第483回:準天頂衛星システム(QZSS)とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 準天頂衛星システムは、現在地情報を取得する手段の1つであるGPSを補完するシステムです。GPSでは正確な測位ができない山間地、ビル陰などにも影響されず、日本全国で、より高精度な位置測位ができると期待されています。

 略称の「QZSS」は、英語で準天頂を意味するQuasi-Zenith、衛星のSatelites、システムのSystemを意味します。

 準天頂衛星システムに使われる最初の人工衛星「みちびき」が、2010年9月11日に種子島宇宙センターから打ち上げられ、準天頂軌道に投入される予定です。打ち上げの3カ月後から、技術実証・利用実証のための実験が行われます。

 実験には国土地理院、NTTデータや日立造船など100以上の機関・企業が参加し、高精度測量や農機の自動運転などさまざまな内容の実験が行われる予定です。

 1個の衛星からの電波は、国内では1日に約8時間ほどしか受信できないため、将来的に打ち上げられる2号機、3号機も含めた実証実験が行われる予定です。サービス実用化後は、GPSを利用するカーナビや携帯電話などで対応製品が登場すると考えられています。

ビルの谷間でも位置測位が可能に、測位誤差も数センチに

 QZSSは、その名前の通り、日本国内で常に天頂、つまり頭上の方向に衛星が見えるように複数の準天頂衛星を配置したシステムです。

 人工衛星と言うと、地球の周りを、囲むように回っているイメージがありますが、たとえば準天頂衛星「みちびき」の場合、高度3万2000km~4万kmのGPS衛星よりも高い高度を、日本上空と、インドネシアやオーストラリア大陸を含んだ、8の字を描く軌道で飛行します。

 BS放送や衛星通信によく使われている静止軌道衛星などでは、地上から常に一定の位置に見えるようにするために、赤道付近に配置されます。しかし、こうした配置では緯度の高い場所からは、衛星の位置が低く見えてしまい、ビルや、山の合間といった場所だと、障害物に隠れて見えなくなってしまいます。

 準天頂衛星の大きなメリットは、頭上の方向にあることから、真上に障害物がなければ、ビルが立ち並ぶ都心部や、山あいのような場所でも衛星と電波を送受信できる点です。直進性の高い電波を使ったサービスも利用できるようになります。QZSSという仕組み自体は、たとえば放送に使えば国内どんな場所でも使える衛星放送、衛星電話として使えば、常に繋がる信頼性の高い衛星電話といったことに応用できます。山間部やビルの多い、日本に向いたシステムと言えるでしょう。

 ちなみに、日本のQZSS計画の場合、当初はSバンド(マイクロ波の1つ、2~4GHz帯)を使用するプランもあったのですが、途中でニーズが見込めないという判断が下され、Lバンド(マイクロ波の1つ、0.5~1.5GHz帯)のみ用いることになりました。現在では、GPSを補完・補強する2つのサービスが提供される予定になっています。

 GPSでは、民間用にL1C/A、L2CというGPS信号が衛星から送信されています。また、今後のGPS近代化によって高度な位置測量が可能なL5という信号を送信する衛星が米国によって2014年ごろから打ち上げられるようになります。

 日本のQZSSもL1C/A、L2C、L5信号を送信しますので、日本国内で、よりすばやく正確にGPS測量を行うことが可能になります。これまでのGPSでは衛星が測量位置から見かけ上低い位置にある時間帯もあり、都市部や山間部では測量できなかったり、あるいは捕捉できる衛星が少なく位置があまり正確に算出できない場合がありました。しかしQZSSの運用が始まれば、頭上に衛星が1個加わることになり、都市部や山間部での計測精度が高まります。現在、GPSを使った位置測量では10m程度の誤差がありましたが、QZSSを併用することで静止、あるいは非常に低速な移動の場合は数センチ程度の誤差まで縮小が可能になります。

 さらに現在地を判定する時間(測定時間)は、現在の30秒~1分程度から、15秒程度に短縮される見込みです。QZSSにより、測位にかかる時間や測位精度などを向上できるというわけです。

QZSS(準天頂衛星システム)は、GPSを補完する位置情報衛星システムだ。常に天頂近くにありビルなどに遮られにくく、位置情報の精度を高くする

 



(大和 哲)

2010/9/7 12:15