシェアを伸ばしているスマートフォンといえば、グーグル・Pixelだろう。4キャリア展開しているだけでなく、大量のテレビCMや代理店への支援など、他のメーカーではなかなか真似できない力技が目立つ印象がある。

 ただ一方で、グーグルはメーカーとして「ものづくり」に真摯に向き合っている企業でもある。

 実はグーグルは台湾にハードウェア関連のオフィスを設けており、世界40以上の国と地域から数千人規模のスタッフが働いている。

 台湾は半導体などを手がけるメーカーも拠点を置いており、そうした企業との連携がしやすい土地とされている。ハードウェアエンジニアリング担当バイスプレジデントのエルマー・ペン氏は「台湾のエンジニアリングチームはハードウェア、ソフトウェア、AIをシームレスに統合することで、スマートフォンに変革をもたらすことを目指している」と語る。

グーグルの垂直統合モデルの強みを語るハードウェアエンジニアリング担当バイスプレジデントのエルマー・ペン氏

 実際、Pixelのaシリーズは台湾オフィスがメインで開発を行っている。施設内には50以上のエンジニアリングラボがある。

 Pixelが環境ノイズのなかでも正しく音を伝えられるか、マイクはキチンと音を拾えるか、衝撃に耐えられるか、水や尻ポケットに入れて座っても壊れないかなど、さまざまなチェックを行い、品質を高めている。

ノイズがあるなか、Pixelのカメラが音声を収録できるかを試す無響室
防水性能や耐衝撃、折り曲げの試験などを行うラボもある

 台湾オフィスでは、Pixelで採用する素材の耐性などを試験するだけでなく、Pixel 10 Pro Foldのヒンジ部分の設計なども行っている。実際、ヒンジのギアをなくすことで、耐水だけでなく防塵性能も確保できるようになったとしている。

iPhoneのAirDropとやり取りできるAndroidは拡大

 また、ソフトウェア面での開発も担っており、昨年登場したPixel 10シリーズからiPhoneにAirDropできる機能はこの台湾オフィスで開発されたという。

 Androidプラットフォームのエンジニアリング担当バイスプレジデントのエリック・カイ氏は「iPhoneとAirDropできるQuick Shareは今年、多くのデバイスに拡大するだろう。そのためにパートナー企業と協力してエコシステムの拡大に努めている。近いうちにエキサイティングな発表ができるだろう」と胸を張った。

 Pixelエコシステム・プロダクトマネジメント担当バイスプレジデントのヴェンカット・ラパカ氏は「Pixelは最高のグーグル体験をいち早くユーザーに届けることをミッションとしている」と語る。

Androidプラットフォームのエンジニアリング担当バイスプレジデントのエリック・カイ氏(写真左)とPixelエコシステム・プロダクトマネジメント担当バイスプレジデントのヴェンカット・ラパカ氏

 グーグルとしては開発した機能やサービスをいち早くPixelに搭載しつつ、他のAndroidスマートフォンにも拡大することで、Android全体の魅力を高めていくスタンスだ。

 まずはグーグルがハードウェア、ソフトウェア、そしてAIにおいて、フルスタックの投資、開発を行い、他のメーカーをリードしていくというわけだ。

スマホのAIは先回りしてくれる提案型へ

 ここ数年、スマホはAI機能の競争に突入している。たとえば、中国ではZTEが「AIスマホ」として、ユーザーが「天気を調べて、親にメッセージを送っておいて」と話しかけるだけで、天気アプリを起動し、天気予報を調べ、その情報をメッセージアプリで貼り付け、親に送るところまでやる、といったAIがすでに試験的ではあるが搭載されている。

 もはや、ユーザーがアプリをわざわざ起動し、情報を確認し、コピーして、他のアプリを起動してペーストするなんて面倒くさいことはしなくてよくなっているのだ。こうした、スマホの操作体験の進化は昨年のMWCで見られたが、いよいよ今年、本格的に搭載するメーカーが増えてきそうだ。

 では、グーグル自体は今年、スマホのAIをどのような方向性に持っていくつもりなのだろうか。

 エリック・カイ氏は「これまでは『かこって検索』のようにユーザーの体験を向上させるツールであった。しかし、2026年は、ユーザーがAIを操作するのではなく、デバイスがユーザーに提案するプロアクティブな要素が増えるだろう」と予見する。

 プロアクティブとは、将来起こりそうな問題やニーズを先読みして、自ら進んで先手を打って行動することを指す。つまり、スマホがユーザーのことを先回りして、勝手に動いてくれるようになるというわけだ。

 たとえば、AIがスマホの中にあるスケジュールデータと現在地を把握し、次の予定に遅刻しそうになったら「メンバーに遅れるというメッセージを送りましょうか」とユーザーに提案してくれるようになるという。

 こうした処理を実現するのに欠かせないのが、オンデバイスAIとクラウドAIのハイブリッド運用だ。オンデバイスAIはプライバシーに関わるデータや即応性が求められる処理を行う。一方で、クラウドAIは最新の大規模モデルやスーパーコンピューター並みの計算を処理する。

 エリック・カイ氏は「グーグルはオンデバイスAIとクラウドAIを動的に使い分ける高度なアルゴリズムを研究、開発している」と語る。

 Tensorチップといったハードウェア、さらにAndroidというソフトウェア、Geminiというオンデバイスとクラウドで動くAIに積極的に投資しているグーグルだからこそ、実現できる世界観なのかもしれない。

 先日、グーグルはAndroidにGeminiを搭載するだけでなく、アップルにもGeminiのモデルを提供すると発表した。アップルがグーグル・Geminiを頼らざるを得ないのは、クラウドのAIを自社で持っていないという点が大きい。

 アップルが何年もクラウドAIを自社で開発できないとなると、今後、数年は「グーグル・Gemini無双」の時代が続くかもしれない。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。