藤岡雅宣の「モバイル技術百景」

スマホの位置はどうして正確に分かるの?――基地局、衛星、Wi-Fi/BLE、センサーの共演

 国内でも海外でも、私たちが移動先でスマホの地図アプリを開くと、画面に現れる青い丸がぼんやりとした円から、数秒のうちに自分が立っている場所へと縮んでいきます。これは、誰もが日常的に目にしている光景です。実はこの「測位」はGPSなどの衛星、モバイル通信基地局、Wi-Fi、スマホが持つセンサーなどによるさまざまな技術の連携により実現しています。

 自分のいる場所が正確に分かるので、私たちは電車の駅やバスの停留所から目的地へ迷わず歩けます。手のひらのスマホは、一体どのようにして自分の居場所を突き止め、どこまで正確にその位置が分かるのでしょうか。日常の何気ない体験の裏側にある高精度な測位における技術共演の仕組みを見ていきましょう。

 なお、測位というのはさまざまな用途で利用される幅広い技術で、必ずしもモバイル通信とは関連のない場合もありますが、ここでは私たちになじみの「スマホの測位」に焦点を当てて話を進めます。

測位の基本原理

 測位の最も基本となる原理が「三角測位」で、仕組みそのものは非常にシンプルです。図1(1)のように、位置が正確に分かっている2つの基準点(たとえば山頂Aと山頂B)と自分のいる場所とで「三角形」を作ります。そして、南北を結ぶ基準線に対して2つの基準点を見通す角度を測ります。これを正確に測ることができれば、計算によって自分の位置を割り出せます。

図1:三角測位の基本的な仕組み

 専門的にはこのように角度を測るやり方を「三角測量」、下で述べるように距離を測るやり方を「三辺測量」として区別していますが、どちらも三角形の性質を利用する点で共通しています。本文ではこれらを総称して「三角測位」と呼びます。

 明治から大正にかけて、当時の日本陸軍陸地測量部の測量技術者たちが全国の山々に三角点と呼ばれる測量標識を設け、その上に建てた観測用の櫓(やぐら)を目印に角度を測り、日本列島を三角形の網の目で結んで地図の骨組みを作ったときも、使われたのは三角測位でした。

 ここで、「角度」を測る代わりに、それぞれの基準点までの「距離」が分かれば平面上の位置を割り出せます。しかし、距離だけを手掛かりにする場合、2つの基準点からでは対象となる場所の候補が2カ所現れてしまいます。たとえば「東京タワーから10km、スカイツリーから12km」という条件だけでは、地図上にはそれに該当する地点が2カ所あります。

 そこで図1(2)のように、たとえば「六本木ヒルズから何km」という3つ目の基準点を追加すると、場所を1点に絞り込めます。また、3つ目の基準点を利用することは、観測データの誤りを検知したり、測定ミスや誤差を補正する上でも有効です。

 現代のスマホで利用している測位も、多くの場合の原理はこの距離を用いる三角測位の延長線上にあります。ここで、基準点への距離は、電波の届く時間から計算して割り出しています。

 電波は1秒間に約30万キロメートル(地球を7周半する速度)という、光と同じスピードで空間を駆け抜けます。非常に高速ですが、発信元から放たれた電波が受信先に届くまでの時間をナノ(10億分の1)秒単位で正確に測ることで、あとで述べるように基地局や衛星から自分まで何メートル離れているかをリアルタイムに計算しているのです。

基地局を利用した測位

 スマホは待受状態であっても、周囲の基地局が常に電波で報知しているシステム情報を周期的に監視しています。そのうちSIB(System Information Block)という信号の中には、国と通信事業者を示す番号と、その事業者の中で個々のセルを見分ける番号が含まれます。この2つを組み合わせたもの(ここでは「セル番号」と呼ぶ)で、世界中の基地局のセルをただ1つ特定できます。

