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KDDIの通信障害から一年、業界で進んだ新たな取り組みとは

KDDIの髙橋誠代表取締役社長(2022年7月撮影)

 7月2日1時35分~4日15時までの61時間25分――これは、昨年KDDIで発生した通信障害の影響時間だ。3日近くにわたった障害の影響は、モバイルネットワークのみならず、物流や自動車をはじめとした産業界にまで波及した。

 影響規模は約2300万人。大規模な障害は問い合わせ窓口などの混雑にもつながり、モバイルネットワークが今やインフラの一部になっている事実を、あらためて実感させることとなった。

 あれからちょうど1年が経過した今、障害に向けた対策はいったいどのように進められてきたのか? 本稿では、業界全体の動向も含めて紹介する。

メンテナンス作業が原因となった通信障害

 金子恭之総務大臣(当時)が「これまでにない長時間かつ大規模」とコメントした通信障害は、メンテナンス作業が直接の原因となった。

 ルーターの経路の誤設定により、約15分間にわたって通信断が発生。KDDIによる作業の切り戻しも実らず、位置登録要求が大量に再送され、VoLTE交換機や加入者DB(データベース)での輻輳(ふくそう)などにつながった。

 長時間にわたって全国で発生した障害を受け、KDDIの髙橋誠代表取締役社長を含む関係役員は、報酬を自主的に返上。また、利用者に対する約款返金と「お詫び返金」は、総額73億円にのぼった。

事業者間ローミングの実現に向けて

 通信障害によって110番や119番といった緊急通報ができなくなれば、それはまさしく人々の命に関わる問題になる。

 事態を重く見た総務省は、通信障害などの際に他社回線で携帯電話を使えるようにする「事業者間ローミング」実現に向け、2022年9月に第1回の検討会を開催。以来、キャリア4社も交えてさまざまな方策の検討が進められてきた。

 事故から約1年を経た2023年6月30日には「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会」の第9回が開催され、第2次報告書が公開された。

 通報者の位置情報取得や呼び返し(コールバック)が可能なフルローミング方式による事業者間ローミングは、2025年度末ごろに開始される見込み。

事業者間ローミング(フルローミング方式)の導入までの全体スケジュール(総務省の資料より)

 あわせて、事業者のコアネットワークに障害が発生し、フルローミング方式によるローミングが実施できない場合に備え、「緊急通報のみ方式」の導入も検討される。

フルローミング方式と、「緊急通報の発信のみ」を可能とするローミング方式のイメージ(総務省の資料より)

事業者レベルでのサービス実装も進む

 先述のような有識者会議における検討と並行して、各事業者によるサービス実装も進められてきた。

 2022年11月、ソフトバンクの宮川潤一代表取締役社長は決算会見の壇上で、“デュアルSIM”サービスについてKDDIと検討が進んでいると発言。ここでの“デュアルSIM”とは、一方の通信事業者で障害が発生しても、もう一方の事業者で通信できるサービスのことを指す。

 宮川社長の発言から半年も経たない今年3月、まずはKDDIが「副回線サービス」をスタートさせ、続く4月にソフトバンクも同様のサービスの提供を開始した。KDDIの利用者はソフトバンク回線を、そしてソフトバンクの利用者はKDDI回線を、バックアップとして利用できる。

 また、NTTドコモでも、KDDI回線を利用できる「副回線サービス」が6月1日にスタートした。

 もしものときに備える“冗長化”の流れは、コンシューマー向けにとどまらない。たとえばNTTコミュニケーションズは、法人向けサービスとして「Active Multi-access SIM」を発表。IoT向けのデータ通信SIMとして、障害発生時に自律的に接続先を切り替えるしくみなどを備えている。

追加投資や「安全大会」など、KDDIの取り組み

 KDDIでは2022年11月、障害対策として中期で500億円規模の追加投資を実施すると発表していた。コア設備に対し、全自動運用などを導入する。

 今年に入って6月30日には「安全大会」が実施され、髙橋社長を含めて社内および関連会社の約3200名が参加。通信障害の再発防止に向けた取り組みの状況などが共有された。

 同社は「KDDI VISON 2030」として掲げる“つなぐチカラ”の進化に向け、今後も障害を防ぐための取り組みを続けていく。

「安全大会」の様子(KDDIのニュースリリースより)