石川温の「スマホ業界 Watch」

KDDIの大規模通信障害で示された大きな課題「ユーザーの周知」はどうあるべきか

 7月29日、KDDIが7月2日から発生した大規模通信障害の説明会見を行った。すべてのユーザーに対する返金は200円、主に音声通話のみを契約しているユーザーに対しては基本料金の2日分相当額が請求額から減算される。これにより、返金総額は73億円相当になる。

KDDI髙橋誠社長

 会見終了後、復旧現場にいた人に話を聞くことができたが、そもそも発端となった工事は、本当に普段から行っている、何気ない作業のひとつに過ぎなかったという。

 日々、こなしている膨大な処理のうちのひとつが、こんなにも大規模な通信障害に発展するとは、予想できなかったのだろう。そう考えると、KDDIだけでなく、他社でも充分に起こりうる障害なのかも知れない。

大きな課題となった「ユーザーへ知らせる方法」

 今回、課題として浮き彫りになったのが、ユーザーへの告知だった。KDDIでは同社のWebサイトで通信障害が発生している旨を伝えていたが、そもそもデータ通信ができていないユーザーも多く、Webサイトにアクセスできなかった人が多かったようだ。

 また、一般の人は「なぜか、つながらない」と思ったとしても、その次に「KDDIのWebサイトに確認してみよう」という発想にはなりにくいのかも知れない。

 ただ、今回はKDDIとしてWebサイトで情報発信していたものの、通信障害の詳細がわからないなか、内容についてはかなり苦労していた感がある。

 総務省の意向により、情報の更新は1時間に1回程度であったが、中身については具体的な記述の更新がなく、ヤキモキされることが多かった。実際、原因が特定されていれば、対処方法や復旧する時間の目処も告知できるだろうが、そもそも原因がわからないようでは、情報を更新したくでもできないのだ。

周知方法も今後の対策のひとつに

 また、auやUQモバイルのSNSアカウントでも情報発信していたが、一般ユーザーがわざわざ普段からauやUQモバイルのアカウントをフォローしているということはあまりないだろう。

 今回の通信障害は土曜の未明から発生していたが、土曜の朝となるとニュースや情報番組が平日と比べて少ないということもあり、一般の人に通信障害の情報が伝わりづらかったということもありそうだ。

 SMSや+メッセージで告知すれば良かったのではないかという気にもなってくるが、今回、SMSなども使えなかった。

アプリの通知機能も活用できる?

 今後、また起きるかも知れない通信障害に向けて、ユーザーにどのように告知する術を提供すればいいのか。

 ひとつ、検討すべきはとにかく、複数の情報発信ルートを作っておくと言うことに尽きるだろう。自社サイト、SNS、SMS、+メッセージだけでなく、ひょっとすると「アプリの通知機能」も有効かも知れない。

 キャリアで通信契約をしていたら、何かしらキャリアが提供するアプリがスマートフォンに入っていたりしないだろうか。auユーザーであれば「My au」や「au Pay」、ユーザーによっては「auじぶん銀行」などもインストールされているだろう。

 NTTドコモが提供するAndroidスマートフォンであれば、いやというほど、キャリア製のアプリがインストールされている。楽天モバイルなら「Rakuten LINK」があるし、MVNOもデータ容量を追加したり、請求金額がわかるアプリを提供しているところがある。

 ソフトバンクはキャリアアプリがほとんど入っていないが、グループシナジーということで、PayPayやLINEの通知機能を使えばいい。

 もちろん、セルラー通信も障害となっている場合は、Wi-Fi環境でなければ通知は受けられないが、なんとかWi-Fi環境下にいればプッシュ通知で、いま何が起きているのかユーザーに伝えることができるだけでも、混乱は避けられるのではないか。

 複数のアプリが一斉に同じ通知を受けて同時に表示してしまう危険性はあるため、そのあたりの検討は必要かもしれない。

課題となる「復旧」の知らせ方

 もうひとつ、今回の通信障害で「ユーザーへの伝え方の難しさ」を改めて実感したのが、復旧に向けたアナウンスだ。

 昨年、NTTドコモが通信障害を起こした際、「復旧に向けて作業が終わった」という声明が、テレビのニュース報道で流れてしまった。結果、ユーザーからのアクセスが殺到し、輻輳が収まらずにつながりにくい状態が続いてしまったということがあった。

 今回、KDDIでも高橋社長が「他社の件を教訓に復旧というものは確実に復旧してからお客さまのほうに伝えなさいという話があった。今回、ユーザーにはできるだけ早く情報を出すため、工事の終了時刻という、『復旧』とは違う言葉を使って先にお伝えしたが、それがやはりお客さまからすると『工事が終了』=『復旧』と捉えられ、また混乱を起こしてしまった。非常に難しい事例だったというふうには思っている」と振り返っている。

 工事が終わっても「不要不急の電話やデータ通信はしばらくお控えください」といったアナウンスが必要なのかも知れないが、とはいえ、ユーザーとしては「すぐに使いたい」と思っているのだから、そんなことを言われたからといって「使用を控える」というわけにはいかないだろう。

 一度、輻輳によって止まってしまったネットワークを再度、正常に戻すのには相当な困難が伴うようだ。

 今後も同様の通信障害が、どのキャリアでも起こる可能性は充分にある。総務省と4キャリアは今回の件を教訓に「どのようにユーザーに情報を伝えれば混乱が少なく済むか」をじっくりと検討してもらいたいものだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。