 通信事業者のデータベースには、全国津々浦々に設置された何万~何十万もの基地局アンテナの「正確な設置緯度・経度」が登録されています。スマホがどのセル番号の電波を受信しているかが分かれば、それだけで「そのアンテナから電波が届く範囲(セル半径)のどこかにいる」ということが、計算するまでもなく分かります。

 精度こそ数百メートルから数キロメートルと粗いものの、この「セル番号測位」の強みは即時性と省電力性です。新たな電波の測定や複雑な計算を一切行わず、普段の通信のついでに得られる情報だけで、スマホが電波を受信してから1秒以内という手軽さで大まかな現在地を得られます。

 セル番号単体では「アンテナを中心とした広い扇形や円のエリア」しか分かりませんが、基地局とスマホの間のおおよその距離を推定するための手掛かりが存在します。それが、4Gや5Gの標準仕様にも組み込まれている「Timing Advance(TA)」というパラメータです。

 モバイル通信の基地局とスマホの間では一定の周期で無線信号を送受信しますが、基地局では複数のスマホからの上り(スマホから基地局の方向)の信号が各周期同じタイミングで到達するようにして信号処理を効率化しています。そのため、図2に示すように基地局からより離れたスマホはより早いタイミングで、各周期の信号を送り始めるようにします。これがTAです。

図2:Timing Advance(TA)

 基地局は端末から届く上り信号の到着タイミングを見て、端末に送信時刻をどれだけ前倒しするかを指示します。4GではこのTAを約0.52マイクロ秒単位で調整できます。TAは電波の往復伝搬時間に対応するため、片道の距離に換算すると基地局から約78メートル離れるごとに上り信号の送信時刻を調整していることになります。

 つまり、基地局は通信を行っているだけで、スマホが「基地局から半径何メートルの同心円状の帯(リング)の中にいる」ことを把握できます。アンテナが特定の方向だけをカバーしているものであれば、その向いている方角とこのTA値を組み合わせるだけで、セル番号単独で特定可能な大雑把な面から、「幅数十メートルの円弧」へと絞り込まれます。

 ただし、ビル街や屋内では、電波が建物の壁などに跳ね返って遠回りする反射波が発生するため、TAによる推測では基地局はスマホを実際よりも遠くにいると見積もってしまうことがあります。

 また、TAは通信中にしか分からないこともあり、地図アプリではあまり利用されません。しかし、おおよその距離を把握できるということの価値は大きく、110/119番などの緊急通報の際の位置の絞り込みに利用されることはあります。

 基地局からの電波伝搬の時間でおおよその距離が分かることから、3つの基地局からの電波を組み合わせれば精度の高い三角測位ができる可能性があります。実際、4Gや5Gの仕様の一部として基地局を利用した三角測位の仕様が規定されています。

 しかし、上記の反射波の問題やスマホが複数の基地局とやりとりする必要があること、電力消費などの課題があること、また下記の衛星などの代替の測位技術を利用した方が効率が良いため、一部の特定の用途以外には、この三角測位は利用されていません。

衛星を利用した測位

 セル番号やTAを使えば、自分がどの基地局からどれくらい離れたどの辺りにいるかという大まかな位置が瞬時に分かります。しかし、私たちが地図アプリで目的地まで迷わず歩くときに求められる「数メートル単位の精度」を得るには、上空から測位信号を送信する人工衛星――GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)の利用が不可欠です。

 一般には米国の「GPS(Global Positioning System)」が最も広く知られていますが、現代の衛星測位としては、日本の準天頂衛星「みちびき(QZSS:Quasi-Zenith Satellite System)」、欧州の「Galileo」、ロシアの「GLONASS」、中国の「BeiDou」など、世界各国・地域の衛星群を束ねた「マルチGNSS」体制が世界標準となっています。

 頭上には常に数十機もの測位衛星が周回しており、スマホはその中で条件の良い衛星からの電波を常時10~20機以上から同時にキャッチしています。日本の上空ではGPSだけでなく、常時みちびきの衛星があり、Galileo、BeiDouなどもすべて必要に応じて利用できます。

