石川温の「スマホ業界 Watch」

「Apple Vision Pro」ファーストインプレッション、“未来のコンピューター”感じさせるその操作感・機能の仕上がりは

Apple Vision Pro

 2月2日に発売となったアップルの空間コンピュータ「Apple Vision Pro」をハワイまで買いに行った。当日朝は、ハイタッチで店員がお迎えしてくれることなく、通常営業のようなドアオープンだった。

 日本から予約ができたのは「2日11時に受け取る」というスケジュール。11時になり、店に入ると、まずL字型のソファーに座らされて、Apple Vision Proをどのように操作するのか、どんな体験ができるのか20分ほど店員からレクチャーを受ける。

 筆者のように、すでに事前予約で購入した人だけでなく、購入を決めていない人も体験デモを予約の受け、参加することも可能だ。体験デモが気に入れば、その場で購入あるいは「購入は見送り」といった選択が選べる。

店頭でレクチャーを受ける

 20分の体験デモ後、未開封のApple Vision Proが店の奥から届けられ、持ち帰ることになる。事前に決済手続きをしているため、その場での支払いはなし。256GBモデルで55万2972円が引き落とされることになる(税金を含む)。

いざ起動して操作してみる

 まず、Apple Vision Proを装着してやることといえば視線入力の調整だ。空中に丸いドットがいくつか浮かび上がっているので、それらを見つめて、右手の親指と人差し指を軽く触れてタップする。Apple Vision Proの基本操作は目と手と声になる。

 視線流力の調整が終了すると、アプリのアイコンが浮かび上がって表示される。使いたいアプリのアイコンを見つめると、ちょっとだけ光る。あとは親指と人差し指を軽く叩くとクリック状態になって起動する。

 アプリのウィンドウの下を見るとバーが出るのでそこを持つようにするとアプリの表示を左右上下に動かせる。

 バーの横を見ると×が出てくるので、そこを見ながら指をタップするとアプリは終了。

 アプリの表示の角を部分を見ると、L字型のバーが出てくるので、そこを引っ張ると拡大縮小が可能になる。

 Web画面を見ながら、親指と人差し指をつまみ続けるとコピーアンドペーストができるようになる。

 空間上にアプリが浮かび上がっているので、いくつも並べたり、ほかのアプリを見ながら、Facetimeでビデオ通話ができたりする。

 まさに狭い部屋でも、自分の前にいくつもの巨大なアプリを浮かび上がらせて、複数のタスクを同時にこなすということもできる。

空間コンピューティングという提案

 もちろん、使い始めたばかりで、押したい場所ではないところを押してしまうなど、誤操作しやすかったりする。操作体系もまだまだこなれておらず、今後のvisionOSの進化によって完成度が上がっていくのだろう。

デジタルクラウンでホームビューを表示する

 ただ、アップルはMacでGUIやマウス、iPhoneで指によるタッチ操作を世に広めたが、Apple Vision Proで空間コンピューティングの全く新しい操作性を作り出したように思うのだ。

 片目4Kのディスプレイを採用し、映像や文字の美しさは、これまで体験したさまざまなVRやMRデバイスと比べてもトップレベルだ。対抗するとするならば、同じく4Kディスプレイを採用しているソニーがCESで参考出展したデバイスぐらいではないだろうか。

 Apple Vision Proも視野角は決して広くはないが、映像や文字の表示が美しく、Webの調べ物や読書などでも十分に耐えられる。

 Apple Vision Proでは、MacBook Proの画面を空間上に大きく表示できる機能を備えているが、これからは普段、MacBook Proでしている仕事をApple Vision Proを被ってやろうかとも考えている。

Apple Vision Proでは、パススルーとして、周囲の状況をリアルタイムで確認することが可能だ。部屋の様子をかなり鮮明に表示することができる。実際、2時間ほどつけて作業をしたが、特に酔った感じにはならなかった。

 パススルーでは、部屋を歩き回ったり、机に置いてあったSIMカードを抜き差しするピンなどもズレることなく、ちゃんと持ち上げることができる。本当に実際に見えている状態がそのまま表示されているといってもいいほどだ。

未来のコンピューター、アプリの拡充に期待

 アップルとしてもApple Vision Proでまだまだ「お試し」的に搭載してきたのがPersonaという機能だ。Apple Vision Proのカメラで自分を撮影することで、自分の分身を作ってくれるというものだ。この分身はFacetimeのビデオ通話やビデオ会議で利用できるので、Apple Vision Proを被った状態でもビデオ通話や会議ができてしまう。

 実際に自分もPersonaを作ってみたところ、確かに似てはいるのだが、なんだか微妙で、ちょっと不気味だったりする。アップルとしてはハッキリと「Beta」と言い切っているので、探り探りで、今後はAIなどを駆使して、再現度を上げていくつもりなのかも知れない。

 もうひとつ面白いのが、目の前の部分にディスプレイがあり、そこにユーザーの目元を表示する機能だ。目元が見えている感じがするので、Apple Vision Proを装着していても、まわりと分断されないというのがメリットだ。

 実際に見てみると、こちらもやはり違和感がある。本人と認識できるぐらいは似ているのだが、やはり微妙に違っている感じがある。個人的にはリアルで、見ていると「ちょっと不気味」な感じもするのだ。

 しかし、YouTube配信をしていると、動画を見ている人からは「目元が見えるのは結構、良い機能かも」と評価が高かったりする。

 Apple Vision Proの後継機種が仮に出るとしたら、真っ先にリストラされるかと思いきや、試してみると意外と良く、ひょっとするとApple Vision Proを代表する機能になるかも知れない。

 Apple Vision Proはアップルの「初物」とはいえ、正直言って、55万円と言われて、気軽に買えるものではない。しかし、確実に「未来のコンピューターの新しい形」であることは間違いないだろう。

 現状、アメリカのAppStoreしか使えず、Apple Vision Proに対応したアプリもあまり多いとはいえない。NetflixもDAZNもiPad版ですらダウンロードできなかった。

 ただ、今後、Apple Vision Proが多くのアプリ開発者の手に渡っていくと、誰も思いつかなかったようなApple Vision Pro向けのアプリが次々と出てくることだろう。
 iPhoneやiPadがアプリによって魅力を高めたように、Apple Vision Proも、今後出てくるであろうアプリによって、その魅力は何倍にも大きくなっていくことだろう。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。