 GNSS衛星は超高精度な「原子時計」を積んでおり、電波に乗せて「精密な発射時刻」に相当するパターンの信号を1ミリ秒(1/1000秒)ごとに、また「軌道情報(いま宇宙のどこにいるか)」を30秒周期で地上へ届けています。スマホは衛星の軌道上の位置を確認した上で、「発射時刻」信号を受信した時刻から伝搬時間を割り出し、衛星から自分までの距離を計算します。

 三角測位の幾何学的な原理から言えば、3機の衛星からの距離が分かればスマホの3次元位置(緯度・経度・高度)を特定できるはずです。しかし、実際の測位には図3に示すように「最低4機」の衛星が必要とされます。その理由は、スマートフォンが内蔵している安価な水晶発振器(クォーツ時計)が、原子時計ほどの精度を持っていないからです。

図3:GNSS測位のイメージ
出典:国土地理院 GNSS測位とは

 電波は光速で進むため、スマホ側の時計がわずか1マイクロ秒(100万分の1秒)狂っているだけでも、計算上の距離は約300メートルも狂ってしまいます。そのため、GNSS測位では緯度・経度・高度という3つの未知数に加え、「スマホの時計が原子時計から何秒狂っているか」という4つ目の未知数を同時に計算しなければなりません。

 数学の復習になりますが、未知数が4つある連立方程式を解くには4つの条件式、すなわち最低4機の衛星からの電波が必要になります。スマートフォンは4機目の衛星を、自身の時計の狂いを補正するための物差しとして使っているということもできます。

 しかし、どれほど宇宙のシステムが精密であっても、地上の現実世界では制約があります。高層ビルが林立する場所では、衛星からの直接波がビルに遮られ、通りの向かいのガラス壁やビル群に何回も反射して遠回りした電波を受信してしまうことがあります。遠回りした電波は到着時間が遅れるため、スマホは「衛星から実際よりも遠い位置にいる」と誤認してしまいます。

 また、電波は真空中であれば光速で直進しますが、地上約60~1000kmの「電離層」や地表付近の「対流圏」といった地球大気を通過する際にわずかに減速し、遅延が生じます。特に電離層での遅延時間は、電波の周波数の二乗に反比例するという物理的な性質を持っています。

 これらの反射波や電離層遅延の問題を軽減する仕組みとして、急速に普及しているのが「デュアルバンド(2周波)GNSS」です。従来のスマホは「L1帯(1.5GHz帯)」と呼ばれる単一周波数のみを受信していました。これに対し、近年のスマホの一部はより新しく帯域幅の広い「L5帯(1.2GHz帯)」の電波も同時に受信できるようになっています。

 L5帯の信号は波形が非常にシャープであるため、スマホ受信回路の中で、衛星から「まっすぐ届いた直接波」と「壁などで跳ね返って遅れて届いた反射波」を時間軸上で分離して見分けられます。

 さらに、周波数の異なる2つの電波(L1とL5)の到着時間の差を比較することで、電離層を通過する際に生じた遅延時間を高精度に推定し、誤差を大幅に減らせます。

 このデュアルバンドGNSSは、iPhoneでは14 Pro以降の上位モデルを中心に、Android陣営ではハイエンド機だけでなくミドルレンジ層にまで幅広く対応が進んでいます。

 さて、通常GNSSによる測位を行う際、どの衛星がどこを飛んでいるか分からない状態からスタートすると、宇宙から届く毎秒数十ビットという超低速な電波から軌道情報を複数の衛星から読み取らねばならず、最初の位置を特定するまでに数分かかってしまいます。しかし、スマホで地図アプリを開くと、わずか1~2秒でGNSS測位が完了します。

 ここで重要な役割を果たしているのが「A-GPS(Assisted GPS)」という仕組みです。GoogleやApple、あるいは通信事業者は、GNSSの最新の軌道情報を「アシスタントサーバー」に常時集約しています。

 スマホが基地局から得たセル番号などをこのアシスタントサーバーに送ると、そのセル番号に対応する位置をキーとして、アクセス可能な衛星の番号や軌道データ、各衛星からの報知信号が載せられる「無線周波数ずれ」の情報を返信してくれます。

 GNSSはL1帯やL5帯の周波数で電波を送っていますが、GPSなど非静止衛星ではドップラーシフト(救急車が近づいてくるとサイレンの音が高くなり離れていくと低くなるのと同じ原理で、電波も「波」なので周波数のずれが生じる)により地上で受信する際の周波数がずれるので、どれくらいずれているかを知らせてもらうことでスマホがその電波をうまく受信できます。

 この地上でのアシストデータにより、スマホは電波を探す手間を省いて即座に受信すべき衛星が分かり、一瞬で位置を計算できます。過去の経緯からA-GPSと名前に「GPS」と付いていますが、現在ではGPSだけでなくみちびきやGalileo、BeiDouなど、主要なマルチGNSS全体の軌道データが一括して提供されています。

Wi-Fiを利用した測位

 空が開けている場所であれば、GNSSは間違いなく現代最強の測位システムです。しかし、どれほどGNSSが進化しても、地面の下の地下街や大型ビルの屋内に入ってしまえば、衛星からの電波は途絶してしまいます。

 ただ、私たちが地下街や大型ショッピングモールを歩いていても、スマホの地図アプリ上でフロアマップの自分の足取りを正確に追えることがあります。このようにGNSSが使えない屋内で利用されているのがWi-FiやBluetoothです。

 都市部の地下街などでスマホのWi-Fi設定画面を開くと、近隣のカフェやショップ、オフィスのWi-Fiサービス名(SSID:Service Set Identifier)がずらりと並びます。Wi-Fiアクセスポイント(AP)はこのSSIDを報知していますが、それに加えて世界中で基本重複のないAPのハードウェア固有番号である「BSSID(Basic Service Set Identifier)」も周囲に報知しています。

 このBSSIDに対応するWi-Fi APの位置情報を、AppleやGoogleは巨大なデータベースとして保持しています。その裏側には、世界中のスマホが自律的にこのデータベースを作り上げる「協調型クラウドソーシング」の仕掛けがあります。

 実は、屋外の見通しの良い場所でスマホがGNSSを用いて自らの緯度・経度を測定しているとき、スマホのOSであるiOSやAndroidはバックグラウンドで「GNSSで測った現在地」と「その場で観測できた周囲のWi-Fi APのBSSID」をセットにして記憶し、暗号化・匿名化した上でAppleやGoogleのサーバーへ定期的に送信しています。

 位置情報関連の設定が有効な多数のスマホから得られる観測情報によって、「どのAPが地球のどの位置にあるか」という世界規模のクラウドソース型のWi-Fi AP位置情報データベースが継続的に更新されています。

 地下街などでスマホが受け取ったWi-Fi APのBSSIDをキーとして、上記のAppleやGoogleのデータベースに問い合わせるとそのAPの位置情報を得られるので、そのAPの電波の届く範囲(半径数十メートル以内)に自分がいることがほぼ分かります。

 さらに3台以上のWi-Fi APからの電波を受信できれば、それぞれのAPからスマホが受ける電波の強弱から距離が推定できます。そうすると、概念的には三角測位の原理により現在地を数十メートルから十数メートル程度まで絞り込めます。

 Wi-Fiによる測位の最大の強みは、パスワードを入れるなどして実際にAPに接続する必要がまったくないという点です。スマホが周囲にどんなWi-Fi電波が飛んでいるかをスキャンするだけで機能します。

 ただ、現実には屋内は壁や柱、行き交う人々によって電波が複雑に反射・遮蔽されるため、電波強度だけから正確な距離を割り出すのは必ずしも容易ではありません。そこで、場所ごとにAP1の電波強度はX、AP2の電波強度はYというように電波環境を記録しておくフィンガープリント(指紋)方式も利用されています。

 あらかじめ施設内のあらゆる地点でこのような電波強度の組み合わせを細かく調査してデータベース化しておき、スマホが観測した電波パターンの組み合わせをサーバー上のマップと照合(パターンマッチング)することで、精度の高い測位が実現できます。

 フィンガープリント方式では施設ごとに電波環境を現地調査する必要があるため、データは施設のオーナーや専門業者が作成するのが基本です。そのデータは、Appleの屋内マップのようにスマホ組み込みの地図アプリで使われる場合もあれば、施設の専用アプリで使われる場合もあります。

Bluetooth(BLE)を利用した屋内測位

 一方で、Wi-Fiよりもさらに狭い数メートルから十数メートルというピンポイントの至近距離を捉えるのがBluetoothです。

 その中心となるのが、壁や柱に取り付けられた小型発信機であるビーコンです。イヤホンやスマートウォッチのようにスマホとペアリング(接続)するのではなく、いわば街の電子灯台として、自らの識別子を含んだ短い信号を一方向に報知(ブロードキャスト)し続けています。

 ビーコンの信号形式はいくつかありますが、日本でも広く使われている代表的なAppleの「iBeacon」形式では、運用者やサービスを識別するUUID(Universally Unique Identifier)と、Major、Minorという3つの番号が含まれています。運用上、たとえばMajorが施設内のフロア番号、Minorはそのフロア上の個々のビーコン自体に割り当てられます。

 スマホに施設やビルに特有のアプリを入れておくのがBluetooth測位の前提です。アプリにフロアマップ情報が入っていれば、Bluetoothビーコンを受けるとそのマップ情報から自分の場所を特定できます。あるいは、アプリからその施設のサーバーにあるマップ情報にアクセスしてフロアマップ上での自分の位置を獲得します。

 例として、iBeaconで一つの施設内のBluetoothデバイスにすべて同じUUIDが振られ、MajorとMinorだけが異なるとします。iBeacon対応のアプリを搭載したスマホがその施設のBluetoothデバイスからビーコンを受けると、バナー通知が画面にポップアップして特定の施設に入ったことを知らせます。この通知をタップすると上記アプリが起動する、といった使い方ができます。

 アプリを起動すれば、たとえば駅構内であれば今いる場所からの構内案内ルートを示したり、博物館であれば展示物の前で自動的に音声ガイドを再生したり、商店街の店舗の前であれば割引クーポンをポップアップさせたりと、用途によってさまざまなやりとりが可能となります。

 さて、AppleのAirTagなどの紛失防止タグにもBluetoothビーコンが組み込まれています。タグを紛失した場合、タグの近くをたまたま通った人のスマホがすれ違いざまにタグの報知信号を受け、匿名で現在地とセットでクラウドに通知することで、地球規模の落とし物追跡網を構築しています。

 このようなクラウドはAppleやGoogleが別々に構築・管理しており、通知を受けたタグの位置を持ち主のスマホに知らせて地図上に表示します。タグが発信する識別子には、他人に見破られないよう定期的に変化させ続けるという非常に高度なプライバシー保護技術が組み込まれています。

 さて、Bluetoothとは別の無線技術ですが、UWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線)も測位に使われています。UWBは非常に広い周波数帯域を使い、ナノ秒単位のごく短いパルス状の電波をやりとりする無線技術です。

 スマホが鋭いUWBパルスを送ると、受信した相手の機器も同じくUWBパルスで応答します。その往復時間から相手側の処理時間を差し引いて精密に測ることで、条件が良ければ10センチ前後の精度で距離が分かります。さらに、スマホ側に複数のアンテナを持ち、機器からの電波が届く角度を測れば、相手のいる方向も分かります。

 iPhoneは2019年発売のiPhone 11以降の多くの機種(一部を除く)が、Androidでも一部のハイエンド機がUWBを搭載しています。UWB対応のiPhoneでAirTagを探すときに「あと何メートル、どちらの方向」と矢印で案内する機能や、スマホをクルマのデジタルキーとして使う機能などに利用されています。

 なお、Bluetoothビーコンは2010年に仕様が制定されたBluetooth 4.0に含まれるBluetooth Low Energy(BLE)対応のデバイスから報知されます。BLEは、スマホとイヤホンやスマホ同士などの近距離通信で使われる従来のBluetoothとは異なる役割を持っています。

 また、2019年に標準化されたBluetooth 5.1では、電波の到来角度から方向を測る「方向探知」機能がBLEに加わりました。ビーコンを使ったより高精度な屋内測位の技術として注目されています。

 BLEは名前の通り低消費電力であり、ボタン電池一つで数カ月~数年も動き続けることができ、また小型で安価に製造できます。ただ、設置するビーコンの数が増えると電池の取り替えが大きな負担となるため、駅や店舗のLED照明や天井の業務用Wi-Fi AP、街中の自動販売機など電源のある設備に相乗りさせることも多いようです。

スマホ内蔵センサーによる測位

 GNSS、そして地上のWi-FiやBluetoothの信号はすべて外部から届く電波を手掛かりに自らの位置を割り出す仕組みです。しかし、電波には常に「死角」や「途切れ」がつきまといます。そこで、地下道の電波の死角やトンネルの中であっても、スマホのOSやナビゲーションアプリが必要に応じて内蔵センサーから移動量を推定することがあります。

 この仕組みを、航海や航空の世界から受け継いだ技術になぞらえて「歩行者自律測位(PDR:Pedestrian Dead Reckoning)」と呼びます。

 スマホの中には、微細な機械構造を半導体チップ上に形成したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれる極小センサー群が詰め込まれています。PDRを支えるのは、主に以下のセンサーです。

 加速度センサー:人間が歩くとき、腰や手元は上下前後に揺れます。その特有の波形(加速度の変化)を捉え、歩数を推定します。さらに揺れの大きさや周期の乱れから、小走りで大股、すり足でゆっくりなどと推測し、1歩あたりの歩幅を動的に推定します。

 ジャイロセンサー:スマホがどれくらいの速さで回転したかを検出します。「通路を右へ直角に曲がった」「階段を回りながら上った」といった身体の向きの急激な変化を、リアルタイムに角度として捉えます。

 地磁気センサー:地球の磁場(北)を検知し、端末が東西南北のどちらを向いているかという方位を割り出します。

 これらを組み合わせることで、最後にGNSSやWi-Fiを利用して確定した地点から、どちらの方角を向き、何歩・何メートル進んだかを足し算し続けることで、電波なしでも現在地をリアルタイムに更新し続けられます。

 ただ、PDRでは1歩ごとに生じる数センチの歩幅のズレや移動方向のわずかな誤差など、計算を繰り返すうちに測定誤差が膨らんでいきます。電波による補正がないまま数分間歩き続けると、計算上の位置は現実の場所から数十メートルも乖離してしまう可能性があります。

 この誤差を補正するため、たとえば、人間は壁を通り抜けられない、道路に沿って歩くはず、など実際の地図上の制約を利用する「マップマッチング」、ビルの鉄骨やエレベーターによる磁場の歪みをその地点特有の固有パターンとして利用する「地磁気フィンガープリント」など、さまざまな技術を取り入れています。

高さ方向の測位

 ビルが林立し、地下にまで都市空間が広がる現代社会において、平面上の位置(緯度・経度)だけでなく、「いまどのフロアにいるのか」という高さ方向の位置も極めて重要です。たとえば高層ビル内で緊急時に救急車や消防を呼ぶ際、通報者が何階にいるのかが瞬時に分からなければ、迅速な救命・救助活動につなげられません。

 しかし、高さの測位は水平方向よりもはるかに困難です。GNSSは地平線の上にしか配置できず、頭上の衛星のみを利用するという配置上の制約(幾何学的限界)があるため、屋外の見通しが良い場所であっても高度誤差は水平方向の1.5~2倍以上に広がってしまいます。

 また、屋内ではWi-FiやBluetoothの電波は天井や床を通り抜けてしまうこともあり、電波強度だけでは「地下通路にいるのか、地上フロアにいるのか」といった階数まで正確に判別できないケースが多々あります。

 そこで重要な役割を果たすのが、近年の多くのスマホ機種に搭載されている気圧センサーです。

 地上付近では、標高が約10メートル高くなるごとに気圧が約1.2ヘクトパスカル(hPa)低下します。近年の精密な気圧センサーは、わずか数十センチの高低差に伴う大気圧の微小な変化を検知できます。たとえばエスカレーターやエレベーターに乗った際、気圧が連続的に変化することを捉え、スマホは上下移動中であることを即座に察知します。

 このように上下の移動に伴う気圧の微妙な変化を検出できれば、ある地点(たとえばビルの1階)の気圧を基準高度として測定しておき、そこからの差分によっていま何階にいるのか正確に推測できるようになります。

 この基準点の階数を特定する有力な手法の一つが、前述のWi-Fiフィンガープリント方式です。電波の固有パターンから「いま3階にいる」と想定できれば、そこを起点として気圧センサーの昇降を追跡することで、複雑な館内でも迷わずに階数を追い続けられます。

 一方で、街のどこにいても正確な高度を知るための広域システムの開発も進んでいます。地上に高密度な気圧基準点を設置し、基準点とスマホの気圧の差分から高さを逆算するシステムです。

 そもそも大気圧は、天候の移り変わりや低気圧の接近によって日常的に数hPa単位で変動します。そのためスマホ単体では天気が崩れて気圧が下がったのか、自分が上の階に上ったのかを区別できません。

 そこで地上の基準点が常時大気圧を測定してクラウドの高度計測サーバーへ送り続け、サーバー側で地域全体の気圧が天候でどれだけ揺らぎ、海抜何メートルが何hPaに相当するかという最新データを常に保持します。

 図4に示すように、スマホのアプリに組み込みの測位機能が「現在の気圧は1005.2hPa、水平位置は渋谷駅前の緯度X・経度Y付近」といったデータをクラウドへ送信すると、サーバーは直近の基準点データと照合します。これにより、誤差2~3メートル以内(ビルの1フロアの範囲内)という高い精度で標高が算出され、「このビルの5階にいる」と特定できるのです。

図4:高度計測サービスのイメージ
出典:MetCom Pinnacle 垂直測位サービス

 日本では、MetCom社が主要都市部(東京、大阪、名古屋など)のビルの屋上に、標高を正確に測量した高精度気圧計を高密度(数キロメートル四方に1基程度の間隔)に配置し、この垂直測位サービスを展開しています。

 MetCom社の荒木健吉取締役によると、「本システムは現状、大都市において屋内で働く人たちなどの位置把握に利用してもらっています。今後は、屋内のナビゲーションなど、さまざまな用途を開拓していきたいと考えています」とのことです。

その他の高度な測位技術

 ここまで見てきたように、スマホはGNSS、Wi-Fi、Bluetooth、そして各種センサーを巧みに組み合わせて数メートル単位の測位を実現しています。

 日常生活の道案内や配車アプリ、フードデリバリーなどであれば、この精度で困ることはまずありません。しかし、世の中には極限の精度が求められる用途があります。RTK(Real Time Kinematic)という仕組みが、このようにより高精度の測位が必要となるクルマの自動運転や農機の自動走行、ドローンの精密測量などで用いられています。

 通常のGNSS測位は、衛星から送られてくる電波の時間情報を読み取って距離を計算するため、大気の揺らぎなどにより数メートルの誤差がどうしても生じます。

 これに対しRTKは、図5に示すように位置が寸分狂わず分かっている地上の「基準局(既知点)」をGNSSと併用します。

 基準局とクルマなどの移動局が同じGNSS衛星から届く搬送波の位相(波の山と谷)を観測します。両者の観測値の差を取ることで衛星時計や大気による共通の誤差を減らし、さらに搬送波が何波長分進んだかを計測することで、数センチ級まで位置を絞り込みます。

図5:RTK測位の仕組み
出典:国土地理院 GNSS測位とは

 RTKで電波の波の数を正確に数えるには、地面や建物から跳ね返る反射波を強力にカットできる高品質な多周波アンテナや、高度な演算をこなす専用の測位モジュールが必要です。基準局からの補正データを常時受け取り続けるための通信セッションを維持する仕組みも必要です。

 スマホでもRTKを試せる機種は増えていますが、小型アンテナや反射波、端末の姿勢変化などのため、測量用受信機のように安定してセンチメートル級の精度を得るのは容易ではありません。

 なお、国内ではNTTドコモ、ソフトバンク、KDDIの各通信事業者が、国土地理院の電子基準点や独自に設置した基準局網を活用して法人向けなどのサービスを展開しています。

 一方、屋内でもGNSSと同じような仕組みで測位を可能とするMBS(Metropolitan Beacon System)という技術があります。

 都心の超高層ビル街や地下空間では、空からの衛星電波がビル群に遮られ、GNSSが機能しにくくなる「アーバンキャニオン(都市の峡谷)」現象が起きます。そこでMBSは、街中のビルの屋上や無線通信基地局に専用の地上送信機(ビーコン)を設置し、GNSSと同等の測位用電波を地上から大きな出力で発信します。

 つまり、MBSは「地上に置いた人工衛星ネットワーク」とも言うべき仕組みです。しかし、宇宙から届く微弱な電波とは比べものにならない受信強度で届くため、ビルの壁を貫通して屋内や地下まで浸透し、その電波のみでどこにいても位置を正確に割り出せます。

 MBSの仕様はモバイル通信の国際標準にも取り込まれており、技術的には5G用無線通信モジュールが対応すれば測位用信号を受信できるようになります。ただ、現在市販されているスマホは対応しておらず、MBS対応通信モジュールの開発と実装が必要となります。

 日本でのMBS展開については、前述のMetCom社が実証実験を終え、商用サービスの本格化に向けて地上送信局の整備を計画している段階です。

おわりに

 ここまで述べたように、スマホで利用している測位にはさまざまな技術があります。異なる技術に基づく測定結果が、OSの裏側で突き合わされ、互いの弱点を補い合っています。私たちが普段、地図アプリ上で何気なく目にしている青い丸(現在地アイコン)は、まさに最新の通信技術と測位技術、そして半導体センサーが融合した共同作業のたまものです。

 5Gでは基地局・スマホ間電波のナノ秒単位の到達時間や電波の到来角度を細かく測定する技術も標準化されています。また、ミリ波など高周波で広帯域の電波やMassive MIMOの大量のアンテナ素子を駆使することで、GNSSの届かない工場や商業ビル内でも、Wi-Fiやビーコンなしに数十センチから1メートル前後の精度を出すことを目指しています。

 さらに2030年ごろに商用開始を目指している6Gでは、電波でデータを送受信しながら、同時にコウモリの超音波のように周囲の空間をスキャンする技術が検討されています。電波の跳ね返りを捉えることで、スマホの位置を測るだけでなく、電波を受信する端末を持たない人や物体の存在、距離、速度、形状などを推定するセンシング技術の実用化を目指しています。

 測位の世界は奥が深く、ここで触れた以外にも多くの技術があり、また新たな技術の開発も進んでいます。これらの技術の発展が、私たちの生活や仕事にますます役立っていくことを期待したいと思います。

藤岡 雅宣

1998年エリクソン・ジャパン入社、IMT2000プロダクト・マネージメント部長や事業開発本部長として新規事業の開拓、新技術分野に関わる研究開発を総括。2005年から2023年までCTO。前職はKDD(現KDDI)で、ネットワーク技術の研究、新規サービス用システムの開発を担当。主な著書:『ワイヤレス・ブロードバンド教科書』、『5G教科書 ―LTE/IoTから5Gまで―』、『続・5G教科書 ―NSA/SAから6Gまで―』(いずれも共著、インプレス)。『いちばんやさしい5Gの教本』(インプレス)、大阪大学工学博士